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#12 似てない姉妹

私が小学生の頃だ。
「お姉ちゃんはお米を横に食べて、妹は縦に食べているんだねぇ」

毎日、決まった時間にチリンチリンとベルを鳴らし、リヤカー屋台を引いてやってくるおでん屋さんが(#10参照)、ある日、いつもの ちくわぶとはんぺんを私によこしながら、笑って言った。
余計なことは言わないおでん屋さんがそう言ったのは、成長していく常連客への親しみだったのだろう,言いたいことは、すぐわかった。
「お姉ちゃんは、ぽっちゃりとした丸顔で、妹は頬がシュッと細く小さな顔立ちだね」という意味だ。うまいことを言うもんだ。
これまでも「あなたたち姉妹は似てないね」と、さんざん言われてきたから、含みのあるその言い方は、小学生の私にもすぐに理解できた。

そんなだからか、そうでないのか知らないが、母はよく、私たちにお揃いの洋服を着せた。そして私は、妹とお揃いの恰好が好きだった。
とはいえ、趣味も特技も性格までもまったく異なる妹とは、よく喧嘩した。妹を憎らしいと思ったことはたくさんあったし、3つ上の姉として、ずるいこともした。それでも、なぜかやっぱり妹はかわいかった。
だから洋服を買うときは、いつも母に妹のサイズも探してもらった。同じデザインで違う大きさのものがない時は、好きなデザインを妥協してでも「お揃い」にこだわった。
「この子は私の妹よ」
洋服が姉妹の証だったのだ。

妹が高校生ぐらいになると、「薬師丸ひろこさんですか?」と声を掛けられたり、「キョンキョンかも?」と小泉今日子さんと間違えられたりしたらしい。
一方、私は「不二家」の店の前に立つペコちゃん人形を指さして、「あらっ、きみちゃん!」とからかわれた。
「その差は何なのよ」と苦笑しつつも、美人の妹を誇らしく思っていた。

父親似の妹、母親似の私。家族4人が揃えば、私たちが血のつながった姉妹であることに疑う余地もないのだけれど、ふたりだけでいると、どうやら姉妹とは思えないらしい。妹と初めて対面した我が夫ですら、そうだった。

でもね、たったひとり、こう言った人がいた。
「いやぁ、君たちはよく似ているよ。そっくりだ。やっぱり姉妹だねぇ」
感心してる。
子どもの頃、風邪を引いて受診した医院で、2枚のレントゲン写真を光に透かして見比べて、主治医が言った。
「えっ?」
初めてのことだった。びっくりだ。忘れられない。

妹と私、どうやら、あばら骨は双子のように似ているらしい。姉妹なんて外見だけじゃぁわからない。裸になってもわからない。そうよ、もっと深く、透かして見なくっちゃあね。

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