AI小説・『砂の囚われ』
第1章: 砂の惑星
宇宙探査船「オライオン」は、何光年も離れた辺境の星系を調査していた。この任務は、地球からの連絡が途絶えてからすでに数か月が経過していたため、乗組員たちの間には不安が広がっていた。しかし、彼らはまだ地球に帰還することを夢見ていた。
その日、未知の惑星が視界に入った。惑星は赤褐色の砂に覆われており、大気は薄いが安定しているように見えた。調査のため、船長の命令で着陸することが決定された。惑星は、公式には「HDX-091」と呼ばれていたが、乗組員たちはその色と不毛な風景から「レッドデザート」と呼び始めた。
着陸操作は順調に進んでいた。高度を下げると、広がる砂漠の中に無数の渦巻く砂嵐が見えた。オライオンのパイロットである佐藤拓也は、慎重に着陸地点を選定し、砂嵐を避けるよう指示を出した。しかし、地面に近づくにつれて船体に異常が生じ始めた。砂に触れるやいなや、まるで何かに引き込まれるかのように、船の動きが鈍くなったのだ。
「船長、何かがおかしいです！着陸脚が沈んでいます！」佐藤は焦りながら報告した。船長もすぐに異変に気づき、警告を発した。「すぐに上昇しろ！」
だが、すでに遅かった。オライオンは砂に深く沈み込み、エンジンの出力を最大にしても船体が引き上がる気配はなかった。まるでこの惑星の砂そのものが、船を捕まえて離さないような感覚だった。
「エンジン停止！全員、着陸の準備を！」船長の命令が飛び交う中、佐藤はコクピットで冷や汗を流していた。この惑星に何かがある、普通ではない何かが。
着陸は避けられなかった。オライオンは砂の上に止まり、乗組員たちは一旦、船内のシステムをチェックし始めた。砂嵐が船の外壁を叩く音が聞こえる中、佐藤は外部カメラの映像を確認した。そこには、限りなく広がる砂の大地と、絶え間なく動く砂嵐だけが映し出されていた。
「この砂、まるで生きているかのようだ…」佐藤はつぶやいた。
船の修理班が外に出る準備を進める中、佐藤は一抹の不安を拭い去れなかった。砂嵐は予想以上に強く、外部に出ることは命取りになるかもしれない。しかし、船の修理を行わなければ、ここから脱出することは不可能だ。佐藤は船長に許可を求め、彼自身が調査のために船外に出ることを申し出た。
「了解した、慎重に動け。ここがどんな場所なのか、我々は何も知らない。」船長は渋々と承諾した。
佐藤は宇宙服を着込み、エアロックの前に立った。ドアが開くと、乾いた風が吹き込んできた。砂の匂いが鼻を刺し、視界はほとんど遮られていた。彼は慎重に一歩を踏み出し、足元の砂を感じた。それはまるで、彼を拒絶するかのように揺れ動いていた。
佐藤は足元の砂を調べるためにかがみ込んだ。普通の砂とは違い、細かく滑らかで、まるで液体のように動いている。さらに驚くことに、砂粒は磁気を帯びているかのように互いに引き寄せ合っていた。彼はサンプルを採取し、船に戻る準備を整えた。
その時、砂の中から微かな音が聞こえた。まるで何かが動いているかのような、低い唸り声のような音。佐藤は息を呑んで、周囲を見渡した。だが、視界を遮る砂嵐のせいで何も見えなかった。
彼は再び船に戻るために立ち上がったが、その瞬間、足元が急に崩れ、砂に引きずり込まれそうになった。必死に足を踏ん張り、バランスを取り戻したが、砂の底から何かが自分を引き寄せようとしている感覚に襲われた。
「戻らなければ…」佐藤は内心でそう叫び、船に向かって走り出した。だが、足元の砂が彼の動きを妨げ、まるで生き物が足を掴んでいるかのように感じた。
エアロックの扉が開き、佐藤は何とかして船内に戻ることができたが、その表情は硬く、汗が顔に流れていた。彼は船長に報告するためにコクピットに向かった。
「この惑星は、ただの砂漠じゃない…何かが…何かがこの砂の中にいる。」佐藤の声は震えていた。
彼の言葉に、船内の空気が一気に張り詰めた。
第2章: 地下の村
砂嵐がますます激しくなる中、宇宙探査船「オライオン」の乗組員たちは、船内で修理作業を続けていた。しかし、外部の調査が進まなければ、この惑星からの脱出は困難であることが明白だった。佐藤拓也は、船外で見た異常な砂と謎の音が頭から離れず、何か手がかりを見つけなければならないと焦りを感じていた。
ある日、佐藤は再び船外に出て、周囲を慎重に調査することを決意した。砂嵐の合間を縫って進むと、彼は船の近くに不自然に砂が堆積している場所を発見した。直感的に何かが隠されていると感じた彼は、その場所を掘り始めた。
砂をかき分けると、突然地面が崩れ、佐藤は深い穴の中に落ち込んでしまった。落下は予想以上に深く、彼は地面に激突する前に何とか身を守る姿勢を取った。着地した場所は暗闇に包まれており、彼のヘルメットのライトがかすかに周囲を照らしていた。
そこは、地下の広がる空間であった。砂の上とは異なり、空気はわずかに湿り気を帯びており、奇妙な匂いが漂っていた。佐藤はヘルメットのフィルターを調整し、慎重に周囲を探索し始めた。
歩みを進めるうちに、彼は遠くに明かりが灯っているのを見つけた。明かりの元に近づくと、そこには古びた村のような建物群が現れた。建物は石や粘土でできており、どれも風化が進んでいたが、明らかに人の手で作られたものであった。
佐藤は驚きとともにその村を観察していると、突然背後から声が聞こえた。
「お前は誰だ？」
振り返ると、そこには粗末な服を身にまとった数人の人々が立っていた。彼らの顔は疲れ切っており、無表情の中に警戒心が見え隠れしていた。佐藤は彼らが敵意を持っていないことを確認し、宇宙服のヘルメットを少し上げて自己紹介をした。
「私は佐藤拓也、宇宙探査船オライオンの乗組員です。砂の上で不時着し、ここに落ちてしまいました。」
村人たちは彼の言葉に耳を傾け、しばらくの間お互いに視線を交わしていた。その中の一人、村の長老と思われる年老いた男性が一歩前に出て、低い声で語り始めた。
「我々も、かつてはお前と同じようにここに落ちてきた者たちだ。この村は、地上から逃げ延びた我々の最後の避難所だ。」
佐藤は驚愕した。彼らがここに閉じ込められているという事実が信じられなかったが、村人たちの様子を見る限り、それは事実のようだった。彼らは何世代にもわたってこの地下の村で暮らしてきたようであり、外の世界に戻ることは諦めていた。
「なぜ、ここから出られないんですか？」佐藤は長老に尋ねた。
「砂の支配者が我々をここに閉じ込めているのだ。」長老は静かに答えた。「砂そのものが、生きているように我々を取り囲み、逃げることを許さない。我々はこの地下に身を潜め、生き延びるしかないのだ。」
佐藤はその言葉に寒気を覚えた。砂が生きているかのように動く現象を、自分自身も目撃していたからだ。しかし、彼はこのままここに閉じ込められるわけにはいかない。何としても、地上に戻り、オライオンを修理して脱出する方法を見つけなければならない。
「ここに長く留まるつもりはありません。私は船に戻り、仲間たちと共にこの惑星を脱出する方法を見つけます。あなた方も一緒に行きませんか？」佐藤は必死に訴えた。
しかし、村人たちは一様に首を横に振った。「無駄だ。過去に何度も試みた者たちがいたが、皆、砂の餌食になった。ここにいる限り、安全なのだ。」
佐藤はその絶望的な言葉に反論することができなかった。彼らが直面してきた恐怖と失敗の数々が、彼を言葉を失わせた。
その夜、佐藤は村の一角に設けられた小さな部屋で休むことになった。天井からは淡い光が漏れ、かすかに村全体を照らしていた。彼は目を閉じ、頭の中でこれからの計画を整理しようとしたが、不安と恐怖が心を支配していた。
「この惑星は、ただの砂漠じゃない…何かが、何かが俺たちを見ている…」
佐藤はその考えを振り払うように、再び目を開けた。彼はここから脱出するための方法を探す決意を固めたが、それがどれほど困難なことか、まだ理解していなかった。
翌朝、佐藤は村の長老に会い、もう一度脱出の計画について話し合おうとしたが、長老は静かに彼に言った。
「もしどうしても行くというなら、一つだけ忠告しておこう。地上に出る前に、地下のさらに奥深くにある場所を訪れ、そこにあるものを見てくるがよい。それが、お前の運命を決めるだろう。」
佐藤はその言葉に戸惑いつつも、長老の提案を受け入れることにした。彼は村の奥深くにあるという場所へと足を向けた。
地下の村には、まだ知られざる秘密が隠されているのかもしれない。それを知ることが、この惑星からの脱出の鍵になるのか、それともさらなる絶望を招くのか、佐藤は分からなかったが、進むしかなかった。
第3章: 脱出の計画
佐藤拓也は、長老の言葉に従い、地下の村の奥深くへと足を進めた。そこには、村の中心からさらに狭く暗い通路が伸びており、まるで地球の古代遺跡のような雰囲気が漂っていた。壁には奇妙な彫刻や文字が刻まれており、そのどれもが異星の文化を示唆していたが、佐藤にはそれを解読する手がかりはなかった。
通路を進んでいくと、やがて大きな扉に行き着いた。扉は重々しく閉ざされており、まるで何かを封じ込めるために存在しているかのようだった。佐藤は扉に手をかけ、力を込めて開けると、その向こうに広がる空間に息を呑んだ。
そこには、巨大な地下の神殿が広がっていた。天井には無数の光の粒が瞬いており、地面には精緻な模様が描かれていた。中央には祭壇があり、その上に置かれた古びた石板には、意味深な文字が刻まれていた。佐藤はそれをじっくりと観察しながら、自分の心が不安と興奮で高鳴るのを感じた。
「これは一体…」
彼が石板を調べていると、背後から何かが動く気配を感じた。振り返ると、暗闇の中から「監視者」と呼ばれる存在が現れた。監視者は砂で構成された異形の存在で、まるで人間の形を模しているかのようだったが、その姿は不気味にゆがんでいた。
佐藤は恐怖で体がすくんだが、監視者は攻撃してくる様子はなく、ただじっと彼を見つめていた。しばらくの間、彼らは無言で対峙していたが、やがて監視者は砂の渦となり、再び暗闇の中に消えていった。佐藤はその場に立ち尽くし、冷や汗が背中を伝うのを感じた。
「この惑星には何かがある…そして、それが俺たちを見張っている…」
佐藤は石板を持ち帰り、村に戻ることにした。村に戻ると、長老はその石板を見て目を細めた。
「それは、我々が長い間探し求めていたものだ。この村に住む者たちは皆、この石板に刻まれた言葉を解読しようとしてきたが、未だにその意味は分かっていない。しかし、それがこの惑星の秘密を解く鍵であることは間違いない。」
佐藤はその言葉にさらに興味を引かれたが、今は石板を解読するよりも、脱出の計画を練ることが優先だと考えた。彼は長老と話し合い、脱出の手助けを依頼したが、長老は渋々と首を振った。
「我々は何度も脱出を試みたが、そのたびに失敗し、仲間を失ってきた。監視者がいる限り、地上に出ることは不可能だ。」
しかし、佐藤は諦めなかった。彼は村の中で若い者たちを集め、脱出計画を提案した。最初は誰もが恐れを抱いていたが、佐藤の強い意志と決断力に触発され、数人が協力を申し出た。
「俺たちはただここで待つだけじゃなく、戦わなければならない。船に戻り、地球への道を見つけるんだ。」佐藤は力強く言い切った。
彼らは砂嵐の合間を見計らい、監視者の目を逃れるために慎重に計画を立てた。脱出の鍵は、村の中にある古い通路から砂漠の下を通り抜け、オライオンの位置に繋がるルートを発見することだった。そのルートは、かつての村人たちが試みて失敗したものであったが、彼らは新しい希望を持って再び挑むことに決めた。
準備が整い、彼らは夜明け前に行動を開始した。薄暗い通路を進む中、彼らの緊張感は高まり、誰もが一瞬の油断が命取りになることを理解していた。通路は狭く、崩れかけた壁が彼らの行く手を阻んだが、佐藤のリーダーシップによって彼らは前進を続けた。
やがて、地上への出口が見えてきた。しかし、出口にたどり着いたその瞬間、地面が震え、砂が渦巻き始めた。監視者が彼らの存在を感知し、襲いかかってきたのだ。
「走れ！今すぐ地上に出るんだ！」
佐藤は叫び、仲間たちを促した。監視者の追跡をかわしながら、彼らは必死に地上への道を駆け上がった。しかし、砂嵐が激しさを増し、視界が一気に閉ざされる。仲間の一人が足を取られ、砂に引きずり込まれていくのを佐藤は助けることができなかった。
最後の力を振り絞り、佐藤と数人の仲間は何とか地上にたどり着いた。しかし、彼らの前に広がる光景は、絶望的なものだった。オライオンの姿は砂嵐にかき消され、まるでこの惑星に永遠に閉じ込められたかのように感じた。
「まだだ…まだ終わっていない…」
佐藤はそう呟き、再び仲間たちとともに船に向かって進む決意を固めた。しかし、彼らの前に立ちはだかるのは、砂の惑星そのものが持つ異常な力だった。これから待ち受ける試練が、彼らの運命を決定づけることになる。
第4章: 砂の支配者
砂嵐の中を進む佐藤と仲間たちは、オライオン号の元にたどり着くも、船体は砂に半ば埋もれ、外部の修理がほとんど不可能な状態であることに気づいた。船を脱出の手段として期待していた彼らは、深い絶望感に包まれるが、佐藤だけは諦めなかった。彼は何としても、この惑星から脱出する方法を見つけることを誓っていた。
そのとき、再び地面が震え始め、砂が渦巻く音が周囲に響き渡った。砂の中からゆっくりと姿を現したのは、巨大な砂の塊が集まって形成された異形の存在だった。その存在は、まるで人間の形をしているが、顔には表情がなく、全身が砂で覆われていた。
「砂の支配者…」村人たちはその存在を見て恐怖におののいた。かつてこの惑星の全てを支配し、村人たちを地下に閉じ込めた張本人である。
佐藤はその異形の存在に向かって一歩踏み出した。彼は恐怖を感じながらも、ここで立ち止まるわけにはいかないと自分に言い聞かせた。
「お前がこの惑星を支配しているのか？」佐藤はその存在に問いかけた。しかし、返事はなかった。代わりに、砂の支配者は手をゆっくりと上げると、砂の嵐がさらに激しさを増した。まるで、惑星そのものが彼に敵対しているかのようだった。
「何故、我々をここに閉じ込めるのか！？」佐藤は声を荒げたが、その声は嵐にかき消された。砂の支配者は再び手を動かし、砂の流れが佐藤たちに向かって押し寄せた。彼らは必死にその力に抗ったが、次第に体力が奪われていった。
そのとき、佐藤の脳裏に、地下の神殿で見た石板の文字がよぎった。彼はその意味を理解していなかったが、何か重大なヒントが隠されているのではないかと考えた。思い切って、彼は石板を再び取り出し、砂の支配者に向けて掲げた。
「これが、お前の力の源か？」佐藤は叫んだ。すると、砂の支配者の動きが一瞬止まり、砂嵐も少し収まったように感じられた。
「石板は、支配者の存在と深く結びついているのかもしれない…」佐藤は直感的にそう感じたが、その先をどうすればいいのか分からなかった。だが、彼には時間がなかった。仲間たちが次第に力を失い、砂の嵐に飲み込まれかけていたのだ。
「お前を止めるには、どうすればいい？」佐藤は再び問いかけたが、砂の支配者は何も答えない。ただ、じっと佐藤を見つめているようだった。
その時、村の長老の言葉が頭をよぎった。「地下のさらに奥深くにある場所を訪れ、そこにあるものを見てくるがよい。それが、お前の運命を決めるだろう。」
佐藤はハッと気づいた。この石板こそが、砂の支配者を封じる鍵かもしれない。しかし、その方法を見つけるためには、彼は自分自身を犠牲にする覚悟が必要だと直感した。
「俺が、お前と一体化することで、この惑星の支配を終わらせることができるのか…」
佐藤は心の中で覚悟を決めた。そして、石板を高く掲げ、自らを砂の支配者の前に差し出した。その瞬間、砂の支配者は大きく動き出し、砂の渦が佐藤を飲み込んだ。
視界が暗転し、佐藤の意識は砂の中に溶け込むように感じた。彼の精神は異空間に飛ばされ、そこで彼は無限に広がる砂の大地と、無数の過去の記憶を垣間見た。彼はこの惑星の歴史、そして砂の支配者が生まれた経緯を理解した。
この惑星はかつて、繁栄を誇った文明の中心地だったが、その文明は自らが生み出した技術によって滅び、最後に残ったのがこの砂の支配者だったのだ。支配者は、惑星を守るために作られた存在だったが、その目的が変質し、外部からの侵入者を排除するために全てを支配するようになった。
佐藤はその記憶を受け入れると同時に、支配者の意識と融合し始めた。彼は、この惑星の全てを感じ取ることができるようになり、自分が新たな支配者としてこの地を永遠に守る存在になることを理解した。
「これが…俺の運命なのか…」
佐藤の意識が完全に砂に溶け込み、彼の肉体は消えていった。そして、砂嵐が収まり、惑星全体が静寂に包まれた。佐藤は、新たな砂の支配者として、この惑星の一部となったのだった。
残された仲間たちは、佐藤の犠牲によって一時的な平穏を手に入れたが、彼が戻らないことを理解していた。彼らは、佐藤が自らを犠牲にしてこの惑星の平和を守ったことを胸に刻み、再び脱出の方法を模索し始めた。
第5章: 絶望の決断
佐藤拓也が砂の支配者と融合し、彼の犠牲によって砂嵐が静まった後、残された仲間たちは呆然と立ち尽くしていた。佐藤の決断がこの惑星に一時的な平穏をもたらしたが、その代償はあまりに大きかった。彼らは何とか船に戻り、最後の希望を繋ぎ止めようとしたが、オライオン号はすでに砂に深く埋まり、再び浮上させる手立ては残されていなかった。
仲間たちは疲れ切り、失意の中で次の行動を考え始めた。彼らの中には、地球への帰還を諦め、この惑星で新たな生活を始めるしかないと考える者も現れ始めた。一方で、佐藤が命を懸けて守ったこの静寂を無駄にしないためにも、何としてでも脱出を果たすべきだと主張する者もいた。
その中で、リーダー格となったのは若きエンジニア、村上であった。村上は佐藤の意思を継ぎ、彼の犠牲を無駄にしないためにも、最後の脱出計画を立案することを決意した。彼は仲間たちを集め、地球に帰還するための手段を模索し始めた。
「まだ希望はある。佐藤さんが残してくれた時間を活かすんだ。」村上は仲間たちに語りかけた。「この惑星のテクノロジーを利用して、何とかして脱出する方法を見つけよう。」
彼らは地下の村へ戻り、そこに残された古代の技術や資料を再び調査することにした。村人たちも協力を申し出たが、彼らの目には諦めの色が浮かんでいた。村人たちは長年、この惑星に囚われてきたが、希望を失い、現状に甘んじるしかなかったのだ。
地下の神殿に戻った村上たちは、佐藤が発見した石板を再び調べ始めた。石板にはこの惑星のテクノロジーが記されており、そこには惑星のコアに接続するための装置が記されていた。その装置を使えば、惑星のエネルギーを利用して船を浮上させることができる可能性があった。
「これだ…これを使えば、オライオンを再び動かせるかもしれない。」村上は興奮しながら仲間たちに説明した。
しかし、その装置を起動するためには、惑星のコアに直接アクセスする必要があり、それは非常に危険な作業だった。村上はそのリスクを承知の上で、計画を進めることにした。彼は自ら志願してコアへのアクセスを試みることを決意した。
「これは佐藤さんの意思を継ぐためにも、俺がやるべきだ。」村上は決然とした表情で言った。
仲間たちは彼の決意に敬意を払い、計画の準備を手伝い始めた。しかし、村上の胸には深い葛藤が渦巻いていた。もし失敗すれば、全てが終わりになる。しかし、成功すれば地球への帰還が叶うかもしれない。彼の心には、二重のプレッシャーがのしかかっていた。
ついにその日が訪れた。村上は装置を手に、惑星のコアへと向かうため、地下の最深部へと降りていった。仲間たちは地上で彼を見守りつつ、最後の祈りを捧げた。村上は孤独な戦いに挑むこととなった。
地下の最深部には、巨大なエネルギー源が存在していた。それは、惑星全体を支配するエネルギーの根源であり、村上はそれにアクセスするための装置を慎重に設置し始めた。しかし、その過程で、彼は不安と恐怖に苛まれた。もしここで失敗すれば、彼だけでなく、仲間たちも全てを失うことになる。
「俺は、佐藤さんの意思を無駄にしない…」村上はそう自分に言い聞かせ、作業を続けた。
やがて装置が起動し、コアのエネルギーが装置に流れ込み始めた。その瞬間、村上は強烈な衝撃を感じ、意識が遠のきそうになった。コアから発せられるエネルギーは凄まじく、彼の体を貫くように感じられた。
「これが…この惑星の力なのか…」
村上は最後の力を振り絞り、装置を完全に起動させた。彼の体は激しい痛みに襲われたが、その瞬間、オライオン号が再び動き出すのを感じた。船体が砂から浮上し、エネルギーが船のシステムに流れ込んでいた。
「やった…成功だ…！」
しかし、その成功の代償は大きかった。村上の体は限界を超え、彼の意識は徐々に薄れていった。彼は自分がこの惑星の一部となりつつあることを感じたが、それでも彼の心には満足感があった。
「佐藤さん…俺たちは帰れる…」
それが彼の最後の言葉だった。村上はその場に倒れ、静かに息を引き取った。しかし、彼の犠牲によって、仲間たちは再び地球への帰還の希望を手に入れたのだった。
地上で彼の帰りを待っていた仲間たちは、村上の犠牲を知り、深い悲しみに包まれた。しかし、彼らは彼の意思を無駄にしないためにも、船の修理を急ぎ、地球への帰還を試みることにした。
第6章: 砂に還る
村上の犠牲によってオライオン号が再び動き出したことは、残された仲間たちにとって一筋の光明となった。彼らは急いで船の修理を進め、エネルギーが供給されたことで、ついにエンジンが再稼働し始めた。砂嵐が静まり、惑星全体が一時的な平穏に包まれた今こそ、脱出の最後のチャンスだった。
「村上さんの意思を無駄にしないためにも、ここから脱出しなければ…」仲間の一人がそう言い、他の者たちも静かにうなずいた。
彼らは必死に作業を続け、エンジンの出力を最大にした。砂に半ば埋まっていた船体が徐々に浮上し始めると、誰もが息を呑んだ。船内に緊張が走り、彼らの目は希望に輝いていた。
「上昇するぞ…！地球に帰るんだ…！」
エンジンが轟音を立て、オライオン号はついに砂の束縛を振り切って上昇を始めた。砂の惑星を離れる感覚が彼らに伝わり、長い間囚われていた恐怖から解放される瞬間が近づいていた。
だが、そのときだった。船内のモニターに警告音が鳴り響き、システムが異常を示し始めた。エンジン出力が急激に低下し、船体が不安定な動きを見せ始めたのだ。
「どうして…！？全てうまくいっていたはずなのに！」一人が叫んだ。
彼らはすぐに原因を探り始めたが、答えはすぐに明らかになった。村上が命と引き換えに起動させたエネルギー源は、惑星のコアと深く結びついており、そこから離れるにつれてエネルギー供給が不安定になっていたのだ。
「まさか…この惑星が俺たちを逃がさないつもりなのか…」
オライオン号は再び砂の引力に引き戻され、次第に高度を失い始めた。彼らは全力でエンジンを再稼働させようと試みたが、システムは応答せず、船体が急速に砂の大地に引き寄せられていくのを感じた。
「もう…終わりなのか…」
その時、彼らの目の前に、かつて砂の支配者であった佐藤の幻影が現れたかのように見えた。彼は無言で彼らを見つめていたが、その表情はどこか穏やかであった。
「佐藤さん…」
仲間たちは無言でその幻影に手を伸ばしたが、触れることはできなかった。ただ、佐藤の姿は彼らに最後のメッセージを伝えようとしているように見えた。それは、彼がこの惑星と一体化し、彼らを守ろうとしている姿だった。
「もう、無理しなくていい…」
佐藤の声が静かに響き渡り、その瞬間、彼らは悟った。自分たちがこの惑星から脱出することは不可能であり、この地で永遠に過ごすことが運命づけられているのだと。
オライオン号は再び砂の中に沈み込んでいき、エンジンは完全に停止した。船体が完全に砂に覆われると、船内には静寂が広がり、乗組員たちはその運命を受け入れるしかなかった。
「これが…俺たちの結末なのか…」
彼らは静かに互いを見つめ合い、最後の瞬間を迎える準備をした。船が完全に砂に飲み込まれると、外の世界との接触は途絶え、彼らは永遠にこの惑星の一部となった。
やがて、すべてが静まり返り、砂嵐は再び吹き荒れ始めた。オライオン号の存在は跡形もなく消え、惑星は再びその無限の砂漠を広げ続けた。
そして、時が経ち、他の探査船がこの惑星にたどり着く日が来るかもしれない。その時、その船もまた、佐藤や村上たちと同じ運命をたどることになるだろう。
砂に還る――それが、この惑星に訪れた者たちの最期の運命だった。
おわり
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