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#2 第三者に対して「夫」をどう呼ぶか
♪ あなたと呼べ~ば、あなたと答える ~♪
なんて歌、あったよね。昭和の初めに流行った歌だったと思う。
この時代、夫婦や恋人関係にある男女は、互いをそんな風に呼び合っていたのだろうか?
当時の映画を観ていると、妻が夫に対して「あなた~」、夫は妻に対して「おまえ」とか「おーい」などと呼んでいるけど、最近は聞かなくなったよね。
そういえば、子供のころ見ていたアメリカのテレビ番組『奥様は魔女』では、妻、サマンサは夫のことを「ダーリン」と呼んでいたけど、あれは「愛するあなた」って意味だよね? いや、名前だったのかな?
金髪の男女が「ダーリン」「マイ ハニー」って呼び合うならまだしも、日本人が言っていたら、ちょっと引いちゃうかも。
夫婦間では大抵、互いの名前やニックネームで呼び合うのが多いのだろうけど、まぁ、そんなのはどうでもいいこと。夫婦の勝手ね。
ただ日本の場合は、子供ができると夫を「お父さん」とか「パパ」、妻を「お母さん」「ママ」と、子供目線の呼び方に変えていく家庭もある。個人主義文化の国には、あり得ないらしいから、これは日本独特かもしれないね。
第三者に対してはどうだろう。
私は結婚して何年もの間、他者に対して配偶者をどう呼ぶか、戸惑っていた。一般的には「うちの夫が…」と言うべきなのだろうけど、昨日まで夫じゃなかった人を、今日から「夫」とは言えなくて、モゾモゾしていた。照れくさかったのよ。
周囲の人たちは、「うちの主人が…」と言っていたけど、私には抵抗感があったの。というのも以前、読んだ本に「夫を「主人」と呼ぶのは、背景に主従関係がある」と主張していたのを覚えていたからだ。
確かに、「ご主人様」などと「様」をつけると、召使いとの関係性になってしまう。そんなこともあって、結婚前から、その言い方には拒否感があった。
同様に、「旦那」というのもそうよね。「旦那様」とか「大旦那」なんていうと、「自分の仕える主(あるじ)」の意味にもなる。
それでも最近は、カタカナのニュアンスで、「ダンナがねぇ」とか、「うちのダンナさんが…」などと言うのを耳にすると、正式な場では「ちょいと!」と指摘されそうだけど、そこには照れくさくて「夫」と言えない、おんな心が潜んでいるようにも思える。
そんなこんなで、配偶者を「夫」とはいえなかった頃、ほかの言い方を探していたら「ツレ」というのがあった。
『ツレがうつになりまして』という漫画だ。映画も観た。SNSにさえ、「夫」と書けずにいた私は「ツレ」と記してみたけれど、私には馴染まなかった。
「相方」とか「パートナー」というのも、なんか違う。「亭主」というのもあった。実際、夫に「亭主関白」の素質は十分あるけど、「うちの亭主がさぁ…」などと言ったことはない。
そんな中、ためらうことなく配偶者を示せる言い方を見つけた。会社を経営している友人が、自分の会社のオーナーでもある夫を、苗字を呼び捨てにして「うちの鈴木が…」などと言っていたのだ。ビジネスで使う言い方を、そのまま日常でも使っている。違和感ない。個人としての尊厳も夫としての近しい距離感もある。
「よし!この言い方、いただくわ」
という訳で、わが夫の苗字を呼び捨てにすることで落ち着いた。
早くも夫婦歴10年を超えた。ようやく、すんなりと「夫」と言えるようになってきた。とはいえ、「主人」や「旦那」は言えない。言わない。心のどこかで抗っている。
けれど唯一、「主人」を使うことがある。
「主人は留守にしておりますので…」と、売り込みに対する断りの文句としてである。つまり「決定権は、我が家の主人です。(私には裁量権がありません)」という意味だ。あくまで断りの一手段として都合よく使うのだが、相手はすんなり引き下がる。効果がある。
ところで夫は、他者に対して私をどう呼ぶか。「嫁」「家内」「かみさん」「奥さん」「女房」…どれでもない。(ここを追求すると、「家父長制」や「家制度」など深みにはまりそうだから、やめとくけど、)「妻」とさえも言わない。
大抵、名前か、敬称をつけて「きみこさん」である。「さん」がつくと、妻としても個人としても敬意を払われているようで、なんだか嬉しい。
いやいやもしかすると、第三者に対して「うちの主人は…」などと言っているかもしれない。とんでもない、わが家は「かかあ天下」ではありません! わが夫婦に主従関係はございません(笑)。