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ファンタジー短篇集

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#オリジナル小説

新米兵士たちの日常

 上からは空にある太陽の光が降り注ぎ、下からは太陽光を吸収した地面の熱気が立ちのぼってくる。上下からの熱に声にならない悲鳴をあげながら、土で固められた人工の大地の上を、若い兵士たちが走っている。コースは土で固められた場所と、芝生が植えられた場所の境。
「これ、ぜ、ぜったい・・・・・・、きょ、きょうかんの・・・・・・うさばらし・・・・・・だよな」
「はッ・・・・・・!!なにを今更・・・・・・!!そう

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酒場での雑談

 薄暗い酒場の中。人が通るための最低限の空間を確保したそこは、最大限に人を入れることができれば、収入もまた最大になるだろう、という店主の浅はかな考えが見え透いているかのような店内だ。
 その店内と、先日先輩とともに呑みに行った店を脳内で比べ、やはりこれくらい混み合って騒がしい方が自分には合っているな、と再認識する。店内の様子を観察していると、今日、この店で飲むことになった理由が、ついにその重い口を

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プロローグ的な何か

 見上げれば、いつもそこには月があった。それだけで、ここが元いた世界とは別の世界であると思い知るのには十分すぎた。
 だから、というわけではないが、この世界を壊すことには何の抵抗もなかったし、計画通りに月食が始まった時には安心さえしたものだ。
 イトゥユの立つ地の遥か下方、群れた人々が空を指差している。遠くにいても聞こえるその声には、恐れ、戸惑い、不安などがその大半を占めている。しかし、その声を聞

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スラム街での訓練

 戦場で、毒を散布された場所でもない限り、そこに流れる空気に違いはない。
 ただ、その場の雰囲気で印象が変わるだけだ。それは匂いであったり、色であったり様々であるが。
 そのことがわかっていてもこの息苦しさだけはどうにもならない。周囲を建物に囲まれ、狭い空を見上げる。周囲から漂ってくるのは、ゴミの匂いと腐った水の匂い。壁には、そここそが我が居城と言わんばかりに、もたれかかり眠る人。
 スラム街とい

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道に迷って冷や汗流す

 招待状を舞踏会の受付嬢に渡し、舞踏会の本会場となっている大ホールに向かっていると、廊下で男と少年が立ち止まっていた。二人の立ち位置は、少年が男にもたれかかっているようなもの。
 舞踏会というのは名目で、その実、貴族同士の情報交換であったり、主催者が自分の愛娘のお披露目というのがこの国でいう舞踏会の本当の目的だ。今回の舞踏会は貴族同士の情報交換が隠された目的。そのような場所で、あのような目立つこと

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王家医務室の秘密

 白い壁、白い天井。
 目を覚まして飛び込んできた光景に、ここが自分の部屋でないことをどうしようもなく理解した。体を起こそうとして、激しい痛みがウェヌの脇腹を襲った。
 今いるのが自分の部屋でないことは理解していたが、どうして目を覚ましたのが自分の部屋でないのか。それを思い出せなかったウェヌは、脇腹の痛みでここがどこなのかを理解した。
「医務室であるか、ここは・・・・・・」
 起き上がることを諦め

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暁の空に初心を思い出す

 二日酔いで痛む頭を抱えながら酒場を出ると、そこにはすでに暁の空が目の前にあった。
 東から生まれたばかりの太陽光が、目の奥を照らすようで心地よい。
「ぬぁぁぁ。もう朝かよ。って今何時だ・・・・・・」
 太陽光を浴び、次第に意識が覚醒していくのを全身で感じるイーヘルの後ろで、野太い男の声が響いた。正確な時間はわかっていないが、朝のまだ早い時間である、ということはわかっているのか、その声はいつもより

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