第47話「新しい世界で」


「この肉…唐揚げって言ったか?

焼くのも良いけど…油で揚げてあるの、めちゃくちゃウマいな!

さすが、都会…!

俺の好きな食べ物ランキングが、今…入れ替わった…!

第1位、唐揚げ!!!」

俺の正面に座るノヴァン大先生が、

そう言って、嬉しそうに唐揚げを口に放り込んだ。

たぶん今ので…もう、10個は平らげている。

「うーん、俺は、肉なら…ハンバーグの方が好きだな!

パンに挟んで、バーガーにしても美味しいしっ。」

ジャアナの街を、思い出す。

(そうだ…あの日。

最後に…ブレイズと、食べたのも…。)

「バーガー!なんか…聞いたことは、あるな。

今度来た時は、それを頼もう。」

そう言いながら、大先生は13個目の唐揚げに手を伸ばした。

あのーーー

ホワイトノーブル”最強”、ヒュー・ブレイズの奇襲によって、
ブラックアビス本部を失った…あの日から、早2ヶ月ちょっと。

季節は、あっという間に移り変わり。肌寒い日が増えてきた気がする。

そんな、今日この頃。

なんで、俺たち”特色隊”が、こんな都会のオシャレなお店で、
早めの昼食をとっているのか、というとーーー

「あと半日も歩けば、目的の村に到着できそうですわ。

今から向かうと…到着は、夜。日が落ちているので、危険でしょうか?」

そう…

ある村に、行かなければならないから、で。

「どうすっかな〜。

サクの”転送”で、もっと近づけたら良かったのにぃ〜。」

そう…

サクヤ隊長の”転送”は、この広い世界のどこにでも、すぐに飛べるわけではないらしく。

事前に、いろいろな条件(日当たりなど)が揃っている箇所を

”転送箇所”として、いくつか登録することができる、チカラなんだって、言っていた。

そして…

俺・大先生・ミチカの3人は、”とある任務”のため、

約3日前に、目的地の村に一番近い”転送箇所”の1つに、飛んできていた。

そこから、道中、大先生のペアレに乗せてもらいながら…前進して。

ついさっき、やっとこの街に到着したところだった。

「大先生…ちょっと冷たいぞ?

サクヤ隊長は、あの洞窟…

…ブラックアビスの”隠れ家”と、いろんな”転送箇所”を繋げて

常に、行き来できる状態にしてるんだから。

めちゃくちゃすごい人だよ?」

俺は、子どもをたしなめるように、大先生に反論した。

この2ヶ月、ずっと大先生と修行をしていたから…
最初より、かなり打ち解けてきたと思う。

(会話だけ聞いたら…俺の方が、お兄ちゃんみたいだな。)

なんだか頬が緩み、ついニヤけてしまった。

「な~にニヤニヤ笑ってんだよ!

サクより俺の方がすごいもーん。」

大先生は、そう言って口を尖らせる。

出会った時より…子どもっぽい、気がする。

大先生も、この2ヶ月で…打ち解けてくれてるのかな。

(いや…この人は、元々子どもっぽい、か?)

そうだ…

本部が倒壊した、あの日も…

『全く!隊長ともあろう2人が…!

こんなことで、僕にチカラを使わせないでくださいよ!

次は…攻撃系のチカラ、使いますからね!』

洞窟で大騒ぎした大先生達は、サクヤ隊長に怒られて。

その後は…偉い人達が、話し合いをして。

最後には…洞窟にいる全員に向けて、
サクヤ隊長が前に立ち、話し合いで決まったことを、色々と説明をしてくれた。

「ふぅ…。
さっきはお見苦しい所を見せて、新人のみんな、ごめんね。

組織に長い隊員は…もはや慣れっこで、
みんな「はいはい。」って、スルーするんだ。

新人のみんなも、今後あの2人が暴れたら、関わらないようにね。」

俺たち4人は、揃って

「「「「はーい!」」」」

と、元気よく手を挙げた。

「…いや、モモナは”あっち側”だからな?!反省しろよ!」

一応、俺はツッコんでおいた。

「さて…じゃあ、話し合いで決まったこと、

簡単に、説明させてもらおうかな。」

サクヤ隊長は、にこやかに説明を始めた。

「今まで、我々ブラックアビスは…

秘密裏に、ホワイトノーブルの計画を調べてきたね。

だけど、これからは…

…間違いなく、ホワイトノーブルと戦うことになる。」

サクヤ隊長は、声のトーンを落として言った。

洞窟内に…少しの、静寂。

「その時に備えて…僕たちは、準備をしなきゃいけない。

特に、一緒に戦う”部隊”や、細かい”班”で。

互いのチカラを確認し、協力して戦えるように。」

(俺は…”特色隊”だから、ノヴァン大先生と、か。)

「この洞窟は…僕のチカラで、

複数の街や村と、”転送”できる状態で、繋がっている。

そして、とある筋からの情報で…

ホワイトノーブルは、ひとまず
すぐに僕らと戦う気はない、らしい。

今回、ヒュー・ブレイズが現れたのも、
あくまでヨウ君の居場所を知るため、みたいだ。

やつらとの全面戦争は…
早くても、半年後から、かな。」

(とある筋、からの情報…。一体、どこから…。)

「と、いうわけなので。まずはこの後…

各部隊・班で、それぞれ”転送箇所”に飛んでもらう。

そこで…そうだな、まずは、2ヶ月くらい、そこで生活をして。

作戦を練ったり、修行をしたりして、結束を強めよう。

そして、

2ヶ月目以降は、主に任務をこなしながら…来たる戦闘に、備えるんだ。」

そう言って、最後に…

サクヤ隊長は、黒の軍服の、肩から垂れるペリースをはためかせ。

勅令する時のように…片方の腕を、思いっきり前に突き出して、叫ぶ。

「隠れ蓑にしていた、
ホワイトノーブルのファンって肩書きは…もう、今日で卒業だ!

これからは…僕ら”ブラックアビス”として。堂々と、世界のために戦おうっ!」

それを聞いた、洞窟の全隊員が…

もちろん、新人の俺たちも含めて。

サクヤ隊長と同じように、勅令時のような姿勢を取った。

俺たちを見て、満足そうなサクヤ隊長。

そんなサクヤ隊長の横から…大先生が。

一歩前に出て、俺たちの前に立ち。大きな声で叫んだ。

「我ら、”ブラック=黒・アビス=深淵”。
 
 ”黒”の悪魔を…”深淵”に、導くものなり!

俺たちみんなで…黒を、深淵へ!」

「「「「黒を、深淵へ!」」」」

こうして、

俺たちブラックアビスの心は…1つになった。

…そんな、ブレイズに奇襲された日のことを、改めて思い出して

「”黒を深淵へ”…か。かっこいいよなぁ…!」

無意識に、そうつぶやいてしまった。

「え?

…俺が、かっこいいって?

そんな分かりきってること、今言わなくても〜。」

目ざとく聞いていた大先生は、「照れるなぁ〜。」と
満更でもない顔で、頭を掻きながら照れたように笑った。

「はいはい。かっこいいですわ。

…で、このまま向かうんですの?

それとも、街にもう1泊して、
明日の陽が昇っている時間に着くように、調節します?」

俺たち”特色隊”の、専属サポート員になったミチカも…
この2ヶ月で、大先生のあしらい方は、完璧だった。

(あれから…”隠れ家”には、たまに情報交換しに、戻ってるけど…

アザミとモモナには、ちょうど会ってないな…。2人とも元気、かな…?)

俺たち4人…【黒の再来】に巻き込まれて
このブラックアビスの一員になった

「いつ向かうか、か…。

お目当ての”禁色”は、すぐ目の前だしな!

このまま、乗り込むぞ!」

最後の唐揚げ…たぶん17個目に手を伸ばしながら

笑顔の大先生が、そう宣言して。

「賛成っ!

ホワイトノーブルより先に…”禁色”に、接触しなきゃだし!

それに…その”禁色”のヤツ…村で、ひどいことされてるって…。

俺、すぐにでも、助けてあげたい!」

俺も、大先生に負けないくらい、元気に宣言した。

「んで、俺とおんなじように…

そいつにも、新しい世界を、見せてあげたいな。

 

この”ブラックアビス”っていう、新しい世界を!」

いつ、本物の”黒の悪魔”が現れても…おかしくないから。

ヒマリを…そして世界を守るためにも、

俺は、この新しい世界で…俺にできることを、精一杯、やっていきたい。

まずは、今から行く村の”禁色”を…ひどい境遇から、助け出して…

『ブラックアビスの仲間、どんどん増やそうぜ〜!』

「うわっ!アオ兄!!!」

(”また”…!勅令してないのに…!)

アオ兄は…”また”、”いつものように”、

薄い小さな赤い鳥となって、

俺の右腕から勝手に飛び出してきた。

「よ〜し!アオバもやる気マンマンみたいだし!

お前ら…気合い入れて、行くぞ!」

空っぽになったお皿を代金を机に残して

俺たち…3人と、1体(?)は、

勢いよく、お店を後にした。

【第二章:新しい世界】完

【第三章:来たる日に備えて】へ続く

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