【創作大賞2024 恋愛小説部門応募作品】夫に嫌われてると分かりまして。#11
11:最終話です!
駅前の人通りの多い場所で抱き合っていれば、周りの人にジロジロ見られるのは当たり前で。
それに気づいた私達は
「く、車に行くぞ」
「い、イエッサー!」
2人の世界から一気にリアルに戻され、真っ赤になりながら車まで走った。
車に乗り込み、恐る恐る顔の事を聞くと嬉ーちゃんが殴ったのだと苦笑いを浮かべながら教えてくれた。
あんな怒り方をした手前、ちょっと私と顔を合わせ辛くて会社に泊ったはいいが、やはり私の事が気になって何度もスマホと固定電話に電話をかけるけど繋がらないので心配になり、嬉ーちゃんに私の様子を見に行って欲しい、と電話をかけ頼んだら理由を聞かれ、泣かせた事を馬鹿正直に話したら激怒した彼女に(会社に乗り込まれて)殴られたらしい。
元カノも鬼の形相した嬉ーちゃんには(怖いけど美しすぎて)近寄ることも出来なかったみたいで、ちょっと笑っちゃった。
やっぱり、嬉ーちゃんだね!
驚きを隠せない私と反対に、佐和田くんは何故かスッキリとした顔。
そして家に戻ると、リビングまで引っ張って行かれ目の前で離婚届を破かれた。
「莫迦野郎。こんなの置いてどこいくつもりだったんだ」
「…実家に帰ったら絶対に心配するし、いろいろ聞かれるだろうし、そうなっちゃうと大変な事になっちゃうし、だから独りで生きていくつもりで、その、はい、住み込みのバイトを探そうと…」
「手紙に“実家に”って書いてるけど、実家に荷物送ったらお前が家出したって両親にばれて余計心配されるだろうが!」
「え?あ、そうだね!実家に送っちゃダメじゃん!私!」
「ったく、この、ヌケ作が…」
そう言って佐和田くんは私を抱きしめて、キスをした。
何時もは唇を軽く合わせる程度なのに、今日はディープなキスをしてくる。
「さ、佐和田くん!て、手が服の中にぃ!わわ!駄目だよ!今日はイベントの日じゃないよ!それに昼間だよ!」
「は?」
「え、え、え、っちは、イベントの日しかしちゃダメなんだよー」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?!?だから、イベント日しか俺のベッドに来なかったのか?」
「ふえぇ?違うの?え?え?だってね、小さい時にTVでベッドシーンを一緒に見てしまった時にお父さんとお母さんが、『イベントの時しかしちゃダメなのよ』って言ってたんだもん!」
「……そ、そんな出鱈目、この年まで真に受けるとかっ、くくくっ!ははは!」
「え!?だって別々に寝てたよ!?お母さん結婚するまで私と一緒の部屋で寝てたし!」
「は、はらいてーーーっ!あははははは!」
「ええー!?あれって嘘なの!?やだぁ!もう!そんなに笑わないでよ!」
ぷぅ!と頬を膨らませると、何故か、『可愛い』と抱き上げてキスをして
「お前らしいわ。…そんな野乃華が可愛いって思う」
そのままベッドへ運ばれてしまった。
『ね、本当にイベントの日以外にHしてもいいの?』
『あたりめーじゃん』
『あ、あ、その前に!3月でサヨナラって何?私の事、しつこいとか思ってるんでしょ?』
『はー?何でお前の事、しつこいとか思わないといけねーんだよ。しつけーのは会社の上司だよ。お前に言って無かったけど、結婚する少し前にコンビニの新商品を開発する部に移動になったんだよ。お前のお蔭で舌が肥えて、抜擢されてさ。だけど忙しくって帰りは遅くなるし、新商品の試食したら夜飯は食えねーし。それが嫌で違う部署に移動願い出したらやっと受理されて、今年度の3月イッパイでサヨナラできるようになったんだよ』
『じゃあ、じゃあ、あの女の人は?』
『あの女の人?』
『昨日会った人。元カノさんなんでしょ?元カノさんが言ってたよ?佐和田くんってご飯も作るの上手だって』
『え゛え゛!?アイツ話したのか!?うわ、マジかよ…』
『はい。たくさん教えてくれましたー』
『野乃華!いや、あー、確かに付き合ってた!それは言い訳できない事実だけど、アイツも結婚するんだよ!そんでもって今年度いっぱいで退職する!飯は、その、作らされてたんだよ!アイツ本当に我儘で、癇癪すぐ起こすから仕方なくだし、それにアイツは俺が自分より美人で可愛くて料理上手な嫁さん捕まえた上に自分と別れて2ヶ月で結婚した事に負けた気がしてるんだよ!』
『……』
『嘘じゃねーからな!飯だったら週末は作ってやる!俺が作れるもんなら、いくらでも作ってやるから!』
『…佐和田くんってベッドの中では激しかったんだって?』
『ちょ!おま!』
『私、佐和田くんが初めての人だから分かんないけど、そんなに激しくないと思ったんだよねー』
『そ、そりゃあ…体格差あるからよぉ…お前動けなくなったら困るし、いや、がっついて野乃華に嫌われたくないからであって…』
『私はどんな事されたって、キライになんてならないのに』
『…なら、もっと野乃華を欲しがっていいんだな』
細められた瞳は欲情した色。
初めて見る男の瞳に私は思わず息を呑む。
その後は完全に佐和田くんに主導権を握られ、攻められるだけ攻められたのだった。
雨降って地固まる事件のお陰で、佐和田くんは色々と話を、思っている事を話してくれた。(SEX中にだけどね)
私の事は、可愛いと思ってたけど『好き』は本気じゃないと思ってたし、『お兄ちゃん大好き』的な好きなんだと思ってたから意識した事がなかったらしい。
でも、あのバレンタイン(逆プロポーズ)の少し前に嬉ーちゃんと飲みに行ったらしく、私と今後どう付き合っていきたいか真剣に考えてみろ、と言われ、そこで漸く私が本気だと言う事がわかったんだって。
私が他の男と結婚とか考えたら無性に腹が立って来て、そこで無自覚に好きになってたって気づいてくれたって言われて、佐和田くんらしくって笑っちゃった。
『指輪、買ってやらなくてごめんな。実は俺、アレルギーで指輪とかダメなんだわ』って言われて、驚いちゃったよ。
佐和田くんが側に居てくれる方が何千倍も嬉しいから、指輪が無くてもいい。えへへ、我慢してあげるね。
今までにない会話が嬉しくて、更に彼の事が好きになってしまった。
結婚3年目。
あぁ、佐和田くんを好きになって良かった。
―――次の日。
佐和田くんを殴り『野乃華を探して来い』と佐和田くんのお尻を蹴り飛ばした拍子に赤ちゃんが一気に下がり、なかなか来なかった陣痛が来たらしく
『君たちのお蔭で予定日過ぎても出て来なかった息子がやっと出て来てくれたよー!サンキューね!』
と書かれたメールに笑っちゃいけないけど、笑ってしまう。
まあ、佐和田くんの変わり果てた顔を見れば、嬉ーちゃんが物凄い勢いで殴ったんだろうなって事が想像できてしまって。
「あはははっ!いたたたた~~~(涙)」
しかし、私は笑うだけでも一苦労。
もう、全身筋肉痛で佐和田くんのベッドでゴロゴロするしかない。
「SEXって本当に運動だったんだ。筋肉痛半端なーい」
嬉-ちゃんからのメールの文面を見ながら昔、友達が言っていた事を思い出して呟く。
家の事は全て佐和田くんがしてくれてるし、甲斐甲斐しくもご飯を作ってくれて私のニヤニヤは止まんないけど。
「毎日、日曜日だったらいいのに!にゃん!ニヤニヤ止まんなよ!って、いたたぁ(涙)はぁ、嬉-ちゃんに返信しなきゃ…」
迷惑をかけた嬉ーちゃんのメールに『お詫びと出産おめでとう』返信を作成する。
そして。
佐和田くんがどれだけ私の事を愛してくれてるかを聞いて欲しくって。
「えーっと、件名は…」
『件名:夫に愛されてると分かりまして』
【終】
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