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【創作大賞2024 恋愛小説部門応募作品】夫に嫌われてると分かりまして。#6

6:何故か不機嫌なんです!

初めてのレストランでの食事にパニックになる程嬉しくって、私は飲み過ぎてしまった。
それでも佐和田くんは優しく介抱してくれ、次の日にはすっかり良くなった。
…が、元気いっぱいの私を見て嬉しそうに笑う佐和田くんの頬は、何処かでぶつけたのか真っ赤に腫れあがっていた。
『誰にそんな事されたの?』と何度も聞いてみたのだが『野乃華が気にする事じゃない』とか言って相手にしてくれたかったが。
しかし、しかし、だがしかし!
優しく笑う佐和田くんは素敵で、『こんな素敵な人の奥さんになれて本当に幸せ(ハート)』と悶えまくった。

そのデートを境に佐和田くんは月1程度ではあるが、外食をしよう、と誘うようになった。

「夢?夢なのか?いやいや、これは、|現実《リアル)!これはダイエットが成功したご褒美DA!」

綺麗を維持したら、も、もしかしたらディ〇ニ―ランドとかにも連れて行ってくれるかもしれない!

「佐和田くんと2人でプーさんのハ〇ーハント!?夢のハ〇ーハントォ!?」

蜂蜜のツボに2人で入って(座ってか)クルクル回って、蜂蜜の匂いを嗅ぐ!
そ、そして!

「手!手なんか握っちゃったり!?やぁ!どうしよう!!!!そして、シン〇レラ城の前で‟愛してる”とか言われちゃったらどうしよう!きゃーーー!王子様風佐和田くんとか想像しちゃった!かっこ良すぎて鼻血でちゃうよ!」

興奮は止められず、クローゼットからジャージを取り出し着ると

「バランスボール様のおなーりーー!」

バランスボールに飛び乗った。

「はい!はい!はい!はい!…うーん、何かBGM欲しいかも…」

ボールの上で一生懸命声出していたが、何だがつまらなくってBGM代わりにTVをつける。
丁度、お昼のワイドショーをやっていている時間だった。
わりと好きなお笑い芸人がコメンテーターとして出ていたのでそれを見ていたら、‟ウォーキング特集”というのが始まって、見入っていた。

「…私もウォーキングしたくなってきた」

なんと、影響のされやすい脳なのか。
スニーカーを履いて、スポーツタオルを掴んで、大股で外に出掛けて行った。

歩く、という行為はとても新鮮で、私はウォーキングも日課に加える事にした。
リズムを取る必要もないし、ただ、歩くだけ。
たったそれだけなのに躰が温かくなって汗がたくさん出るし、頭の中がスッキリするし、ちょっと自分に合っているような気がする。
初日から数日は30分くらい歩いていたのだが、直ぐにその距離に慣れてしまい物足りなくなってしまった。
今度は歩く時間を1時間に延ばしてみたが今度はひとりで歩くのは寂しく、佐和田くんに頼んでスマホで音楽が聴けるようにしてもらった。
勿論、佐和田くんの好きな音楽を。

そんな中、嬉ーちゃんが結婚する、と一報が。
以前、気になる人がいる、とだけ言ってた嬉ーちゃん。
いろいろあって仕事を辞めて彼の前から姿を消そうとしたら、追っかけて嬉ーちゃんを捕まえてくれたのだと。
何てドラマチック!もう、素敵すぎて私は話を聞いて大泣きしていた。

数日後、届いた招待状には私だけでなく、佐和田くんの名前まで。
結婚式に2人で呼ばれるとは思わなかったので、大喜びだ。
嬉しくて、結婚式は何を着よう、というので頭がいっぱいになっていた。

ウォーキングも頑張って続けているとよく会う人と挨拶を交わすようになって、何時の間にか週2回程会う男性とお話しながら歩くようになった。
その人は何時も楽しい話を聞かせてくれたり、別れ際にケーキとか甘い物をくれるので、その時間がちょっと楽しみだったり。
近いうち、お礼もしなきゃなぁ…。

そして、嬉ーちゃんの結婚式の日。
旦那さんは嬉ーちゃんよりも10歳年上なのだが、色気がダダ漏れ!
女性陣は皆、目がハートになっていた。

「井之頭もだが、旦那もモデル並みだな…」

ムムム…。
嬉ーちゃんはモデルさんみたいだし、佐和田くんが認めるのは仕方がない。
仕方がないけど、ちょっとだけジェラシーです。
旦那さんもモデル並みだけど、私には佐和田くんの方がカッコ良いので、そんな事にはなりませんよ!

しかし、嬉ーちゃんのモデル並みのスタイルと美しさに私はウットリなってしまう。
周りの友達とかは旦那さんにウットリのようだけど、ね。
お色直しは2回あったけど、その度に私は嬉ーちゃんに惚れ直した。
赤系のドレスと白無垢を着た嬉ーちゃんは、本当に綺麗だった。

式も終わり、引き出物の入った袋を持って皆が出て行く中、私達は座って皆が出て行くのを待っていた。
『素敵な結婚式だったわね』という言葉が何度か聞こえて来て、少しだけ目を伏せる。
こんな式を挙げたかったな、と心の中で呟くが口には出せない。
結婚式を挙げるなんて当たり前の事だと思っていたけど、それは私の思い込みであって、そういった事が嫌いな人だっている訳で…。
頭では分かっていても、どうしても心がそれを受け入れきれなくって、それを佐和田くんに言えない自分に腹が立ってしまう。

「おい、そろそろ行くぞ」

人が捌けてきたので椅子から立ち上がった佐和田くんは私の荷物まで全部持ってくれている。
呑んで首元が紅くなっているのが何だか色っぽくって、さっきまで沈んでいた気持ちは何処へ行ったのか。

「うへへ、佐和田くん、首元が色っぽいっ!」

ニヤニヤと笑って近寄ると、思いっきり眉間に皺を寄せて

「アホ。ったく、どっかで頭打ったか?」

思いっきりため息を吐かれた。

「……あ!野乃!来てくれてありがとう!」

最後に来た私を見つけた嬉ーちゃんは両腕を広げて私を抱きしめた。

「嬉ーちゃん!おめでとう!もう、綺麗で惚れ直しちゃった!」

「そんな野乃だって。幸司さん、前に話した野乃華」

「始めまして、旦那さん。私、嬉ーちゃんと高校の時、部活で仲良くして貰っていた佐和田野乃華って言います。後ろに居るのが旦那さんの佐和田くんです。彼も同じ高校だったんですよ」

「初めまして、野乃華ちゃんと佐和田くん。来てくれてありがとう。いやぁ…これはまた。嬉子から聞いてたけど、本当に可愛いね」

「え!?あ、ありがとうございます!」

色気ダダ漏れの旦那さんに可愛い、とか言われて、顔が赤くなってしまう。
でもね、佐和田くんに言われないと嬉しくはない。
『可愛い』って言って欲しいなぁ、とチラチラと見るけど一向に気付いてくれそうにない。
すると後ろから顎鬚の素敵な男性と着物姿の美人が現れ、見惚れてしまった。

「一志、美弥子、来てくれてありがとう」

旦那さんのお友達が来たので私は嬉ーちゃんとまた会う約束をして、会場を後にした。
しかし、どっかで見た事があるぞ、と思いながら帰り道、ずーっと

「嬉ーちゃんとこの旦那さん格好良かったけど、顎鬚の男性も格好良かったねー!イケメンはイケメンを呼ぶ!イケメンの類友サイコー!」

大興奮だったら、それから数日、佐和田くんはブスくれていた。
あぁ、一番カッコいいのは佐和田君なの!って言えなかった…。くすん。

嬉ーちゃんの結婚式から1ケ月が過ぎた頃。
日課のウォーキングもバランスボールも済ませてお風呂に浸かると、ウォーキング仲間の男性に言われた事を思い出してぼんやりしていた。

『時間持て余してるんなら、俺のカフェで働かない?』

カフェといったお洒落な処で働きたい、と思うのは女性の夢だったりする。
とてもうれしい誘いで、私の顔はニヤけが止まらない。
制服がどんなのだろう、とか、可愛い&美人のスタッフいるかな、とか。
いつもくれるケーキとか甘い物をまかないで食べるらしいし、時給も2500円と高額だし、これはダブルで美味しい!とやる気満々になっていた。
脱衣所で髪を乾かしていると玄関が開いた音がして、ただいま、と佐和田くんの声が。
慌ててドライヤーを片づけて顔を出す。

「佐和田くんお帰り!最近帰り早いね」

「おぉ、…あのさ。これから仕事が忙しくなりそうなんだよ。で、今年度は泊まり込みとか出て来ると思うから、飯、用意しなくっていいわ。作って食わねーとなると勿体ねーし」

「え…。そうなんだ……」

「なるべく泊まり込みしないで済むように頑張るけど、無理な時は御免な」

クシャクシャ、と頭を撫でられてちょっと嬉しくなる。

「仕方ないよ。お仕事なら、ね。……あ、あのね、ウォーキング仲間がいるんだけど、その人の経営するカフェで働かないかって誘ってくれたの。日中、暇だしさ、折角の誘い受けようかなって思ってるんだけど、いい?」

「カフェ?何て言う名前の?」

「うーん、何だったっけ。あ、名刺があるから見せるよ」

リビングに戻り、貰った名刺を手渡すと急に佐和田くんの顔つきが変わった。

「あ、あの、佐和田くん?」

「俺の稼ぎってそんなに悪いか!?生活できない程か!?子どもがいる訳じゃねーし、マンションの支払いがある訳じゃねーか!カードだって好きなように使わせてるよな!?何か不満でもあったのかよ!」

いきなり怒り出した佐和田くんに驚いてしまって、私は思わず躰を縮めた。

「ち、ちが、」

「もう、飯いらねーわっ」

それだけ言って部屋に入って行ってしまった。
バンッ!と戸が乱暴に閉められる。
急に独りになった事が悲しくなり、ボロボロと涙を流しながら、用意していたエビチリにラップをかけた。

佐和田くんが何故、不機嫌になってしまったのか。

私にはその理由が全く理解出来なかった…。


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