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音楽史年表記事編39.オペラ改革史

 音楽史を振り返ると、ミサ曲などの宗教音楽を中心として発達してきた音楽史は、バロック以降はオペラを中心としてその本流が形成され、さらに古典派期以降は交響曲などの管弦楽曲がその本流を2分するようになりました。
 近代オペラは1607年にイタリアのマンドバで初演されたモンテヴェルディの「オルフェーオ」によって始まるとされていますが、ルネサンス期の16世紀後半にはフィレンツェの音楽家グループであるカメラータによってギリシャ悲劇の再現が試みられていたようです。ギリシャ神話やギリシャ悲劇はヨーロッパ文化の源で、モンテヴェルディはギリシャ神話に登場する吟遊詩人オルペウスの物語を題材にします。吟遊詩人の語りがレチタティーヴォに、また吟遊詩人の歌がアリアになったと見られます。バロック期、イタリアではオペラが全盛期を迎え多くの作品が上演されました。

〇メタスタージョの改革
 初期のバロック・オペラは悲劇と喜劇が混在した様式であったようですが、ウィーンの宮廷詩人のメタスタージョはオペラから喜劇的要素を分離し、オペラ・セーリアの様式を確立します。メタスタージョの改革には、王侯諸侯を讃美する権威誇示の目的があったとされます。
 また、イタリアではペルゴレージが、幕間に喜劇であるブッファ「奥様女中」を上演しますが、やがてオペラ・ブッファとして単独で上演されるようになります。

〇グルックの改革
 当時のオペラでは去勢した男性歌手がソプラノやアルトのカストラートとして主役を演じていました。カストラート歌手の権威は絶大で作曲家は彼らの意向に基づき作曲しましたが、気に入らなければ別の作曲家のアリアを勝手に歌ったりしていました。グルックはこれまでのように作曲者が歌手に会わせて作曲するのではなく、作曲者の作曲した曲を歌手が歌うべきとし、作曲者主導の作曲改革を提唱します。併せて、複雑化した台本の簡素化、フランスにおけるギリシャ悲劇の復興を目指します。

〇モーツァルトの改革
 モーツァルトはオペラ・セーリア、オペラ・ブッファ、ジングシュピールのいずれの分野のオペラにおいても最高傑作を残し、ロマン派期のイタリア・グランド・オペラ、フランス・グランド・オペラ、またドイツ・ロマン・オペラの基礎となる偉大な改革を行っています。
 モーツァルトのオペラ改革の基本はグルックの改革の実践者であることであり、モーツァルトはオペラ作曲の前にはそれぞれの歌手のためのアリアを作曲し、それぞれの歌手の特徴を活かそうとしています。また、モーツァルトは台本作家のダ・ポンテと組んでオペラ・ブッファの最高傑作を残します。これらのオペラに共通するのは人間の愛情と嫉妬、希望と絶望、喜びと悲しみなど人間の情感の内面をえぐり出すような音楽であり、オペラ史に金字塔を打ち立てたと言えます。
 さらに、モーツァルトはハイドンによって始められた管弦楽を駆使したフィナーレを更に拡大し、最後の歌劇「魔笛」ではオペラの半分以上にまで広げました。ロマン派のオペラでは序曲や序奏のあとに、実質的にはすぐに管弦楽によるフィナーレが始まりますが、これはハイドン、モーツァルトによって始められたといえます。
 また、モーツァルトのオペラ改革はアンサンブルの改革に及びます。モーツァルトのオペラでは弦楽器、管楽器のそれぞれの声部は平等に扱われ、歌手においても脇役にまで平等に優れたアリアが与えられるなど、まさにポリフォニーへの回帰の実践であり、啓蒙主義の理念である「自由」「平等」「博愛」を音楽で実現しました。

〇ロッシーニの改革
 ロッシーニは、モーツァルトこそがイタリア・オペラの最高の作曲家と述べていますが、その精神を受け継ぎ、イタリア・グランド・オペラ、フランス・グランド・オペラの基礎を築いています。ロッシーニは歌手による勝手なカデンツァを禁止し、ナポリで行われていた序曲の廃止などの改革を行います。そして、ロッシーニの一番の功績は興行主から作曲した作品の所有権を奪い取ったことです。これによって、作曲家は作品の上演が行われるたびに興行料の一部を得ることができるようになり、作曲家の経済的基盤を確立し、後の多くのロマン派の作曲家を送り出すことに貢献しました。

 これらのオペラ改革によりロマン派のオペラが大きく発展します。ドイツではワーグナーがフランスのマイヤーベーアのグランド・オペラとベートーヴェンの交響曲の影響を受け、「ローエングリン」などの壮大な歌劇を作曲し、さらに楽劇に発展させます。また、グリンカはイタリアとフランスのオペラに国民楽派の音楽を取り入れ、国民楽派のオペラを作曲するようになりました。ヴェルディ、プッチーニ、ワーグナーの作品は現代でも多くの歌劇場のレパートリーとなっています。

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