『DOGMAN』 第5話 プラネタリウム
「オギャー!」
「あ、カイ君が泣いてる!カイ君元気そうだね!」
「カイもどんどん大きくなるのよねぇ。いつでもウチに来て、カイの相手してあげてね。新しい、リャン君も仲間になったことだし、私も近い内にまぁちゃん家にお邪魔するね。」
「アキさん、いつでも遊びに来てね!バイバーイ!」
アキとラッキーとカイか。
まぁちゃんと親しそうだったから、一応覚えておくか。
あー疲れた。散歩行ってきた。
いろんな人に会ったなぁ。
また犬小屋に紐をくくられて・・・と。
なんか、犬扱いに慣れてきたな。美味しいもんも食えるしな。
犬ってこんな生活してるんだなぁ。
俺は犬じゃなくてオオカミなんだけどな・・・。
ボケーっとしていると、見覚えのある顔が庭の前を通るのを見かけた。
「ワン!ワン!」
む!見覚えのある犬がこちらに向かって吠えている。
なかなかセクシーな犬だ。
「ベティ!ダメよ、吠えちゃ。あら、ここの家、ワンちゃん飼ってたかしら?」
思い出したぞ。人間の街に入って、一番最初にしつこく追いかけ回してきたメスたちだ。
「あら、このワンちゃん、なかなかイケメンね。見覚えがあるような気がするけど・・・。まぁいいわ。行くわよ、ベティ。」
行ってしまった。
あの時の俺がこの犬小屋にくくりつけられているオオカミだとは、思いもしないだろうな。
里山に残されたオオカミたちは、俺なしでうまくやっているだろうか。いいんだ。俺は人間界で暮らしていくんだ。今は犬のペットみたいな扱いを受けているけど、そのうちここだって抜け出して、立派に人間として生きていくんだ。
まぁ、ここの生活も悪くないがな。
しかし、この犬の生活も飽きてきた。ここを脱走するか。
オオカミの牙は犬の牙よりも鋭い。紐を食いちぎるくらい朝飯前だ。
ブチッ!
紐を噛み切ってやった。世話になったな。俺はこの家を出る。
リャンは、塀をヒョイッと軽々と飛び越えた。
・・・それにしても、体が人間からオオカミに戻ってしまった。
どうしよう。
人間として見てくれないぞ。お金もないし・・・
トボトボと歩いているうちに、市民センターのようなところを見つけた。
ここで職探しのようなこと聞いてみようかな・・・。でも、俺今オオカミだ。人間の言葉も喋れないし、まともに相手してもらえるだろうか?
そんなことを考えながら、中を進んでいるうちに、何やら星の模型を見つけた。
なんだ?ここは。
あぁ、これも何かの資料で見たことあるぞ。プラネタリウムってやつか?
ちょうど上映中だ。係員は掃除に夢中で、俺に気づいていない。
ちょっとゆっくりしたいところだった。えぇい、入ってしまえ。
中に入ると、真っ暗だ。
すごく居心地のいい音楽が流れている。こりゃいいや。ここで休ませてもらおう。
「ママー、ワンちゃんがいるよ。」
「しっ。プラネタリウムの中では大きな声を出しちゃダメよ。」
危ないところだった。幼稚園児に見られて、危うく追い出されるところだった。
階段横の物陰に隠れながらゆっくりしていると、ナレーションが聞こえてきた。
「では、ご覧いただきましょう。今私たちの住んでいる地域の、『ことりの丘』から見える夜空の、満月と星空の世界へあなた方を導いて差し上げましょう。」
「ウオォォォォッ!」
体の中の血管が波打っている!熱い!
・・・オオカミ男になってしまった。
プラネタリウムで変身できるんだ・・・。
これはいいぞ。それも、平日は毎日上映してるみたいだ。
プラネタリウムが終わっても、オオカミ男でいられるのだろうか?
「ありがとうございました。出口は向かって右側です。足元にお気をつけて、お帰りください。」
上映が終わった。オオカミ男のままだ。すごい!
館内を自由に行き来できるぞ!
しかし、今俺は素っ裸だ。チャンスの後のピンチだ。
ここで人に見つかったら通報されてしまう・・・。
スーツは居酒屋のゴミ捨て場の横に置いてきてしまった。
どうしよう。