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【小説】醜いあひるの子 匠馬編

~茂みの中の欲望②~

学校帰りに母の塾に寄り宿題を済ませ採点の手伝いをして家に帰る、という生活を始めたのは小学6年になってからだった。
それまではかなり大きな家に住んでいて家政婦も居た。
その中でひとり、色々な事を教えてくれた面白いお姉さんが居て初めての相手。(10歳になりたての時の出来事)
少し変わり者で、家事から女心まで教えてくれた人だ。
その人が辞めるのを切っ掛けで、ボクが家の事をする代わりに3人だけで住める家に引っ越したい、と両親にお願いをし、珍しいオネダリに両親はボクの我が儘を聞いてくれ、今の家を建てた。
母もシゴトを始めていたし、家に帰っても両親が帰って来るのは日付が変わる頃。
なので、カバンは母に頼み手ぶらで家に帰るフリをして少しの時間遊ぶ。
そして、帰る前に陵の家に寄るのが日課だった。

この頃から社会人と遊んで、色々な事を教えて貰っていた。
年上の女性は面白いし経験豊富だし、yes・noをはっきり言ってくれる。
声を掛けられた時点でルールを伝え、それが無理なら絶対に手を出さない。
純情系・やりマン系には即、断る。適度な人が無難なのだ。
メールのみ。ゴム着用。ピル服用。余計な詮索をしない。
本気になったら、恋人が出来たら即・終了。
それまで後腐れも無く、ルールを守る人ばかりだったから楽だった。

その中でもひとり、5年近く続いた人が居た。
事を終えてシャワーから出て来た匠馬に、彼女は『ね、匠馬。…貴方、好きな子が出来たんじゃないの?』と、聞いてきた。
その問いに匠馬は『分からない。だけど、彼女が笑ってくれたらいいなって思う』と答えると『貴方って本当に子どもだったのね』と彼女は笑った。
その後、保健室で智風を見つけ、これが“恋”と知るのだった。
彼女が恋を気づかせてくれた人。
それから、他の女とは手を切った。
彼女ひとりだけ躰の関係を続けたが、正直、智風の顔を思い浮かべないとイけない程、重症だった。

智風が匠馬の家に通う様になり、もうすぐ半年…。
依然、智風との距離は縮まらない。

普通の子なら2~3回話せば『もっと仲良くなりたい』と向こうから寄ってくるのだが。

流石に一筋縄ではいかない子だ、と笑みが零れた。

しかし、これ以上クラスメイトごっこを続けて行く気は無い。
半年かけて“鮎川匠馬”という存在を刻み付け、意識させる事には成功している。

「ちょっと先に進ませて貰おうかな」

始めはピザで。
内気な彼女がピザを頼んだり、ひとりでファミレスに行ったりする事は出来ないだろう。
しかし、智風の口から“ファミレスで済ませている”と嘘を吐かれ思わずカバンを掴んでいる手が怒りを表していた。

次は手料理で。
何時もひとりで食事を摂っている智風に、楽しい時間を作る。
1つ警戒心を解き、お互い一歩近寄った処で昔の話イジメを持ち出し、弱くさせる。

次に頭を下げ“鮎川匠馬は他の奴とは違う”と言うところを印象付けて、智風と仲直りをする。
また一歩近寄り、特別な存在へと気持ちが変化すれば、あと一押しという処。

確かに、一気に行くのも良かったかもしれないが、自分はこっちのやり方の方がいいのだ。
少しずつ自分のモノになっている、という実感が湧くから。

そして、次の手を打とう、と思っていたらあの封筒。
思わず2階に、自分の部屋に駆けあがっていた。
バイトの確認だ。
案の定、電話を掛ければ『喜んで!ってか、絶対に捕獲しろ!』という返事。

もう、笑みが止まらなかった。
さて、これをどう使うのが一番いいか。
バイトがあると言えば

「紹介して欲しい!」

と袖を掴んでまで頼まれ、理性が吹っ飛びそうだった。
髪で分からないが、潤んだ瞳で訴えているんだろうと。

ならば、賭けをしようと持ち掛け、少しだけ動揺する様に“君の処女を頂戴”と付け加えれば、動揺して家から飛び出して行く。
そんな智風を見て、『可愛過ぎる』と悶えた。

次の日から学校にも行き、“本気”をアピールする。
そして、お弁当をカバンに忍ばせ“君を見てる”事を知らせる。
此処までの計画で、失敗は無かった。
段取り良く進み過ぎたのかもしれない。

“あと一押し”のはずだった。

家に来た時に髪が乱れていて、その流れで“2人っきりの時だけ”と微笑めば、珍しく素直にそれを受け入れた智風。
“いやに素直だな”という若干の引っかかりがあったが、気にせずに歩みを進めれば

「あたしの事も友達と思ってくれてありがとう」

何処でどう間違ったか、智風は“友達だから良くしてくれてるんだ”という思いに至っている。
派手に入り口で頭をぶつけ、本当に泣きそうになった…。


“それならば…”
匠馬は常に食事に誘えるようにメルアドを交換した。
(智風がアパートに帰って“本当の友達が出来た”と喜んだ事は知る由もない)
テストまでの間、週3~4日一緒の食事を摂る。
その後はバイトまで2人で勉強をする、というのを日課にした。

“現代文が苦手”と思い込ませるように質問の大半は現代文で。


…智風と賭けをしたあの日、匠馬は彼女に別れを告げると、最後だから一回だけシて欲しい、と言われ何時ものホテルへ向かった。

「…あのさ、やっぱり、考え直さない?」

匠馬は服を整えながら珍しく渋る彼女の方を向いた。

「あのさ、ルールは守る為に有るんだよね?それをずっとボクに言って来たのは誰?」

「でも、私達、5年も」

「5年続いたから関係を終わらせるのが厭?」

「…私、」

「ただ単にボクが惜しくなっただけでしょ?金持ってて気持ち良くさせてくれて、」

「違う!私、本気に!」

「はい、アウト。ボク等のルールは何だった?本気になったら終了、だよ」

にっこりと笑えば彼女は目を見開いてボロボロと涙を流し始めた。
バカだな。泣けば何とかなると思う単純な考えに反吐が出る。

「警察行きたいんなら行っていいよ。婦女暴行でも訴えてくれば?でも、貴女は小学生のボクに手を出してるんだからね。それに、ボクは未成年。どっちが不利になるか良く考えて?」

そして差し出す携帯の画面。
『匠馬君って本当に小学生だったのね!身長も高いし女慣れしてるからてっきり高校生くらいかと思った。sexも上手だし。また金曜でも連絡するわね。今度は違う体位教えてあげる』
5年前に彼女が送って来たメールを見せる。

「貴女がボクの年齢を知っていた事、性行為をした事は明白だよね?」

「こ、こんなもの、まだ、取ってたの…?」

顔面蒼白な彼女に

「役に立つモノは何でも」

携帯を閉じてポケットに入れる。

「ここのホテルのオーナーと知り合いだから、5年前の防犯ビデオも言えば出してくれるだろうし」

「だ、だからここしか使わなかった、の?」

「使えるモノは何でも使う主義だもん。お願いだから変な気起こしてボクを怒らせる様な事しないでね。そんな事されたら、貴女の親戚一同路頭に迷う様にしちゃうよ。…嫌でしょ?可愛い甥っ子さんが学校にも行けなくなるの。…あ。それと、口止め料として今迄のホテル代払ってね。1泊1万円で計算しても月5回の5年で、300万円ってとこか。今迄、全部ボクが払って来てるんだし」

「む、無理に決まってるじゃない!300万円なんて大金!」

「なら今回のホテル代だけでいいや。それくらいは安い給料でも払えるでしょ」

「サイテーよ、匠馬、」

「褒め言葉をどうも」

にっこりと笑い、匠馬は彼女を残して部屋を出た。
ホテル代を払わせる事も、もしもの時の保険。
分かってない処がいいなぁ、とほくそ笑んだ。

待機させていたタクシーに乗り、ホテルを後にする。
暫くするとピピッとメールの着信を知らせた。
智風かな、とワクワクしながらスマホを見れば、違う。
もう一つの携帯だ。


差出人…明美ストーカー

母が塾を始めて、一番最初の生徒が明美だった。
明るい性格で良く喋って、友達もそこそこいる、という何処でもいる様な子だった…様な気がする。
だけど、『じゃあ、先に帰るね』と塾を出るとワザとを装い明美が駆け込んで来た。何時の少女マンガだ、と舌打ちをするが、聞こえていないようで彼女はぶつかり顔を赤らめる。
小6の匠馬は優しい子ぶって手を差し伸べ、『大丈夫ですか?』と微笑む。
『“スマイルゼロ円”とか言ってたけど、お前の為にボクの笑顔がある訳じゃないんだから金払えよ』って心の中では思ってたが。
その時は2~3回ぶつかられただけで、明美はそれ以上の接触は無かった。
その冬、明美は大学に受かったが、合格の報告に来た日は匠馬は不在だった為、会わずにそのまま彼女は塾を辞めた。

しかし、行く処行く処に明美の姿があり、偶然にしても遭う回数が多い事に疑問を抱き始めた。

それから月日は流れ、中学2の時。
塾があのショッピングモールに移転することになって、手伝いに行った日だった。
早く着きすぎて匠馬が先に入って待っていたると、母から業者の手違いで明日に変更になったと。
ここからひとりで帰るのも面倒臭くなってしまい、迎えを頼むと『1時間くらい待って!』と母の返事。
久し振りに何もせずにのんびりすのも良いかもしれない、とビニールシートに寝転がりヤンマガを開いて顔に乗せて目を瞑る。
寝つきが良いので、スッと闇に引き込まれた。
…40分くらい経った頃だろうか。
下の方でカチャ…とベルトのバックルが外れる音が。
そして、急に息子が外気に触れ、生暖かいモノに包まれた。
瞬時にフェラされている事に気づき、ゆっくり頭を上げて下に視線をやれば、必死にしゃぶっている明美。
それだけでも萎えるのに、声を掛けようとして不意に合った目。
その欲に塗れた目に、吐き気さえ覚えた。
思わず明美を蹴り上げ、『断りも無く触るな』と心底気持ち悪い物を見る様な目で彼女を見た。
のだが、彼女は嬉しそうに『私ね、匠馬に喜んで貰える様に練習したんだよ』と。
蹴られて後ろにあった椅子に頭をぶつけたにも関わらず、嬉しそうに『匠馬のおっきくてドキドキしちゃった』と語尾にハートマーク迄付けて頬を赤らめる。
あ~ぁ、完全にキてるよ、この人。
匠馬がズボンを直すまで、ずっと座り込んで見ていた明美は『今日は急に来てごめんね。お母さんのお手伝い頑張ってね』と満足気に帰って行った。
呆気に取られていると、母が来て『匠馬、顔色悪いわよ?』と。
本当に最悪な日だったと心底、匠馬はため息を吐いた。
あの時、匠馬の携帯番号を盗み見ており、定期的に『今日もフェラの練習したよ』と写メ付きのメールを送って来る様になった。
幸い、女用の携帯だったから良かったが。
携帯を変えて変に事を荒立てるより、この携帯一つで無難に過ごせるのなら良い事だ。

しかし、それ以来、本当にフェラが駄目になった。
されるとあの目を思い出し、吐き気に襲われる。


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