第21話「放棄したのは」
「もちろん、ヨウも一緒に。
ここで死ぬくらいなら…ホワイトノーブルに、協力するよ。」
アオ兄は、明るく大きな声で宣言する。
「ア、アオ兄っ!」
突然の流れに驚き。
勝手に自分の名前も出されて、さらに困惑する。
「なんでっ…。」
平気で…何の罪もない人も殺せる。
そんな組織に…さっきまで、怒っていたはずなのに。アオ兄は、本気で…?
「ヨウ…。シゲ叔父さんのことはもちろん許せない。
だけどな…
…ブレイズ隊長の言うことも、本当は分かるんだ。
大きな目的…”正義”のために、仕方のないこともあるんだって、こと。」
俺に背を向けているせいで、アオ兄の表情は分からない。
本当に、本心で…言っている?一体、どんな顔で…。
「”禁色”を知っているアオバ君なら、
私の”正義”も、分かってくれる気がしていました。」
ブレイズ隊長が、優しく微笑む。
「もちろん、ヨウ君も一緒に。歓迎しますよ。」
ブレイズ隊長の表情は、アオ兄と違って俺からもよく見える。
今まで見てきた、憧れの笑顔…
…でも、これも。本当に、本心…なんだろうか?
禁色って…人を殺してまで手に入れたい、そんなに大事なことなのか?
「それでは、早くここから立ち去りましょう。
今にも、誕生日会の招待客が、来てしまいそうです。」
そう言って、ブレイズ隊長は、そばに倒れているヒマリへ向き直る。
俺たちに、背中を向けた…まさに、その時。
ーーー「…!」
アオ兄はまた、無言で右腕を勢いよく振り上げる。
ーーー「…残念です。」
ブレイズ隊長も、アオ兄と同時に…左腕を勢いよく振り上げる。
ーーー「あぁっ!」
同時に起こった、2人の流れるような…同じ動きが。俺の位置からは…よく見えて…。
ーーザシュッ。
「ぐッ。」
一瞬、スローモーションのように重なった、2人の動き。
その一瞬の後。
まばたきをした一瞬で、景色がーーー赤く染まる。
「ひっ…。」
目の前には、大量の赤。
大量の…血。
これは、俺の血ーーーじゃ、ない…?
「…ッ!ッア、アオ兄!!!」
赤く染まる景色の中心で、見慣れた背中が…足元から、ゆっくりと地面に崩れ落ちていく。
「アオ兄ッ!」
倒れ込んだアオ兄の上半身を、抱きかかえるように膝に乗せる。
口からも、全身からも…大量の血が、流れ出している。
「アオ兄っ。アオ兄っ!」
俺はただ、必死に名前を叫ぶ。
アオ兄は目を閉じて、ピクリとも動かなかった。
身体中…細くて長い、真っ白の氷柱が突き刺さっている。
「アオ兄…っ。」
何とか目を開けてほしくて、抱きかかえる手に力を込めた。
「ひッ…。」
力を込めて、アオ兄の身体を押した時、
生暖かい…初めての感覚が。
アオ兄の背中から、とめどなく流れ出るソレは…
…俺の手と、アオ兄に突き刺さる氷柱を真っ赤に染め上げていく。
「アオ、兄ッ。しっかり、してっ!」
ただ、声をかけることしか出来ない俺の、やっとの呼びかけが通じたのか
「ゲホッ。ハァ…。くっ…。」
やっと、アオ兄から反応が返ってきた。
「くっ…。ヨウは、怪我…な…いか?」
血だらけの顔で、アオ兄は微笑む。
…こんな時にも、俺の心配だなんて…
「うんっ、うんっ、おれっは、大丈夫、だよっ。」
俺は、アオ兄の反応に安心したのか、
緊張の糸が切れて…いつの間にか、声を出して、泣いていた。
「…うえっ。ひっく…。」
自分では、もう止めることができないほど…大量の涙が。俺の、情けない顔を、伝っていった。
「だい、じょうぶだから…。泣くなって。」
アオ兄が、無理に笑っているのが分かった。
その事実に気付いて…さらに視界が、涙でにじむ。
アオ兄の顔が、涙で…どんどん見えなくなっていく。
まるで…アオ兄が、目の前から消えていくみたいで。俺は…
「どこにも、いかないでっ!」
泣きながら叫び、流れる血も気にせず、その身体を思いっきり抱きしめた。
「痛いよね?ごめん…でも、俺…っ!」
どこにもいかないでほしくて。
アオ兄は、ここに居るんだって思いたくて。
…力の加減もできずに、泣きながら、ただすがりついていた。
ーーー【黒の再来】まで、あと6分ーーー