【小説】烏有へお還り 第22話
第22話
10月28日 雨のち曇り
めまいと頭痛がひどくて起き上がれない。
薬はとっくに切れている。新しいのをもらうには病院に行かなくてはいけないと、母に腕を引っぱられた。
「行きたくない」と泣きながらくり返したら諦めてくれた。
頭痛のせいで、最近は音楽も聞けなくなった。一日中ベッドに横になっているけど、うまく眠れない。目が開いたままこと切れた屍のようだと言われた。
お腹が空かないからほとんど食べない。腕も足も細くなったのに、下腹だけがぽこんと出ている。
またあの人がきてくれた。
ここ何年か、母以外とはほとんどまともに話をしていない。クリニックの先生からのいくつかの質問に答えるだけで、緊張して冷や汗が止まらない。
けれどもあの人は、わたしの気持ちを理解してくれる。
今日は、うちの母の昔の話をした。
母は若い頃、精神を病んでいた時期があった。今でいえば「うつ」だ。
家に引きこもっていたが、心配した親戚や祖父母によって、少し回復したのを見計らって慌てて結婚させられた。
わたしを生んでから離婚するまでも、母はずっと不安定だった。一番症状が重かったのは、わたしがお腹にいた頃。
『自分なんかが母親になれるはずがない』
妊娠したこと、結婚したこと、これまで生きながらえてきたことを後悔し、毎日泣いていた。
──これ以上の不幸を呼び込んではいけない。負の連鎖は断ち切らなければいけない。
あの人の言葉が水のように沁み込んだ。怖がっていた気持ちが消える。勇気を出せそうな気がする。