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皐月 朔
2016年10月24日 21:22
上からは空にある太陽の光が降り注ぎ、下からは太陽光を吸収した地面の熱気が立ちのぼってくる。上下からの熱に声にならない悲鳴をあげながら、土で固められた人工の大地の上を、若い兵士たちが走っている。コースは土で固められた場所と、芝生が植えられた場所の境。「これ、ぜ、ぜったい・・・・・・、きょ、きょうかんの・・・・・・うさばらし・・・・・・だよな」「はッ・・・・・・!!なにを今更・・・・・・!!そう
2016年10月23日 21:15
薄暗い酒場の中。人が通るための最低限の空間を確保したそこは、最大限に人を入れることができれば、収入もまた最大になるだろう、という店主の浅はかな考えが見え透いているかのような店内だ。 その店内と、先日先輩とともに呑みに行った店を脳内で比べ、やはりこれくらい混み合って騒がしい方が自分には合っているな、と再認識する。店内の様子を観察していると、今日、この店で飲むことになった理由が、ついにその重い口を
2016年10月22日 20:33
見上げれば、いつもそこには月があった。それだけで、ここが元いた世界とは別の世界であると思い知るのには十分すぎた。 だから、というわけではないが、この世界を壊すことには何の抵抗もなかったし、計画通りに月食が始まった時には安心さえしたものだ。 イトゥユの立つ地の遥か下方、群れた人々が空を指差している。遠くにいても聞こえるその声には、恐れ、戸惑い、不安などがその大半を占めている。しかし、その声を聞
2016年10月21日 21:06
戦場で、毒を散布された場所でもない限り、そこに流れる空気に違いはない。 ただ、その場の雰囲気で印象が変わるだけだ。それは匂いであったり、色であったり様々であるが。 そのことがわかっていてもこの息苦しさだけはどうにもならない。周囲を建物に囲まれ、狭い空を見上げる。周囲から漂ってくるのは、ゴミの匂いと腐った水の匂い。壁には、そここそが我が居城と言わんばかりに、もたれかかり眠る人。 スラム街とい
2016年10月20日 21:33
招待状を舞踏会の受付嬢に渡し、舞踏会の本会場となっている大ホールに向かっていると、廊下で男と少年が立ち止まっていた。二人の立ち位置は、少年が男にもたれかかっているようなもの。 舞踏会というのは名目で、その実、貴族同士の情報交換であったり、主催者が自分の愛娘のお披露目というのがこの国でいう舞踏会の本当の目的だ。今回の舞踏会は貴族同士の情報交換が隠された目的。そのような場所で、あのような目立つこと
2016年10月19日 20:39
白い壁、白い天井。 目を覚まして飛び込んできた光景に、ここが自分の部屋でないことをどうしようもなく理解した。体を起こそうとして、激しい痛みがウェヌの脇腹を襲った。 今いるのが自分の部屋でないことは理解していたが、どうして目を覚ましたのが自分の部屋でないのか。それを思い出せなかったウェヌは、脇腹の痛みでここがどこなのかを理解した。「医務室であるか、ここは・・・・・・」 起き上がることを諦め
2016年10月18日 19:55
二日酔いで痛む頭を抱えながら酒場を出ると、そこにはすでに暁の空が目の前にあった。 東から生まれたばかりの太陽光が、目の奥を照らすようで心地よい。「ぬぁぁぁ。もう朝かよ。って今何時だ・・・・・・」 太陽光を浴び、次第に意識が覚醒していくのを全身で感じるイーヘルの後ろで、野太い男の声が響いた。正確な時間はわかっていないが、朝のまだ早い時間である、ということはわかっているのか、その声はいつもより
2016年10月16日 18:10
「・・・・・・ここまでする必要あった?」「ん?何がだい?」「『ん?何がだい?』じゃないわよ!!他の女ならごまかされるような爽やかスマイル浮かべても、私はごまかされないわよ!?」「へぇ。他の女の子ならごまかされるっていうことはわかるんだ」「・・・・・・!!」 砂と月明かりしかない場所に、二人の男女の声が響く。声が反響するものもないので、声はよく聞こえる。からかわれ、英人のことを叩こうとして
2016年10月15日 20:31
「・・・・・・つまらん」 天からの光が届かない地底。代わりに光源となっているのはそこかしこで動く色とりどりの虫の光と、薄ぼんやりと光る赤いものだ。地底に響いた先ほどの言葉を辿れば、ひときわ大きな赤い光にたどり着く。そして、その言葉をきっかけに、地底でうごめいていた赤い光も動きを止める。地底にある赤い光。その光源を目にしたとき、地上にすむものは怯え逃げ出すだろう。なにしろ、その赤い光が漏れているの
2016年10月14日 18:41
茜色に染まる空を、揺れる馬車の荷台から見上げる。 物音を立てれば、御者台にのる男に気づかれるので、物音を立てるわけにはいかない。 リンメは一仕事終えた後の気だるさに身を預けながら、右手の中にある仕事の成果を握りしめる。状況は二転三転したが、どうにかこの手につかみとることができた。後はこれを依頼主に届けるだけだ。『今回もどうにかうまくいったな。まぁ、さすがに宝石を奪う直前で男装野郎が来た時は
2016年10月13日 20:18
絢爛にして華美。 目に飛び込んでくるその輝きに、見習い小姓の立場を偽って舞踏会に潜入したイネジクは、ただただ目を丸くするばかりだ。「・・・・・・どうした、少年。主人はどこだ」 抑揚のない声に、途切れがちにそう尋ねられ、イネジクは正気に戻り、声のした方に顔を向ける。 そして、そこにあった顔に心を殴りつけられた。「・・・・・・なぜ黙っている。主人はどこだ。はぐれたのか」 その声の主人こそ
2016年10月12日 17:59
目の前の戦火に、足が竦みそうになる。いや、いっそのこと、足が竦んで動かなくなってしまえばいい、とさえ思ってしまう。 が、現実はそうならない。まるで足だけがワユラでない誰かのものになってしまったかのような感覚に陥る。目的地へと向かって走りながら、ワユラはどうしてこんなことになってしまったのか、と自問する。 当然、己の中に答えがない状態で自分に問いかけても答えが返ってくるわけはなく、結局、そうす
2016年10月11日 17:17
いつからだろう、自分の心の赴くまま、人間を貶め、競わせ、絶望させようとするたびに邪魔が入るようになったのは。 少なくとも、ここ十数年の話ではない。邪魔が入り始めた当初は気のせいだと思っていた。それを5、6年ほど放置していたのは、邪魔が入るのもたまには面白い、と思っていたからだ。さらに言えば、邪魔が入るということは、過去にいくらかいたと言われる偉大な悪魔に自分が数えられているかのようで、いくらか