第72回 トラック野郎・度胸一番星(1977 東映)
さて、千葉真一追悼となれば一本は助演の映画も入れなければいけないと思ったわけですが、千葉ちゃんはあまり助演で映画に出ません。選択肢は限られてきます。
そこで、反則気味ですが今流行りのサメ映画で参りましょう。トラック野郎シリーズの第5作『トラック野郎・度胸一番星』です。
地方で桃次郎がマドンナに惚れ、ジョナサンがやらかし、ライバルとの大乱闘があって、最後はトラック野郎が絆で荷物を届ける。基本的にはいつものトラック野郎です。盆正月の映画に難しい筋など必要ないのです。
千葉ちゃんはジョーズ軍団なるサメペイントのタンクローリー軍団を率いてライバルを率い、サブヒロインとして『空手バカ一代』に続いて二作目の映画出演の夏樹陽子が入りますが、かなりの成長が見えます。
そして、いつものトラック野郎という事はスクリーンがイカ臭く思える程のトラック野郎の暑苦しい友情がそこにはあります。女でもトラック野郎であり、その一方で男女同権なのがトラック野郎です。
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真面目に解説
トラック野郎にとってのライバル
トラック野郎シリーズの見どころは桃次郎(菅原文太)の前に立ちふさがるライバルの存在にあります。第一作の『御意見無用』ではわざわざ佐藤允なんて借りてきた割に存在感が希薄でしたが、これは例外に属します。
プラモデルにするにはうってつけのえげつないトラックに乗った変態一歩手前の漢が桃次郎とワッパの勝負をしてドライブインを破壊しながら喧嘩する。これは様式美であり、昭和50年代の日本の盆正月の風景の一部だったのです。
彼らは多くがトラック野郎からも嫌われていますが、嫌な奴になるだけのバックボーンがあり、それも桃次郎と殴り合いで友情する事で氷解していきます。これは実に気持ちの良いストーリーラインであり、鈴木則文の名人芸です。
千葉ちゃんサメ説
サメ映画は近年奇妙な盛り上がりを見せて居ますが、あのムーブメントに触れる度に私は思うのです。カラテ映画と構造は同じではないかと。
便乗から始まって大量生産され、チープな暴力とお色気でジャンクな魅力を発する低予算映画群という点で両者は非常に似ています。
つまり、千葉ちゃんは存在そのものがサメなのです。時代に合わせて変わる事をよしとしなかった血に飢えた獣。一つ違うのは、特撮やCGのサメと違って千葉ちゃんはノースタントであるという事でしょう。
本作の千葉ちゃんはそのものずばりジョーズを名乗り、ジョーズペイントを施したタンクローリーを走らせています。それも4台も仲間を引き連れてジョーズ軍団を名乗って。
言うまでもなくサメ映画の金字塔『ジョーズ』に乗っかったわけですが、このシリーズの凄い所はトラックが借り物である事です。つまり、このタンクローリーは実際に走っていたのです。
まだ『ジョーズ2』さえ公開されていません。しかし、数を増やすというサメ映画の定石を日本の無名の運転手が考えて実践していたのです。サメ映画フリークはこの映画を観ずにサメ映画を語ってはいけません。
運輸省関係の仕事をしています!
というのは桃次郎がマドンナ相手に取り繕って経歴を詐称する時の決まり文句ですが、桃次郎のライバルとの争いと並行してマドンナを射止めんとする奮闘が同時進行するのが本作の魅力です。
本作のマドンナは佐渡島の分校の先生の水名子(片平なぎさ)。片平なぎさはまだ18歳で、これはマドンナとしてはシリーズ最年少です。
歴代のマドンナの中でも人気が高く、唯一桃次郎と相思相愛になったマドンナとしても知られています。最年少なのにビキニ姿なんか披露しちゃって実にいい仕事をしているのです。
しかし、トラック野郎シリーズのマドンナは御神体のようなもので、実際の所ストーリーを動かすのはマドンナではなくサブヒロインなのです。作り手の気合の入れ方が明かに違います。
ジョナサン(愛川欽也)がヒッチハイクで拾って熱を上げるホステスのマヤ(夏樹陽子)がこれにあたります。実は彼女はジョーズの女(押しかけ女房)なのです。
ドライブインのバーで働くという設定に時代を感じます。ドライブインとバーの組み合わせなど現代では考えられません。飲酒運転は殆ど野放しだった時代の映画です。
夏樹陽子の女優キャリアは前回レビューした『空手バカ一代』に次いで本作で二作目ですが、前作の無茶苦茶な役柄で自信が付いたと語る通り、本作では相当な進歩が見えます。この次は女囚さそりになってしまうのですから自信というのは大切なのです。
特にストーリーに寄与しない御馳走役の紅弁天(八代亜紀)という女のトラック野郎も登場します。このシリーズでは女でもトラック野郎なのです。芝居は壊滅的ですが何と言っても八代亜紀なので歌唱力は先の二人とは比べ物になりません。挿入歌を歌う為だけに呼ばれたのでしょう。
金金
長々書きましたが女性陣は使い捨てに過ぎず、現実的には桃次郎の正妻はジョナサンです。例え事実でないとしても、二人はホモ関係にあると疑われても文句を言えないレベルです。
貧乏の子沢山で借金に苦しむジョナサンが水名子の養父で砂金採りの作右ヱ門(宮口精二)に弟子入りして一攫千金を狙うのがストーリーの核になってきます。
勿論これで金がザクザク採れては映画として成立しません。恐らく、現代の地球に砂金で生計を立てられる土地はないでしょう。
そして、最後は桃次郎がトラックを爆走させて明らかに無理な荷物を届けるのがお約束ですが、今回を含めてその実に半分がジョナサンの不始末の尻ぬぐいです。しかし、詳しい話はBL的の方に譲ります。
無線封鎖
桃次郎は桃次郎で水名子に惚れて辺地教育に人生を捧げるとか言い出し、佐渡島の勉強をします。そして読んでいるのが『サド侯爵夫人』だったりするのがこのシリーズなのです。
一方ジョーズ軍団は横暴の限りを尽くし、トラック野郎に無線の使用禁止を通達します。これも今では意味の分からない人が増えてしまったプロットだと思います。
今回の一番星号はバックモニターやドリンクサーバーが付いていて(当時としては)ハイテクが強調されていますが、それでも携帯電話なんてものはまだありません。一昔前までトラック野郎は無線で互いに連絡を取っていました。
これは実は多くの場合無免許なので違法です。そして警察無線を盗聴するのにも用いられました。今では携帯電話で事が足り、警察無線もセキュリティが厳しくなったのでトラックに無線が積んであるという風景は過去のものです。
ジョーズ軍団は法を破る連中を許さないとかなら格好良いのですが、その実はトラック野郎が無線でお国自慢をするのが気に入らないという身勝手かつ女々しい物で、桃次郎とジョーズは案の定ドライブインを破壊しながら大喧嘩になってしまうのです。
トラック野郎は一心同体
健さんの映画に殴り込みがあったように、トラック野郎には最後は桃次郎の激走があります。
巨額の積み荷やトラック野郎のプライドがかかっているので近在のトラック野郎が全面協力して何台も連なってカーチェイスが行われるのが見どころです。西部警察並みです。
ライバルが結局協力してくれるのもお約束で、この映画のBL面を大きく補強するのも嬉しいですが、本作ではもう一つ注目してほしい点があります。
本シリーズは桃次郎の一番星号とジョナサン号以外は借り物のトラックを使って撮影されるので、哥麿会というトラック野郎のグループから協力を受けてトラックを集めます。その会長の宮崎靖男氏が毎回出演しているのです。
いつもはドライブインで桃次郎の後ろに居る程度の役が多いのですが、本作ではついにセリフ付きで桃次郎に絡む機会を得ます。ピラニア軍団の出世を見るようで私は感激してしまうのです。
BL的に解説
ジョーズ軍団ホモ説
千葉ちゃんはアウトローな印象が強い反面、JACなんてものを作ったように結構寂しがりな側面があります。強がっている漢に限って軍団を作りたがるものです。
ジョーズ軍団は千葉ちゃんのそういう面がもろに出たキャラクターであり、鈴木則文に特有のユーモアをかぶせたペーソスも相まって実にホモ臭い連中です。
そもそもジョーズがトラック野郎(便宜上こう称す)となったかというと、故郷の村が原発の建設用地として買収されるのに反発して村を飛び出したことに端を発します。
そして故郷を飛び出したジョーズは同じく故郷を失ったトラック野郎を集めてジョーズ軍団を結成したのです。そしてジョーズ軍団は郷愁にかられるあまりトラック野郎が無線でお国自慢をするのに嫉妬し、トラック野郎から無線を取り上げようとするのです。
思えば彼らの境遇は同情に値する哀しい物であり、それだけに軍団の結束は強固です。他のトラック野郎に嫌われても全く意に介しません。
強がって傷口を舐め合う哀れな男達。これはもうBL的には傷口ではなく水野先生言う所の入り口を舐め合う仲です。そして、入り口が結果として傷口となってしまうのです。
それを証拠に、ジョーズはマヤにほとんど興味を示しません。結果として二人は引っ付くのですが、それは所詮マヤの押しの強さと成り行きの産物なのです。
あんなにも激しく好いてくれる夏樹陽子を特に理由もなく突き放す。ジョーズのセクシャリティが特殊である以外に合理的な説明が付きません。女<<<軍団なのです。タンクローリーだけに石油王並みのスーパー攻め様なのです。
タンクローリーという特殊性もあるので、結局ジョーズ軍団はマヤが居ようが居まいが一緒に仕事をすることになるはずです。ジョーズは千葉ちゃんだけに夜は柳生十兵衛なのです。
ヤンデレ気味のマヤがジョーズ軍団のサメ特有の単性生殖の現場を目の当たりにした時、ジョーズがどうするのか見ものです。
桃次郎×ジョナサン
さて、本作のもう一つの特殊性はジョナサンの妻君江(春川ますみ)と子供たちが登場しないところです。なのでジョナサンは浮気しようとします。
ヒッチハイクで拾ったマヤにご執心のジョナサンと、水名子の幽霊を見て佐渡島へ行こうとする桃次郎が早速夫婦喧嘩をおっぱじめます。
「ちょっとは女房子供の事も考えてやれ」と事実上の二人目の父親として道徳的には筋の通った事を言う桃次郎に対し、ジョナサンは夫婦喧嘩をしてしまった事と、「生まれてこの方母ちゃん以外の女は知らねえんだ」とBL的には絶対看過できないカミングアウトをしてしまいます。
女性には想像しづらいかもしれませんが、これはかなり恥ずかしい事実です。そんな事も桃次郎には言えてしまうあたり、二人の関係はもはや後戻り不可能な領域に入っている証拠です。
それで桃次郎が根負けしてしまうのも愛です。既に水名子<ジョナサンの構図が明白です。そうなったらなったで不安がっちゃうジョナサンに「丸ごと食え」と乱暴ながらも優しくアドバイスする桃次郎。
喧嘩しているというのに青果市場の人々は見向きもしません。もはや二人がホモなのは全国の運送関係者の公然の秘密であり、夫婦喧嘩などいちいち見物する気も起きない見慣れた光景なのです。
しかし、ジョナサンは弱いのです。このシリーズに限ってはあの拓ボンよりも弱いのです。何とマヤはジョーズにべた惚れである事が判明します。
シャワー室で脇毛バシャバシャ洗ってゲイへのサービスシーン(尤も、千葉ちゃんはゲイにあまり人気がない)に余念のないジョーズに縋りつくマヤ。
しかし、ジョーズはホモなので冷たく突き放します。それでも引き下がらないマヤと面倒臭くなって遂におっぱじめてしまうジョーズ。もはやジョナサンは立つ瀬がありません。
仕方がないので桃次郎と佐渡へと赴くジョナサンですが、これを放っておく桃次郎ではありません。自分の方もまだ見ぬ水名子への渇望で性欲が昂っているのでフェリーの船中で一発やっちゃうのは当然の流れです。
それでもジョナサンのメンタルがおかしくなっているのは明白で、分数の引き算も出来ない桃次郎でさえ無謀と分かる作右ヱ門の砂金採りに人生逆転を夢見て弟子入りし、トラックを売って廃業しようとします。
それを桃次郎は「あのキ〇ガイジジイにたぶらかされたな」と止めますが、ジョナサンはメンタルが爛れ切っているので聞きません。ビンタして女房子の事を持ち出してかなり強引に説得を試みますが、ジョナサンは金も無ければ女にもモテねえと泣きを入れる有様です。
これを受けて桃次郎は作右ヱ門の家に怒鳴り込み、「無学な俺の相棒を洗脳した」などと頭のくらくらするような事を言って怒ります。
桃次郎としては辺地教育に身を捧げると言いつつ所詮トラック野郎の片手間であり、ジョナサンとの桃色の関係を解消するつもりは毛頭なかったのです。
ともすれば作右ヱ門はジョナサンを寝取った男であり、桃次郎としては許せないのです。しかし、作右ヱ門が水名子の養父と知るや「サド侯爵家のお家柄じゃないでしょうか」などと取り繕うのが笑いどころです。
やっぱりセックスで納得させたと見えて、ジョナサンはトラックを人に貸すという地に足付いた妥協案に行き着き、お互いの健闘を称え合う様は完全にゲイカップルです。
桃次郎は上手く水名子と生徒たちに取り入って波打ち際で戯れます。片平なぎさのビキニにセクシャリティを決定付けられてしまった少年は当時万単位で居たと思いますが、桃次郎はいつもの褌の方がいいのに露出の少ないセパレート水着です。
あるいは、文太兄ぃの方がセクシーだと洒落にならないという製作サイドの配慮ではないでしょうか。東映としては男にばかりときめかれても興行的に困るのです。
ところが、水名子とヤケに親しげで結婚が決まって幸せいっぱいという稲村先生(南城竜也)という町医者が現れ、桃次郎は早くも敗北を悟って佐渡を去ります。
ジョーズとの決闘を経て桃次郎は恒例のトルコにしけ込むわけですが、水名子を振って帰って来たと話を捏造して行為に及ぶのが女々しさです。これが後々意味を持ちます。
ところが、行為中にボーイが水名子から届いた手紙を届けに来ます。トルコが連絡先になっているのも行為中にボーイが届けに来るのもすさまじい話です。
バックでやりながら手紙を読み、水名子が結婚するわけではないと知って佐渡へ舞い戻る桃次郎。一方ジョナサンの砂金採りは最初にちょっと採れたきりで一向に戦果が挙がりません。
家族写真を見て涙ぐみ、恒例のヒステリーを起こして作右ヱ門に掴みかかるろ、止めに入った桃次郎に「色ボケ」と意味深な恨み言を言うジョナサン。こういう所からも彼の女の面が見て取れるのです。
桃次郎はジョナサンを殴り倒し、「お前があれだけ一生懸命探したんだからないわけがない」と根拠もなく言い切り、無責任にも金は無いかも知れんと言いだす作右ヱ門を尻目に母ちゃんと子供という立派な金があると抱き合いながら川の中で涙ながら向き合うのです。
何という美しきラブシーンでしょうか。佐渡情話パート2として例の浪曲師の友人にやらせたいくらいです。
トラック野郎への復帰を果たしたジョナサンは、一番星号で水名子達を金沢へ遠足に連れ行く桃次郎と合流します。
そして白根の凧祭りで生徒の口車に乗って凧に飛び乗る桃次郎。慌てて追いかけるジョナサン。二人して飛んで行ってしまいます。
特撮を手掛けたのはあの成田亨、今見ると人形が凧に引っ付いて飛ぶシーンはちゃちですが、冷静に考えるとこれは『トップガン』もビックリの歴史的二人乗りです。
二人の愛は風に乗って何処までも高く高く昇っていくのです。もはやこれは命を賭けた実質公開ホモSMであり、二人の愛はまたしても深くなっていくのです。
その後新潟まつりで一緒に踊ったりと仲を深めていく桃次郎と水名子。そして、佐渡へ帰るフェリー乗り場で桃次郎は水名子との結婚を考え始めます。
この際ハッキリさせようとジョナサンは提案しますが、桃次郎は何しろ連敗続きなので気後れし、ジョナサンが返事を聞きに行きます。こんな大事なことを任せてしまえるくらい二人の絆は確かなのです。
「狂った桃次郎の事ですが」という軽口もジョナサンの古女房ぶりの発露で、その上ジョナサンは最初から断られる前提で居ます。ところが、水名子はOKしてしまいます。
「そんなバカな」と叫んで卒倒するジョナサン。佐渡おけさを歌いながら特撮で海を歩いて溺れる桃次郎。ここに私はジョナサンの心の乱れを見るのです。
ジョナサンは桃次郎の正妻であり、また桃次郎は女にフラれる運命であると信じ切っています。つまり、正妻の座を当然と思っているのです。
しかし、今回に限って水名子はOKしてしまったのです。これはHIVに感染したレベルの大事です。トラック野郎の世界では女はコンドームで簡単に片付かないのです。
シリーズを紐解けば女のトラック野郎は言うに及ばず、夫婦二人乗りのトラック野郎や、いざとなれば亭主の代わりにハンドルを握る臨時の女トラック野郎も少なくありません。
まこと美しき夫婦愛ですが、桃次郎が結婚するという事は即ちジョナサンは桃次郎の無二のパートナーという地位さえ失う危険があるのです。
桃次郎が家に来なくなれば君江や子供たちだって悲しみます。ジョナサンの男としての責任と女としての独占欲が乱れに乱れている様がこのワンカットに読み取れてしまいます。
しかし、相方の表の幸せを壊さないのも良きゲイカップルなのでジョナサンは気を取り直してジョナサンを祝福し、嵐の夜にドライブインにトラック野郎が集まって披露宴が行われます。トラック野郎の気持ち良い友情がこの映画の魅力です。
出張してきた貸衣装屋の玉川良一に注目です。この人は破門されて役者になりましたが腕利きの浪曲師でもあります。一節披露してくれますが、この人より上手い人は今やこの世に何人も居ません。
ところが、水名子は川まで作右ヱ門の砂金採りの道具を取りに行って鉄砲水に呑まれて命を落とします。
思えば、道具が川に放置されていたのはジョナサンのヒステリーに起因します。ともすれば、ジョナサンの独占欲が水名子を呪い殺したのです。
教え子たちの灯篭流しのシーンにジョナサンの姿がないのもこの仮説を裏付けます。ジョナサンはヘタレですが悪党ではないので、責任を感じて参列するのが本来の筋なのです。
人を呪わば穴二つというわけか、3000万円のブリを金沢から新潟まで運ぶ仕事を請け負ったジョナサンは、重量オーバーで警官にとっ捕ってしまうのです。
心配してトラック野郎たちが警察署に押しかける中、ジョナサンは荷が腐るとパニック状態で、離婚して自殺すると宣言して桃次郎に殴られる有様です。壮絶なSMがあったものです。
そして桃次郎はジョナサンの代理を請け負い、「パクれるものならパクってみろ」と警視総監に一世一代のスピード違反を宣言して出発します。
これはもう任侠映画と同じ仕組みです。つまりホモです。桃次郎はジョナサンとトラック野郎の誇りの為に警察権力へと殴り込んでいくのです。
そして見事桃次郎はトラック野郎の総力を結集して荷を届けることに成功し、二人は再びどこへともなく並んで走っていくのです。勿論、釈放された夜はホモ祭りです。
こんな何とも言えない爽やかなホモ臭さを漂わせた映画を盆正月にやって寅さんと競り合っていたのですから、昭和の映画は凄かったのです。
ジョーズ×桃次郎
ここで左右逆転です。桃次郎はジョナサンの内縁の夫ですが、その一方で人情に富んだ男であり、またちょっと女々しく、またケツを貸す度量のある男なのです。
一方千葉ちゃんは総攻めであり、ジョーズはケツの穴の小さい男なので攻めです。桃次郎の桃をジョーズのジョーズが食い荒らす展開です。
ドライブインに現れてトラック野郎の無線を破壊し、止める紅弁天に女はすっこんでろとのっけからホモバカ一代の暴言を吐くジョーズ。
このシリーズにおいてトラック野郎は男女同権が確立していますが、ジョーズは明らかに女を下に見ています。ここで今度は舞台が新潟である点に注目です。
千葉ちゃんに新潟とくればそう、伝説の衆道映画『戦国自衛隊』です。上杉謙信と菊花の契りを結んだ男にとっては女など汚らわしい下等生物なのです。
勝手に無線封鎖を宣言するジョーズ軍団の横暴にトラック野郎たちは桃次郎に助けを求めますが、ジョーズもまた桃次郎という最強のホモが居るという噂は聞いていたのでしょう。
サド侯爵夫人を取り上げて喧嘩を売るジョーズですが、桃次郎の心は既に佐渡にあるので睨み合いで終わってしまいます。
しかし、媒体になっているのが何と言ってもサド侯爵夫人です。三島先生も草葉の陰でお喜びでしょう。
佐渡で失恋してビールを文字通り浴びながら新潟を去ろうとする桃次郎。そこへ紅弁天がたまたま現れ、桃次郎が故郷という言葉を無線で使ってしまったばかりにジョーズ軍団が襲ってきます。サメ並の嗅覚です。
五対一のワッパの勝負はスピルバーグも一目置きそうな迫力です。大抵のサメ映画に勝っています。トラックでこれをやるのは相当難しいはずです。
しかし、水名子の幻を道端のマネキンに見て敗れます。女に未練がある分ガチホモのジョーズより桃次郎は不利です。
一方、ジョーズは原発建設の為に立ち退きの迫る故郷の村へ殴り込み、「はした金で故郷を売った」と村民に恨み言を言い暴れます。千葉ちゃんがかなり右寄りで原発に賛成の立場だったのを知っているとブラックジョークとしか思えません。
そして自分で幕を引きに来たと称してジョーズ号で村の建物を破壊します。ご存知の通り、今やサメ映画は海だけのものではありません。世界のサニー千葉は常に時代の最先端を行くのです。
それを止めようとしてジョーズ号に縋りつくマヤを突き飛ばしてジャリパン(売春婦)呼ばわりするジョーズ。アラバママンもドン引きする凶暴さ。まさしくサメです。
その後桃次郎とジョーズはドライブインで決闘に至ります。お国自慢は反吐が出ると言ってそれぞれ不幸な故郷の失い方をしたジョーズ軍団を自己紹介させるジョーズ。ホモ特有の仲間思いです。
桃次郎は分数の引き算も出来ないのにこの機微を完璧に見抜き、「女々しく焼きもちをやいている」と痛烈な一発をかましてついに勝負になります。
これに対して「俺の勝負はデスマッチだぜ」と広能対大友の再戦に花を添えるジョーズ。この時期の東映の映画で一番喜ばれたのはこの手の仁義なき戦いの再戦なのです。
何しろジョーズは千葉ちゃんなのでサメ並の強さですが、トラック野郎特有のギャグ補正とトラック野郎からの友情パワーがあるので段々桃次郎が優勢になります。
更にはジョーズがあまりに人望がないのでついには他のトラック野郎が桃次郎に加勢するに至り、あわやサメ解体ショーというところでマヤが包丁を手に乱入してきます。
マヤの気迫に負けて桃次郎のTKOということになり、桃次郎は胴上げされて宴会が執り行われ、紅弁天は見事な歌を歌い、ジョーズはマヤに二階で介抱されながらいちゃいちゃします。
コンドーム扱いを拒否して見事にホモのジョーズを落としたマヤ。まさに鈴木則文的女性像です。それを見て「あのサメ野郎の故郷はマヤだったのか」とちょっと嬉しそうな桃次郎。
そこに敵意はもはやなく、爽やかな精神的ホモがあるのみです。トラック野郎とはなんと気持ちの良い野郎どもなのでしょうか。トラック野郎は男女同権なので紅弁天もこの場合野郎です。
ジョーズもタイマン張ったらホモ達というわけで、桃次郎一世一代のスピード違反に際して近在のトラック野郎にあれだけ嫌っていた無線で連絡し、総出で検問を突破させるために誘導します。
無線の違法使用で次々トラック野郎は逮捕され、更にはトラック野郎たちは捨て身の検問突破やパトカーの進路妨害によって桃次郎の道を作っていくのです。
最後は勿論ジョーズが〆ます。軍団が4台並んでパトカーの進路をふさぎ、ジョーズは道を塞ぐパトカーをぶっ飛ばして検問を破壊し、群がる警官を蹴り倒して自ら手錠をはめ、桃次郎に「ここから先はお前の貸し切り道路だ」と相変わらず人の物を私物化する通信をしてお縄になります。
桃次郎はジョーズに礼をして見事に荷を新潟の魚市場まで届ける事に成功します。しかし、これは桃次郎一人の手柄では断じてなく、ジョーズとトラック野郎たちの献身と友情び勝利です。こんな事を年二回もやっていればそりゃあトラック野郎がホモばかりになるのは当たり前です。
それに、あれだけいちゃいちゃしていたマヤの姿は桃次郎を助けるジョーズの側にはなかったのです。マヤがジョーズをこのサメの群れから奪い取るには、自らもトラック野郎に転身してサメの仲間入りをするしかないのです。
お勧めの映画
独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します
千葉真一追悼企画
『激突!殺人拳』
『沖縄やくざ戦争』
『空手バカ一代』
『トラック野郎 御意見無用』(1975 東映)(★★★★★)(シリーズ第一作)
『赤い河』(1948 米)(★★★★)(大輸送の末コンドームを超えた女の肖像)
『エクスペンダブルズ』(2010 米)(★★★★)(千葉ちゃんの出たかった映画)
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