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【ねこばなし】ハチワレと義妹猫

 兄の保護した白黒ハチワレ猫♂・ハッチャンは相変わらず人嫌いであるが、飼い主の兄にはベタ慣れ。兄が一時でも部屋を出ると、出入り口の引き戸の前で出待ちをするぐらい離れがたいらしい。
 兄は基本在宅勤務で、近所に買い物へ行くぐらいしか外出しない。子猫の頃からそういうパターンで生活してきたから、常に側に居るのが当たり前なのだ。たまの出社や旅行時は、長時間から場合によっては日をまたいで飼い主が不在になる為、おかえりの挨拶は激しめ。『もぉ~〜離れない!離さない!』と言わんばかりに執拗に体を擦り付けられるそう。
 たまに顔を見せる母や自分に対しても、随分気を許すようになった。自分が兄の家に行く際は、玄関チャイムを鳴らした後、合鍵で勝手に入るのだが、そのパターンをハッチャンは覚えたらしい。【チャイムが鳴っても勝手に入ってくるのは知ってるヤツ】と。玄関を開けた先、引き戸の擦りガラスの向こうで出待ちをしている姿は何とも愛らしい。ちなみに普段はチャイムが鳴ると飼い主が玄関に出迎えに行き、見知らぬ人間(配達員とかお客さん)が現れるのを経験則で覚えている為、大急ぎで身を隠し、気配を消しているんだそう。
 触られるのも拒否しがちだった去年と比べて、今ではコタツの上にゴローンと体を伸ばして『撫でて』の要求をする時もある。目を合わせると、目を細めて眠そうにしていたが、兄曰くあれは、リラックスして甘えている状態らしい。
 それでも飼い主以外をスリスリすることは滅多に無かったのだが、ハッチャンに同居猫の存在が現れてからは人間への甘え具合が加速したようだった。不意に、手にスリスリスリスリされた時はちょっとビックリした。これまでは、大好物のちゅーるを持っている時ですら、自分に対するスリスリは足をかすめる程度だったので。
 飼い主の思惑としては同居猫の存在によって願わくば、飼い主に対する依存がちょっとマシになれば良いと踏んでいたらしいが、今となってはその思惑はうまくいってるのかどうかよく分らない。
 ハッチャンの義妹となったその同居猫は、おそらく今年の夏頃に産まれたチビの黒猫。外に居た時は親らしき猫達と行動していて、人懐こく、幼いのにカリカリもしっかり食べていたそうな。保護されてからも食欲が落ちることなく、ウェットフードよりカリカリを好む。外の世界で自由に暮らしていたところを捕獲されてケージに閉じ込められたせいか保護された当時、人間を見ては『シャー』と言っていたが、その直後におもちゃを動かすとケロっとして無邪気に遊ぶ。
 彼女は出会った当初から、遊びたければ遊び、腹が減れば食べ、気に食わなければ怒り、何か要求事があると大声をあげて誰かしらを呼びつけた。人間に臆することなく意思表示がハッキリとしている。小さな体に大きな態度、ワガママお嬢様か女王様か何かを彷彿とさせる、頼もしくも末恐ろしい猫である。が、そもそも猫とは、そういった性格のほうが多数派なのかもしれない。
 ハッチャンの方がおよそ一歳年上の先輩猫なのだか、すっかり義妹猫・アキのペースに振り回されている。ハッチャンは人嫌いで人見知りをするのでまぁ予想通りではあったが、猫見知りをした。
 初対面では、ハッチャンの体重1/4も無い小さなアキへの警戒心もMAXであった。一方アキは外の猫達との交流経験があり、大きなハッチャンに怯える様子もなく構って欲しくてたまらない。ハッチャンは逃げ回っていたが、余りのしつこさにアキを抑えつける。抑えつけて泣かされたアキは、すぐさま再びハッチャンの後を追い、また泣かされるの繰り返し。アキ的には、そういう遊びだと思っているのか。休む間もなく何度も向かってくるアキに、ハッチャンは困惑気味。相性は何だかあまり良くなさそうな気がするが、幸い流血沙汰になることは無く、今ではよく一緒に昼寝をしている。

 そんなこんなで、アキとの攻防を続けたハッチャンは、少しやつれたような顔つきで人間への甘え具合を加速させたのであった。