見出し画像

D2Cサプリメント業界深堀りレポート

はじめに

近年、健康志向の高まりやインターネットの普及を背景に、D2Cサプリメント市場は急速に拡大しています。D2C (Direct to Consumer) とは、製造事業者が仲介業者を挟まずに、自社で企画・製造した商品を消費者に直接販売するビジネスモデルです。経済産業省の発表によると、2025年にはD2C市場全体で3兆円規模に達すると予測されており 、食品や化粧品などの分野では、すでにD2C市場が急速に拡大しています。 サプリメントもその一つであり、健康志向の高まりやEC市場の拡大に伴い、D2Cサプリメント市場は大きな成長を遂げています。  

本レポートでは、D2Cサプリメント業界の現状と今後の展望について、以下のポイントを深掘りして解説していきます。

  • 日本国内の薬機法・景品表示法と広告表現の制約

  • InstagramやYouTubeでのインフルエンサーマーケティング事例

  • 成分安全性やエビデンスの提示、信頼獲得の手段

  • 類似商品との差別化戦略(特許取得、独自配合など)

  • 今後の市場成長性とリスク要因

日本国内の薬機法・景品表示法と広告表現の制約

D2Cサプリメント事業を展開する上で、薬機法と景品表示法は遵守すべき重要な法律です。 これらの法律に違反すると、行政指導や罰則が課せられる可能性があります。  

サプリメントに関わる法律リスト

  1. 薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)

    • 概要: 医薬品等の品質、有効性、安全性を確保するために、製造、販売、広告などについて細かく定めた法律。

    • サプリメントとの関係性:

      • サプリメントは「健康食品」に分類され、「医薬品」ではない。

      • 医薬品的な効果効能の表示や、用法・用量の表記は薬機法違反となる。

  2. 景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)

    • 概要: 商品・サービスの品質・内容・価格等を偽った表示や、過大な景品類の提供を防止するための法律。

    • サプリメントとの関係性:

      • 消費者に誤解を与えるような、優良誤認を招く表現や有利誤認を招く表現は禁止されている。

薬機法は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律です。 サプリメントは「食品」に分類されるため、薬機法の直接的な対象ではありません。 しかし、医薬品のような効果効能を謳うと、薬機法違反とみなされる可能性があります。  

景品表示法は、正式名称を不当景品類及び不当表示防止法といい、商品やサービスの品質や内容について、虚偽または誇大な表示をして消費者を欺くことを禁じる法律です。 サプリメントにおいても、事実と異なる効果を謳ったり、優良であると誤解させる表現は景品表示法違反となります。  

薬機法における具体的な広告表現の制約

サプリメントは医薬品ではないため、病気の治療や予防効果を謳うことはできません。 例えば、「このサプリメントを飲めば風邪が治る」といった表現は薬機法違反となります。 また、特定の部位への効果を謳うこともできません。 例えば、「このサプリメントを飲めば、髪の毛が生える」といった表現も薬機法違反となります。  

薬機法に違反しないためには、以下の点に注意する必要があります。

  • 効能効果を謳わない: 「健康になる」「痩せる」といった表現は避け、「健康維持に役立つ」「ダイエットのサポートになる」といった表現にする

  • 体の特定部位を指定しない: 「胃腸の調子を整える」といった表現は避け、「消化を助ける」といった表現にする

  • 病名や症状を挙げない: 「糖尿病を予防する」といった表現は避け、「血糖値の上昇を抑える」といった表現にする

  • 医薬品と誤解させる表現を使わない: 「飲むだけで効果がある」といった表現は避け、「バランスの取れた食事と合わせて摂取する」といった表現にする

景品表示法における具体的な広告表現の制約

景品表示法では、消費者に誤解を与えるような表現は禁止されています。 例えば、「No.1」「業界最高」といった根拠のない優良性を示す表現や、「初回限定価格」と謳いながら実際には常に同じ価格で販売しているといった有利誤認表示は景品表示法違反となります。  

景品表示法に違反しないためには、以下の点に注意する必要があります。

  • 事実と異なる表示をしない: 効果や成分、価格などについて、虚偽や誇大な表現はしない

  • 優良誤認を招く表現をしない: 根拠のないNo.1表示や、他社製品との比較優位性を示す表現はしない

  • 有利誤認を招く表現をしない: 実際よりもお得であると誤解させるような表現はしない

  • 不当な景品を提供しない: 過大な景品や、景品表示法で禁止されている景品は提供しない

薬機法・景品表示法の根拠となる条文やガイドライン

薬機法・景品表示法に関する主な条文やガイドラインは以下の通りです。

  • 薬機法:

    • 第66条(誇大広告等の禁止)[消費者庁ウェブサイト]

    • 第68条(承認前の医薬品、医療機器等の広告の禁止)[消費者庁ウェブサイト]

    • 医薬品等の広告に関するガイドライン [消費者庁ウェブサイト]

  • 景品表示法:

    • 第5条(不当な表示の禁止)[消費者庁ウェブサイト]

    • 景品表示法に関するガイドライン [消費者庁ウェブサイト]

    • 健康食品の表示に関するガイドライン [消費者庁ウェブサイト]

InstagramやYouTubeでのインフルエンサーマーケティング事例

D2Cサプリメント業界では、InstagramやYouTubeなどのSNSを活用したインフルエンサーマーケティングが盛んに行われています。 インフルエンサーとは、SNS上で多くのフォロワーを持ち、強い影響力を持つ人物のことです。 インフルエンサーに商品をPRしてもらうことで、消費者の認知度向上や購買意欲を高める効果が期待できます。  

成功事例

  • VALX: 元ボディビル世界チャンピオンで筋肉博士の山本義徳氏が監修するサプリメントブランド。 山本氏自身がInstagramやYouTubeで情報発信を行い、多くのフォロワーを獲得しています。VALXのInstagramアカウントでは、サプリメントの効果的な摂取方法やトレーニングに関する情報などを発信し、フォロワーのエンゲージメントを高めることに成功しています。  

  • KINS: 腸内フローラ検査キットと、その結果に基づいたパーソナライズサプリメントを提供するブランド。 Instagramで美容や健康に関する情報を発信し、多くのフォロワーを獲得しています。KINSは、Instagramのライブセッションで専門家による健康相談や、ユーザーからの質問に答える企画などを実施し、フォロワーとのインタラクティブなコミュニケーションを促進しています。  

  • FUJIMI: パーソナライズサプリメントを提供するブランド。 約20問の質問に答えることで、自分に合ったサプリメントを提案してくれる。Instagramで美容に関する情報を発信し、多くのフォロワーを獲得している。FUJIMIは、Instagramのストーリー機能を活用し、ユーザーの肌の悩みに合わせたサプリメントを紹介するコンテンツや、美容に関する豆知識などを配信することで、フォロワーの関心を集めています。  

  • BASE FOOD: 完全栄養食を提供するブランド。 Instagramで食生活や健康に関する情報を発信し、多くのフォロワーを獲得している。BASE FOODは、Instagram上でユーザーからレシピを募集するキャンペーンを実施し、ユーザーが作成した料理写真を紹介することで、商品のアピールだけでなく、ユーザー参加型のコミュニティを形成しています。  

キューサイ

キューサイは、青汁のD2Cブランドとして、Instagramで画期的な取り組みを行っています。 従来の青汁のイメージを覆すため、Instagramの投稿ではあえて自社商品そのものを紹介せず、ケール青汁を使ったスイーツや料理の写真だけを投稿しています。 おしゃれな料理家の投稿のような、彩り豊かで洗練された写真で、青汁の新しいイメージを訴求し、多くのユーザーの関心を集めることに成功しています。  

インフルエンサーマーケティングの活用方法

D2Cサプリメント事業者がインフルエンサーマーケティングを活用する際には、以下の点に注意する必要があります。

  • 適切なインフルエンサーを選定する: ターゲット層と親和性の高いインフルエンサーを選定することが重要。

  • 魅力的なコンテンツを制作する: インフルエンサーの個性やフォロワーの興味関心に合わせたコンテンツを制作する。

  • 効果測定を行う: エンゲージメント率やコンバージョン率などを測定し、効果的な施策を継続的に実施する。

成分安全性やエビデンスの提示、信頼獲得の手段

D2Cサプリメントにおいて、成分安全性やエビデンスの提示は、消費者からの信頼獲得に不可欠です。 サプリメントは健康に関わる商品であるため、消費者は安全性や効果について高い関心を持っています。  

成分安全性確保の重要性

サプリメントの成分安全性は、消費者の健康を守る上で極めて重要です。 安全性が確認されていない成分を使用した場合、健康被害を引き起こす可能性があります。また、安全性に問題があるサプリメントは、ブランドイメージの低下や顧客離れに繋がりかねません。  

D2Cサプリメント事業者は、以下の方法で成分安全性を確保する必要があります。

  • 信頼できるサプライヤーから原料を調達する: 原材料の品質や安全性について厳格な基準を設け、信頼できるサプライヤーから調達する。

  • 適切な製造管理を行う: GMP (Good Manufacturing Practice) などの基準に準拠した製造管理体制を構築し、品質管理を徹底する。

  • 成分分析を実施する: 第三者機関に依頼し、成分分析を実施することで、安全性や品質を確認する。

エビデンスに基づいた効果効能の提示方法

サプリメントの効果効能を提示する際には、エビデンスに基づいた情報提供が重要です。 エビデンスとは、科学的根拠のことです。臨床試験データや学術論文などを活用することで、サプリメントの効果効能を客観的に示すことができます。  

エビデンスに基づいた情報提供を行う際には、以下の点に注意する必要があります。

  • 信頼できる情報源を利用する: 信頼性の高い学術論文や公的機関のデータなどを利用する。

  • 正確な情報を提供する: データを改ざんしたり、誇大な表現はしない。

  • わかりやすい情報提供を行う: 専門用語を避け、消費者が理解しやすいように情報を整理する。

信頼獲得のための戦略

D2Cサプリメント事業者が消費者からの信頼を獲得するためには、以下の戦略が有効です。

  • 第三者機関による認証: 第三者機関による認証を取得することで、安全性や品質の高さを証明する。

  • 臨床試験データの活用: 臨床試験データなどを公開することで、効果効能を客観的に示す。

  • 専門家監修: 医師や栄養士などの専門家に監修を依頼することで、信頼性を高める。

  • 透明性の高い情報公開: 成分や製造方法、エビデンスなどについて、積極的に情報公開を行う。

  • 顧客とのコミュニケーション: 顧客からの質問や意見に真摯に対応することで、信頼関係を構築する。

類似商品との差別化戦略(特許取得、独自配合など)

D2Cサプリメント市場は競争が激化しており、類似商品との差別化が重要となっています。 消費者に選ばれる商品にするためには、独自の強みを打ち出す必要があります。  

具体的な差別化戦略

  • 特許取得: 独自の技術や成分に関する特許を取得することで、競合他社との差別化を図る。

  • 独自配合: 複数の成分を独自に配合することで、効果や飲みやすさを向上させる。

  • ブランドストーリー: ブランドの背景にあるストーリーや開発者の想いを伝えることで、共感を呼ぶ。

  • 顧客体験: パーソナライズサービスや丁寧なカスタマーサポートなど、顧客体験を向上させる。  

  • 顧客とのコミュニケーション: SNSやメールなどを活用し、顧客と直接コミュニケーションをとることで、顧客の声を収集し、商品開発やサービス改善に活かす。  

  • 高品質な原材料: オーガニック原料や国産原料など、高品質な原材料を使用する。

  • 環境への配慮: 環境に配慮したパッケージや製造方法を採用する。

差別化戦略の事例

  • mog(モグ): 小食や偏食の子どもでも必要な栄養を摂取できるサプリメント。 ターゲットを明確化し、独自の価値を提供することで差別化を図っている。  

  • VITANOTE: 尿検査をもとに、不足している栄養素を配合したパーソナライズサプリメント。 独自の分析方法とパーソナライズサービスで差別化を図っている。  

  • belegend: 8年連続モンドセレクション最高金賞を受賞したプロテイン。 高品質と受賞歴をアピールすることで差別化を図っている。  

差別化戦略のメリット・デメリット・成功要因リスト

  1. 特許取得

    • メリット: 模倣困難、競争優位性

    • デメリット: 取得費用、時間がかかる

    • 成功要因: 独自性の高い技術

  2. 独自配合

    • メリット: 効果向上、飲みやすさ向上

    • デメリット: 開発費用がかかる、配合バランスの調整が必要

    • 成功要因: 成分に関する知識

  3. ブランドストーリー

    • メリット: 共感を得やすい、ブランドへの愛着が高まる

    • デメリット: ストーリーの構築が難しい

    • 成功要因: 顧客の共感を得られるストーリー

  4. 顧客体験

    • メリット: 満足度向上、リピート率向上

    • デメリット: コストが増加する

    • 成功要因: 顧客ニーズに合わせたサービス

  5. 顧客とのコミュニケーション

    • メリット: 顧客の声を収集できる、商品・サービスの改善につながる

    • デメリット: コストが増加する

    • 成功要因: 顧客との良好な関係構築

今後の市場成長性とリスク要因

D2Cサプリメント市場は、今後も成長が見込まれています。 健康意識の高まりやEC市場の拡大などが、市場成長を促進すると考えられます。  

市場規模と成長率

世界のサプリメント市場規模は、2023年に1,775億ドルに達し、2024年から2030年にかけて年平均成長率(CAGR)9.1%で成長すると予測されています。 女性向け健康美容サプリメントの世界市場は、2022年から2030年の間に年平均12.4%の成長率で成長し、2030年には市場規模が2兆5,420万円に達すると予測されています。  

市場成長を促進する要因

  • 健康意識の高まり: コロナ禍以降、健康意識が高まり、サプリメントの需要が増加している。  

  • EC市場の拡大: インターネットの普及により、EC市場が拡大し、D2Cサプリメントの販売チャネルが広がっている。  

  • パーソナライズ化: 個別ニーズに対応したパーソナライズサプリメントの需要が高まっている。  

  • 高齢化の進展: 高齢化社会の進展に伴い、健康寿命を延ばしたいというニーズが高まり、高齢者向けサプリメント市場が成長している。  

  • 技術革新: 新しい成分や製造技術の開発により、サプリメントの品質や効果が向上している。  

リスク要因

  • 法規制強化: 薬機法や景品表示法などの規制強化により、広告表現や販売方法が制限される可能性がある。  

  • 競争激化: 新規参入企業の増加により、競争が激化し、価格競争に陥る可能性がある。  

  • 信頼性担保: サプリメントの効果や安全性に対する不信感から、消費者の購買意欲が低下する可能性がある。  

  • 新規顧客獲得単価(CPO)の高騰: インターネット広告の普及により、広告費が高騰し、新規顧客獲得単価(CPO)も上昇している。 CPOの高騰は、D2Cサプリメント事業者の収益を圧迫する要因となる可能性があります。  

  • 定期購入に関するトラブル: 「初回無料」や「お試し」と謳いながら定期購入に自動的に加入させられていた、「いつでも解約可能」と記載がありながらも実際には購入回数に縛りがあり、それまで解約できない、といった形で商品を販売する企業が存在しており、「詐欺的な定期購入商法」が社会問題化している。  

D2Cサプリメント事業者が取るべき戦略

  • 差別化: 独自性の高い商品やサービスを提供することで、競合他社との差別化を図る。

  • 信頼獲得: 成分安全性やエビデンスを明確に示し、消費者からの信頼を獲得する。

  • 顧客とのエンゲージメント: SNSなどを活用し、顧客との継続的なコミュニケーションを図る。

  • 法規制への対応: 薬機法や景品表示法などの法規制を遵守し、コンプライアンスを徹底する。

  • CPO削減: CPOを削減するためには、ターゲットを絞った広告配信や、SEO対策による自然検索流入の増加など、様々な施策を検討する必要があります。

結論

D2Cサプリメント市場は、健康意識の高まりやEC市場の拡大を背景に、今後も成長が見込まれます。 特に、高齢化社会の進展やパーソナライズ化の需要増加は、D2Cサプリメント市場にとって大きな追い風となるでしょう。 しかし、競争激化や法規制強化、新規顧客獲得単価(CPO)の高騰といった課題も存在します。 D2Cサプリメント事業者は、これらの課題を克服するために、差別化戦略、信頼獲得、顧客とのエンゲージメント、法規制への対応、CPO削減などの施策を積極的に展開していく必要があります。  

D2Cサプリメント市場は、競争が激化していますが、同時に大きなビジネスチャンスも秘めています。消費者のニーズを的確に捉え、高品質で安全なサプリメントを提供することで、D2Cサプリメント事業者は、今後も市場で成長を続けていくことができると考えられます。


いいなと思ったら応援しよう!