その日は突然にやってきた
登場人物紹介
母(75歳)
4年前に肺の病気がわかる。昨年夏頃より在宅酸素療法を行っている。
父(80歳)
病院嫌いで細かい性格。一度決めたことは徹底的に守るタイプ。
長女(私)
医療関係のソーシャルワーカー。実家から車で40分ほどのところで夫と二人暮らし。子はいない。
長男(弟)
他国で自営(居酒屋)。未婚。
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母親の病気が悪化したら、介護休暇を取ろう、と決めていた。
職業柄、病気は急性増悪をしない限りは、徐々に進行し、寝たきりで過ごす期間が出てくるだろうと予測はできていた。またコロナ禍ということもあり、一度入院してしまえば面会もままならないため、両親ともに自宅療養を希望するだろうと思っていたこと。また、私自身が、在宅医療の関係の仕事をしているため、実際に自宅療養する家族の介護を経験をしてみたいという思いもあった。
そんな風に心の準備はしていたものの、思った以上に唐突にその日はやってきた。その日は、初めて訪問看護(自宅に看護師さんが訪問してくれるサービス)で入浴をさせてもらう予定だった。「自分でできる!」となかなかサービスを利用しようとしなかった母をようやく説得して来てもらうことになったので、初回で嫌がって断ってしまわないよう、監視役のつもりで自宅に赴いた。するといつもは起きて定位置に座っているはずの母が、まだベッドに寝たまま。これは良くないなと予感した。
その日はなんとか入浴することができたが、体重が随分減っていたことが判明。早急に介護ベットを入れ、訪問診療(お医者さんが自宅に定期的に訪問してくれるサービス)もお願いした方がいいと看護師さんにアドバイスをもらった。
2日後、父親と一緒に、かかりつけの診療所に訪問診療のお願いに行くために、朝実家に行くと、ベッドに横たわり「おしっこが出てしまうねん…」と力なく言う母。
う、いよいよ来たか・・・。念のために用意していた紙おむつを「オムツみたいなパンツ(いきなりオムツというのは抵抗あるだろうと何となくぼやかして言ってみる)あるけどはく?」と聞いてみる。すると「そうしようか」と。無事にオムツをはいてもらい、急いで父と診療所へ向かった。
幸い翌週には訪問診療に来てもらえることとなり、その日までに介護ベッドの搬入と、介護保険の変更申請(介護度の見直し希望)まで一気に済ませ、その勢いのまま、職場に母のための介護休暇の申請を申し出た。
職場には事情を話していたこともあり、異例の速さで1か月半の介護休暇が取れた。そして、翌週から、父と二人で母の介護をする生活に突入することとなったのである。
ただ、こんなにあっという間にすべてが変わる中、介護ベッドの搬入中に、臨時のベッドで寝ていた母が(移動するにも息絶え絶えだったにも関わらず)、「あんたなかなか上手いことやったな(スピーディーに整えたねの意)」と、私に向かってニヤリとした。本人は自分の状況がどこまで分かっているのか怪しいが、ちょっと上から目線で褒めてくるあたり、この人あなどれないなと思った。我が母よ。
とにかく、そんなこんなで、父と私、時々弟と我が夫、サービス提供してくださる皆さんを含めた、母の介護生活が幕を開けた。
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