星の王子さま 25章
わたしが定年になって数年後に1回目の訳、それが2015年、続いて2018年
そして、この度の2023年に訳を重ねてきました。その都度見えてくるものが違っていました。今回は最初から最後まで、ものの外側と内側でした。
「目では見えないんだ。心で探さなくては。」
★ ★ ★
-人間というものは、特急列車に乗っているのに、自分が何を探しているのか分からなくなっているんだ。だから、ぐるぐると、同じ所を回っているんだ。
そして、王子は付け加えて言いました。
僕らが見つけた井戸は、サハラ砂漠で見かける井戸には似ていませんでした。サハラ砂漠の井戸は砂を掘った穴だけのものです。でも、見つけた井戸は村の井戸に似ていました。でも、どこの村にも無いもので、わたしは夢を見てるのだと思いました。
-これは珍しいね。皆そろっている。滑車も、おけも、綱も。と王子は言いました 王子は笑いながら、滑車を鳴らしました。すると、滑車はからからと鳴り、それは長い間風が吹かなかった時の古い風見鶏のようでした。
-聞いてみてよ、僕らがこの井戸をめざまさせたから、井戸が歌ってるよ...
わたしは、王子を疲れさせたくなかった。-私にやらせて。君には荷がおもいからね。 ゆっくりとまきあげ、桶を縁石にあげた。その桶をちゃんと置いた。耳の底に滑車の歌声がづっと続いていて、水は桶の中で揺れていました。わたしはお日様が揺れるのを見ていました。
-ぼくはその水を飲みたいよ。ぼくにちょうだい。と、王子は言いました。そこで、わたしは王子が探していたものが何かを知りました。
わたしは、その桶を王子の口まで運びました。王子は目を閉じたまま水を飲みました。それは、祝典のように心地よいものでした。その水は食物とはまったくの別ものでした。その水は星の下を歩き、滑車の歌と、わたしの腕で王子を運んで生まれたものでした。まるで、贈り物のように心地よい水でした。わたしが子どもの頃に、クリスマスの木の輝きや真夜中のミサの音楽、もらったクリスマスプレゼントの光がもたらすほほえみのような心地よさでした。
-あなたの星の人たちは、一つの庭に5千ものバラを咲かせた... でも、探しているものをそこでも見つけられなかった。と王子が言いました。
-でも、それは一輪のバラの花や少しの水の中に捜し当てることができるものなのです。-その通りだね。と、わたしはいいました。
王子はこうも言いました。
-でも、目では見えないんだね。心で探さなくてはね。
わたしは、水を飲みました。そして、大きく深呼吸をしました。夜明けに、砂漠は蜂蜜の色になっていました。蜂蜜の色でわたしはとても幸せでした。どうして、苦労してきたのかと思いました。 -約束を守ってね。王子は、優しく言いました。王子はわたしの側にすわっていました。-何の約束だっけ?
-言ったでしょ。羊の口輪のこと... ぼくはあの花に責任があるのだからね! わたしはポケットから絵の下書きを取り出しました。王子はほほえみながら、それを横目で見ました。
-あなたの、バオバブってちょっとキャベツに似てない? -ええ! わたしはバオバブの絵には自信があったのです。-それに、キツネの目だけど、ちょっと角に似てないかな... あんまり長すぎないかな! そして、王子はまた笑いました。
-きみはずるいよ。だってわたしは大ヘビの内側と外側しか描いたことがないんだものね。-そっか!子ども達にはそれで分かるよ。
口輪を描くからね。そして、その絵を王子に渡すときに、心が締め付けられたのでした。-きみは、わたしの知らない計画をしているね。でも、王子は答えずに、私に言いました; -ぼくが地球に落ちてきたのをしっているでしょ... 明日がちょうど1年目なんだ...
しばらく黙っていたけれど、また、王子が言いました。...ぼくはこのあたりに落ちてきたのです...王子はそう言って、頬を染めました。そして、何故かは分からないけれど、新しくおかしな悲しみを感じました。そして、ひとつの疑問を持ちました。
-1週間目前に、あの朝、私が君と会ったのは、偶然ではなかったのだね。 千マイルも人里離れた所を、たった一人で歩いていたんだ! 君が落ちた場所に戻ってきたのだね?
王子は再び頬を赤らめた。王子は決して質問には答えませんでした。でも、赤くなるってことは、yesと言っていることだよ。
-あぁ なんだか怖いな...と王子は言っただけでした。-あなたは仕事を続けなくてはね。機械を直さなくては。僕はここで待ってる。明日の夕方ここでまた、会いましょう...
でも、わたしは安心できませんでした。キツネのことを思い出しました。仲良くなると、ちょっと涙もろくなる。