夜風アイ

恋愛もののファンタジー小説をちまちま書いてます。 異世界魔法ファンタジー「魔歌師」連載中。 リンクまとめ:https://lit.link/aiyokaze

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  • 魔歌師 ―MELODIA CASTER―

    恋愛ファンタジー/魔法世界/逆ハーレム 魔法界エテルナグロウ。神代の時代から長きにわたり続いてきた平和が、突如現れた"黒門(ダークゲート)"により脅かされようとしている。そんな最中、魔法使い見習いのアネリは、記憶喪失と魔法が使えない体質という二つのハンデを抱えながらも、正魔法使いとなるべく最終試験に臨もうとしていた。よもや、さらに課せられるハンデが残酷なものであるとも知らずに。

最近の記事

【魔歌師】第40話:ジェスター・ブレンダン:4【恋愛ファンタジー】

師匠が彼に与えたブレスレットは彼にハンデを課しながらも、それと引き換えに絶大な魔力をもたらした。 元より魔法の才に恵まれていることを師匠はきっと見抜いていたことだろう。 彼自身は使える魔法は限られているし、戦闘自体は不得意だと自分の実力の程度についてそのように評価していたが、単純に魔法の能力だけで言えば、軍事レベル……いや、階級職についてもおかしくはないレベルだと思う。 だからこそ、師匠もその腕を見込んでツチラトへの潜入を頼んだのだろう。 けれど、師匠がどうしてそのようなこ

    • 【魔歌師】第39話:ジェスター・ブレンダン:3【恋愛ファンタジー】

      エイドラムの話はどれをとっても実に興味深いものだった。 そのなかでわかったことは、どうやらここは中世から産業革命あたりのヨーロッパと同程度の文明らしいことだ。 長らく戦乱等が起こっていないにもかかわらず発展していないのは、文明の利器に頼る必要がないからだろう。 いや、あるいは発展していないという認識自体、俺の認識する懐古な風景に囚われた誤った表現なのかもしれない。 何故なら、彼らは魔法という名の一見すると原始的とも呼べるような能力を、自らの手で変容させ、如何様にも活かせる

      • 【魔歌師】第38話:ジェスター・ブレンダン:2【恋愛ファンタジー】

        正面玄関に回り込むには少々遠いらしく面倒だろうということで、勝手口から家に上がらせてもらった。 戸口を抜けると、鼻がとろけそうなほどに甘いにおいに満たされた。 クッキーが焼き上がったあとのような香ばしい香りだ。 広々としたキッチンの台には大きな布巾が敷かれ、その上には洗い終えた後らしき木のボウルや延し棒などが並べて置かれている。 ガラス張りの食器棚にはデザインの異なるティーカップやポットのセットがコレクションのようにいくつも並んでおり、あの老人がかなりの茶好きであることがう

        • 【魔歌師】第37話:ジェスター・ブレンダン:1【恋愛ファンタジー】

          小さな鳥の鳴き声がする。 思えば、都会暮らしが長いせいか、ここ最近鳥の鳴き声など久しく聞いていなかったな。 そうなると、ここはどこだ……? やけにくすぐったい感触が顔にあたる。 それに、冬の朝、窓を開けたときのような澄んだ空気のにおいだ。 次々に浮かぶ疑問が、重い目をこじ開けさせる。 押し上げたまぶたが眼孔に取り込んだまばゆさに目がくらみそうになるが、視点を合わせ現状を確認する。 ちくりと手指に刺さる砂。短く刈り込まれた草の生えそろう柔らかな地面。 俺は、そこに横たわっ

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        • 魔歌師 ―MELODIA CASTER―
          41本

        記事

          【魔歌師】第36話:宿場町の宿にて【恋愛ファンタジー】

          宿の部屋は、結局二部屋確保した。 フィオンは腹を立てるだろうが、こればっかりは仕方がない。 ひとまずスペクターにはフィオンが戻る夕刻までこちらの部屋に滞在してもらうついでに、一緒に食事を取ろうということになった。 部屋に入って間もなく初老の女性が軽食が運んできた。 この宿は教団の運営らしく、エプロンの下に町で何度も見かけた白い装束をまとっている。 「長旅お疲れ様です。粗末な宿ですが、ゆっくりしていってくださいね」 給仕は柔和な笑みを浮かべつつ、慣れた手つきでてきぱきと円

          【魔歌師】第36話:宿場町の宿にて【恋愛ファンタジー】

          【魔歌師】第35話:宿場町フェナロザ【恋愛ファンタジー】

          荒野を抜けるまでにはあと一日と少しかかる見込みだったが、途中で町へと向かう行商の馬車に乗せてもらえたおかげで、昼を過ぎるころにはフェナロザ町に到着した。 馬車での移動中にスペクターが説明してくれたが、フェナロザ町はイルヴァシオン教団が運営する宿場町なのだそうだ。 町の輪郭が見え始めたころから塔らしき建物が見えていたが、近くなるにつれてどうやら聖堂の鐘塔だとわかった。 そのランドマークたる鐘塔の壁には、フェルナヴァーレンで何度も目にした尾長の鳥――聖獣エリービルが描かれたエン

          【魔歌師】第35話:宿場町フェナロザ【恋愛ファンタジー】

          【魔歌師】第34話:メッサー:下【恋愛ファンタジー】

          ルースにマローナを託し、リオラを探しに向かうことになった私たちは、辺りが明るくなるころに墓地を抜け、荒野を探しながら先を目指すことにした。 しかし、彼の姿は平地にも高台にも見当たらず、辺りの景色はさして変わらないのに流れゆく雲のかたちだけが刻一刻と変容していくだけだ。 「痕跡もないのに人探しをしようなんて無茶だよ。彼のことはさっさと諦めて、そろそろ本来の目的を果たすべきだと思うけど?」 マギスの機関長サマとやらも、目的地でお待ちかねなんだろ? フィオンの言葉に、返す言葉が

          【魔歌師】第34話:メッサー:下【恋愛ファンタジー】

          【魔歌師】第33話:メッサー:上【恋愛ファンタジー】

          空はとうに白み始めているというのに、朝霧の立ち込める街中はまだ薄暗く、等間隔で並ぶ街灯の明かりは霧を淡く照らすばかりだ。 辺りの住居はところどころ明かりが入っているのを見かけはするが、住宅街にはまだ人一人出歩く気配はない。 人目につかずに済んでいることを思えば幸いだろう。 もしその辺りを人や動物が歩いていようものなら、"奴"は必要に応じて手をかけていたかもしれないからだ。 だが一方で、この状況は俺にしてみれば不利でもある。 "奴"が俺の姿を捉えている今、俺にできることは好

          【魔歌師】第33話:メッサー:上【恋愛ファンタジー】

          【魔歌師】第32話:悋気と疑念:下【恋愛ファンタジー】

          村人たちの集まる避難所にマローナを運び簡易ベッドに寝かせると、ミサンナはさっそくマローナの状態を確認し始めた。 意識は未だ戻る気配はないが、ショックで気を失っているだけで時期に目が覚めるだろうとのことだ。 まあ、ひとまず村の連中の安全は守られたってわけだ。 おかげでこっちはかすり傷だらけだけど。 まったく、あの子は本来の目的を忘れちゃいないだろうか。 村人たちの安堵した顔を見てると文句を言う気も失せるが、この状況……正直、わき道に逸れては振り回されっぱなしだ。 僕一人なら、

          【魔歌師】第32話:悋気と疑念:下【恋愛ファンタジー】

          【魔歌師】第31話:悋気と疑念:上【恋愛ファンタジー】

          髑髏(しゃれこうべ)に灯された微かな明かりを頼りに、覚束ない足取りで地下へと伸びる階段を下りる。 ようやく息が整ってもなお、頬の熱は冷めやらぬまま。 なぜ、スペクターが突然あんなことをしたのかは、やっぱりわからない。 けれど、少なくとも私に対して何らかの感情を……抱いてのことだとは思う。 私を嫌いだと思ってるのなら、きっとあんなことをしない。するはずがない。 あんなに真剣な目で、私を見つめるような人が。 あの口付けが、私への好意の印だったいいのに。 そんな風に都合のいいこと

          【魔歌師】第31話:悋気と疑念:上【恋愛ファンタジー】

          【魔歌師】第30話:冷たい炎:下【恋愛ファンタジー】

          東雲(しののめ)の空が、スペクターの黒い衣に微かな朱を差し、フードの奥の目元に深い影を落としている。 私の腕を掴む彼の手は未だに力を緩める気配がなく、強く掴まれたままだ。 じっと注がれる冷ややかな瞳に、何か悪いことをしたわけでもないのに気が咎める。 何か声をかけるべきか。 躊躇しているあいだに、私の腕を掴んでいないほうの手が突然額に伸ばされ、あっと声が出る。 「血が滲んでいるな」 親指の腹で、額を拭われたのが感触でわかった。 この状況にすっかり気を飲まれてしまっていたが

          【魔歌師】第30話:冷たい炎:下【恋愛ファンタジー】

          【魔歌師】第29話:冷たい炎:上【恋愛ファンタジー】

          墓石群を覆い尽くすほどの膨大な光に飲まれた首なし騎士の断末魔の叫びが響く。 もがき苦しむように宙を掻いていたアーマーの腕は、錆びがはがれていくようにボロボロと崩れてゆき、辺りを元の闇が包み込むころには、騎士と馬の姿は消え去っていた。 辺りにこだましていた凄惨な叫びが掠れやがて聞こえなくなると、静まり返った墓地に聴こえるのは、私たちの荒い息遣いと荒野を流れゆく風の音だけになった。 「やっと、終わった……?」 安堵の声を漏らすミサンナは、マローナを抱え直しながらこめかみを伝う

          【魔歌師】第29話:冷たい炎:上【恋愛ファンタジー】

          【魔歌師】第28話:首なし騎士の襲来:下【恋愛ファンタジー】

          痛みそのものは額のみのはずなのに、痛みが生じ始めた途端に高熱が出たときのような倦怠感が全身に広がって、機敏に動けない。 けれど、きついなんて弱音を吐いている場合じゃない。 フィオンだって、あんなに体調が悪いなかボロボロになりながらも必死に戦ってくれている。 体に鞭を打ち、小さなマローナの体を抱き上げる。 フィオンが剣を薙ぎ払いそ刀身にまとう炎を放う。 激しい炎は首なし騎士の体を覆い、上手く食らわせられたかに思えたが、難なく両断されてしまった。 首なし騎士は瞬時に体勢を整え直

          【魔歌師】第28話:首なし騎士の襲来:下【恋愛ファンタジー】

          【魔歌師】第27話:首なし騎士の襲来:上【恋愛ファンタジー】

          フィオンの後を追いかけ村の外へと急ぐ途中、ミサンナとルースの姿を見つけた。 大声を上げて泣くルースの背中を懸命にあやしながら何かを探すように周囲を見渡していミサンナは、私の姿を見つけると目を見張り、ほっとしたように声を上げた。 「アネリ、良かった来てくれて!」 「ミサンナ、何があったの?」 「マローナの姿が見当たらないみたいなの。この紙の花だけが残っていたんだって」 大粒の涙を拭うルースの手には、いつもマローナが手にしている紙の花を握られている。 「マローナ……村の

          【魔歌師】第27話:首なし騎士の襲来:上【恋愛ファンタジー】

          【魔歌師】第26話:熱い眼差し【恋愛ファンタジー】

          リオラのつてで、宿の部屋を一部屋借りられることになった。 宿の主からは首なし騎士(デュラハン)への応戦をお願いしているのに、金まで払わせるわけにはいかないと代金の支払いを断られてしまった。 仕方なくお言葉に甘えることにはしたが、村の状況を考えると申し訳なく思えてくる。 敵襲に備えて少し休むことになり、リオラは子どもたちを連れて自宅へと戻って行った。 私たちも各々休むことになったが、さすがに仮眠を取ろうにもこの状況じゃさすがに眠れない。 それに、リオラの部屋で話をしていたとき

          【魔歌師】第26話:熱い眼差し【恋愛ファンタジー】

          【魔歌師】第25話:ジェレマイア村:4【恋愛ファンタジー】

          それはもう遥か昔のこと。 ジェレマイアの地に、一つの村があった。 緑や作物はあまり育たなかったが、地下には鉱石が潤沢にあり、村人たちは発掘した鉱石を街で売ることで生計を立てていた。 あるとき、街の騎士が村を訪れた。 騎士は傲慢な性格であるとして街でも悪名高く、発掘した鉱石を譲れとしつこく迫った。 頑なに断られた騎士はしぶしぶ引き下がったが、代わりに村人たちに向かって恨みつらみを吐き散らした。 そうして、駆けてきた馬で去る際に、彼らに向かって呪詛を残した。 "未来永劫、この

          【魔歌師】第25話:ジェレマイア村:4【恋愛ファンタジー】