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COMITIA140『暮らしの中にある宇宙ー季節編ー』紹介記事

はじめに

 久しぶりです(?)あひるひつじです!
 またしても文庫本を作ってみました。5/5(木)コミティア140にて頒布予定です。今回は季節をテーマにした文章を収録しています。前回に引き続き、僕の敬愛するクリエイターの方々に無茶なお願いをして書いていただいたわけなんですが、とても素敵な文章たちが集まりました。今作で収録されている文章は小説や詩、短歌にルポと前回以上にバリエーションに富んでいます。そのどれもがすごく身近で、心に残るような文章なので、ぜひとも手に取って欲しいです!
 前回同様、抜粋した文章を紹介いたしますので、よかったら参考にしてください!


抜粋紹介

 前まではあらゆる建物の匂いからふと前通っていた塾や、祖父母宅や、入院の記憶など思い出し ていたのに。最近の事例では小春日和の匂いで幼少期にでっかい公園に連れて行ってもらった記憶が呼び出されたくらいだ。少なすぎる! 
 2020年春くらいから私の記憶能力がおかしくなったの、自分がイカれただけかと思っていたけど、そうじゃないかもしれない。よかった、あぶな。 
 それでも春の雨の匂いくらいはマスク越しにも入ってくるのだ。匂いで記憶を思い出す機会が少なくなってる中、時々そういうことがあると、とても嬉しくなる!
記憶 ー もちうめ
 車両が地下に潜り、景色が途切れる。目的地が近い。彼女の方に目をやると、こちらをじっと見据えていることに気づいた。その表情からは、共感、あるいは同情が読み取れた。やっぱり、 見透かされているようだった。彼女は僕に一歩近づく。甘い匂いがこぼれた気がした。 
 目の前のドアが開いた。後ろの乗客から急かされるようにしてホームに降り立ち、人の流れに沿って歩く。彼女はずっと隣にくっついていたが、手は繋がなかったし、触れることすらかった。その方が良いと思った。
往来 ー テクナン
見覚えがある顔 これは知り合いか それとも上司 それとも同期

もう慣れた そうは言っても寂しいな ひとりぼっちのワンルームでも

そういえば この木もピンクに染まるのか 見慣れた街に温い足音
ひとみっか ー 近藤永理
「これがちょうどいい、使っても大丈夫かね」 
 神様は空の鉢植えを逆さまに被ってから、器用に体を収めた。 
「大丈夫ですけど…… 」と答えてから、さて何を喋ろうかと迷った。神様と共通の話題なんてあるだろうか。そういった私の思考をよそに、神様が身を鉢に縮こませながら口を開く。 
「あと、冷房を弱めてくれないか」 
 はあ。 
「実体をもつとそういうのも出てくるのだ」 
 はあ。
やどかり ー スヤリ
 十四歳にもなればカドはいささか丸くなり、クラスの人間たちとそれなりに会話もしていたが、 しっくりとは来ない。やっぱり自分に必要なのはあの海だ、あのころからの仲間たちだ。Jの家に電話しよう。久しぶりにみんなであの海に行こう、そう言おう。 
 電話に出たのはJ本人だった。僕の名前を聞いた彼の反応は、喜びだとかそういうものではなく 、ちょっと面食らったようなものだった。 
「ああ、あの海ね。あそこ、もう埋め立てられてとうよ」
すごい速さでまわる ー td
 そしてそれを体現しているのが咲で、一体化しているのが咲だった。大地が笑うように笑い、 大地が泣くように泣く…… いや、言葉にするのも無粋かもしれない、そう思わせるぐらい思想も 無く主義も無く、ただただ自然のままに、感性のままに生きている。なんというか、僕はありがたく思うのだった。そういう生き方をするものが目の前にいることが。こんな風にはなれないと確信がある。憧れはあるがなりたいとも思わない。ただそんな奴がこの世界には存在している、その事実が僕を嬉しくさせた。端的に咲は周りの人に元気を与えていた。そんな存在だった。
晩夏の蛍 ー あきつかおる
ザザアンと波の音がする
君は海がきらい
濡れてしまうと心が軋む音がするから
君は海がきらい
夏の暮れにやってきた君 ー えびせん
 身長164.4cm 、短めでギリギリ結えるくらいの黒髪、細くて柔らかそうな首筋、時折みせる真剣な表情、マシュマロに切れ込みを入れて開いただけのようなシンプルな目蓋とそこに乗った最低限の綺麗な化粧、健康で都会的な服装、よく本を読んでいる。 一度話したことがある、 
「えーっとコバヤシくん!シャーペン落としたよ」「あ、ありがとう」
 これだけ。 
 僕は彼女の事を何も知らない、僕は彼女のことが大好き。
愛してやまない女の子 ー 小林透
「なるほど」

「興味ないじゃん」

なんて掃いて捨てるほど
交わしたやり取りが心地良く
こみち ー dyism!
 そういえばセンター試験当日も雪が降っていて、凍えながら廊下のオイルストーブに手のひらを示していた。試験会場は県有数の優秀な高校であった。こんなに寒いなら普段ここの生徒はど うやって学を修めるのだろう?雪が音もなく中庭に落ちる。灯油の香りが心地よい。 
 三年経っても不思議と鮮明に思い出せる。昨日のことの様。しかし同時に大層様変わりした自分にも気づく。その日から今までずっと進み続けていた。ここにはかつての拠り所がない。綱渡りの様な感触がする。細いロープの上を今さら逆戻りできないのだ。なんだか胃が虚ろにシクシ クと痛む。
雪 ー ぺこたぺちか
「私は面白いとは思わない」 
 自分の口から出た言葉が、自分の身体の中で反響した。私は今なんて言った? 身体の内部がマイクロフォンのようになって、音が増幅していく。やがて、キーンという耳障りな音になって、 それ以外の音は何も聞こえなくなった。身体と世界の境界が失くなった感覚と、全てから切り離された感覚が交互に襲ってきた。芦原の顔が見れなかった。指先が震えて思い通りに動かせない。 しかし、口だけはなめらかに動いた。
白黒 ー あひるひつじ
 そして、暫く浜辺で「エクスカリバー」を振り回してみる。しかしながら、どうも夏っぽくない。砂浜で「エクスカリバー」を振り回しても夏を感じられない。 むしろ、濡れた足元と潮風のせいで先ほどまでよりも尚一層冬を感じてしまう。 
 一度手を止め、浜ではなく海から「夏」を探してみようと思い、「エクスカリバー」を片手に 黒い海を見つめてみる。
 少し遠くを眺めてみると、水平線の端から端までを等間隔に並んだイカ釣り漁船の灯りが照ら していた。あの水平線の灯りも、どこか夏らしさを感じる。
エンチャント・ファイア ー ぽん缶
 そして翌日、気づけばあっという間にチェックアウトの時間が近づいている。ここで夢の国ともお別れか、といよいよ本格的に別れを実感する。チェックアウトを済ませてホテルから外へ出ると、冷たい空気が肌を刺し、先ほどまでの身体の温もりが一瞬で消え去り、吐く息が真っ白へと変化する。かすかに聞こえるパークの音楽を背に、いつもと変わらぬ現実へと戻っていく。 
 舞浜駅の電車に乗り、窓から差し込む眩しい朝の日差しを浴びながら「楽しかったな」と、ここでついに過去形になってしまう。これからが一日の始まりという人たちに混ざって、私の一日はここで終わるのだ。
冬の夢の国 ー 粟屋やわ子
 この街を照らす明かりはレモンが幾つあれば足りるだろうか。私は路傍に残る雪を蹴飛ばして、レモンの痕跡を探したが、冷たく濡れたタイルがネオンの光を反射するだけだった。道を往く人たちの顔は揃って丸くて、輝いていて、幸せに満ちていた。喜びが通り中にこぼれていた。 みんな、顔を紅くしながら、白い息を吐いている。私はそれを見て、自分が今まで寒さを忘れていたことに気がついた。幸福に満ちた輝きたちは暗闇だけでなく、寒さまで吹き飛ばしていくようだった。
知らない街へ ー あひるひつじ

著者紹介


五十音順・敬称略

◆あきつかおる

◆あひるひつじ

◆粟屋やわ子

◆えびせん

◆小林透

◆近藤永理

◆スヤリ

◆td

◆dyism!

◆テクナン

◆ぺこたぺちか

◆ぽん缶

◆もちうめ

 ここまで読んでいただきありがとうございます!あらためまして、5/5(木)コミティア140にて頒布予定ですのでよろしければどうぞ!


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