あひる

昔の記憶を絞り出しながら綴っています 普段は曲とかドット絵とかやっています

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最近の記事

暮らしの中にある宇宙ー季節編ーのあとがき

 さてもの文庫本制作も二度目になりました。前回の執筆陣と、新たにぺこたぺちか氏を迎えた上でこうして再び本を制作することができて嬉しかったです。一冊目のときにはヒイヒイと言いながら編集作業をしていたので、今回は余裕を持って頑張ろうと思っていたのですが、結論から言えば、前作よりもはるかに大変な編集作業になりました。原因はいくつかあるのですが、一つは僕の見積りがとてつもなく甘いことです。このぐらいの時間があればこのぐらいの作業ができる、という見積もりがあまりにも適当で、その結果、文

    •  夏が嫌いだ。特にあの蝉の「ジジジ」という鳴き声を聞くと、耳を塞いで逃げ出したくなるような気持ちになる。そんな風に僕が夏を嫌いになったのは、小学生の頃のある出来事がきっかけだった。  俺の住む町は、見渡せば田んぼと山しかないような田舎で、信号機だって一つしかなかった。そんなんだから、学校の帰り道はいつも探検で、膝小僧に擦り傷が癒えたことはなかったと思う。今思うと危ない話だよな。イノシシだってよく出たらしいし。それで、夏休み前の最後の日だと思う。終業式の日。確か、荷物が多かっ

      • COMITIA140『暮らしの中にある宇宙ー季節編ー』紹介記事

        はじめに  久しぶりです(?)あひるひつじです!  またしても文庫本を作ってみました。5/5(木)コミティア140にて頒布予定です。今回は季節をテーマにした文章を収録しています。前回に引き続き、僕の敬愛するクリエイターの方々に無茶なお願いをして書いていただいたわけなんですが、とても素敵な文章たちが集まりました。今作で収録されている文章は小説や詩、短歌にルポと前回以上にバリエーションに富んでいます。そのどれもがすごく身近で、心に残るような文章なので、ぜひとも手に取って欲しいで

        • 『暮らしの中にある宇宙』のあとがき

          あとがき? 先日、コミティア137で『暮らしの中にある宇宙』という文庫本を頒布しました。これって売れるんかな~って思ってたら、想像以上に多くの方にお迎えしていただいたようで感動しています。同時に自分の恥がみなさんのお手元にあるということで、どうにかなかったことにできねえかなと日々画策しています。ということで今回は少しでも恥を軽減すべく、あとがきというなの言い訳を(あるいは恥の上塗りを)していこうと思います。一応、既読者に向けてになりますので、ネタバレにはご注意ください。 未

          COMITIA137『暮らしの中にある宇宙』紹介記事

          はじめに どうも!あひるひつじです!  前々から自分の文庫本を作りたいという夢があったんですが、それを叶えるためにこの企画がスタートしました。全て手探りの状態から始まった文庫本作りでしたが、たくさんの人の助力を得て、こうして完成まで漕ぎ着けられました。本当にありがとうございます。  今回、制作した本には音楽にまつわる十八編の文章が収録されています。僕の尊敬するクリエイターの方々にお願いして(無茶振りして)書いていただいた文章はエッセイであったり、フィクションであったりバラエテ

          COMITIA137『暮らしの中にある宇宙』紹介記事

          近況

           近頃、どうにもできなくてどうにもならない。頭の回転は常に遅れている。錆びついた音がしている。独り言が増えた。道行く人を怒鳴りつけたい衝動に駆られる。いつでも焦らされてるような感覚がある。脈拍がズレる。元々、気性というのは不安定だったが、明らかにその不安定さは加速している。耳にする音楽の全てが気に入らなくなったりする。先日、気持ちが沈んでいたときに心の澱をキャンバスに塗りたくったような文章を書いた。こんなときでも体裁を整えようとする、俺は。それを、いま再びやろうとしている。誰

          無題

          外を犬が歩いている。すごく可愛らしくて、僕は2年前に亡くなった飼い犬のことを思い出した。彼のことを思うと、未だに僕はすごく悲しい気持ちになる。冬の中頃、冷えた空気の中を列になって歩く小学生たちは、通りすがる人に元気よく挨拶をしている。映画を観るのは苦手だ。頭を空っぽにして観られる映画が好きだ、と人には説明する。実際には逆で、頭を空っぽして観れる映画は、頭の中が取り留めのないことでいっぱいでも観れるから好きなんだ。横断歩道の脇には、子どもたちを見守る地元のおじいさんが交代で立つ

          雑記♯1

           冬が来ました。  いや結構前から冬なんですが、最近はさらに寒さが増して、コートを着込まねば外に出るのもままならないくらいです。  頬を刺す冬の空気は、何かが凍り始める温度なんだと理屈を超えて直感させます。そういう空気と彩度のない寂しそうな空の中では、小沢健二の音楽がやけに心地良く聴こえます。そんなことを友達に話したら、「きっと小沢健二は仔猫ちゃんたちが寂しくならないように、冬の歌をたくさん書いてるんだよ」というようなことを言われました。なるほどそうだなあと納得するのと同時

          たまとリコーダー

           先日、誕生日プレゼントを頂いた話を書きましたが、さきほどまた新たにプレゼントが届きました。例によって欲しい物リストに入れていたものなんですが、「リコーダー」がやってきました。小学校で使うあのリコーダーです。ご丁寧にケースには学年クラス名前を書く欄もあり、懐かしい気持ちで胸が一杯になります。  昔から音楽は好きでした。子供の頃、エレクトーンを習っていたので小学校の音楽の時間では他の子たちより、楽器の上達が早くって、それなりに自尊心を満たせたものです。とはいえ、曲を作るように

          たまとリコーダー

          ZIPPOは檸檬でした、という話

           先日、誕生日を迎えました。  といっても誕生日を迎えたからといって、はしゃぐ歳でも無くなってきたのでこれといったことはありませんでした。友人たちから訳のわからないプレゼント(プラレールのトンネルなど、本当に意味の分からないもの)をもらってはしゃいだりしたけど。  今年の誕生日は浅ましくも、ツイッターで欲しい物リストを公開してみたりしました。ささやかな期待と、自分の俗っぽい欲望への嫌悪を胸に作った欲しい物リストですが、本当にありがたいことに、たくさんのプレゼントをいただいてし

          ZIPPOは檸檬でした、という話

          "写真を撮る"ということについて

           インターネット上の友人からの勧めで、フィルムカメラを始めて大体四ヶ月ほど経った。中古の安いハーフカメラだったが、小ぶりなその姿はとてもキュートですっかり気に入っている。これまでに大したものは撮ってないものの、二百回以上シャッターを切ったらしい。月なみな言い方だけど、カメラを持つことで日常の見え方というか、視野が広がり、生活に彩りが生まれたように思う。  こうして小さな相棒を携え、広がった世界の中、街を歩く楽しみを覚えたのだが、正直に告白すれば、シャッターを切るたびに、わず

          "写真を撮る"ということについて

          大雨の日

           確か小学二年生の頃だったと思う。本来だったらとっくにみんなで仲良く下校している時間だったが、その日は凄まじい大雨で、僕らは教室に足止めされていた。吹き付ける風で立て付けの悪い教室の窓やドアはガタガタと揺れ、野ざらしの廊下は滝のように降り注ぐ大粒の雨で、文字通り水浸しになっていた。陽の光を分厚い雲が隠すので、すっかり鈍色になった空に、時折真っ白いストロボが瞬いたと思うと、ほとんど間もなく雷鳴が雨音をかき消すように響いた。まだ幼い僕らは未だ見たこと無い異常な空模様にすっかり縮こ

          大雨の日

          珈琲屋にて・その2

           うだるような暑さの昼下がり。予定の時間までの少しの暇を持て余した僕は街の小さな書店で、好きな作家の新作短編集を買って喫茶店で時間を潰そうと考えた。しかし、書店からほど近い行きつけの喫茶店に足を運ぶも、扉にぶら下げられている定休日のプレート。無念。その喫茶店は僕が特に気に入っている場所の一つだったため、僕は肩を落としながら炎天下の中を戻る他なかった。  それでも「喫茶店で涼みながらコーヒーを飲んで読書する」という魅力には抗い難く、大分離れた場所にある喫茶店を目指すことにした

          珈琲屋にて・その2

          散歩に行っただけの話

           今からふた月半ほど前の話。その日はまだ五月の初めだったが、春が過ぎ、夏の訪れを感じさせる程度には暑くて、長袖で出かけることをためらわせた。日曜日の昼過ぎ。僕は作り置きのカレーを食べたあと、人の顔が無数にプリントされた田舎町を往くには少々異様な半袖のシャツを着て外に飛び出した。コンビニの発券機に用があるだけだったが、穏やかに白く降り注ぐ陽光の中で社会的な健全さを取り戻せるような気がして、カメラを片手に徒歩で出かけることにした。件のコンビニは徒歩15分ほどの距離にある。イヤ

          散歩に行っただけの話

          露天風呂にて

           頭の裏からジャリジャリと音がする。この日、僕らは河川敷の露天風呂に身を沈めていた。湯船から数歩離れたところには川が流れていて、その流れの元を目で辿っていくとそそり立つ壁が見える。小雨がぱらつく曇り空の三月、見えない太陽が沈もうといている時刻では、油断するとすぐに身体が冷えてしまいそうだ。よって僕らはその身体を肩まで沈めて温もろうとしていた。 「なんか、気持ちわりいというか不思議な音やな」 「おん、頭の裏の、その中で鳴りよる」 「良かったわ、最初おれの頭がおかしゅうなったんか

          露天風呂にて

          珈琲屋にて

           連日、雨が降りしきる中、この日は久しぶりの曇りだった。天気予報では明日からまた一週間雨が降り続けるとされている。よって僕はこの唯一の、しかし気持ちの良いとは言えない曇りの日に、自転車の修理に出かけることにした。先日忘れ物を取りに、そしてそのついでに変哲もない田舎町を写真に収めるために一日30kmも乗り回したせいか、自転車は前後輪共にパンクしていた。パンクした後も帰路に着くため強引に働かされ、歪んだタイヤのくたびれた彼に一抹の申し訳なさを覚える。  自転車屋が言うに、少なく

          珈琲屋にて