廃棄物問題についてー概要と論点
廃棄物問題について考えたことがありますか?
それを考える意義はどこにあるのでしょう?
廃棄物とは、一般廃棄物と産業廃棄物に分けられます。日本では江戸時代辺りから国内人口が増え始め、それに伴い人々が生み出す廃棄物も増加していきました。その廃棄物から伝染病が広がったりして人々を悩ませてきました。現代に入ると、資本主義が発達し企業により多くの生産活動が生み出されてきました。その結果、様々な公害を引き起こしたり、環境問題を潜在化させてきました。
このように人類が発展してきた歴史の中で廃棄物は負の遺産として生み出されることになったのです。廃棄物問題は人類が発展してきた代償として作られた負債なのです。人類はいずれこの負債を処理していかなければならないのです。廃棄物問題を考えるということは今私たちが送ることができている生活環境をありがたく思うだけではなく、その負債をどのように返していくかということを考えることなのです。決して人ごとではありません。
廃棄物問題を考える目的は、究極的には「廃棄物をなくすこと」とそのために「何が一番効率的な方法なのかを発見すること」であると言えるでしょう。
そして上記における目的を達成するためにまず問題としなければならないのが「廃棄物に対する処理責任は誰に帰属するのか」ということです。この責任の所在を明らかにすることで効率的に廃棄物を減らしていけるようなインセンティブを個人または法人に与えることができるのです。その中で大切になってくる概念は「拡大生産者責任」という物です。
1. 廃棄物の処理責任に関する簡単な歴史
日本における廃棄物政策の目的は、伝染病対策→公衆衛生の向上→産業廃棄物対策→循環型社会形成推進基本法に基づいた体系的な対策という過程を経てきました。
これらの政策の目的の変化に伴って、廃棄物をめぐる責任の所在も変遷してきました。政策導入初期の頃、廃棄物の処理は公衆衛生向上の目的のため地方自治体でゴミ処理の管理をすることが法律で義務づけられました(汚物掃除法、1900年)。経済が成長期に入り、産業廃棄物の量・割合が増えてきた頃、1970年には政府は清掃法を改定し、廃棄物処理法を制定、その中で地方自治体が一般廃棄物の処理責任を持ち、産業廃棄物については事業者の自己処理責任を明確にしました。2000年には循環型社会形成推進基本法が施行され、この中で廃棄物の処理責任について拡大生産者責任という考え方が導入されるに至ります。
2. 拡大生産者責任とは
拡大生産者責任、通称ERPという概念は、1990年代初期にスウェーデン・ランド大学Thomas Lindhqvistによって提唱されました。そしてこの概念は1991年にドイツの政策において具体化され、その後各国の政策にも大きな影響を与えていきました。2001年には経済開発協力機構OECDは拡大生産者責任ガイダンスマニュアルを、加盟国政府に向けて策定しました。
この責任のあり方がなぜ必要なのか。
以前は一般廃棄物処理責任は地方自治体に、産業廃棄物処理責任は事業者にありました。その場合、事業者が生産した最終消費財の処理は地方自治体が行うことになるので、事業者には自らが生産する消費財がもたらす環境負荷を考慮するインセンティブが与えられないのです。その結果、事業者は産業廃棄物処理には強い動機を持つことになるが、一般廃棄物の処理については費用の面からしても考慮する動機は小さく、より多くの一般廃棄物を生み出してしまいます。
ここで拡大生産者責任という考え方を導入することにより、事業者は自らが生産する製品・サービスのライフサイクル全体にわたり責任を負うことになり、事業者は製品・サービス設計の時点で環境負荷を考慮せざるを得なくなるのです。
この点において拡大生産者責任は必要であるといえ、循環型社会を作っていく上で効果的な概念であると言えます。
3. 新たな取り組み
循環型社会形成に向けて、地方自治体と企業に新たな取り組みがみられ始めています。少しだけ紹介します。
エコタウン事業。これは地域の特性を踏まえた廃棄物の発生抑制・リサイクルの推進を行い、「ゼロ・エミッション」ということを目的としています。各自治体がエコタウンプランを作りその独自性やモデル性が評価されれば環境省及び経済産業省から承認され、多面的な財政支援を受けられるというものであります。
例として川崎エコタウンプランがあります。川崎の臨海部では多数の大企業が集積しておりそれらの企業が主体となって、地域の環境負荷を減らすとともに新たなビジネスを生み出せるようなエコシステムを作ろうとしています。この事業に関する事後評価では、社会全体が得られた費用対便益は140%と、コストを大きく上回る便益が得られたとされており、持続可能な社会を形成していく上でも良いモデルとなったと言えます。
クローズドループ・リサイクルシステム。これは企業が使用済み自社製品を資源として再利用しようとする取り組みです。キャノンはトナーカードリッジ、日産ではアルミロードホイールやバンパーなどにこのシステムが利用されているそうです。ユニクロなどでも服を回収する場所をみた記憶があります。このシステムを構築するには、高い技術力、安定した回収量、初期投資などが必要となるといった難点もある。
4. まとめ
この記事で廃棄物問題の論点や概要を知ることができた読者がいれば幸いであります。こうした問題は議論をするだけでなく、責任を持って行動することが大切だと思います。今でも、瀬戸内海にある島が産業廃棄物処理で県と争っていたり、原発の汚染水の最終処分場をめぐる問題が存在していたりと廃棄物問題は少し前のことではありません。
参考文献:森晶寿他(2014)『環境政策論ー政策手段と環境マネジメント』ミネルヴァ書房