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山のごちそう
夫の知人が、山梨の山中で1人暮らしをしている。
そのお宅に、夫と2人でお邪魔するようになった。
そこでいただく食事が、最高においしい。
知人は必ず、みんなで作れるメニューを考えてくれる。現地で採りたての野菜をつまんだり、地元のワインを飲んだりしながら、3人でワイワイ作る。
たとえば、たっぷりの玉ねぎと挽肉に、隠し味のセロリを加えた、ミートソースパスタ。
野菜を切るのは私、炒めるのは夫…と代わる代わる台所に立つ。最後は3人で味見をして完成。
トマトの酸味と、野菜の甘み、そして挽肉や調味料のうまみが混じりあったミートソースが絡んだパスタは絶品で、あっという間に胃の中に消えてしまう。
山梨で見る空は、東京よりも青い。絶えず鳥と虫が鳴いている。太陽がすぐそばにあって、日陰にいないとあっという間に日に焼ける。
夜はしんと静かで厳か。深呼吸すると木の家のいい香りにホッとする。
重度のワーカホリックである夫は、この場所に来ると、憑き物が落ちたように晴れやかな表情になる。仕事のことを完全に忘れられるらしい。
42歳にして、夢中になってトカゲを追いかけ、全身真っ黒に日焼けした。
鈴木祐さんの著書「最高の体調」には、「自然とのふれ合いにより、確実に人体の副交感神経は活性化する」と書かれている。副交感神経は気持ちが穏やかなときに働き出す自律神経で、日中にたまった疲れやダメージを回復させる働きを持っている。
人類の感情システムは「興奮」「満足」「脅威」から構成されるが、都市の暮らしでは、おもに「興奮」と「脅威」のシステムだけが活性しやすいらしい。対して自然の環境は、3つの感情システムがバランス良く刺激されるそうだ。
小3の時、担任の先生が、私が書いた作文をコンクールに出すと言った。
夏休みに家族で初めて行った、キャンプの思い出を書いた作文だった。
あの時も、家族4人で歌ったり大笑いしたりしながら、カレーを作った。
先生は、ここがいいね、と言いながら「玉ねぎを切ったら目が痛くて涙が出た」「ししとうは辛くて口の中がヒリヒリした」という所に花丸を付けてくれた。感じたことを素直に書いているのがいいね、と。
その作文は賞をもらい、私は書くことが大好きになった。
年を重ねた家族4人が、一緒にキャンプに行くことはもうないだろう。
そう考えると寂しくて切なくなるけど、私は今も夫と山に出かけ、今日もnoteを書いている。
あの日の思い出が、確かに今に繋がっている。
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