【創作大賞2024 恋愛小説部門応募作品】夫に嫌われてると分かりまして。#12(番外編)
12:夜の買い物
子どもが産まれてからのお話になります。何時もの野乃華節はなく、ちょっと大人になってます。超微エロです。
ふっくらとした頬を少し赤くして眠る娘と、その横には寝かしつけをしてくれた夫・佐和田くん。
娘を寝かしつけようと呼吸を合わせていると一緒に眠ってしまうというトラップに引っかかり、佐和田くんも深い眠りに。
起こした方がいいのかな、と思い声をかけようとしたが、先日、新作スイーツの目途が立ち大分落ち着いた、と言ってた事を思い出して私は起こすのを止めた。
娘も6ヶ月となりずりばいができるようになったお陰で目が離せなくなり、佐和田くんが帰ってくるまで後回しにする家事が増えてしまった。
幸い、佐和田くんが文句をいう事はないので、甘えさせてもらっている。
食器を洗い、洗濯物を畳む。
それが終わるとずりばいを始めた娘の為にフローリングを綺麗にする。
今日は佐和田くんが早く帰って来てくれたからたくさん遊んでもらって、娘もいつもより疲れているはず。
長めに寝てくれたらいいな、と思いながら今のうちに出来ることをしていると、ニュースの天気予報で明日の昼頃から3日程、雨が続くというのが聞こえて来た。
3日も雨か、と思いながら冷蔵庫の中身とオムツの確認をすると、うーん、これはちょっと買い物に行っておかないとヤバい…。
佐和田くんにメールすれば帰りに買ってきてはくれるけど、毎回毎回お願いするのは申し訳ないので今から買い物に行って来よう。
軽く準備をして家から近い24時間営業のスーパーマーケットが入っているショッピングモールに出かけた。
夜も10時を少し過ぎた処とあって、レストラン街はまだカップルや中学生や高校生を連れた親子連れの姿は見られたが、食品売り場は人がかなりまばらになっていた。
カートを取り、籠を乗せるとオムツ置き場に向かう。と、籠を取った場所の前にあった新作のお菓子。
授乳中とあって少し甘い物を控えているので、ちょっと目を引かれてしまう。
食べたいな~と思って目だけそのお菓子を追っていると、そのお菓子を見ていた男性(40歳くらい?)と目が合った。
『あの人も新作お菓子食べたいんだろうな』くらいの気持ちで通り過ぎて、オムツを取りに行く。
新生児で使っていたオムツのメーカーが最近、肌に合っていないのか少しかぶれてしまったので、違うメーカーに変えたからそれを探す。
『あったあった♪それと、お尻ふき~♪』
オムツとお尻ふきをカートに入れて牛乳を取りに行くとなんと、さっきお菓子を見ていた男性が。
買い物コースが被る事なんてよくある。
気にせず牛乳を見ていたのだが、気づけば何故か私をチラチラと見ていて、…ちょっと感じが悪い。
『…気にしない気にしない。さて、ラ○にするか、骨○にするか…。』
値段も大差ないので、2つを手に取って見比べていると、そこに男性の許に娘さんらしき子どもが2人が寄って来た。
どう見ても小学生。こんな時間に買い物に来るとは、もしかして父子家庭とかなのか。
まぁ、他人の家の事だし気にする必要はないので、そのまま見比べていると何やら娘さんに『あの人、入って来てから俺をずっと見ててさ~。そして、俺を追いかけてこっちまで来たんだぜ』と耳打ちしだしたのだ。
聞こえている時点で耳打ちではないだろうけど。
『え!?いやいや!ちょっと待って、私、見てないし。そして、追いかけてなんて来てないし!』
驚いてチラリと見れば
「あ、本当!こっち見てる!パパに気があるんじゃない!?」
と大きい娘さんの方が変な事を言い出した。
『えぇ?いやいやいやいや!絶対にそんな事、ありえないから!どうやったらそう思えるの!?』
プチパニックになった私は右手に持っていた牛乳を籠に入れて、もう1つを戻し、その場を立ち去った。
驚きだ。
ちょっと目があって、偶然取りに行く物が一緒だったってだけなのに。
どうやったらそんな思考にたどり着くのか理解に苦しむ。
全く、何なんだろう。
ふぅ、とため息を吐いて他の場所へ移動していると、目に入った新作のレトルトカレーのパッケージ。
『あ!明日から雨ならカレーを多めに作っておこう。最近作ってなかったし、トッピングとかも買って帰っておけば2日間は買い物に出なくても済む!』
そうしよう、とカレーの材料を取りに回る事にした。
りんごと玉ねぎとジャガイモを取って精肉コーナーに行くと、いきなり2人の女の子が私の横に来て顔をまじまじと私を見始めた。
さっきの男性の子どもだ、と分かると感じが悪くてお肉を取って早々にその場を逃げた。
チラリと振り返るともう、精肉コーナーに姿がない。
何だったんだろう…、それに人の顔をあんなに見るなんて失礼極まりない。
私の顔に何かついているのか、と気になって顔を触ってみるけどコレと言ってついている訳ではなさそう。
『もう、カレーのルーを取ってレジに行こう…。』
しかしこういった時に見つけきれない私はお間抜けさん。
ウロウロと店内を彷徨い、漸く棚を見つけた。
『ふぁ~~~!漸く出会えたよ!えーっとバー○ントの甘口さんは何処かな~?』
私はもっぱら甘口なので、甘口を作って佐和田くんは食べる際にガラムマサラで辛くしている。
しかし、小さい時に比べたらカレーのルーも種類が増えた。
それでも変わらず、大好きなバー○ント甘口探していると、またもやあの親子がやって来た。
『私がいる処にわざと来てる?いや、まさか…』
…私も自意識過剰になっているのかもしれない。
カレーのルーだけでなく、ハヤシライスのルーだってシチューのルーだって他の物も置いてある。
それを取りに来ただけかもしれない。コースが被るなんてあるあるだ。
落ち着こう、と一呼吸おいて探していると先程の子ども達がまた近寄ってきて、私が籠に入れた物を見てアレコレと耳打ちし合っている。
『え?…な、なに?』
子ども達も男性も見ないようにしていると、小さい方の娘さんが男性に行き『パパ、声かけてみたら!?』なんて言い出したのだ。
男性も男性で『えー、俺にも選ぶ権利あるしー』なんて訳が分からない事を言って顔を赤らめている。
そして、男性は私に近寄ってくると斜め後ろに立ちジロジロと見ていて、…もう、ここまでくると怖くなってくる。
怖いのと気持ちが悪いので、一番近くにあったカレーのルーを2箱掴んで、私は言葉通り逃げ出した。
『あの人達、何言ってたの?…うわぁっ、気持ち悪いっ…』
たまたま入った場所で目が合って、牛乳売り場で一緒になっただけなのに、どうやったら気があると思えるのだろうか。
その後は完全に向こうから寄ってきているのに、それでも私が悪い?
足早にカートを押して女性の店員さんがいるレジを探し、籠やオムツを台に下ろす。
「あらあら。このオムツ明日、売り出しなのよ~」
「え!?そうなんですか?明日、雨って言ってたから買いに来ちゃったんです…。そっか~、でもどうしよう、まだ子どもが6ヶ月だし、暫く預ける人いないんだよなぁ…」
今週は両方の親が旅行などで不在続きだ。
「まぁ!可愛いさかりねぇ。あ、なら…これ、オムツのクーポン券。安売りの時でも100円引きで使えるから今度、買う時にでも使って!本当は2つ買わないとあげられないから内緒ね!」
ウィンクをしてくるお茶目な店員さんに笑顔になる。
「ありがとうございます。また買いに来ますね」
お礼を言って、支払いを済ませた。
店員さんは私のお母さんと同い年くらいだろうか。
孫がいてもいい年齢ぽいので、娘と私が重なって見えたのかもしれない。
この店員さんのお陰で私の心はすっかり軽くなり、あの恐怖もすっかりなくなっていた。
エコバッグに買った物を入れ、最後にお財布を入れる。
籠に取り忘れがないか確認して、エコバッグを肩にかけ反対の手にオムツを持ち、歩き出した。
スマホで時間を確認すれば、何だかんだで30分以上買い物をしていた。
これは早く帰らなければ。
娘が起きていても困るし、そろそろおっぱいをあげないと胸が張りだしている。
大股で歩き出し、あと数歩で店を出る、という処で急に手に持っていたオムツが奪われ、私は驚いて立ち止まった。
「え?」
「重たいでしょ?持ってあげますよ。あ、もしかして歩き?なら送っていってあげますよ」
あの男性がオムツを私から取り上げニヤニヤと笑っていて、その顔を見て鳥肌が立つ。
「いや、返してくださいっ、」
「いやいや、いいんですよ!こんな夜にひとりで買い物にくるとか、大変なんでしょ?あ、ライン交換しましょうよ。何かあったらお手伝いにいきますし。こんな処で立ち話もなんですし、すぐそこに車停めてますから、車の中で話しましょう。ね?」
舐めまわすように見られている。
そして、手を握られ、血の気が引く。
「か、返してください!離してっ!」
「遠慮しなくていじゃん!うちの車さ、この前買い直したばかりの新車だよ!」
いきなり、子ども達が参戦してきて、私のエコバッグを取ろうとし始めた。
「や、やめてください!」
周りを見ても人はおらず、警備員さんも見当たらない。
レジからも距離があるので、余程、叫ばなければ気づいてもらえないだろう。
その上、レジから死角だ。
この人達が何をしたいのかもわからない。
ただ、ひたすら恐怖が私を支配する。
その時。
「妻に何か用ですか?」
普通の人よりも大きくて逞しい、私の大好きな人が。
入り口から低く唸るように声を掛けると、男性は慌てて私の手を放した。
「さ、…パパっ!」
「え!?あ、ご主人さん!?あ、いやいや、こんな時間にひとりで買い物されてたから、心配になっちゃって、ねぇ!」
のしり、のしり、と近づいてくる佐和田くん。
「それにしてもいきなり荷物をひったくるとか常識のある大人がするような行為には見えませんでしたけど?お子さんが居るのに親としてどうなんですかね」
横幅もあるし、多分寝起きで形相悪くなっているのに髭面だと貫禄(怖さ?)もあるので、流石に男性もしどろもどろになる。
子ども達も佐和田くんに睨まれて慌てて男性の後ろに隠れた。
「荷物、返してください」
男性からオムツを取り上げて佐和田くんの許へ行く。
後ろで娘のどちらかが『うちのパパの方がカッコいいよね』と言っているが、私にしたらただの気持ち悪くて迷惑な人だ。
ギロリ、と娘達をひと睨みすると佐和田くんは娘たちが取り上げた私の荷物を奪い取る。
そして、私の手を握り、足早に店を後にした。
店を出て一番近い駐車場に見慣れた愛車が。
車に乗るとチャイルドシートに娘が気持ちよさそうに寝ていた。
その寝顔に癒され、眠る娘の手を握れば一気に力が抜ける。
佐和田くんはエンジンをかけて早々に車を発進させ、ショッピングモールの駐車場を出るまでどこかを見ていたけど、少ししたら大きなため息を吐いて口を開いた。
「チビを車に乗せたまんまだとお前怒るから連れていこうかと思ったんだけどよ、車停めて店の中見たら変なおっさんに絡まれてるの見えて急いで行ったんだよ。ったく、何でひとりで買い物に出かけたんだよ。週末まで持たねーんだったら買って帰ってやるって言ってんだろが」
「うん…。ごめんなさい…」
「……まぁ、入れ違いになんなくてよかったわ。チビも連れて出ても起きねーから助かったしな」
「………」
マンションの駐車場に車を停めれば佐和田くんは荷物を持ってくれて、私は娘を抱き上げ皆で家の中に入る。
寝室に娘を寝かせてリビングに戻れば買った物を冷蔵庫に入れ終わっており、珍しくお茶を淹れてくれていた。
戻ってきたのに気づいた佐和田くんはソファーに座ったまま私を見上げている。
…怒られるだろうか。
私は何時も佐和田くんの言いつけが守れないし、迷惑ばかりかけている。
「…佐和田くん、迎えに来てくれて、ありがとうっ、…っ、あ、あの」
しどろもどろで佐和田くんに近づいていくと
「ほら、何突っ立ってんだ」
腕を掴まれて抱きしめられた。
抱きしめられる安堵に、店で起こった事を話して、泣きじゃくっていた。
佐和田くんは泣いている私にキスして
「怖かったな」
そう言って服を脱がしていく。
「まだ躰キツイなら止めるけど、どうする?」
完全に服を脱がしといて、今更、だよ佐和田くん。
イヤイヤと首を横に振って見せれば、彼の目尻が下がっていく。
この顔が、この甘い顔が好き。
娘を産んでから回数は極端に減ったけど、触られるだけで準備が出来てしまう躰になってしまっていて。
恥ずかしいけど、『それがいいんだ』と言われた。
不器用に見える大きな手は、私のイイトコロを全て知っていて、優しくも気持ちよくさせるのが得意。
「あぁっ、」
急に入ってきた佐和田くんの熱い物が、躰全体に電流を流してく。
「すまねぇ、久しぶりだからガッツいて」
「だ、大丈夫、」
両手で佐和田くんの顔を引き寄せてキスして
「これだけくっついてたら、佐和田くんと私の間に誰も入れないね」
笑ってみせる。
すると、困った顔をしながら
「嫁が可愛すぎて困るんだが?」
おでこをくっつけて、そして、漸く笑ってくれた。
そこからはもう、ドロドロに溶かされて、ソファーの上で愛され続けた。
まぁ、案の定というか、この日以来、私は夜、ひとりで買い物に行かせてもらえなくなったのは言うまでもない。
…が。
「てめぇ、今から何処行こうとしてんだ?あぁ?」
「は!何で見つかっちゃうの!」
何度も夜に抜け出そうとして、その度に佐和田くんに見つかり、お説教を食らうのだった。
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