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第95回 フィリップ、きみを愛してる! (2009 仏)
本日4月4日はオカマの日…というのは最近は良くないので、LGBTの日と言うのだそうです。もっとも、当事者の意見はまちまちですが。
こんな日なのでガチホモの映画で行きましょう。それも、今回は実話をもとにした映画で。
というわけで、今回は『フィリップ、きみを愛してる!』でお送りします。実在するゲイの天才詐欺師、スティーブン・ラッセルの伝記映画であり、刑務所物であり、純愛ラブストーリーです。
リュック・ベンソンが製作総指揮、スティーブンがジム・キャリー、その恋人がユアン・マクレガー、名前だけでホモ臭むんむんの組み合わせです。
愛の為に脱獄を繰り返す男の情念はもはや野獣先輩であり、恐ろしい事に実話です。ノンケの皆様もきっと楽しめる秀逸な仕上がりです。
フィリップ、きみを愛してる!を観よう!
U-NEXTで配信があります。Amazonでも有料配信。しかし、ここはソフトを買って吹替で見ましょう
真面目に解説
仮面のカミングアウト
繰り返しますが、この映画は実話がベースになっています。ジム・キャリー演じる主人公のスティーブン・ラッセルは実在の人物なのです。
IQ169の天才でゲイという時点で凄いですが、なんと妻子持ちの警官です。家族仲は良好、週末には教会でピアノを弾き、極めて善良に生きています。
アクションバリバリのホモ刑事軍団に居るでもなく、マフィアとの友情で板挟みになるでもなく、悪さと言えば男と浮気する程度。水野先生もがっかりする平凡なお巡りさんであります。
スティーブンはそこから年月を経てアメリカでは知らない人の居ない犯罪者に進化していくのです。
徐々に壊れていく様はまさにキャリーの名人芸で、流石は『マスク』で天下を取った男だと感心させます。二面性のある役が得意なのです。
キャリーは金を出してでもこの役をやりたいと志願したそうなので、やはり役者は一度はゲイをやりたいものなのでしょう。
男色系男子スティーブン
スティーブンは養子に出された過去があります。ですが里親に犯されてゲイになったとかそういう壮絶な背景はありません。友達と空の雲を眺めてウインナー(意味深)雲を見つけてはしゃぐ程度のナチュラルゲイです。
しかし、実の親に会いたいと思うのは当然の発想で、スティーブンは警察の捜査記録を持ち出して実母を見つけ出しますが、拒絶されたせいでおかしくなってしまいます。
警官を辞めてヴァージニアからテキサスに移住し、セールスマンに転身します。そして奥さんに隠れてホモライフを満喫するのです。
この時点で2つの犯罪を犯しています。警察の販売記録を持ち出した事、そしてホモ行為です。おぞましい話ですが、テキサスではまだ犯罪だったのです。『ブロークバックマウンテン』とはえらい違いで笑っちゃいます。
しかし、交通事故に遭って死にかけたせいでますますおかしくなり、奥さんと離婚してゲイとして生きる決意を固めます。しかも、奥さんのデビー(レスリー・マン)は敬虔なクリスチャンなのにそれを許し、離婚後も良好な関係を続けます。良い奥さんです。
このように、ゲイである事への悲哀は作中を通して全く描かれません。本当はゲイは恥じる事ではないのです。常人の倍もIQが無くても分かる事です。
映画自体は死にかけているスティーブンの回想として始まりますが、それさえも笑いに昇華します。まあ見て下さい。
ダークホースのダークホース
スティーブンはフロリダに移り住み、無茶苦茶セクシーな恋人のジミー(ロドリゴ・サントロ)と派手な新生活を始めます。
ジミーには髪の毛があるので気付く人は少ないでしょうが、ロドリゴ・サンドロと言えば『300<スリーハンドレッド>』のガチホモ大王クセルクセスです。
つまり、スタンリー・イプキス×クセルクセスというダークホースコミックが誇る変態同士のカップルです。後述しますが『ヘルボーイ』もちょっと絡んで来るので、この映画は実質アメコミ映画かも知れません。
しかし、派手な暮らしをしているのでスティーブンは金が尽きます。ここから天才的犯罪者としてスティーブンは飛躍していくことになるのです。
「ゲイは金がかかる」というスティーブンの言い訳が笑わせます。こんな映画なのでゲイからの評判はあまり良くありません。
47番と3番は
やがて罪は露見し、スティーブンは刑務所に入ります。この刑務所描写がホモネタの大安売りでもう最高なのです。煙草とおしゃぶりが通貨というのが笑わせます。
ゲイに厳しいはずのテキサスで、刑務所がこんなにもホモ祭りなのは変だと思うかも知れませんが、それなりに根拠はあります。
というのも、犯罪者は往々にしてホモフォビアですが、刑務所に入る機会が多いので、ムショでのホモはノーカンという不文律があるのです。勿論、ガチホモになってしまう悪党も居ます。これを覚えておけば全ての犯罪映画はゲイポルノです。
最初からホモなのである意味金持ちのスティーブンは刑務所に順応し、やがてイケメンでお人よしのフィリップ・モリス(ユアン・マクレガー)と出会います。
フェンス越しに彼を見て一目ぼれしたスティーブンは、図書館で高い所にある本を取ろうとするフィリップの上から本を取ってやり、一気に距離を詰めるのです。
かなりの萌えシーンです。これに比べれば『耳をすませば』なんておままごとでしかありません。
運輸省関係の仕事をしています
というのは『トラック野郎』の桃次郎がマドンナ相手に身分を偽る時の決まり文句ですが、スティーブンはこれが大得意です。
フィリップを前に弁護士だと偽り、彼のエイズの友達に治療を受けさせる方法を伝授し、あまつさえ弁護士のふりをしてフィリップを釈放させ、知り合いの弁護まで請け負って勝訴してしまいます。
終始フィリップは身分をあれこれ偽り、七変化で罪を重ね続けます。しかし、フィリップへの愛だけは不変です。それもまた重要なテーマなのです。
良い奴フィリップ
フィリップはイケメンで優しい最高の男です。ホモフォビアでもホモに走るレベルです。
何しろマクレガーと言えばオビ=ワンです。ジェダイなどホモに決まっています。しかも、老いたらアレックス・ギネスになるのです。この人は本物のゲイでした。
しかし、その美しさと優しさの為に身の危険に晒されます。そんなフィリップを護るのが誰あろうスティーブンなのです。
男に弄ばれた過去が語られるのも滾ります。ブロードウェイのプロデューサーのアシスタントのふりをしてしゃぶる仕事をしていたというのは笑いどころです。
ブロードウェイでゲイを隠す必要などありません。むしろ、ストレートを隠さなければいけない世界です。
そしてその後はアパッチ族の愛人になり、野球のユニフォームでイメージプレイをしたというのも個人的にはかなり意味深です。
野球にインディアンとくればクリーブランド・インディアンスです。最も有名な選手はチャーリー・シーン、そして多田野数人。このくらいの事はベッソンは分かっていたはずです。
天使がラブソングを…
刑務所物の映画において欠かせないのが調達屋です。禁製品を持ち込み、手紙を届け、その他あらゆる事を看守の目を欺いてやってのけるこの役回りが映画の出来を左右します。
本作の調達屋がガタイの良い黒人のクリーヴォン(マイケル・マンデル)で、彼こそがスティーブンとフィリップの天使です。愛のキューピット兼守護天使です。
口は悪いですが仕事に絶対の誇りを持っていて、決して仕事をしくじりません。2人の愛はこの男なくして成就し得なかったでしょう。
特にフィリップのリクエストで音楽をかけ、看守に殴られても止めないのはプロのあるべき姿です。
『恋のチャンス』と看守の罵声の中で踊るスティーブンとフィリップの姿は本作の最尊シーンです。『女王陛下の戦士』と並ぶ男同士のダンスシーンでありましょう。
ハッタリ士業ライフ
弁護士に化けてまんまとフィリップを釈放させたスティーブンは、今度は会計士と身分を偽って大企業のCFOに就任します。
会計の知識など全くないのにハッタリで全てを成功させ、社長で元宇宙飛行士のリンドホルム(アントニー・コローネ)にも気に入られ、ゴルフやパーティーに同席する仲になります。
しかし、スティーブンは頭が良すぎました。一般にIQが20違うとコミュニケーションが困難になると言われているので、IQ169のスティーブンは常人とは2,3三段階も合いません。
うんざりしたスティーブンは悪知恵を働かせて横領に手を染め、そのコミュニケーション困難の為に滅んで行くのです。
クライムサスペンス?
本作は一応犯罪映画になるのでしょう。それに、スティーブンは高名な犯罪者です。
しかし、その犯罪はかなりしょぼいのが興味深い点です。人を傷つけたのは刑務所での喧嘩騒ぎ程度で、あとは詐欺と脱獄だけ。詐欺の相手も金持ちなので、世間に与えた損害はたかが知れています。
なのにスティーブンが犯罪史上に名を残したのは、その手口の鮮やかさと、ゲイの恋人への愛という動機のエキセントリックさです。
同じ連続脱獄犯の映画でも『脱獄広島殺人囚』は死刑にならないのがおかしいレベルなのを考えれば、この映画は脱獄物の中でも異彩を放っています。
もっとも、『脱獄広島殺人囚』のモデルの人物は、愛する人♂の為に脱獄を辞めたのです。日本ではホモが脱獄を阻止し、アメリカではホモが脱獄を動機付けるのです。
いずにれにしても、男同士の愛の重さを物語る、貴重な史料と言えましょう。
エイズの脱獄王
スティーブンの経済犯罪は終わりを告げ、終盤には怒涛の脱獄ラッシュが行われます。殆ど芸術です。全てはフィリップの為です。
しかし、フィリップはスティーブンの嘘で固めた人格に嫌気がさし、関係に亀裂が走ります。
おまけにフィリップはエイズになり、命の危機に瀕します。しかし、スティーブンはそれさえも乗り越えてしまうのです。
ここから先はネタバレになるので、観てからお読みください。圧巻です。
BL的に解説
絶対に吹替で!
残念ながら本作はネットでは字幕版しか配信されていません。しかし、これは吹替で見るべき映画です。
スティーブンが藤原啓治、フィリップが森川智之です。これは何をいわんや、ガイ・リッチーのガチホモホームズと同じ組み合わせです。
ワトソンはヘタレ攻めですが、フィリップは明確に受けです。つまり、吹替だと森川受けが堪能できるわけです。
もはや森川智之はスタローンや室田日出夫と並ぶ本noteの主演になりつつあります。しかし、攻めがたまに受けると非常に興奮するのは腐の皆様なら納得いただけるかと思います。
そして、テキサスに森川智之とくれば『ブロークバックマウンテン』のイニスです。イニスはジャックが髭もじゃのカウボーイと浮気して怒り狂っていました。
あの髭もじゃはデヴィッド・ハーバーです。つまりあまり評判の良くないリブートの『ヘルボーイ』なのです。
ダークホースコミックスと縁の深い本作なれば、ノンケもやはり吹替で見るべきです。スーパーマンの倅がホモだからというので大騒ぎになりましたが、ダークホースは常に時代のダークホースなのです。
ジム・キャリー、迫真のガチホモ芝居
ジム・キャリーのホモ演技はノンケ離れしています。というのも、本作の最初の10分はスティーブンがホモである事が明かされません。唐突にホモセックスのシーンが入り、その瞬間スイッチが入るという演出です。
そこからはもう仕草の一つ一つがゲイっぽく見えます。これは並大抵ではありません。痺れます。
同じ演出が行われ、役者が完璧に応えた映画をもう一本知っています。ケヴィン・クラインの『イン&アウト』です。ちょっとした仕草でゲイとしての説得力を持たせる。これはノンケにはできない芸当だと私は信じます。
スティーブン×フィリップ
勿論ここから始まります。デビーはよき理解者ですがコンドームでしかありません。もっとも、娘が居るから使わない日もあったのでしょうけど。
そもそも、スティーブンがフィリップを始めて見たのは電話口でした。デビーは留守。そして、フェンス越しにフィリップを見出して一目ぼれします。デビーは知らない間に2人の仲を取り持っていたのです。
図書館で弁護士だと偽って親切にするのは、明らかに損得を越えた感情が内在しています。
友達の命と引き換えにしゃぶれと求めるのは簡単で、フィリップの性格からして応じたでしょう。しかし、スティーブンはそんな肉体だけの関係は望まないのです。相手の性別を問わず、愛の為にスティーブンは生きているのです。
そして、スティーブンが弁護士だと名乗った事が後々効いてきます。これはもう愛の女神のお導きです。腐女神です。
金髪碧眼のゲイが中庭に出るのは危険というフィリップの言葉でスティーブンの顔色が変わるのにご注目下さい。チャンスに目をぎらつかせています。
デビーに友達が出来たと手紙を書くなどと言ってはしゃぐスティーブンですが、フィリップは心から残念そうに今日これから別の棟に移される事を告白します。もう2人は心でセックスしているのです。
しかし、スティーブンはホモは文豪としか言いようのない甘い愛の言葉をささやき、スーパー攻め様アングルをおっぱじめます。
手始めにフィリップの房に物凄く細かい字のラブレターとチョコレートを差し入れます。
フィリップは糖尿病だというのにこのチョコを食べちゃうのです。これは何気ないですがかなりヘビーな愛情表現です。
そしてをクリーヴォンを介して文通が始まります。まずは文通から。古風ですが王道です。王子様と王子様の愛の物語です。
デビーへの愛も語る一方で、SとMどっちが好きかなどと猥談も混ざるのが笑いどころです。そして、フィリップのすぐに会いたいという言葉がスティーブンを野獣に変身させます。
3日に渡って連絡が途絶え、パニックに陥るフィリップ。しかし、そこへスティーブンがやってきます。
コネを使って移ってきたのです。手口は明示されませんが、多分色んな人のウインナーをしゃぶったのでしょう。しかし、ゲイの世界ではそれは最大の愛情表現の一つです。
そして興奮したフィリップはその場でしゃぶり始めます。エキサイトして噛んじゃうのがキュートです。
寝物語に男遍歴を語り、いい奴だったといちいちフィリップがコメントするせいでちょっと風向きが変わります。
ホモのジェラシーと言うのは簡単ですが、これはちょっと違います。
ゲイリアルで言うならば、男同士の愛に貞操観念は必須ではないのです。ハッテン場に一緒に出掛けて、別々に盛ってもそれは普通なのです。
つまり、フィリップは優しすぎるのです。それ故に食い物にされるのをスティーブンは恐れています。他の男とヤってもそれは別に構わないのです。ゲイはケツの穴が大きいんです。
スティーブンはスーパー攻め様を止めません。まずは夜中に叫んでうるさい囚人をヒットマンを雇って殴って黙らせる事から始めます。
これは傷害教唆で、スティーブンが犯した唯一の暴力犯罪です。フィリップはスティーブンの仕業だと見抜き、スティーブンに深刻な表情で真相を訊ねます。
一歩間違えば失望したとか何とか言って喧嘩になります。しかし、フィリップはスティーブンの攻め様ぶりに泣いて大喜び。
多分あの後ヤってます。フィリップが上ですが大丈夫。ネコが上なのがゲイリアルです。
その夜、フィリップはクリーヴォンに音楽テープをかけてくれるように頼みます。そして『恋のチャンス』の流れる中でキスをしてダンスをします。看守に殴られても断固として仕事を完遂し、ついてに看守にしゃぶれとか言っちゃうクリーヴォンは腐男子なのかもしれません。
そこからはもうフィリップの独壇場で、いちゃいちゃしながら映画鑑賞、食事はステーキ、シャワールームで一緒に髭剃りをして遊びます。
これも何気に重大シーンです。刑務所で最も危険な場所がシャワールームです。大抵の暗殺はここで発生するのです。
部屋でシャボン玉で遊ぶのに至ってはもうメルヘンの境地です。しかし、ヒットマンを雇ったのが露見してスティーブンは移送されてしまいます。
フィリップはスティーブンを追いかけ、危険な中庭に飛び出し、スティーブンの乗せられたバスについには辿り着き、フェンス越しに互いに愛を叫びます。おっさんなのに青春一直線。ノンケには真似のできない領域です。
そして一足早く釈放されたスティーブンは弁護士に化けてフィリップを釈放させます。正直言って凄すぎます。ついでにフィリップの知人の裁判にハッタリだけで勝訴してしまいます。愛の力です。司法に愛が勝利したのです。
そしてキーウェストにハネムーンに出かけて船上セックスの末にまた例の金のかかるゲイライフをおっぱじめます。そして、その生活を維持する為にスティーブンは犯罪を重ねるのです。私利私欲ではありません。あくまでフィリップの為です。
スティーブンは経歴を盛大に偽って保険会社のCFOに採用されます。そしてハッタリで業績は急回復すると言い張って納得させてしまいます。
社長にも気に入られ、ゴルフに一緒に出掛ける仲になりますが、フィリップはゲイのくせにゴルフなんてと嫌な顔をします。
日本人には理解しがたい感覚ですが、アメリカではゲイである事を理由にゴルフ場が入会を拒んだりするので、あまり好まれないのです。
だとしてもフィリップはやり過ぎです。いっそ女とヤれというのは失言としか言いようがありません。デビーが一応正室なのですから。
あるいは、リンドホルムもホモで、フィリップのホモの第六感が反応したのかもしれません。
リンドホルムは物凄くスティーブンを気に入っているのはそう思うと妖しく見えます。いきなり役員として雇い、ゴルフやパーティーにも連れて行くというのは相当です。ビジネスを越えた何かがあるとすれば、フィリップがホモのジェラシーに狂うのは無理からぬ話です。
しかし、スティーブンは会社の人間が馬鹿ばかりなのに失望し、反ユダヤジョークを聞いたのをきっかけに横領を始めます。
何しろスティーブンという名前はユダヤ人に多いので、スティーブンがゲイの天才ユダヤ人なのではないかと思って激しく興奮しましたが、残念ながら違います。ユダヤ人は教会でピアノを演奏しません。
運転資金を投資に流用し、豪邸にベンツSLにジェットスキーまで買い込むスティーブン。しかし、これが間違いの元でした。
同じベンツのCクラスに乗っている同僚を軽くディスったせいで嫉妬を買い、横領が明るみに出ます。
そもそも赤いベンツSLというチョイスがホモ丸出しです。アメリカ男児ならアメ車に乗らんか!ってわけです。ましてやテキサスですから。
スティーブンは金をかき集め、デビーに電話を入れてフィリップと逃避行を図ります。
フィリップは自分の目を見て嘘をついたと怒り狂います。犯罪はおまけに過ぎないのです。スティーブンの不誠実さがフィリップは許せないのです。そして一人でどこかへ行ってしまい、スティーブンは逮捕されます。
しかし、フィリップを取り戻す為にスティーブンは罪を重ねる決意をします。フィリップのインスリンをパトカーの中で注射し、脱走を試みたのを皮きりにあらゆる方法で逃走を重ねます。
最後に女装して脱獄するのは完全に『シャドウゲーム』の世界観です。看守の変態呼ばわりもなんのその、愛の前にはホモフォビアの罵倒などなんでもありません。
そしてリムジンにシャンパンに花束という完全なスーパー攻め様ルックでフィリップを迎えに行きますが、フィリップはスティーブンのホモの嘘つきぶりにうんざりして玄関口で痴話喧嘩です。
おまけにフィリップは共犯と疑われているので、駆けつけた警官に仲良く逮捕されてしまいます。
警察署でフィリップは何もかもが嘘だとスティーブンをなじり、愛までも嘘だと言い切り、君を許さないと言い残して物別れになります。
これにはスティーブンも流石に落ち込み、自分は存在しないだの、母親に捨てられたのはこのせいだの、メンヘラ丸出しで泣きます。
おまけにスティーブンはエイズになってしまいます。そして冒頭シーンに戻り、フィリップに会いたい一心で生きていると凄まじく重い愛を語ります。
その一念は通じ、フィリップは取り乱しながら医務室に殴り込みます。やはりフィリップはスティーブンを嫌いきれなかったのです。
しかし、スティーブンは危篤状態になって外部に移された後。スティーブンはホスピスで死を待ちながらうなだれています。
しかし、フィリップから電話が入ります。何度も電話したという看護師のコメント付きで。
フィリップはまだ怒っていると前置きしつつ、愛していると告げます。愛の道化も君とならあり、君の暴走は僕の為だの、ホモの文豪まっしぐらの愛の言葉を並べ立てて泣きます。
フィリップがまだ愛してくれていると知って満足そうなスティーブン、スティーブンが帰って来る幻覚を見て泣くフィリップ。これぞ純愛、サナトリウムゲイ文学です。
ところが、幻覚が現実となります。スティーブンはまたも弁護士としてフィリップの前に姿を現したのです。
なんとエイズは偽装でした。あらゆる不正を重ねて死んだふりまでして会いに来たスティーブンにビンタをかますフィリップ。
ですが、これが愛情表現なのは言うまでもありません。だって、フィリップはSもMも好きなのです。それを証拠にフィリップは号泣しています。
フィリップに一目会いたい一心であらゆる危険を冒してやってきたスティーブンは、嘘だらけの人生だとしても、フィリップへの愛だけは真実だと殺し文句を決めます。
フィリップは証拠を求めましたが、そんな物は今更必要ありませんでした。ここで『フィガロの結婚』が流れるのはファインプレーです。
そう、この曲は『ショーシャンクの空に』の事実上のメインテーマ。刑務所で真実の愛を育んだ男と男のラブソング。涙目で見つめ合う二人に言葉は必要ありません。あの後絶対ヤってます。
そしてスティーブンは逮捕され、リンドホルムの義妹である検事によって終身刑を宣告されます。
リンドホルムが傍聴席にいるのが意味深です。やっぱりこの男もスティーブンが好きだったのではないでしょうか?ですが、コンドームにもなれません。
恐ろしい事ですが、これが実話なのです。こんなにも深い愛を他にあなたは知っていますか?私は知りません。愛は鉄格子を越えるのです。
スティーブン×ジミー
スティーブンとフィリップの愛が本作の根幹ですが、ジミーもまたスティーブンにとってはかけがえのない男でした。
交通事故で瀕死の重傷を負い、救急隊員にガチホモ宣言をして全てを捨てたスティーブン。
これはゲイリアルです。隠して死ぬくらいなら派手に赤いバラの命花を咲かせようという発想に至るゲイは結構います。
そもそも、犯罪に手を染めたのはジミーと派手に暮らす為です。ジミーの為に息をするように犯罪に手を染めるスティーブンの愛の重さはぞっとします。
スティーブンはデビーも一応尊重していて、クリスマスには詐欺で稼いだ金を届けてジミーと一緒に反応を楽しんだりもします。
冷静に考えればジミーにとってもデビーにとっても複雑な状況ですが、2人はそれ程問題にせず、良好な関係を築いています。互いの幸せを壊さないのが良きホモカップルであり、スティーブンの愛の深さを知る者同士のシンパシーの体現です。
スティーブンは刑務所が嫌で自殺を図りますが失敗します。しかし、蘇生したスティーブンにジミーは全てを承知で優しく寄り添います。しかもデビーと一緒に。半端じゃありません。
しかし、スティーブンは病室から逃走を図ります。屋上から飛び降りようとするスティーブンにジミーは「飛び降りたら絶交する」と脅しをかけるのです。
結局ジミーはゴミ捨て場目がけて飛び降りようとして狙いを外し、刑務所に入るわけですが、ジミーはスティーブンを捨てませんでした
というのも、ジミーはエイズに侵されていました。スティーブンと違って本物です。収監の直前に危篤状態に陥り、スティーブンから贈られた腕時計を託し、新しい愛に生きろと告げます。
更にジミーはまだ見ぬ新しい恋人とスティーブンが結ばれて幸せになると予言し、その男に誠実であれと言い残します。
スティーブンはジミーの遺言を完遂しました。例え何百年懲役を打たれようと、フィリップへの愛を誠実に遂行し続けたのです。
スティーブンがエイズでの死を偽装できたのも、ジミーの最期を見届けたからです。ジミーの犠牲は確かにスティーブンの愛の糧となり、彼の心に生きてたわけです。
スティーブンにとってフィリップと結ばれる事は、同時にジミーと結ばれる事なのです。それはギリシャ悲劇のように美しい物語で、しかも実話なのです。
スティーブン×フィリップ(本物)
新機軸、映画と本物の二本立てでお送りします。これは重要です。あなたはもうスティーブンの虜です。
フィリップは2006年に釈放されましたが、スティーブンはまだ服役しています。しかし未だに2人は愛し合っていて、手紙を交換しているのです。
この事実をキャリーとマクレガーがいちゃいちゃしながら、とても嬉しそうにインタビューで話していました。そりゃあそうでしょう。私だって嬉しいです。
もっと注目してもらいたいのは最後の法廷のシーンです。スティーブンの弁護士は、本物のフィリップなのです。
愛が本物だからこそ実現したキャスティングです。フィリップはあくまでスティーブンの味方なのです。
更にもう一つ、これはまだ日本語にはなっていない最新の情報。なんとこの2月にスティーブンの仮釈放が決まりました!
まだ日取りは未定ですが、間もなくスティーブンは刑務所を出るわけです。ここから先は映画にもない新たな物語。2人を隔てる者は何もありません。
映画を存分に楽しんで、続報を待ちましょう。2人の愛の物語はまだ道半ばに過ぎないのですから。
お勧めの映画
独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します
『ブロークバックマウンテン』(2005 米)(★★★★★)(テキサスの純愛ホモ)
『脱獄広島殺人囚』(1975 東映)(★★★★)(脱獄ホモ映画)
『300<スリーハンドレッド>』 (2007 米)(★★)(ガチホモ大王ジミー)
ご支援のお願い
本noteは私の熱意と皆様のご厚意で成り立っております。
良い映画だと思った。解説が良かった。憐れみを感じた。その他の理由はともかく、モチベーションアップと資料代他諸経費回収の為にご支援ください。
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