『DOGMAN』 第12話 身元バレ
周りは、なんだなんだと野次馬が集まってきている。
俺はとりあえず、アキさんの腕を引っ張り、狭い住宅街の道のりを縫うように駆け抜けて、野次馬を撒いた。
街灯の並ぶ静かな住宅街。
「いつぶりだろうね。何年経っただろうか。リャンピン。」
「お・・・俺は今ここでは、リャンとしてやっている。リャンと呼んでくれないか。」
「リャン?リャンて言ったら、まぁちゃん家の犬の名前じゃないか!まさか、あなたが・・・!」
「頼む!秘密にしといてくれないか?これがバレたら、まぁちゃん達と一緒に暮らせなくなる・・・。」
「・・・何か事情がありそうね。わかったわ。話なら聞くけど・・・。」
街灯の下のベンチで二人話すことになった。
「中国の大会の決勝であなたと初めて試合をした時、あなたはオオカミに化けて、その場を去っていったわね。あの時は屈辱的だったわ。」
「俺は満月の見える間でしか人間の体になることができない。あの時は昼間のうっすら浮かぶ満月を頼りに試合をしていたが、満月が欠けてしまって、人間でいられなくなったんだ。それでオオカミに戻ってしまった。」
「・・・なぜ、今ここにいるの?」
「この街の裏山に俺たちの住処がある。俺はそこで生活することに嫌気がさして、人間界に出てきたってわけだ。」
アキは真面目に話していたが、その話を聞いて、笑いをこらえることができなくなってしまった。
「それで、あの子、まぁちゃんにペットとして飼われてるってこと?」
「・・・俺が仕方なく居てやってるだけだ。」
「ふ〜ん。」
なんだか途中から笑い話になってしまった。
まぁ、とにかく誤解が解けてよかった。
「今はどうやって人間界で生活しているの?」
「プラネタリウムで働いている。」
「プラネタリウム?」
「プラネタリウムで見える満月でも、変身できるみたいなんだ。」
「・・・ふふ。あなたもなかなか苦労してるみたいなのね。」
「アキさんとここで初めて会った時、子供と、犬を連れていたが・・・。」
「あぁ。私は結婚したの。今は一児の母よ。」
「名前は?」
「カイよ。今は旦那に家で子守を頼んでて、ちょっと買い物に家を出てたってわけ。」
「そうか。さっきの一撃は鉛のようなものだったが・・・?」
「あぁ。私の義足ね。相変わらず護身用に身につけてるわ。さっきは事情も知らずに、悪いことしたわね。」
どうも、誤解が解けたようだ。
しかし、こんなところに中国の格闘チャンピオンがいるとは。
びっくりしたなぁ、もう。
「びっくりしたんでもう帰ります。」
「悪かったわね、突然キックして。」
最後に、とてもまともではない会話をして二人それぞれ帰ることになった。
さて、家に帰るか。
でもまだ夜が明けてないぞ。
家の近くをブラブラとでもするか。
・・・あれ?ゆうくんがいる。こんな夜中に、起きていたのか?
ボーゼンとしている。
なんだろう。嫌な予感がする。
あ!こちらに気づかれてしまった!
「リャン!お前、リャンだったのか!」
・・・?そうだが、何か?
「リャン、お前、プラネタリウムで働いてるのか?!」
・・・っは!そうか!
俺は今、犬の姿ではなく、オオカミ男の姿でゆう君の前に立っている!
ほろ酔い気分で気がつかなかった!
なんだ?!話が急すぎる!
ゆうくんは、俺の正体に気がついている!
「・・・!!」
「リャン、お前、しゃべれるんだろ?!ホントは!なんとか言えよ!」
「・・・な、なんで俺がリャンだとわかる・・・?」
「僕見たんだ。リャンが犬からヒトみたいになるところを。」
げげっ。
ゲームオーバーだ。
もうこのうちにいられない。
化け物を許す家庭など、どこにいようか。
「・・・そうか。そういうことなら、もうこの家にもいられないな。」
「なんで?!」
「パパ、ママが許してくれるわけないだろう?それに、まぁちゃんもこの事実を知って、怯えてしまうかもしれない。」
「えぇ!?そんなぁ。・・・じゃあ、こうしよう。このことはリャンと僕だけの秘密にしよう!」
・・・秘密?
「ゆうくん・・・、提案はありがたいが、そんなこと、本当にできるのか?」
「できる!僕できるよ!約束する!」
・・・しばらく考えたが、この方法以外この家にいられる方法はなさそうだ。