父と豆乳ラテ
毎朝、ラテを飲む。
ラテを淹れるのは、お父さんの担当。父の日にプレゼントしたドリップケトルで、丁寧にコーヒーを淹れてくれる。仕上げに完璧な割合で豆乳を入れて、毎日違う柄のマグで出してくれる。
オフィスに出社する日は、お気に入りのスターバックスのタンブラーに入れてもらって家を出る。コロナ禍で在宅勤務になってからは、豆乳ラテを飲みながら午前中の仕事をする。
わたしが大好きな、ほっとする味。
わたしの結婚が決まって、父が1番最初に心配したのは、わたしが毎日豆乳ラテを飲めるかどうかだった。
わたしは婚約者に身振り手振りで、父が毎朝豆乳ラテを淹れてくれていたこと、その味がおいしくて大好きだったこと、わたしにとって豆乳ラテがどんなに大切な存在かを懸命に伝え、婚約者は、今のところ毎朝ラテを淹れてくれる。
体を鍛えていて健康に一家言をもつ婚約者は、アーモンドミルクでコーヒーを割ってくれる。さっぱりした口当たりで、後味にアーモンドの甘さが残り、おいしい。新しい味に舌鼓を打ちながら、父を思い出す。
父との思い出は、朝が多い。
家族で1番早起きの父が、毎朝「おはよう」という大きな声。
1時間半かけて毎朝小学校に通っていた私の手を引いて、一緒に駅まで歩いてくれたこと。道中によく吠える犬がいて怯えるわたしを、同じく犬が怖い父がおっかなびっくり「大丈夫、大丈夫」と言って励ましてくれたこと。ぎゅうぎゅうの満員電車でわたしを守るように立ってくれた背の高い父の姿。
思春期に入って、朝が苦手な母の代わりに慣れない手つきでお弁当を作ってくれたこと。そのお弁当に「茶色いおかずばっかりでみんなの前で食べるのが恥ずかしい」と文句を言ったわたし。次の日の朝から入っていた卵焼きを箸で持ち上げたら裏が焦げていて、不器用な父が一生懸命焼いてくれたのに気付いたこと。
家族で旅行に行く日の朝、車のハンドルを握っている父の後ろ姿。
そして、毎朝の豆乳ラテ。
父を思い出しながら、今朝も婚約者が淹れたアーモンドラテを飲む。1番近くでわたしを愛して守ってくれる人が、変わっていく。だけど、どんなにおいしいアーモンドラテを飲んでも、父の味には敵わないと、今は思う。新しい味が1番だと思う日が来たら、父は寂しく思うだろうか。それとも喜んでくれるだろうか。