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幼少期 幼稚園生あいちゃんのおまじない

幼稚園生になった私は、新しい園舎と先生方に心躍らせていた。
周りにいる園児はほとんどそのまま持ち上がりで、よく知った顔ばかり。
ちらりほらりと初めての人がいるな。くらいの気持ちだった。
たった一年の幼稚園時代。

ここで私は『あぁ毎日めんどくさい』に記してあるが(詳しくはお読みください)、私以外の全ての人たちが観察対象になった時である。

どうしてそうなったのか。
当時おまじないのように言われていた言葉がある。

「自分の気持ちは置いといて、相手の立場に立ちなさい。わからないなら考えなさい。」
母はこの言葉が口癖だった。

少しでも母のタイミングとずれてしまうと母はイライラMaxになる。
ほしいタイミングで返事が返ってこない、ほしい答えじゃない。
これらは危険!
立ちすくむ私に対して、残念そうな軽蔑するような目で高いところから見下ろし
「で、わかったん?」の一言に黙ってしまう。
この時間が本当に苦痛だった。

わからない私はダメな子なんだ。
軽蔑する視線やエネルギーに怒りの表現を加えられると、わからないことが申し訳なくなり、ごめんなさいの気持ちでいっぱいになって涙が溢れる。
次は「泣いても何もならん。泣かんといて、話ができんやろ?泣いとるうちは話さなくていいから。」
泣き止まないと話も続けられない。
そしてバタバタと忙しなく家の中を動く母。
母の機嫌がある程度落ち着くまで私の存在は完全スルー。
話しかけてもらえるまでに考えをまとめないと、と焦る。
「で、わかった?」と聞かれた時に答えられないとまた同じ時間だけスルーされる。
これがなかなかしんどいのだ。
同じ部屋に存在しているのに、手が届くところに立っているのに全く見えていないように振る舞う母に、本当に要らない子なのではないだろうかと、何度も思った。

そして最初の言葉に戻るのだ。
「自分の気持ちは置いといて、相手の立場に立ちなさい。わからないなら考えなさい。」
「どうしてもわからなかったら聞きなさい。でも、わかるようにならないと恥ずかしい、困るのあんたやに。」が、締めにくる。

弟が生まれた私は、弟を愛でる時間があってもよかったはずだ。
しかし記憶にあるのは、私に向ける「残念そうな母の顔」がほとんどだ。

母の前では泣いてはいけない。嫌そうな顔をするから。
この頃から泣くのを堪えるのが上手になった。
痛いのを我慢するより難しかったことを覚えている。
泣きたくなる気持ちを無くせた時は嬉しかった。

誰か人と会う時に自分の気持ちを優先させてはいけない。
自分の気持ちを感じることよりも先に、相手の気持ちや行動を推測し意に添うようにベストを尽くす。
徹底的に私から湧き上がる感情に蓋をする訓練が始まった。
感情を言語化してしまうと外に出したくなるので、心の中にフワッと感じたらすぐに無かったことにするのがポイントだ。
最初は「私はこう思ったもん」がすぐに顔を出す。
その度に「あんたの気持ちは聞いてない」と突っ込まれるので
感情が出てくる→誰も聞いてない→感情に蓋をする→相手が望む言葉を紡ぐ(ここから会話スタート)。
この流れが人と過ごす、話しをするときの習慣になるよう練習を重ねた。

しばらく練習すると、自分の感情が湧き上がる前に相手のことを察することができるようになってきた。

この状態の私は、幼稚園で起きている自由奔放な子どもらしい順序のやりとりを見ていて不快だった。無駄に見えた。
「あぁ元気だな」「またやっとるわ」「腹立つけど、我慢できやんのやったら仕方ないよな」
こんな感じで。
同じクラスの子たちと関わらなければならない時は
「なんでわからんのやろ」
「こういうやりとりほんとめんどくさい」
この気持ちがほとんどだったと思う。

大人たちには、子どもだからこの程度に収める、がベースの大人たちに飽き飽きしていた。
こうすれば大人たちは「すごいねぇ〜」「ありがと〜」「たすかるわぁ〜」と反応する。
うん、知ってる。
だってそうやってやってほしいって顔に書いてあるやん。
母より100倍わかりやすいから楽だ。

「自分の気持ちは置いといて」
毎日何度も何度も使うおまじないの言葉。

最初は手にとるようにわかる表面的な人様の感情が楽しかった。
次第にあぁ退屈だ、と思うようになった。
相手が喜ぶように、相手が気持ちよく過ごせるように言うことを聞く。
大人たちからの指示はそのためなのだと思っていた。

幼稚園生あいちゃんのマイルール
1.自分の気持ちは置いておく、蓋をする
2.相手の気持ちや行動を最優先
3.泣くのは悪いこと
4.大人たちからの指示は聞いておく(後が面倒だから)

この私が、誰の言うことも聞かずに没頭できるものと出会うのは、もう少し後の話。
また今度。

幼稚園生のあいちゃんは、今日も私以外の人たちのことを考えるのが忙しい。

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