第43話「希望の奪い合い」

「あ〜もう!

俺は、ちょっぴりすごいけど…別に”最強”だなんて、思ってないっての!

まあ、確かにちょっぴりは、すごいんだけどな!」

大先生は、色素の薄い、白っぽい髪をガシガシとかいて

「歳上を舐めやがって…あいつら、後で絶対シメる。」

言葉とは違って…いつものニヤニヤ顔で。

右手で作った拳を、左の手のひらに、パンっと打ち付けた。

「はぁっ。

シメるのは…っ。勘弁してほしい、ですねっ。

っ…事実…なんですからっ。」

そう、乱れた呼吸で、
俺の背後から、声をかけ、近付いてきたのは…

…真っ黒の隊服に、
呼吸と同じく、少し乱れた青みがかった黒髪と眼鏡。

「サクヤ隊長!!!」

ブラックアビス”寒色隊”隊長、その人だった。

「お〜、遅かったじゃん。そっちは、無事に終わった?」

大先生は、サクヤ隊長の登場が、さも当たり前かのように。

特に驚きもせず、ニコニコと嬉しそうに問いかける。

「ちょうど、本部にいた隊員が多かったので…。

”転送”するのに、時間がかかってしまいました。

それより…彼は、まさか…。」

「おお、お前と同じ”寒色隊”の、隊長サマだぞ。」

2人は、そんなやり取りをしながら。

いつの間にか、俺の近くに、集まってきていた。

「…ヒュー・ブレイズ。

いよいよ…ホワイトノーブルと、敵対ですか。」

「だな。

ま、コイツを拾った時に…

こっちから、引き金を引いたようなもんだ。」

立ち尽くしているだけの俺を、大先生がツンツンとつつく。

「俺たちブラックアビスは…ヨウ、お前に。

賭けることにしたんだよ…世界の、命運を。」

最後には、バンッと、俺の背中を叩き

「頼むぜ、俺たちの希望!」

ニヤッと、いつもの調子で…笑いかけてきた。

「えっと…。」

監視対象…とは聞いたけど。

”希望”って言うのは…聞いてなかったから。

(ちょっと…恥ずかしい、な。でも…)

「が、頑張ります!!!」

だんだんと…

…俺を認めてくれた、ブラックアビスの想いを理解して。

こんな俺が…みんなを、世界を救えるのなら、と。

ひとまず元気よく、大先生に返事を返した。

「では…その”希望”を。

みんなと同じ、安全な場所へ…”転送”して、さしあげましょうか。」

サクヤ隊長も、大先生に負けない笑顔で、俺の背中を叩く。

「ヨウのこと、任せたぞ。

俺は…

…まだ、あいつに、用があるからな。」

大先生は、嬉しそうに笑ったまま。

ブレイズに、話しかける。

「あのさ〜。

俺の可愛〜い後輩が、お前に質問したいって言ってたんだ。

ヒマリ・プリマナが…ホワイトノーブルに入隊したのは、ほんとか?

あとは…レン・キールマンも。こいつは、元々”内通者”、だったんだろ?」

(あっ…。俺の、聞きたかったこと…。)

大先生は、ちゃんと覚えてくれてて。

俺が”転送”される前に、こうして聞いてくれたんだと思った。

大先生の”見えない勅令”を避けた後、

何かを考えるように…不気味に黙っていたブレイズは。

俺の代わりに質問してくれた大先生に向かって、

特に変わった調子もなく。平然と…返事を返してきた。

「ヨウ君は…2人のことが、本当に大切なんですね。

質問の答えは…

…ホワイトノーブルに来れば、すぐに分かりますよ。」

ブレイズはそう言って。

にこやかに、片手を差し出して、言う。

「ヨウ君は、私達にとっても…

…今や、大切な”希望”と言ってもいい存在です。

決して、悪いようには、いたしません。

こうやって、ブラックアビスに来たのも…

ヨウ君を、保護したくて…探していたんですよ。

きっと、私達には、誤解があります。

まずは…私と一緒に、ホワイトノーブルに来ませんか?

そうすれば、2人に…すぐにでも会えます。」

「2人に…すぐにでも、会える…。」

ブレイズのセリフを、小声で復唱して。

(俺を、保護?俺は、誤解してる?

…ほんとうに…?でも…)

…俺は、こいつを…

ブレイズを…また、信じる…のか?

(2人には…会いたい。…けど…!)

そんな俺の、ぐるぐるな頭の中に…

「おいおい〜。

何も連れて行かなくったってさぁ。

パパッとさ、教えてくれれば、それでいいのよ?」

明るい、大先生の声が、響く。

そして…今度は、真面目な声で

「ヨウはな…

お前らの望むような、”黒の悪魔”には…二度とならない。

ヨウを連れてって、何をする気かは知らないが…

お前らホワイトノーブルに、ヨウは絶対、渡さないよ。」

ハッキリと、そう宣言して。

俺とサクヤ隊長を背後にかばうように

少し遠くにいるブレイズに、堂々と向き直った。

ブレイズは…フッと…自嘲気味に微笑み…

「私は…力ずくは、嫌いなので。

ヨウ君も納得する提案を…したつもり、だったのですが。

なぜだかいつも…断られてしまいますね。」

困ったような顔で…

…左腕を、前に突き出した。

「力ずくは…相手を傷つけてしまうので、嫌いです。

しかし…”最強”の、あなたなら。

少し本気でやっても…大丈夫そう、ですね。」

ブレイズのセリフが終わると同時に、

さっきの勅令の時とは…比べ物にならないほどの、強い光が、

ブレイズの左腕に集まり…周囲を、眩しいほどに、明るく照らす。

「まずいっ…!

サクヤ!ヨウを抱えて”転送箇所”まで、急いで逃げろ!

俺のことは…

…待たなくて、いいぜ!!!」

大先生は、笑顔でそう叫び、

勢いよく、右手を振り上げた。

(今度は…眩しいっ!?)

さっきとは…全然違う、右腕。

ブレイズにも負けていない位、強い光が…

隊服の、真っ黒のペリースから、思いっきり外に、溢れ出ていた。

そして…

…2人の最強が、同時に叫ぶ。

「勅令するーーノエル、舞い”狂え”!」

「勅令するーーペアレ、”嘆き”放て!」

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