第37回 ダイナマイトどんどん(1978 大映)
8月9日は野球の日、という事でBL的映画鑑賞も野球回といきましょう。勿論『フィールド・オブ・ドリーム』なんて選ぶほど私は優等生じゃありません。
そこで選んだのが『ダイナマイトどんどん』です。九州ヤクザが抗争の決着を野球でつけるという恐ろしくしょうもない映画です。
菅原文太と北大路欣也を軸にした東映選りすぐりの偏差値の低い(誉め言葉)面々がメインを張り、こういう馬鹿馬鹿しい映画を撮らせたら絶品の岡本喜八(東宝出身)がメガホンを取り、喜八一家と呼ばれた名優がドッキング。
更に松竹新喜劇の重鎮だった小島秀哉も美味しい役で入り、ヒロインの宮下順子は日活、そして作るのは大映という超党派の映画です。あんまり面白くない日本のスポーツ映画の中では出色の傑作に仕上がっています。
そして野球+ヤクザ+九州とくればもうBLのカツカレー状態です。タマを竿で弄くり回して入れたり受けたりする様をお楽しみください。
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真面目に解説(予備知識編)
最後に勝ったのは名作
一応原作はホモ臭い表紙の『麦と兵隊』で知られた文豪火野葦平の『新遊侠伝』という事になっています。
『新遊侠伝』は1951年に新東宝が映画化しており、その作中でヤクザがやけに楽しそうに野球をプレーしていたことから脚本の井手雅人が長年構想を膨らませ、後輩の古田求と協力して四半世紀もかかってようやく映画になったという経緯があります。
邦画でスポーツ映画というと今でもかなり嫌な予感がしますが、当時もそれは同じで、作るたびコケるゲンの悪いジャンルでした。『ドカベン』なんてそりゃあもう酷い出来でしたから。(Z級映画としては傑作)
菅原文太はこの前年、ゲイだったと奥さんが証言した寺山修司原作の『ボクサー』に主演したものの、予算がヘビー級な角川映画の『人間の証明』とぶつかって盛大にKO負けした苦い経験がありました。
なので今作は何としてもヒットさせたいとテレビ嫌いだというのになりふり構わわずテレビに出て宣伝しましたが、果たして今作も興行的にはコケました。
しかし、今では角川映画なんてものは猛烈にホモ臭い『蒲田行進曲』と『戦国自衛隊』くらいしかテレビで放送されません。残ったのは角川春樹の息子が男にセクハラしたという醜聞だけです。
要は公開時に当たろうが外れようが、後世に残った映画こそが真の名画なのです。当時から評論家筋の評価は高く、今作は今なお根強い人気があります。コンプライアンスも糞もない内容なので絶対に放送はされないでしょうけれど。
野球とヤクザ
ヤクザは基本的に野球好きです。野球賭博は古くからヤクザの大切な収入源でした。
そして、あなたの学校の野球部の面々を思い出してください。いかにもなりそうでしょ?
元プロ野球選手で『仁義なき戦い』に出るまでに出世した人も居ました。野球部は理不尽への耐性が強いのでヤクザにうってつけというわけです。
そして、ヤクザと言えばやっぱり指詰めです。野球選手が指を詰めた結果、凄い変化球を投げるようになったという実に頭の悪い発想が今作のキーになっています。
このアイデアを聞いて菅原文太は目を輝かせたそうです。しかし、指を詰めるのは菅原文太ではないのは内緒です。
九州ヤクザという人種
人間に地域性があるように、当然ヤクザにも地域性があります。その辺を読み解いておかないと十分にこの映画を楽しめません。
関西ヤクザはがめつい、広島ヤクザは排他的、沖縄ヤクザは残虐、北陸ヤクザはなりふり構わない、東北ヤクザは盃好きと色々ありますが、九州ヤクザはとにかく血の気が多く、本来手段である闘争そのものに価値を見出す好戦性が特徴です。
今でも九州の暴力団事件はえげつないので有名ですが、今作のヤクザたちも信じられないほど喧嘩早く、後先考えません。
そして当然九州訛りです。九州訛りは女性が話すと可愛く、男が話すとワイルドに聞こえる魔法の言葉です。
要は今作は魔法の言葉を話すホモのバーサーカーがこん棒を振り回して暴れる映画です。
真面目に解説(ネタバレ編)
修羅の国九州
時は昭和25年夏、戦後の食糧難も最悪の時期を脱し、闇市にはスピーカーから東京ブギウギが流れ、かき氷なんかも売っていて国民生活に余裕が見えつつあります。
遠賀川の加助(菅原文太)ら岡源組の面々が武装をして戦闘態勢を整えます。ピンクのスーツで胡散臭く決めた花巻(岸田森)ら敵対組織の橋伝組が進駐軍を抱き込んで勝手に縄張りで商売をしているのを発見したからです。
汗臭い菅原文太、胡散臭い岸田森、撮るのは岡本喜八、これは芸術です。当人たちは芸術呼ばわりは嫌がるでしょうけれど。
大喜びで殴り込んでショットガンをぶっ放す加助。進駐軍のジープを奪い取り、花巻のトラックとカーチェイスを始めます。大事な収入源の闇市を破壊しながら。この頭の悪さが全編を貫いているのです。
加助たちは仲間の隠れている広場に花巻たちを誘い込みますが、花巻たちはマシンガンを持っていて火力に勝ります。
そこで岡源の留吉(小島秀哉)は野球をして遊んでいる子供にレクチャーしながら打ち上げ花火を花巻のトラックにぶち込み、続いて加助がダイナマイトでとどめを刺します。
広場の野球シーンのホームランと重なり、ホームラン級のバカな導入でオープニングが始まります。
腰抜け警察の憂鬱
親分衆は小倉の警察署に呼び出され、進駐軍の司令官も列席の元和平会談を行います。とりわけ岡源(嵐寛寿郎)と橋伝(金子信雄)の子分たちの乱行に警察署長(藤岡琢也)はおかんむりです。
そうしている間にも警察署の前で加助たちは銃撃戦をしているのです。これぞ九州ヤクザです。
岡源は昔気質の侠客なので、成り上がり物をのさばらせちゃおけんと署長に啖呵を切ります。ただし、既にヨイヨいなので若頭の香取(中谷一郎)の通訳付きで。
岡源は基本的に自分では言葉を発しません。アホな役なのにそこは天下のアラカンなので貫禄十分です。この演技で日本アカデミー賞を取りました。
偉い爺さんの扱いが大得意の中谷一郎が若頭なので何となく強い組っぽく見えるのも喜八マジックです。中谷一郎は喜八一家と呼ばれたお気に入りの中でも一番出演本数が多い秘蔵っ子なのです。
一方、橋伝は言うまでもなく金子信雄なので理屈と民主主義をこねるばかりで任侠道など持ち合わせていません。岡源とは水と油です。
署長はとにかく喧嘩も何も民主主義で解決しろと無茶苦茶を言います。このままだと沖縄で全員強制労働だそうです。
当時の警察は進駐軍の締め付けで権力が弱く、ヤクザにも下手に出るしかないのです。ヤクザはこうして戦後に急激に力を伸ばしていったわけです。
宮下順子の色気
一方、加助は橋伝の連中に追いかけられて行きつけの小料理屋に逃げ込みます。橋伝の連中は店の主のお仙(宮下順子)に加助を出せと迫りますが、家探しをしようとするチンピラどもに包丁を突きつけ、おらんかったら指詰めろと啖呵を切って見事撃退します。
そして店先に塩をまいたまではよかったのですが、恐怖でへたり込んでしまいます。なんて良い女でしょうか。
慌てて助けに行く加助もデレデレです。自分の為に体を張ってくれたと大喜びですが、お仙は闇で仕入れた酒を守る為と言って相手にしてくれません。
お仙には惚れた男が居て操を立てているのです。小倉の前が下関、その前に広島、徳山、倉敷と流れて若松に辿り着いたことを語ります。しぐさの一つ一つが実に色っぽく、加助ならずとも惚れます。
加助は完全にお仙の色気にKOされ、「拝むけん一遍」と危険球レベルの口説き方をしますが、「一遍きりじゃおなごが損」と返し方までスケベです。
流石は日活ロマンポルノのスター女優です。少々ホモでもノンケに走るレベルです。しかし、彼女の映画をかける映画館は女に興味のない人の社交場になっているのは公然の秘密です。彼らは宮下順子にさえ靡かない鉄の意志を持ったガチホモなのです。
民主主義抗争
そこへ留吉が親分が呼んでいると伝言を持ってきます。喧嘩だと大喜びで駆け付ける加助。これぞ九州ヤクザです。
組へ行ってみると既に組員は勢ぞろい。三下の一六(福崎和宏)から相手は北九州全部と聞かされ、他の組員共々大ハッスルしちゃいます。志賀勝なんてヤケに決まった殺陣までやって絶好調。これぞ九州ヤクザです。
しかし、香取から筑豊侠友会なる親分の親睦会が作られ、世間に好印象を与える為に野球大会を開催すると聞かされて露骨に落胆します。これぞ九州ヤクザです。
岡源は姐であるきん子(伊佐山ひろ子)の通訳によると相撲の方がよかと主張したそうですが、橋伝は野球と民主主義はアメリカが本場とごねて野球に決定したそうです。
ヤクザは元力士も多いのですが、意外に相撲は強くないそうです。というのも、小指が無いと廻しが取る時に不利なのです。読者の皆様は、そういうヤクザに喧嘩を売られたらどうにかして相撲ルールにしてもらいましょう。
市長が優勝旗を出すので橋伝に渡すな。岡源の骨のある所ば見せちゃれと岡源が檄を飛ばすと(きん子の通訳で)、子分たちは俄然やる気を出し始めます。アラカンならではのカリスマ性です。
そして野球のルールはヤクザの仁義と同じなのでルールを破ったら指詰めて破門という「任侠野球」なる頭の悪いコンセプトを打ち出し、岡源の「任侠」の一言でお開きとなります。
しかし、加助は馬鹿馬鹿しいので参加拒否です。
ヤクザ式選手補強
町では親分衆と名士を集め、花巻が胡散臭い演説をぶって野球大会の開催を宣言します。流石岸田森です。こういう芝居を刺せたら日本一です。そして花巻は選手集めを始めます。この補強工作が岸田森爆発です。
手始めに友好組織から野球の上手いヤクザを助っ人に借ります。わざわざ古風な仁義を切るのが頭が悪くて最高です。本作は基本的にヤクザ映画のパロディなのです。
そして野球の上手い殺し屋を保釈金を積んで出してやり、これまた野球の上手いお尋ね者を取りなしてやり、賭場で負けの込んでいる元甲子園のスター選手に金を掴ませ、どんどん強化していきます。ソフトバンクもびっくりです。
一方、岡源組は補強に苦戦しています。変な傷痍軍人が監督をやらせろと申し出てきただけです。
控えながら甲子園に行ったという一六だけは元気一杯なので監督に任命されますが、誰も言う事を聞きません。
そうこうするうち橋伝は「橋伝カンニバルズ」なるチームを結成し、記念写真まで撮ってすっかり陣容を整えてしまいました。
戦争と野球選手
実力もやる気も明らかに負けている岡源は広場に渋々練習に行きますが、そこではさっきの傷痍軍人がパンパン(娼婦)を集めて野球をしています。
傷痍軍人はキャッチャーですが、松葉杖を突いているので左手は塞がっています。そこで右手にミットをはめ、ボールを捕ったら地面にミットを置いて右手でボールを再び捕って投げて器用にプレーしています。
これは現在行われている障害者野球で片腕の無い人がプレーするのと同じ方法です。無駄に先進的です。
それを観た留吉は一六に場所を空けさせるよう命じますが、パンパンは「日頃日の当たらんミットに日当てて何が悪いとね」「バットとボールはうちらのお得意さん」と下品極まる抗弁をして相手にしません。
しかも岡源は一番弱いという噂が立っていてすっかり舐められています。ヤクザ特有の暴力で留吉が無理矢理どけますが、傷痍軍人は1試合とんかつ一枚の契約でパンパンに野球を教えているとかで一歩も引きません。
しかし、ここで一六がこの傷痍軍人が黄金の右腕の異名を取った元プロの五味徳右衛門(フランキー堺)であることに気付きます。
野球選手が戦争の犠牲になったという悲劇は沢山残っています。アメリカ側にだって沢山あるのです。戦争とは嫌なものです。
とにかく五味の協力を取り付けていつの間にか「ダイナマイツ」と名前も付けた岡源組ですが、五味のノックに全くついて行けずパンパン達にもばかにされる有様です。
五味はとにかくどこでもいいから身体に球を当てて止めろと檄を飛ばし、自ら頭に打球をぶつけて身を持ってヤクザの野球を伝授します。
ところがそれでも岡源組は下手で、全員打球を食らって死屍累々の惨状です。それを観て呆れ顔の加助ですが、五味に三下呼ばわりされてブチ切れ、留吉に諫められて仲間外れになってしまいます。
球無しヤクザの悲哀
すっかりいじけた加助は遊郭へ遊びに行きますが、野球をやらないというので店の女に相手されません。狂っています。
一方どうにか五味の獲得で見通しの立ったダイナマイツの面々はお仙の店で凄い楽しそうに祝い酒をしています。お仙は野球が好きらしく、三振一つでキス一回という独自のインセンティブを付けてピッチャーの吹原(石橋正次)は大興奮です。
そこへ加助がやって来て話がややこしくなります。お仙は野球を馬鹿にする加助には酒を飲ませるわけにいかないと言ったもので店を破壊して大暴れです。狂っています。
闘争に価値を見出す九州ヤクザが闘争という自己表現の手段を失ったらどうなるか、そういう悲哀も悲壮感ゼロで盛り込まれているのです。
子供がまだ食ってる途中でしょうが
一方、花巻は岡源の対戦相手に何やら怪しい相談を持ち掛けています。なんでも選手を貸してくれるそうです。
兵隊に8年も取られてキャリアを潰した元プロのエースだそうですが、酒癖が悪いそうです。こいつを貸し出して岡源を潰そうという花巻の工作です。
出てきたのが芦刈の作蔵(田中邦衛)です。田中邦衛も喜八一家の内ですが、なるほど岡源には恨みがありそうです。伊佐山ひろ子の一番有名な芝居と言えば何といっても『北の国から』のラーメン屋ですから。
そうして華々しく野球大会が開幕を迎えます。岡源ダイナマイツのユニフォームは何故か腹巻き付きで背番号は手本引き仕様という狂ったデザインです。
「脱獄」「引導」「用心棒」など、決して一般の野球大会では出る事のない言葉が開会式からジャンジャン飛び出します。
そして、炭鉱や港湾労働者のチームが混じっているのがポイントです。これらの仕事はヤクザと不可分の物だったのです。戦後復興の暗黒史が覗きます。
九州死闘篇
一方、暴れ過ぎた加助は縛られて店の二階で目を覚まします。店に降りるといまや福岡の電話屋の犬となった北大路欣也が必要以上の眼力で酒を飲んでいます。右手の人差し指がありません。
名乗らない北大路欣也に怒った加助は一升瓶を投げつけようとしますが、逆に包丁を投げつけられてビビります。
そうとも知らず球場のスコアボード裏では花巻の指示で盛大に野球賭博が行われています。狂っています。
野球シーンは吹替無しです。田中邦衛の球は40過ぎのおっさんとは思えない良い球を投げます。
岡源組は地元住民の支持はあるようですが、元プロの球を打てるはずもなく、一六の投球もむなしく守備が雑過ぎて苦戦を強いられています。花巻たちは大儲けしたらしく大喜びです。
どうやら作蔵は対戦相手の立花組がストリップ劇場の権利と交換だったようです。作蔵は橋伝の鉄砲玉と知り、岡源の子分でも一番インパクトのある鬼熊(丹古母鬼馬二)が一思いにドスで片付けようとしますが、五味に阻止されます。
お仙もスタンドで応援していますが、そこへ加助が指の無い男が店に現れたと知らせに来て激しく動揺します。北大路欣也はお仙の亭主なのです。謝るお仙に「早く顔ば見せちゃれ」と男気を見せる加助。
誠意って何かね?
加助もついにチームに加わる決意をします。しかし、花巻の評価は「喧嘩は強かけど野球は大したことなか」という冷静なものです。
人気選手の加助ですが、作蔵は完全に舐め切っています。五味に引っ叩いてもらって気合を入れますが結局三振に倒れます。
一方お仙は店に到着しました。完全にメスの表情のお仙に北大路欣也は「飯」とそっけない態度です。刑務所帰りでかみさんが宮下順子ならこの場でおっ始めるのが本当だと思いますが、北大路欣也はこういう格好つけが許される役者なのです。
一方加助は作蔵がこっそり酒を飲んでいるのを見つけ、打席に立った作蔵にこっそり酒を与えて作蔵を潰してしまいます。回を追う度作蔵はダメになり、花巻は八百長を疑われて大騒ぎです。
そんな騒動も知らず北大路欣也は亭主関白をかましています。どうも加助とお仙の仲を疑っているようです。お仙を払いのけてどこか行ってしまいます。
ヤクザ式ホームラン
いよいよ試合は最終回を迎え、3点差で二死満塁、ホームラン宣言をぶち上げた加助をっ迎えます。
すでに人が三重に見えている作蔵はツーストライクまでは取りましたが、加助は外野に球を飛ばされてピンチです。
加助は二三塁間で挟まれてしまいましたが、一旦参ったをしてサードとショートの動きを止め、サードにボールを見せろと恫喝してサードがボールを話したところでそのままホームに生還。サヨナラランニングホームランで勝利を飾ります。
加助を胴上げしてお祝いをするお加減に対し、大損をこいた花巻はもはや電話に出る気力もなく意気消沈です。岸田盛が爆発しています。
加助はお仙に「プロ野球で買いに来んかのう」と自慢しますが、お仙は泣いちゃいます。港で語らう二人。諦めムードのお仙。
北大路欣也はノンプロ(社会人野球)の選手でしたが、ヤクザの親分の妾だったお仙とデキてしまし、指を詰めさせられて喧嘩の鉄砲玉に使われて刑務所送りになったそうです。
原子力バッテリー
そこへ加助は親分から呼び出しがかかり、言ってみるとそこには北大路欣也が。この橘銀次(北大路欣也)は岡源の岩国の兄弟分が送り込んでくれた助っ人なのです。
お仙の一件で最初から喧嘩腰の銀次。香取から「喧嘩は手が早い」と紹介され、「女にも手が早いんじゃないのかな」とビーンボールを投げてきます。
加助も加助で「わしゃあ人のカカア専門ばい」とピッチャー返しで応戦です。
銀次は非協力的で練習にも参加しません。野球に本気になった加助に怒られますが、若い分必要以上に派手なフォームで投げた瞬間試合に切り替わり、8連続三振で花巻を再び大損させます。
銀次の無い指から繰り出される変化球にバッターも加助もきりきり舞いで、二人は喧嘩しながら三振の山を築いていきます。
試合が終わったら加助はボロボロですが、銀次は何か嬉しそうに手拭いを差し出しちゃいます。しかし、お仙には相変わらず冷たい態度です。
お仙の気持ちは加助に傾き始めています。しかし、加助は銀次が居るからいけないと男気を見せます。
岡源組は宴席を用意して「原爆ピッチャー」という頭の悪いキャッチフレーズの付いた銀次を労います。しかし、岡源が先に帰ったところで事件が起こります。
指に感心した吹原に銀次が怒り、酒をかけたことで一気にヒートアップ。加助が吹原を殴り倒し、銀次と加助の決闘の流れになります。
スタンピートデスマッチ
九州らしくボタ山(石炭屑)の中でお仙を巡り、銀次の誤解を解こうと殴り合いをおっぱじめます。銀次も修羅場をくぐってきているので強いのです。
見物人が金を賭けるギャグパートも入りつつ、ボタ山で黒くなりながら二人は凶器まで持ち出して殺す気満々です。
上手い具合に雨が降り、シャベルを両者持ったところでお仙が止めに入ります。当初の目的は果たしたというのに加助は悔しそうです。
一方岡源は子分たちの醜態も知らず、贔屓の芸者の千代龍(桜町弘子)と飲んでご機嫌です。
そこへ料亭でも行儀の悪い橋伝が嫌味を言いに来ます。岡源は千代龍の通訳で必勝を宣言しますが、橋伝は「それで戦争も負けたたい」と嫌な事を言います。
そして千代龍が勢いで縄張りを賭けるという勝負に応じてしまいます。勝手に証文まで書いてしまう千代龍。九州は芸者も血の気が多いのです。
仁義なきFA
橋伝には勝算がありました。花巻を銀次の元に走らせ、金と身元引受人の岩国の親分を掴ませて引き抜きにかかります。
花巻は「あんたの野球は男尽くしの渡世の野球」と謎理論を展開して銀次を承知させます。お仙は当然こんな工作に良い顔をしませんが、銀次は「男のやる事に口出しするんじゃねえ」とマンコントロールを振りかざします。
そんな銀次をお仙はいじらしくも仕立てたばかりの着物を着せて送り出します。これぞ日活ロマンポルノの女です。
花巻は野球賭博の賭け率も操作して一気に負け分を取り返しにかかります。加助は留吉からその話を聞いて組員の暴走を危惧しますが、案の定組員たちは殴り込みに行こうとして大騒ぎです。
加助は香取からショットガンを奪い取って「命のいらんとはかかってこんか」と無理矢理阻止しましたが、母親の仏壇に手を合わせ、ド派手な鯉の彫り物をサービスショットとして披露し、一張羅に着替えて自分で殴り込みに行く決意をします。
小島秀哉という役者
しかし、殴り込みを察知した白装束の留吉が待ち構えています。ナフタリン臭いと軽口を叩きながら一緒に殴り込みに行きます。
健さんと藤山寛美のコンビの殴り込みは何回かありました。パロディらしく後継者同士でというわけです。こんなの松竹新喜劇じゃやりません。
留吉は意外に強く、留吉がザコを相手している間に加助は銀次を目指しますが、結局二人とも健さん程強くないので、傷だらけになるわ刀は折れるわで泥臭く橋伝の元までたどり着きましたが、橋伝は野球のユニフォームに二丁拳銃という凄い格好で待ち構えていて、天津敏程潔く切られてくれません。
ザコに取り押さえられて二人が殺される直前で銀次が姿を現し、銀次は差サシの勝負を提案します。しかし、加助に明らかにハンデがあります。
留吉が止めるのも聞かず二人はハンデキャップマッチに挑みますが、加助はハンデを跳ね返すことができずに切られて虫の息です。そしてこれからという所で警察がやって来て没収試合で加助は敗れるのでした。
小島秀哉は基本的に舞台役者なので、殆ど映画やテレビには出ません。この映画が文句なしに代表作として残ったわけです。
狂ってる
二人は病院でぐるぐる巻きになって橋伝の決勝進出の知らせを聞きます。
銀次は準決勝を27奪三振で片付けましたが、和田山の繁蔵(ケーシー鷹峰)なる骨のあるヤクザが両打席に方足ずつ足を置き、デッドボールで完全試合を阻止します。情け容赦なく頭にボールをぶち込む銀次。卒倒する繁蔵。
ルールブックには駄目と書いてないという説明ですが、たぶん本当はダメと書いてありますし、そもそもデッドボールにはならないはずです。
しかし、繁蔵は一家を完全試合の汚名から命がけで救ったというので親分は泣いていたそうです。そしてもらい泣きする留吉と加助。狂っています。
一方、決勝は審判を怖くて誰も引き受けてくれないので開催が危ぶまれています。そこで署長が警察から強面の中谷(大前均)という警官を審判に出すことで決着します。ただし、中谷は野球のルールを知りません。
大前均はこういう役ばかりです。つまり、こういう役は全部もらえるという事です。職業人として大事な事です。
究極の野球賭博
一方、岡源組は銀次になんとしても復讐しようと殺る気満々です。ピッチャーに戻った吹原はデッドボールを宣言し、組員たちはメリケンサックをグローブに仕込み、スパイクの歯を殺傷力のあるレベルに尖らせ、胡椒入りミット、鉄板入りユニフォーム、鉛入りバットと最高に頭の悪い凶器製造に余念がありません。
五味が凄い気迫で止めて残念ながらこれらの凶器は封印されましたが、人間凶器である加助と留吉が命を捨てる覚悟で駆け付けてきます。
そしてこれに続いて千代龍たちが殴り込みを警戒されつつ激励の為に樽酒を届けてくれます。
気勢を上げる組員たち。しかし、千代龍が焚き付けた縄張りの件を組員たちは知りませんでした。固まる組員たち。
証文が読み上げられ、怒られる千代龍、もはやこれまでと自決しようとする岡源。悲壮感の全くない修羅場です。
そこへ姿をくらましていたお仙が帰って来たと加助に報告が入ってきます。店に行くとお仙は酔い潰れています。
岩国の親分の所へ掛け合いに行って失敗したのです。男気を見せて優しく励まし、組の半纏をお仙にかけて去っていく加助。
ヤクザ二人に花束を
水盃をして盃を叩き割り、きん子に火打石で景気を付けてもらい、芸者衆の応援も取り付けて大一番に赴く岡源組。歌舞伎以来の古式に則ったヤクザのフォーマットを完璧に抑えています。
一方橋伝は作蔵のカタに手に入れたらしいストリッパーを応援に野球賭博に精を出します。署長も賭けちゃいます。そして「ダイナマイト」「どんどん」のダイナマイツの号令の元試合が始まります。
銀次には「銀次いのち」とメッセージの付いた花束が届けられます。そして銀次が腕まくりをすると「おせん命」の刺青が。かなり狂った愛情表現です。
加助にも同様の花束が届けられますが、メッセージは「かんにんね」です。気を利かせてメッセージは破り捨ててしまう留吉。
そして両方貰ったことを知って余計に拗れる二人。日活ロマンポルノ仕込みは違います。魔性の女です。
ノールールでやったれ
丁半で先攻後攻を決め、五味はプロ時代(セネターズ)のユニフォームで気合を入れ、プレイボールとなりますが、先発の吹原の三者連続デッドボールで早速乱闘寸前になり、暴投で3人とも帰って来ていきなり3点先制されてしまいます。
吹原に殴り掛かる加助。なんと吹原は魔球を投げる為に指を詰めていたのです。吹原のいじらしくも悲しい献身に涙を流す五味。留吉にピッチャー交代です。
しかし留吉は手負いなので打たれてしまい、岡源は暴力で進塁を阻止しようとします。ほとんどラグボール状態です
中谷に得意の柔道で加助は投げ飛ばされてしまいます。大前均は柔道五段のつわものなのです。
次のバッターは銀次なので当然頭に一撃です。乱闘になる両者。警察と進駐軍がどうにか止めます。結局6点も取られてしまいました。
鬼熊は五味が引っ込んでいる間に懲りずに作った仕込みバットで決着を付けようと提案しますが、これを使うのは最後の最後だそうです。しかし、銀次の変化球に岡源はまったく歯が立ちません。
そこでデッドボールで塁に出ようとしますが、ストライクの球に当たってもデッドボールにはならないので芳しくありません。何としても男を立てたい吹原は仕込みバットを持ち出しますが、加助に殴られて叶いません。
しかし、銀次の方がお膳立てして、満塁で加助の打席を迎えます。いちいち頭に当てるので中谷は殺人での逮捕をちらつかせて脅しますが、銀次は「先にアンパイアを片付ける」と物騒な事を言います。
早い話が中谷にぶつけます。何故か嬉しそうな署長。かくして野球とは明らかに別種の決闘の舞台が整いました。
ツーストライクまで簡単に取られ、留吉に仕込みバットを勧められますが拒否、キャッチャーをバットでぶん殴って打撃妨害で塁に出ます。
留吉が打ちますが、当然ランナーと内野手の喧嘩になり、客席は大盛り上がりです。ストリッパーに至ってはついにオッパイをさらけ出します。
第七艦隊対組織暴力
縄張りがかかっていることを知ったお仙は銀次に泣きついてどうにか試合を止めようとしますが、銀次はお仙の言う事などもとより聞きません。
攻守入れ替わってもやっぱり乱闘になり、ついには進駐軍が発砲するに至ります。進駐軍の偉い人は洞海湾に第七艦隊を差し向けると脅しますが、署長は徹底してやれと両チームを焚き付けます。
お墨付きを得て乱闘はますます激化し、ついには五味も松葉杖を振り回して参戦です。これぞヤクザです。
そして迎えた9回裏、加助はサヨナラホームランで勝利を飾ります。大喜びでダイヤモンドを回る岡源をしり目に静かにマウンドを降りる銀次。
最後は盛大に
破れかぶれの橋伝は乱闘を吹っかけ、観客も巻き込んで大乱闘になります。昭和の全日本プロレスでよく見かけた光景です。署長は「第七艦隊でも何でも連れてこい」と警察の職務を完全に放棄です。
銃声の響く中、優勝旗を巡って最大の見せ場である大乱闘は続きます。五味が足を撃たれますが、義足なので無事でした。高みの見物を決め込んでいた花巻は逃げ回った挙句野球賭博で逮捕されてしまいます。
お仙も加勢し、加助は「一遍だけ」と持ち掛けちゃいます。一人スタンドにたたずむ銀次。しかし、一同は結局沖縄に送り込まれてしまうのです。
背番号の入った作業服で強制労働に従事する岡源組。ホームランを自慢する加助ですが、五味はわざと打たせたこと見抜きます。自分も出征するライバルに打たせたことがあるのです。
そこへ橋伝がリターンマッチを申し込みに来ます。銀次を先頭に乗り込んでくる橋伝。試合に赴く両チームの姿で映画は終わります。
BL的に解説
岡源組ホモ集団説
岡源組の連中はどいつもこいつも親分が好き過ぎます。そりゃあヤクザなんて親分ラブでないとやってられない稼業ですから当然と言えば当然ですが、にしたって限度があります。
もはやヨボヨボで親分としての実務をこなすのはほとんど不可能の岡源なのに、子分たちは岡源の「任侠」の一声で野球もすれば人も殺す。ヤクザとしては相当な精鋭集団です。
何故そこまでするのか?実際立派な人物だったと伝わるアラカンのカリスマと言えばそれまでですが、やっぱりこれは組員=小姓という図式と考えるのが自然でしょう。
岡源はあの歳でもやけに若い姐さんを持ち、馴染みの芸者を持つ性豪です。夜のチャンバラはあの年でもお手の物なのです。
任侠の何たるかを身体で叩きこまれた子分たちは愛する親分の為に身体を張ります。彼らにとって組の為に死ぬことは岡源への愛の証明なのです。
岡源が野球より相撲がいいと主張するのも意味深です。考えて見て下さい、極彩色の彫物に身を包んだ侠達が褌一本で激しく絡み合い、一線を越えたり越えなかったりする様は完全にゲイポルノです。
古い薔薇族など紐解くと、相撲大会のビデオの通販広告などが乗っていたものです。ゲイの国が建国されたなら、相撲やっぱり国技となることでしょう。露出の乏しい野球は岡源にはつまらないのです。
吹原なんて指まで詰めちゃいます。普通指は消去法的に左手の小指から詰めるものです。しかし、吹原は必要上大胆にも右手の人差し指です。
そもそもヤクザの指詰めというのは遊女が馴染みの客に愛の証として差し出したのが起源とされています。つまり、組の為に詰める指は愛情表現なのです。
岡源×吹原
特に吹原の組への忠誠心は群を抜いていました。野球大会というのに「わしゃ死んでもよか」と必要以上にハッスルして加助に「特攻づくな」とたしなめられる有様です。
特攻隊の生き残りは一度は死んだ身という事で命知らずが多く、ヤクザに重用されました。当時のヤクザ社会におけるある種のトレンドであり、偽物も大勢いたそうですが。
そして、特攻隊はBLではともかくゲイポルノの世界においては非常に人気の高いジャンルです。小説でも漫画でも、名のある作家なら一回は書いています。ヤマジュンさえも。
そんな吹原にとって岡源は一度は死んだ自分を拾って育ててくれた恩人なのです。なれば岡源に助けてもらった命を岡源の為に捨てるのは本望なのです。
上手くはいきませんでしたが選手獲得の前哨戦でも先陣切って頑張り、ピッチャーとしてマウンドに立ちます。彼こそ陰の功労者です。
特攻隊に行くという事は旧制中学くらいは出ているという事であり、それなりに利口です。銀次の投球に感動した吹原は宴席で銀次にお流れを貰いに行きます。
しかし、指の件で銀次が怒り、香取が取りなしますが銀次はケツの穴の小ささを遺憾なく発揮してしまいます。
こうして二人に遺恨ができ、吹原は魔球を投げたい一心で指を詰めてしまうのです。
銀次に酒をかけられた瞬間、銀次への敬意は石炭よりどす黒い敵意と嫉妬心に変わったのです。銀次を倒すため、岡源を守る為、指の一本何とするというわけです。
しかし、吹原の特攻精神はチームの結束には寄与しましたが、魔球は投げられませんでした。そして吹原は仕込みバットで銀次を殺そうとします。
岡源への愛、銀次への敵意と嫉妬、死に花を咲かせたいという哀しい欲望。これらの複雑な感情が核反応を起こした吹原こそ本当の「原爆ピッチャー」だったのです。
銀次×加助
バックボーンを明確にしたところで本題に入りましょう。加助と銀次のお仙の奪い合いが物語の一つの軸になっています。しかし、段々お仙はコンドーム化していきます。
第一印象は最悪な物でした。加助にとってはお仙が振り向いてくれないのは銀次のせいであり、銀次は加助にお仙を取られたと疑っています。
加助の方は銀次が戻って来たので手を引くくらいの理性はありました。むしろ銀次の方がお仙にのぼせ上っているのです。
何しろ宮下順子です。ナイターは相当アブノーマルなトリックプレーの連発になったことが予想されます。阿部定さえ演じきった70年代のセックスシンボルですから。
だからこそ銀次は指を詰め、喧嘩に明け暮れ、刑務所に入ってもお仙を愛しているのです。股間の球をがっちり捕球されているわけです。
それ故銀次のジェラシーは醜いものになりました。加助に包丁を投げつけたのだって、別に死んだら死んだでいいやという強硬な意志が見て取れます。
銀次は加助の登場で身を引く決意を固めました。しかし、銀次はというとすっかり男のジェラシーを爆発させてお仙にも冷たい態度を取ります。存外ケツの穴の小さい男です。島根か広島の刑務所で脱獄常習犯と一緒にアンコを掘りまくっていたに違いありません。
岡源に助っ人として招かれても相変わらケツの穴の小さいままです。加助は素直になれない銀次に怒り、嫌味を言って変な踊りで茶化して攻撃です。
しかし、二人はバッテリーを組みます。バッテリーはデキる。これはBLにおける万古不変の鉄則です。銀次はケツの穴が小さく、加助がキャッチャーなので攻め受けは決める事が出来ます。
球を投げる。受ける。これは事実上のセックスです。加助は基本的に野球が下手なので銀次の球にボロボロになりますが、根性は大リーグ級なのでボロボロになりながら球界を戦い抜きます。いきなりSMです。流石宮下順子の亭主は違います。
死にかけの加助に銀次は手拭いを差し出します。この瞬間、二人に愛が芽生えたのです。お仙にこんな優しい振る舞いはしません。アブノーマルなセックスの行きつく先はホモセックスなのです。
しかし、二人のつかの間の愛は吹原へのケツの穴の小さい振る舞いによって脆くも崩れ去り、核爆発を起こします。加助は岡源組がお仙より更に好きだったのです。
二人の喧嘩は殺すか殺されるかという所までヒートアップしますが、お仙が止めました。銀次の方が若干上回ってはいますが両方好きなのです。これが日活イムズです。
タイマン張ったらホモ達なので、二人はこのまま喧嘩しながらバッターを打ち取ってホモ臭く友情を深めていく道もあったはずですが、花巻が横やりを入れて銀次は橋伝に引き抜かれてしまいます。
当然殴り込みに行こうとする岡源の面々。しかし、加助は仲間を恐ろしい迫力で阻止しつつ、自分一人で抜け駆けして殴り込みに行くのです。
あいつを殺すのは俺だ。俺意外にあいつを殺させたくない。仏前に手を合わせながら加助はそう決意したのです。
結果として留吉が加勢しましたが、銀次自ら申し出てサシの勝負が実現します。愛するお前と殺すか殺されるか。これはセックス以上の愛の究極形です。しかし、警察の介入で先っちょだけに終わってしまい、不完全燃焼のまま決勝戦へとなだれ込みます。
情け容赦なく岡源の面々を打ち取っていく銀次。しかし、岡源が縄張りを賭けているとお仙から聞かされ、満塁にしてアンパイアを始末し、最終決戦の舞台をお膳立てして加助と対峙します。見つめ合う二人はもう完全にホモです。お仙は完全にコンドームに堕ちました。
てかこの作品の北大路欣也は全体的に眼光が鋭すぎます。完全にホモです。梨園出身の父親から男の英才教育を受けていたと言われても驚かないレベルです。実際どうなのかはわかりませんが、北大路欣也にはそういう噂は古くからある事は記しておきます。
そして銀次は手加減をして、加助はホームランで岡源を守り切ります。マウンド降りる銀次はどこか満足げです。賢者モードに入ったのか、乱闘にも不参加を決め込みます。
結局二人ともお仙に手を出した様子無くそのまま沖縄へ送られてしまいます。沖縄には男ばかり。そしてリターンマッチを挑みに来た銀次の顔の嬉しそうな事。
二人きりのナイターゲームはお互いにお仙の影を観ながらアブノーマルに燃えるのです。お仙はそんな扱いにさえ欲情してしまいます。東映のホモソーシャルと日活のアブノーマルが奇跡の化学反応を起こしたのが今作なのです。
加助×留吉
このカップルを忘れてはいけません。二人はガチホモバーサーカー軍団である岡源組の飛車角に位置する大物です。
銀次引き抜きの際に留吉は殴り込もうとしていましたが、加助に阻止されました。しかし、加助の抜け駆けを見抜いて一緒に殴り込みに行くのです。
ナフタリン臭いなどと軽口をたたきつつ、一生に一度の殴り込みと二人は死地に赴きます。これは事実上二人の心中です。ナフタリン臭いのを上回るホモ臭さです。
心中は歌舞伎の定番、歌舞伎は松竹のシマなので、松竹新喜劇仕込みの小島秀哉にはお手の物なのです。
二人してにっこり笑い、そして一転深刻な表情になって殴り込みに向かう様は、日本映画史上に残るホモソーンと名高い『昭和残侠伝』の健さんと池辺良の相合傘に勝るとも劣りません。
ここで注目したいのは、黒い着物の加助が右、白い着物の留吉が左と並んでいることです。これは結婚式のフォーマットではないですか。つまり留吉が受けなのです。
しかし二人の心中は完全な失敗に終わり、加助は銀次に切られて倒れます。そんな加助を留吉が抱き起す様に興奮しないようじゃ嘘です。
二人はぐるぐる巻きにされて病院送りになります。二人は完全に傷を舐め合う仲です。そして二人して和田山の繁蔵の捨て身のパーフェクト阻止に二人して涙を流すのです。
そして二人は死に場所を求めて手負いの状態で試合に臨みます。お仙に花束を貰って加助は元気いっぱいですが、メッセージは留吉が破り捨てています。完全に嫁です。案外今作のベストカップルかもしれません。
五味×榊原
五味は沖縄でわざとホームランを打たせた思い出話を語ります。投げた本人にしか分からない打たせる秘法があるのだそうです。
時は昭和19年、セネターズの五味とイーグルスの榊原はライバル同士。両チームの優勝決定戦を最後に出征する榊原に五味はサヨナラホームランを打たせたのです。
後悔はないがあいつは戦死したと悲しそうな顔をする五味。なんて悲しい悲恋物語でしょうか。五味は戦争で足と戦友を失い、永遠に苦悩しつづける運命なのです。
ここで「見える物を増やすのがBLのコツ」というわけで、野球の知識に基づいて一つ。五味の所属するセネターズは英語で上院議員という意味です。
貴族院議員である有馬頼寧伯爵がオーナーであった事からこの名前になりました。この有馬伯爵の三男が有馬頼義、この人こそホモ映画の金字塔『兵隊やくざ』の原作者です。
一見何の関係のない知識でも、繋ぎ合わせればBLに辿り着く。見える物を増やすというBL的映画鑑賞の極意に触れたところでゲームセットとさせていただきます。
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独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します
『トラック野郎 御意見無用』(★★★★★)(文太兄ぃのコミカル面)
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私も賭博で負けた後なんですよ