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アヒョンの経済学 第1回 「なぜ資本主義は少数の先進国以外の国家では失敗してしまったのか?」

近代ヨーロッパから始まった資本主義の理論はイギリスやオランダ、フランスをはじめ世界中に広がり、各国の富を大幅に増加させました。2次大戦以後には発展途上国と後進国にも貧困からの脱出を目的にして近代化とともに資本主義が導入されました。世界中の発展途上国に導入された資本主義、言い換えれば市場経済は先進国以外の世界ではその効果を発揮せず、戦後の経済成長は主に西ヨーロッパと北アメリカ、東アジアの少数の国家に限って行われました。資本主義の導入によって少しの経済成長を成し遂げたとしても、多くの国家はすぐ「中所得国の罠」に陥てしまいました。

「中間所得の罠」とは世界銀行がはじめて提案した経済学の概念で、発展途上国が一定の規模まで経済発展した後に成長が鈍化し、いわゆる高所得国に届くことができない傾向を指す通称です。中間所得の罠に陥てしまった国家は発展途上国の経済水準にとどまる一方、また低所得国に戻ってしまうこともあります。どのぐらいの経済水準をこれにあたると判断するか、またなぜこのようなことが起きるのかは学者によって意見が違ってきます。つまり、後進国から発展途上国になることは簡単ですがそれ以上の先進国になることは非常に難しく、めったにないということです。これを、資本主義が少数の先進国以外の国家では失敗してしまったともいえるでしょう。


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経済学者たちはこの問題について深く研究し、様々な原因を見つけ出すことができました。今回にはアメリカの著名なシンクタンクであるInstitute for Liberty and Democracyの所長で、タイム誌が南米最高の経済学者と評価したエルナンド⋅デ⋅ソトの主張に注目しましょう。彼は著作The Mystery of Capital: Why Capitalism Triumphs in the West and Fails Everywhere Elseで、この問題について考察しました。ソトの本の題名で分かるように、なぜ資本主義が西洋の国家でしか成功できず、その以外の国家からは全部失敗してしまったのかというパラドックスを、直訳すると、「資本のミステリー」と名付けたことであります。彼が導き出した結論は、西洋とその以外の国家の間には根本的なシステムの違いがあるということです。


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「資本のミステリー」の著者、経済学者エルナンド⋅デ⋅ソト


それでは、その根本的な違いってどういうことなんでしょうか。アメリカや西ヨーロッパのような一般的な資本主義社会では、個人が所有している財産を基礎にして新しい事業への資源として活用できます。例えば、ある個人がマンションを一軒持っていれば、銀行を通じて担保貸し出しから借り入れた資金を新しい事業に投資し、それにかかわる利益を創出することができます。そこから得た利益をより大きいマンションを買うことに活用し、また銀行から融資をもらってより多額の金額を投資します。これを一連の富の循環、あるいは富の増殖ともいえるでしょう。このような富の増殖を導くシステムを先進国の誰でも享受し、これによって経済発展と雇用が行われます。つまり、先進国では個人の財産は新しい事業への資産として、あるいは資本としての投入ができるシステムが備わっており、これができないと富の増殖は行われず、マクロ的な観点からみて経済成長につながらないということです。


このような富の増殖が今日の先進国の経済成長を成し遂げてきた理由であり、逆に途上国これがちゃんと行われていなかったことが、途上国で資本主義が失敗した理由であります。これをもうちょっと具体的にいうと、財産権の保障の有無が資本のミステリーを解く鍵となります。国家から個人の財産権を認定し、その財産を活用できるようなシステムを整備しておかないといけないといえます。

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この観点から貧国の特徴を調べてみると、その国家の国民が他の事業への資本として転換できない財産たけをたくさん持っている一方、新しい事業を行うことができる資本転換のシステムが備えられていません。貧国は社会システムの問題のため、個人の財産権が保障されないという状況にあります。
現在とはちょっとちがいますが、昔の例をあげてみましょう。フィリピンでは未開発の土地を開墾して自分の所有として合法的に登記するためには、政府から168種類の許可を得なければならなく、手続きが終わるまで13年から25年まで時間がかかります。これに従わないと、不法財産になり、その不動産の売買や土地を担保にした融資ができなくなります。エジプトでは、砂漠を灌漑して自分の土地として合法的に登記するためには、普通6年から14年という時間がかかります。ハイチでは、建物を賃貸して商売を始めるためには、政府からの承認を111段階を踏まなければならなく、その手続きに平均4000日がかかります。個人の財産権を保障するシステムが国家的に備えられていません。


このような状況から、途上国では合法的に認められた財産が少なく、不法的なものが乱立しています。不法的な財産は、富の循環に参入できず富を創出することができません。マクロ的にみれば、経済成長につながりません。これが先進国はより大きい富を生み出し、貧国はそのまま貧国として残る理由になります。

もう一つ、歴史上の日本の例をあげてみましょう。1873年に明治政府が行った地租改正は個人の財産権を保障しようとした代表的な例です。地租改正の以前には土地の所有権が曖昧で、封建的な形をとっていました。多くの土地は幕府と潘に所属し、地主と小作農に分かれている状況から村単位で税金を払ってきました。地租改正はこのような村単位で税金を支払うシステムを廃止し、土地の所有権を明確にする登記制度を確立して家族単位、つまり戸主単位で一律の税金を支払うことにした改革です。これは、個人の不動産への所有権を明確にして取引可能な資産に転換し、その資産を基礎にして富の循環を促して殖産興業を行うことを狙ったともいえます。地租改正は日本の近代的な資本主義の発達に大きな影響を与えました。似たような制度が韓国にも李承晩元大統領の農地改革法によって導入され、ハンガンの奇跡の礎になりました。

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※小学館「学習まんが 日本の歴史」より


ソトが述べた資本のミステリーとは財産権をしっかり保障するシステムが存在するかどうかの問題であり、資本として転換できる財産を国家的に増やせることが大事であるということです。富の循環を刺激するためには、財産権を保障するシステムを整備し、財産を資本として用意に転換できるように金融産業を発達させるべきです。


アフリカと南米の貧国がその国家の国民が怠けているから貧しいんだという偏見は間違っています。貧国の国民も富国の国民ほど熱心に、長期間働いています。貧国がずっと貧しいままに残る原因はソトの意見によると、いくら労働しても資本として活用できない財産だけ得ることができないシステムの問題にあります。


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