【画像生成AI】 傑作=masterpiece の功罪 巨匠の手で完璧を克服する
はじめに
こんにちは、きまま / Easygoing です。
今回はAI画像の奥の深い、傑作=masterpicece の問題について考えます。
AIは高解像度が得意
前回、画像生成AIは高解像度が得意なことを紹介しました。
AIは、高解像度の絵もボケること無くきれいに仕上げることができます。
一方で、解像度を上げるとAI画像の正確さが目立ってしまい、特に顔の描写がキレイになりすぎてしまいました。
今日はそんなAI画像が持つ完璧さを払拭する方法を考えます。
マスピ顔とは?
顔の造形が完璧すぎることを、マスピ顔と呼ぶことがあります。
画像生成AIでは、プロンプトに 傑作=masterpiece と入力すると絵の完成度を上げることができます。
どのような絵の完成度も上げることができるので、とても便利なキーワードなのですが、masterpiece を使うと特に顔の形が整いすぎて、同じような見た目になってしまう問題があります。
マスピ顔は、初めはアニメ絵に特化した NovelAI(2022年10月 登場) を揶揄して生まれた言葉でしたが、その後にベースとなった Stable Diffusion やその他の画像生成AI全体の作品に対しても使われるようになりました。
主にイラスト系の絵に対して使われますが、実写系に対して使われることもあります。
キレイな絵は疲れる
キレイな顔をはじめに見た時は惹かれますが、ずっと見ていると疲れてしまいます。
この問題について、昔の偉い人はどのように考えたのでしょうか?
巨匠の名画に登場する女性は、いずれもキレイですが完全な美形ではありません。
巨匠であれば、本来はどんな完璧な顔でも描くことができたはずです。
しかし同時に、巨匠たちは 完全な美形が人々に好まれない ことも知っていました。
完璧をあえて描かないことで、見る人を引き込む魅力を感じさせる、そんな絶妙なバランス感覚を持っていたのです。
巨匠の手を借りたい!
そこで、巨匠が素晴らしいバランス感覚を持っていたなら、それを真似れば良い のではないかと考えました。
プロンプトに巨匠の名前を入れて作風を再現するのです。
巨匠に乗っ取られる?
巨匠の手を借りるのは、リスクも伴います。
以前に紹介したように、AI は50億もの画像データベースから学んでいますが、その中で圧倒的に多いのが、現代のスマホやデジタルカメラの画像です。
次に多いのがフィルム時代のカメラの写真、そしてそれに比べて銀塩写真と絵画は量産ができないので枚数は限られてきます。
AIは世界中の美術館などに収蔵された 数少ない絵画から、巨匠の強烈な個性を強く学習 しています。
巨匠の手を借りる配分を間違えると、簡単に乗っ取られる可能性があります。
頼れる巨匠を求めて
今回手を借りるのは、人物画を描いている巨匠です。
昔の巨匠は省くことにして、時代は1800年以降にします。
次に画風について考えてみます。
筆者が利用している anima_pencil-XL は輪郭の線が細い
初回の記事で紹介したように少しぼやけた背景が好き
このあたりをヒントに、1800年以降の巨匠を探すことにします。
エドガー・ドガ(1834 ~ 1917)
19世紀の印象派の有名な画家に、エドガー・ドガがいます。
ドガはバレエを題材にした作品を数多く残しています。
バレリーナはその華やかなイメージとは裏腹に、この時代では品位も落ちていて、暗に娼婦を示唆する側面もあったようです。
ドガの作品には、バレリーナの少女と同じキャンパスに黒い服を着たパトロンのおじさんが映り込んでいます。
なんてこった!
それでは、プロンプトに「エドガー・ドガ」を加えてみます。
何ということでしょう! 顔から生気が完全に失われてしまいました!
後ろに描かれた人物も、同じように生気を感じられません。
確かにドガの画風を再現しているといえますが、これはさすがに雰囲気が暗くなりすぎています。
キーワードひとつでここまで影響を与えるとは、巨匠の影響力の凄さに驚きます!
ウジェーヌ・ドラクロワ(1798 ~ 1863)
ウジェーヌ・ドラクロワはフランスを代表するロマン派の画家の一人です。
代表作は何といっても、「民衆を導く自由の女神」です。
ドラクロワ自身、1830年のフランス七月革命を直に経験していて、左に描かれている銃を持った男性は、ドラクロワの自画像だとも言われています。
良いのではないか?
プロンプトにドラクロワを入れてみます。
これは・・・、かなり良いのではないでしょうか。
絵が全体的に落ち着いています。目が少し小さくなり、顔にも個性が出て人間らしさを感じます。
絵のタッチは全体的に油絵に寄って重くなり、髪のサラサラ感は失われていますが、私は重い質感も好きなのでこれはこれで良いと思います。
より平凡な絵になったとも言えますが、見ていて疲れないし、ドラクロワが無いバージョンと使い分ければ良いメリハリができそうです。
AI を使うと、油絵とアニメ絵を融合させることもできるんですね!
ドラクロワの強さを調整する
次はプロンプトの強さを調整してみます。プロンプトの重みは通常は1ですが、これを変更することで重み付けを変えることが出来ます。
Eugène Delacroix:0.5
Eugène Delacroix:1
Eugène Delacroix:1.5
Eugène Delacroix:2
プロンプトの強さによって画風が変わってきますね。
個人的には 1.5 ぐらいが顔に個性があって好みですが、こうした隠し味は気持ち控えめがよいと思うので、重み付けは 1 で行くことにします。
画像をタップして拡大すると、順送りで同じ構図で比較できるので、是非試してみて下さい。
まとめ:巨匠はすごい!
今回は、巨匠の名前一つで雰囲気を大きく変えることができました。
巨匠のバランス感覚は絶妙
巨匠の名前をプロンプトに入れて個性を再現
プロンプトの強さを調整してバランスをとる
巨匠の手を借りると、表現の幅がずっと広がります。
他にもたくさんの巨匠がいるので、皆さんもぜひ好きな巨匠の手を借りてみてはいかがでしょうか?
最後までお読み頂きありがとうございます!
巨匠の手を借りたきっかけ
今回、巨匠の手を借りることを思いついたのは、こちらの K_Kameno さんの記事がきっかけです。
こちらのシリーズでは、日常の写真で巨匠の画風を楽しく再現されています。
また、第5回では私の note を紹介して頂きました。
恐縮です。素晴らしいアイディアを教えて頂き、ありがとうございます!
参考書籍
絵を見る技術 朝日出版社 2019年5月
名画から学ぶ 写真の見方・撮り方 東京カメラ部 2022年10月