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『生誕120年 安井仲治 -僕の大切な写真-』兵庫県立美術館(2024アートツアー②)
今年は、アートツアーと称して、絵画仲間の友人と毎月展覧会を巡っており、その際のレポートを書くということも自分の課題にしている。が、実は1月末に観に行ったこちらの展覧会のレポートがなかなか書けずにいた。
『生誕120年 安井仲治-僕の大切な写真-』展 兵庫県立美術館
なので、前後逆になり、、、アートツアー②となっております。
前回のキュビズム展の際に、一緒に行った友人が、私に誘われなかったら行こうと思わなかったと言っていたが、この安井仲治展は逆で、友人に誘われなかったら、私は行かない展覧会だったと思う。というのも私には、写真に苦手意識がある(あった)。写真をどういう風に観たらいいのかが分からないし、写真の良さがいまひとつわからないと思っていた。
友人と一緒に展覧会に向かう車のなかでそういう話をしたら、実は友人も同じように思っているとのこと。ただ、安井氏の写真はどうも絵画のように観えるみたいだということで、それなら勉強になるかもしれないと、不安半分、期待半分で赴いた。
ここで安井仲治氏について記載をしておくと、、、
戦前の関西のアマチュア写真家。裕福な家庭に生まれ育ち、10代半ばから写真を始め、1922年に関西の名門浪華写真倶楽部に入会。すぐに頭角を現し代表格のメンバーとして活躍するも、38歳という若さで病によりこの世を去る。写真のあらゆる技法と可能性を追求し続けるとともに、枠にとらわれない自由な撮影対象の選択により忘れがたいイメージの作品を多数残している。(Wikipedia、兵庫県立美術館HP より抜粋して記載)
結果、私はこの展覧会で、ずいぶんと写真を観る目が変わったし、絵画においても重要な要素であろうことを学んだ。
まず、最初にへ~と思ったのは、写真を絵画に近づけるような、ピクトリアリズムという印刷方法があったと知ったことだ。これが絵画のように観えるということの種明かし。印画前のフィルムに、ピグメント(顔料)を塗るなどして、絵画のような不思議な風合いを出す方法だ。私はこの加工をした作品を観て「なんかいい感じ。イケてるやん!」と思った。この加工により、ただの写真(と言ったら写真家さんにシバかれそうだが)が、芸術性の高いアート作品になっているように感じたからだ。
ただ今この記事を書いている間に、ピクトリアリズムを調べると、この方法はあまり歓迎されていないような記事もある。また、この方法が長らく続いていないということは、今はみながやりたがらない技法なんだなと思うのだが、、、印刷方法の変化などか、その理由まではわからないので、詳しい人に教えてほしいくらいなのだが。
またこれも言ってしまったら、写真家さんにシバかれそうだが、なんとなく私は「写真て偶然の産物ちゃうん?」みたいに思ってしまうところがあるので、そこに手を加えることで新たな作品として仕上がるのは面白いと思ったし、写真の分野でも色んな取り組みがなされていたことを知り、何か絵画に近しいものを感じたのだ。共感できるという感じはそのものとの距離を近づけると思う。
また、安井仲治氏の魅力でもあり、最も勉強になったこととしては、構図の面白さだ。対象物を普通に真ん中にもってくる写真(よく花に蝶々が飛んできているような写真があるが)は、キレイかも知れないけれど面白みがないと思うのだが、安井氏の構図はかなり大胆。トークショー(なんだかんだ言って、はりきってトークショーにも参加しちゃったのだ)でも取り上げられていた、干物の写真などは思いっきり見切れていて面白い(作品の名前が分からないのが申し訳ない)。
また、猿回しを撮った写真では、猿回しをしている様子ではなく、それを眺めている人々の横顔を撮った作品があり、視線の先を想像させるとてもワクワクする作品だと感じた。これも構図の面白さと言えるだろう。
また作品数は非常に多く、何枚も観ているうちに、何となく、「あ、この人らしい」という感じが出てきて、写真作品にも、その人の魂が宿り、その人らしさが醸し出されてくるものなのだと感じられた。こういう風に書いていると、私自身が写真とどれだけ距離があったかということがよくわかるなぁ。
ただ、これだけ果敢に色んなチャレンジをし続けた安井氏も、病に伏した晩年は、ただ「月と池があるだけの風景」などを撮った作品が残されているのが印象的だった。「自分の心に響く風景をそのままに残したい」写真家さんの想いはやはりそこになるのかな。だからこそ、あえて色んな方法や構図に挑んだ安井氏の取り組みは、芸術そのものだったのだという感じがして、その姿勢にも感慨深さを感じた。
そして、この展覧会以降、私は絵画を観るときにも、構図の工夫や面白さにとても注目するようになった。そうここがスタートだったなと改めて思う。
やはり大きな美術館で展覧会を催されるような作家さんの作品は構図が面白い。普通の構図だと、どんなに上手な作品であっても、ただ絵を描いただけという印象になってしまう。芸術において、視点の面白さというのは欠かせない要素なのだろうと感じた。キュビズムが求めたものともつながっているように思う。
独自の視点、変わった視点、面白い視点、誰も見ていない自分だけの視点を。
写真には苦手意識があった。
がしかし、安井仲治展での学びは、大きかった。