【ホツマツタヱ】ハタレと土蜘蛛は出雲族か【日本人の道徳心】〜古書から日本の歴史を学ぶ〜
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こんにちは、今回はハタレと先住民についてお話しさせていただきます。よろしくお願い致します。
ホツマツタエを読んだことがある方は「ハタレ」という言葉に聞き覚えがあると思いますが、ホツマツタエを読み解くのにとても重要なワードです。
ホツマの写本と現代語訳を見ると、ハタレという言葉には禍の鬼、や禍の霊という漢字を当てたり、魔王と訳されている箇所もあります。
ハタレとは人間の歪んだ心が積み重なって出来た悪いもの、としたり、妬みや恨みの心だと説明をしています。
そしてハタレに取り憑かれた人間はハタレ魔となり、征伐の対象になったり、更生するように促されます。
第8章のタマがえしハタレうつアヤは、ハタレを討伐して魂還しをする、という内容なのですが、魂還しとは、魂を還すことなので、死を意味しています。
ハタレは人間の悪い心だとされていますが、それにしては討伐の描写がかなり生々しく、ハタレは必死に抵抗をしています。
第8章でのハタレはどう読んでも人間です。
ハタレはアマテルを討とうとしていることから、天孫族に服しなかった異系統の民族だということがわかります。
アマテル曰く、ハタレは神の力(カンチカラ)で祓い除くことが出来るそうで、ハタレの悪い心を取り除いて更生させようとしています。この章でアマテル直属の部下でありハタレ討伐に大いに活躍をしたのが
カナサキノ尊、フツヌシノ尊、タケミカツチノ尊、タチカラオノ尊、イフキドヌシノ尊などです。
活躍をした神達は土地を与えられたり、新しい名前を賜るなど恩恵を受けています。
第8章には6名のハタレが登場しています。
① ニシキヲロチノシムミチ
② ハルナハハミチ
③ イソラミチ
④ ミタルキクミチ
⑤ イヅナミチ
⑥ ナルカミモトムアエノミチ
全ての名前の語尾に付いている「ミチ」は「妖術師」や「妖術使い」と云う意味であると注釈にあります。
ではどのようにハタレを征伐していくのでしょうか、原文を見ていきます。
ハタレシムミチ なすワサ(技)に
ヤマカワ(山川)アフ(溢)れ ウヲロチ(親大蛇)が
ホノホ(炎)をハ(吐)きて オドロ(驚)かす
カナサキシバ(暫)し タ(立)ちカエ(返)り
アメ(天)にツグ(告)れば オオンカミ(大御神)
タマ(賜)ふカタスス ワラビナワ(蕨縄)
カナサキウ(受)けて セメクチ(攻め口)を
モロ(諸)にサツ(授)けて マジナ(呪唱咀)えば
ハタレのモノの ワザ(技)ならず
ニ(逃)げんとすれど カミイクサ
カ(勝)ちてイケト(生捕)る
ハタレマを カワ(乾)くヒテリ(日照)に
ツナ(繋)ぎおき ついにイケト(生捕)る
ハタレカミ ツツガ(牢屋)におきて
ミチ(三千)モノマ シム(臣)にアツ(預)けて
モロ(諸)カエ(帰)りけり
(ニシキヲロチノ)シムミチは妖術で山川を氾濫させたり、炎を吹いて人々を驚かせたとあります。
カナサキノ尊はカタスス(煤?)と蕨縄を大御神から賜り、これを使って呪いをしたらハタレの妖術(技)が使えなくなった、とあります。
そしてハタレを生け捕りにして繋ぎ、日照りに置いといたとあります。
呪いを唱えて技の発動を止める、というのは天孫族が得意とする秘法です。ウエツフミという古文書の中では秘言という秘法で何度も出てきます。その中には呪文を唱えて土蜘蛛を討伐するという話が多数記述されています。
ウエツフミに登場する「タカヲハリ」という名の土蜘蛛は神武天皇と敵対しているナガスネヒコ(トミビコ)に協力していることが原因で殺されてしまいます。
出雲口伝ではナガスネヒコは出雲族だとありますので、土蜘蛛のタカヲハリも出雲族であったか出雲側についていた民族だと推測できます。
ウエツフミなどに登場する土蜘蛛とホツマの「ハタレ」が同族であったかはわかりませんが、立ち位置は同じです。
次にイソラミチの征伐方法を見ていきます。
キミ考えて イソラミチ
オコジ(お菓子)とフキ(蕗)と 賜れば
フツヌシもろ(諸)と ユガケ(弓掛け)して
さらに向ひて ヤ(矢)ヲもとむ(求む)
ハタレをもえり(思えり) ヤにアタリ
ヨミカエ(蘇)るかや イタ(傷)まぬか
フツヌシいわく ユガケ(弓掛け)あり
なん(何)ぞイタ(傷)まん ウ(受)けよトテ
ハバヤ(羽々矢)ハナ(放)せば ハタレとる
トモ(共)にワラ(笑)いて ミヤゲ(土産)あり
カミよりオコゼ(お菓子) タマワ(賜)れば
ハタレよろこび カミいかん
ワがス(好)きシ(知)るや またいわく
ナンジ(汝)もシ(知)るや コタゑねば
ワラ(笑)っていわく コロ(殺)すなり
ハタレいか(怒)って なにゆえぞ
ナンジ(汝)ほこりて ば(化)くるゆえ
イソラウ(討)つなり なをいか(怒)り
イワ(岩)をあげて ノノ(罵)しれば
フツヌシオコゼ(お菓子) な(投)げい(入)るる
ハタレマうは(奪)ひ あらそ(争)えり
ミカタはフキ(蕗)を た(炊)きいぶ(燻)す
ハタレむ(咽)せんて しりそ(退)くを
をひつめ(追い詰め)しは(縛)る
チ(千)ハタレマ これもヒルネと
なをイサ(勇)み ヨモ(四方)よりカコ(囲)み
イソラカミ ついにシバ(縛)りて
ツツガ(牢屋)なす チオ(千百)のモノマ(魔)も
そのクニの シム(臣)にあつけて
モロ(諸)かえりけり
これがイソラミチの征伐方法で、お菓子と蕗を使って騙し討ちにした、と云う内容です。
食べ物を与えて油断させる、というのは古事記の土蜘蛛征伐に似ています。
次にイヅナミチの征伐方法はこのように書かれています。
またハタレ イヨ(伊予)のヤマ(山)より
キシヰクニ(紀志伊国) ワタ(渡)り攻むるを
トツミヤ(外ツ宮)の つ(告)けにモロカミ(諸神)
カミ(神)はかり かねてカナテの
ミコトノリ タケミカツチに
フトマカリ タマ(賜)えばイソ(急)ぎ
カナデんと タカノにイタ(到)る
ヰツナミチ ヨロのケモノ(獣)に
ば(化)けカカる ミカツチ(タケミカツチ)ゆけば
ハタレカミ スス(進)みていわく サキフタリ(先二人)
ワレ(我)にカエ(返)せよ カエ(返)サスは
カミもト(取)らんぞ ミカツチが
ワラ(笑)いていわく ワガチカラ(我が力)
ヨロ(万人)にスグ(勝)れて イカツチも
ナンジ(汝)もヒシ(拉)ぐ ナワ(縄)ウ(受)けよ
ハタレイカ(怒)りて たたか(戦)えは
ミカツチなく(殴)る フトマカリ
ム(群)れムサホりて ハタレマを
ウ(討)ちおひつめて ミナ(皆)くくり
ついにイツナも ワラビナワ(蕨縄)
モモヒトツレ(百人連)に ユ(結)ひすへて
ココチコモモ(九千九百)を ツギ(次々)しばる
ヒヨトリクサの ごとくなり
ミツカ(自)らヤマ(山)に ひきノホ(登)る
ミナ(皆)クビシ(首締)まり
マカ(死亡)るモノ ヤマ(山)にウツ(埋)みて
いきのこる モモササヤマ(百佐々山)に
ツツガ(牢屋)なす
これがイヅナミチの征伐方法です。
イヅナミチは先に捕われたシムミチとイソラミチの2人を返すように要求しますが戦いに敗れます。イヅナミチ達は百人づつ縄に縛られ山に登ると首が締まり死んでしまったとあります。死んだ者は山に埋めて、生き残った者は牢屋に入れたそうです。
6名の「ハタレ」のうちニシキヲロチノシムミチ、イソラミチ、イヅナミチの3名の討伐方法を見てきました。
アマテルの教えでは、「ハタレ」は魂の緒が乱れてしまったのが原因で、悪事を犯してしまったと言います。この乱れた魂の緒は魂還しをしてあげれば神にもなれる、としています。
これはハタレ側から見れば、アマテル達に従わない者は魂が乱れていると判断され、神の力によって魂返しをされる、つまり殺される、と見ることが出来ます。
どちらが歴史の書き手になるか、それによって善悪の見方は変わります。歴史とは常に勝者が書くものなので、敗者側は討伐されるべき禍(わざわい)とされ、悪意のある書き方をされ、名前を変えられたり、勝者側の見せ場として誇張して書かれたりします。
これはホツマツタヱだけでなく、記紀や古史古伝、日本以外の史書でも良くあることです。
第8章のタマがえしハタレうつアヤを読むと、そこに登場する「ハタレ」は人々の心の歪みや魔、などの精神的なものではないことは明らかです。
さらにハタレの名前から言語系統を見ると、縄文時代から日本列島に住んでいた蛇トーテムを持つ民族がハタレの主体だった可能性があります。
「ニシキヲロチノシムミチ」のヲロチは大蛇で、「ハルナハハミチ」のハハは蛇の意味です。「イズナミチ」は「イズメ」や「イズモ」の様に竜蛇信仰を持つドラヴィダ族の匂いがします。
蛇をトーテムに持つ民族を悪役とするのは日本だけでなく、古代のインド、中国、朝鮮半島などでもまつろわぬ者として、迫害を受けたり国を追い出されています。
信州にある飯綱山には飯綱大明神があり、狐にまたがる天狗は狐の霊を纏って妖術を使ったと云われ、このことを「飯綱の法」または「いづなつかひ」や「きつねつかひ」とも云われています。古代インドでも荼枳尼天(だきにてん)という狐の精霊がいて飯綱権現と同一視されていますが、白狐にのって妖術を使っています。この白狐には蛇が巻きついていたと云われています。
ホツマツタヱ第8章に登場する6名のハタレの名前には語尾に「ミチ」とついています。
「いづなつかひ」や「きつねつかひ」と云われていた様に、ミチは「妖術使い」という意味が妥当だと思います。鬼の道と書いて妖術を意味する鬼道は土蜘蛛が使っていたことでも知られています。
古文書に残された土蜘蛛伝承を集めると、大和政権側についた土蜘蛛がいれば、途中で寝返った土蜘蛛もいます。
同族を裏切り大和政権側に情報を流していた姫は、本名が残されていますが、最後まで天孫族に抵抗した姫は、田油津姫(たぶらつひめ)と云う名前に変えられています。「たぶらつ」は衆を「たぶらかす」姫という意味で、鬼道の妖術を持っていたと考えられてます。
ホツマツタエ第9章にはヒカハカミ(氷川神)という神様がハタレを討った功績により、基を開いたとあります。この基とは武蔵国の一宮、氷川神社だと云われています。
※氷川神社は元官幣大社(朝廷から幣物や金銭を支給される格式高い神社)
原文を読むと
ソサノオが ココロをよする
シムのウタ ミノチリヒレは
かはきえて たまふオシテは
ヒカハカミ ハタレネをうつ
イサヲシや そこにモトヰを
ひらくべし
とあります。現在の氷川神社の御祭神はスサノオ命・稲田姫命・大己貴命になっています。ハタレを討った場所であることから、この土地はハタレなどの先住民によって大切にされていたパワースポットなのかもしれません。
ホツマツタエ第16章のアヤには6名のハタレの一人、イソラミチが登場しオロチの実体は妬みである、と書かれています。
原文はこのようになっています。
ネタむイソラの カナツエに
コタネうたれて ながれゆく
あるは(或は)カタハと ナルイソラ
ネタむそのイキ ヒヨロミチ
むれてウロコの ヲロチなす
コツボにハイリテ ハラみコを
かみくだくゆえ タネならず
カタハうむなり
何かを妬んだイソラが金杖を子種に打ち流産させた、と読み取れる内容や、妬みが群れ集まってヲロチとなり、ヲロチは子宮(こつぼ)へ入り、妊娠した子供を噛み殺すとあります。
妬みについてかなり怖いことが書かれていますが、ここでも蛇は悪役です。
人を怨んだり妬むと身を滅ぼすということ、さらには人から恨まれてもいけない、とホツマにはあります。
人から妬まれることをしてはいけない、この教えは日本人らしい道徳心だと感じます。
主観ですが、日本人は自慢することが苦手であり、自慢をしたり見せびらかす人を品格がない人と感じるのは、この様な教えが代々受け継がれていたのかもしれません。
同じ原文を読んでも解釈の仕方は人それぞれです。そこがホツマツタエの面白いところでもありますが、
ハタレに関しても、悪さをしたハタレを許す心が素晴らしい、と解いている方や、ハタレに魂還しをしてあげて神として転生させるアマテルを有難いと解説している方もいらっしゃいます。
皆さんは「ハタレ」についてどのように思いましたか?
解説文や漢字は一度置いといて、カタカナ読みで原文を読んで見て下さい。
今回は以上です、参考書籍もぜひ読んで見て下さい。最後までご覧いただきありがとうございました。
📖この動画の参考書籍📖
吾郷清彦著書「日本建国史 全訳ホツマツタヱ」
鳥居礼著書「言霊ホツマ」
いときょう著書「古代史ホツマツタヱの旅」
川崎真治・鹿島曻著書「シルクロードの倭人」
中村啓信著書「古事記 現代語訳付き」
吾郷清彦「古史精伝ウエツフミ原文併記全訳」
「古事記以前の書」
国立図書館コレクション「上記」