第71回 空手バカ一代(1977 東映)
人はいつ死ぬか分からない、とは言えあの千葉真一がこんなにもあっけなく世を去るとは思えず、初七日を迎えた今でもどうにも実感がわきません。
追悼レビューとなるとちょっと困ってしまうわけです。千葉ちゃんの追悼にカラテ映画抜きなど考えられませんが、と言ってこういう企画に相応しい映画はレビューしてしまっています。
カラテ映画の第一号たる『激突!殺人拳』も、ヤクザ映画最狂の一本たる『沖縄やくざ戦争』もレビュー済み。『仁義なき戦い 広島死闘篇』はどうせなら別の機会にシリーズ通しでやりたいわけです。
そこでカラテ映画数ある中からもう一本を選ぶならどれかと頭をひねり、行きついた追悼レビュー第一弾が『空手バカ一代』です。
極真空手の開祖、大山倍達の立志伝を梶原一騎原作で描いたお馴染みの歴史的名作ですが、映画版があったのは案外知られていません。
原作を大分弄りまして、千葉ちゃん演じるマス大山が沖縄へプロレスラーとして遠征して大暴れという筋です。原作からしてそうですが、早い話が極真空手のプロパガンダであります。
そして題名に偽りなし、突っ込みどころ満載のバカ映画です。監督が東映でも一番ジャンクな山口和彦なのも、選ぶ方も分かっていたのではないでしょうか。
多分に美化されたマス大山を演じる千葉ちゃんは獣のような迫力は健在ながらもやたらとお人好しであり、雑な作りの映画ですが珍しい物を観た気分にさせてくれます。
同じく極真空手の高弟(一説には一番弟子)の石橋先生が悪役に入り、相棒には柔道の使い手の本郷功次郎、脇を固めるのはJACの若い衆と国際プロレスから借りて来た本物のプロレスラーたち。汗臭いことこの上ありません。
そして、梶原一騎作品などという物は精神的ホモの極致であり、本作はその点において原作を更に上回っています。本作がデビューの夏樹陽子がヒロインですが、むせ返る男の友情の前には一歩引かざるを得ません。
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真面目に解説
極真空手と千葉ちゃん
オリンピックで盛り上がった空手でありますが、空手と一口に言っても無数の流派があります。その中で一番知名度と弟子の数が多いとされるのが他ならぬ、大山倍達の創設した極真空手です。
特攻隊の生き残りの偽物でヤクザの用心棒だった大山倍達が池袋のバレエ教室の間借りで始めたこの小流派が、どうして空手の代名詞的存在になれたのか?それは宣伝の巧みさです。
第一に、大山と個人的に親交のあった売れっ子漫画原作者の梶原一騎と組んで本作の原作が作られた事です。内容は嘘まみれで実態は未だ意見の統一を観ない代物でしたが、とにかく漫画につられて多くの若者が極真カラテに身を投じたのは確かです。
これを卑怯と言うのは簡単ですが、柔道も親戚にヤクザを要する加納治五郎を多分に美化した『姿三四郎』で同じ事をやっています。最後に勝つのは商売上手なのです。
第二に、有名人を抱き込んだことです。空手界で地位を得た極真は有名人を入門させて黒帯を与える事で宣伝に利用したのです。
長渕剛、待田京介、藤巻淳など、この種の極真黒帯芸能人は多岐に渡ります。長渕剛が志穂美悦子に半殺しにされたという噂が事実なら、まあその程度の黒帯です。
これを卑怯と言うのは簡単ですが、総理大臣は就任するや各種の武道や芸事の団体から名誉段位が送りつけられてくるとされています。最後に勝つのは商売上手なのです。
そこへ行くと千葉ちゃんと石橋先生は空手家から俳優になった純粋培養であり、こういう映画でメインを張るのは彼らをおいて他ないのです。
ダンス空手
映画は与那島(石橋雅史)という空手家の率いる大きな道場に白いコートに道着という職質モノのファッションできめた大山倍達(千葉真一)が道場破りに来る頭の悪いシーンから始まります。
大山の「ダンス空手」という煽り文句に注目です。極真空手を語るに際してこのワードを無視することはできません。
ここで極真空手が旧来の伝統派空手と決定的に違う点を説明しなければなりません。伝統派の組み手は寸止めで行われますが、極真は本当に殴り蹴ります。これを称してフルコンタクト空手と呼びます。
これが極真のイメージ戦略で、直接殴り合うから極真は凄い、寸止めの伝統派はダンス空手であると世間に刷り込んだのです。これに乗せられた若者が沢山居たわけです。
そして、極真でも素手で顔面を殴るのは禁じ手です。危険すぎて入門者が怪我をすると元も子もないからです。どこまでも大山は商売上手だと恐ろしくなってきます。
しかし、本当に顔面を殴るK-1が流行り出すと、顔面禁止でやってきた極真出身の選手は適応できず無様を晒す形になり、大山の死に伴う極真空手の分裂も重なり、この度のオリンピックでも仲間外れにされたのは盛者必衰という物です。
ヌルヌル空手
原作に登場する与那島もどうしようもないヘタレでしたが、本作の与那島もせっかく石橋先生が演じているというのにダークヒーロー感ゼロの卑怯者です。
道場破りに来た大山にまず百人組手をやれと求めるのまでは原作通りですが、これも考えれば卑怯です。先に弟子を使って弱らせてから勝負しようというわけですから。
そして大山は美化されており千葉ちゃんなので無茶苦茶強いわけです。タランティーノ大興奮の百人組み手で掴みはOKですが、与那島は石橋先生にあるまじき奸計に出ます。
なんと道場に油をまきます。原作だと弟子の足の裏に油を塗って徐々に道場をヌルヌルにしていきますが、本作だと直接油の缶を持ってきてぶちまけます。つまり、この映画はそういうノリです。
やっぱり間違った沖縄
その実態ははっきりしませんが、大山は戦後にアメリカへ遠征してプロレスの興行に出ていたとされています。
本作でも志賀勝とか人相の悪い取り巻きを連れて酒と道場破りに明け暮れていた大山はトッド若松(南利明)なる胡散臭い日系二世に誘われて沖縄でプロレスの一座に加わります。アメリカロケをする時間も予算もないので安く上げました。
行った沖縄がまた凄く、終戦直後のはずなのに完全に復興を達成しています。つまり、当時の沖縄で考証をぶん投げて撮ったわけです。
町並みはすっかり整備されているのに戦災孤児がたむろして居たりと治安はすこぶる悪く、『ベスト・キッド2』よりある意味変な沖縄が展開されます。
楽しい山下一家
大山は日系人プロレスラーのグレート山下(室田日出男)に預けられます。グレート東郷という日本のプロレス史には外す事の出来ないキーマンがモデルですが、何しろ室田日出男なので試合はしません。得意の怪しい訛りと図体の大きさ(身長180センチ)を買われての起用でしょう。
私が注目してほしいのが大山同様日本から連れてこられたのが柔道六段の藤田修造(本郷功次郎)です。この人は遠藤幸吉という原作でも史実でも格好良い要素の乏しい人物がモデルになっていますが、本作ではむしろ千葉ちゃんを食う勢いです。
本郷功次郎は柔道映画が好きな大映の永田雅一社長が大学の柔道部から引っ張ってきて俳優にしたという特異な経歴の持ち主で、スタント要らずの柔道版千葉ちゃんというべきアクション俳優です。
殴り込みともなれば千葉ちゃんにはない投げ技と関節技で大暴れし、実にいい仕事をしています。私はこの映画を人に勧めるなら、この本郷功次郎の暴れぶりをセールスポイントにします。
プロレスラーという稼業
かくして集められた三人は山下兄弟と称して米軍相手のプロレス興行に出場します。
相手役が国際プロレスのプロレスラー達です。今やプロレス団体がいくつあるのか数えるのは不可能ですが、当時のプロレスは猪木の新日本と馬場の全日本、そしてぐっと落ちてマイナーな国際の三団体体制でした。
当時の国際プロレスは潰れかけで、このオファーは渡りに船だったのでしょう。映像もあまり残っていないので貴重です。動くデビル紫などおいそれと見れません。
面白いのは最初から勝ち負けが決まっているというプロレスの裏がクローズアップされる点です。逆に言えば、それでも引き受けちゃうくらい国際プロレスの経営はひっ迫していたという事でもあります。
山下は生粋のプロレスラーなのでプロレスというビジネスの構造を飲み込んでいますが、大山は自称する通りバカなので負け役なのに相手をのしてしまい、そのせいで大事になってしまうのです。
また、カラテ映画の裏の主人公というべき大げさなテロップは今回人ではなく技を担当します。
大山や藤田が技をかけられるたびにご丁寧に技の名前がテロップで表示されるのです。観に行った翌日に学校で真似した子供が万単位で居たはずです。
プロレスと人種
そもそも何故大山がプロレス興行に呼ばれたのかというと、これは当時のアメリカのプロレスで日本人レスラーが求められていたのです。
終戦直後の事ですので、反日感情があります。着物の一枚も羽織って入場し、パールハーバーよろしく卑怯なだまし討ちから入って最後はみっともなく命乞いをして負ける。そういう役回りで大いに稼げたのです。
馬鹿馬鹿しいと言えばその通りですが、プロレスとはそういうショーなのです。日本人だって卑怯な反則を繰り返す外人を力道山が空手チョップでぶちのめす様に熱狂したのですから。
そして、プロレスラーに在日コリアンが非常に多いのは、実は力道山がそうだったからだというのは今となってはブラックジョークです。
ミス沖縄抱かしちゃるけえ
言う事を聞かないので山下兄弟はクビになり、大山は那覇の街を放浪ます。空手バカ一代の大山は病的なお人好しなので千葉ちゃんもこれに倣っていつになくお人好しで、沖縄でやたらに事件を抱え込むことになるのです。
、手始めにヤケクソで生きている売春婦の麗子(夏樹陽子)の自殺を思いとどまらせ、守礼門で戦災孤児の集団にしてやられて置き引きされたのを機に彼らと行動を共にするようになります。
東映児童劇団の精鋭と思しき異様にたくましい孤児達の頭目であるカズオ(高橋仁)は特に大山の薫陶を受けますが、結局大山はこのカズオと麗子の為に再びプロレスのリングに立つのです。
沖縄の暗黒街は何故か中国人の劉(内田朝雄)なるインチキ臭いオッサンが仕切っていて、麗子を拷問したりと東映らしいサービスを忘れません。
ファッションモデルだった夏樹陽子は本作が映画デビューで、演技力はともかくとして並みの女優なら音を上げるような酷い扱いを受ける役柄を見事に演じきっています。
おかげで役者としての自信が付いたというので、世の中には無駄な映画というのはないのでしょう。つまり、キミィ、極真空手をやりなさい!
燃えよ千葉ちゃん
カラテ映画のお約束として最後は劉の屋敷に殴り込みに行きます。今回は本郷功次郎が相棒として付いてきてくれるので心強いことこの上ありません。
組員というより私兵を思わせる変な制服で決めたJACの面々が千葉ちゃんにぶちのめされていく様はやはり壮観であり、カラテ映画において脚本はコンドームでしかないと思わせるに十分です。
大山にぶちのめされた与那島も乗り込んできて大いに盛り上げ、劉は屋敷の中に都合よく設けられた鏡の部屋に逃げ込みます。
言うまでもなく『燃えよドラゴン』の露骨なオマージュです。そもそもがカラテ映画それ自体がブルース・リーの映画の日本版を狙って作られたのですからある意味正統と言えなくもありません。
何しろ鏡というのは高価なので、このセットは使い回しが行われ、主に他のカラテ映画のOPで使われています。この手の映画が好きな人ならああ、あれかと分かるはずです。
BL的に解説
腐女子よ、梶原一騎作品を読め
この際私から強く申し上げたいのがこの一言です。梶原一騎の手掛けた作品は膨大な数ですが、どれを読んでも濃厚なBLです。
ストーリーがすぐに思い浮かびそうなタイトルを挙げてみましょう。『巨人の星』『あしたのジョー』『タイガーマスク』『プロレススーパースター列伝』、どれも時代が遅ければ薄い本の氾濫は避けられない(当時からあったようではある)出来です。
梶原作品は男の友情とライバル関係をむやみやたらに美化して重視し、こいつら絶対ヤってるだろというレベルまで持って行くことで成立しています。本作も勿論例外ではありません。
電子書籍サイトでも豊富に配信されていますし、古本屋に行けば無限に湧き出るかのように出てきます。立ち読みでも試し読みでもいいので取りあえず読んでみる事をお勧めします。
大山×与那島
与那島相手に道場破りを仕掛ける行為は原作には一応自分の出世を妨害したというちゃんとしたきっかけがありましたが、本作ではこの道場破りに明白な動機がありません。
与那島は売名と言い、ナレーターはヤクザの用心棒に身を落として鬱屈しているからと言います。どうにもハッキリしません。
しかし、本作の大山は強い男フェチのホモと仮定すれば色々と辻褄が合います。それを証拠に、大山は女に全く興味を示しません。
原作の与那島はヘタレでしたが、何しろ石橋先生です。卑怯ですが一筋縄で敗れる男ではありません。大山はそういう男を色んな意味で蹂躙することに興奮を覚えているのです。
道着に白いコートという前衛的に過ぎるファッションもゲイ特有のセンスとすれば説明が付きます。よく考えればこの格好、リベラーチェと大差ありません。
ヌルヌルになりながら根性と創意工夫で百人組手を完遂した大山は遂に与那島と対峙し、目潰しの上神棚を破壊して完全勝利を収めます。
ここから先がオフレコパートです。梶原一騎というと暑苦しいスポ根ばかりと思っている人が多いですがこれは大間違いで、むしろエログロ劇画こそが梶原一騎の本性です。
浣腸とホモセックスの大安売りの問題作『人間兇器』が先日復刊されて話題を呼びましたが、こっち寄りの倫理観では当然与那島は大山に掘られる運命にあります。
神聖な道場で大勢の門弟の見守る中、空手は全身を凶器化する武道であるという本来のコンセプトを下の口からレッスンされる与那島。これぞ本物の梶原ワールドです。
大山はすっきりして帰りますが、この後が大変です。道場破りを食らった道場は寂れるというのが型です。
そう、与那島は今まで門弟に威張り腐っていたツケを身体で払う羽目になるのです。今度は与那島が百人組手をする番です。
とにかく、与那島が全てを失ってしまったのは復讐を期して大山を沖縄まで追って来たのが物語っています。
眼帯はともかく、襟に模様の入った黒い道着に錦の帯という空手映画の敵役特有の変態コーデが与那島の艱難辛苦を物語ります。彼は完全に男に目覚めてしまったのです。
与那島もはや大山を打ち負かしてリバらねば空手家として生きていけませんので、この事実上のラストバトルは大変な激戦になります。
そして与那島は目潰しに固執します。やられたらやり返す。それが闘争とセックスが一体化した境地に生きる闘士の哲学であり、美学なのです。
そして目潰しに固執したばかりに与那島は敗れ、崖から落ちて南海の華と散ります。
まさしくバイオレンスポルノ。千葉ちゃんと石橋先生だからこそ到達できた闘争の美。こんな物を見せられればボンクラ青年が手近の極真の道場の門を叩くのは仕方がありません。
大山×藤田
大山に先だって沖縄に到着していたのが藤田でした。与那島への敵意むき出しの対応が嘘のように礼儀正しく挨拶する大山。
道は違っても無頼同士波長が合うのを大山は感じたのでしょう。しかし、藤田はつれない態度です。
それどころか「そこらの牛殺しと試合ができるか」と怒りだし、契約を持ち出されて山下に諫められる有様です。この向こう気の強さで本郷功次郎ですから、まさしく大山好みの極上のオスです。
一方大山はお人好しな所があるので「日本人の信用にかかわる」と言われると安請け合いしちゃいます。大山倍達が在日コリアンなのは梶原史観ではタブーなっているのです。
米兵が殺気立つ中興行が執り行われ、藤田は「臆病風に吹かれると小便ちびるぞ」などと先輩面しちゃうのです。以後、この二人は良い感じにニヒルな凸凹コンビでやっていくのです。
しかし、大山は空手バカなので約束を破って勝ってしまい、山下に怒られてしまいます。一方藤田は不満ではあっても現状を冷静に受け止めていて冷静です。二人はよく似ているようである側面では正反対であり、実に尊いのです。
大山は何だかんだと藤田に一目置いており、山下からクビを宣告されてもさっさと帰ればいい物を、ろっ骨を骨折して動けない藤田を心配して結局沖縄に居残ってしまうのです。
ところが、浮浪児を抱き込んで独自に見世物を始めた大山の元に、ヤクザに追い込まれて米軍キャンプの土方仕事に身を投じる藤田と山下が偶然現れて再会を果たします。
山下はアメリカ遠征をぶち上げて藤田も乗り気です。アメリカで実力を試したいという夢があるのです。最初は嫌がっていた大山も藤田の熱意に押されて承知してしまいます。大山はバカですが藤田は一直線というわけです。
三度の大山のやらかしで事態は最悪となりますが、殴り込みに行く大山に藤田が立ちふさがります。申し合わせたように道着にコートの二人に言葉は要りません。目と目でセックスして一緒に殴り込みです。
見事本懐を遂げた大山は藤田を伴って「我が道極真にあり」と結び、例の千葉ちゃん呼吸で型を披露して映画は終わります。
二人はもはや離れられません。地下室でいちゃつきながらどっちが強いか試してみるのは時間の問題です。そうなると片方はロシア野郎に殺されてしまう運命ですが、大丈夫。ドルフ・ラングレンも極真空手の使い手なのです。
大山×山下
原作のグレート東郷は最後はホモホモしい友情を結ぶにせよ、大山たちを搾取する気満々でした。しかし山下は違います。大山と藤田を最初から心強いビジネスパートナーと認めています。
ユーたちはブラザーというのも、単なる興行上のギミック(設定)以上の意味を持っているように思えて仕方なりません。それは何故か?
大山や藤田は強さを追い求める求道者であり、空手や柔道は自己表現の手段と言えます。
一方山下はあくまでビジネスマンであり、プロレスは生計の手段という点で根本的に違います。
山下が悪役レスラーをやるのは日本人への差別を換金する行為であり、当時の日系アメリカ人にとって日本人悪役レスラーは憎むべき存在でした。
これは所謂オネエタレントがLGBT社会で嫌われているのと同じ構図です。差別を商売にするというのはそういう事なのです。
また、プロレスという興行それ自体が「作り物の強さ」を商う商売です。リング上の勝ち負けとレスラー当人の強さは別物なのです。
つまり、作り物の強さを演出して同胞を売る事で生計を立てる山下にとって、ひたすらに強さを追求する大山は眩しすぎたのです。山下は薄汚れた自分に無い物を持っている大山に惚れてしまったわけです。
負けるはずが勝ってしまうのはブック破りと言ってプロレスにおける大罪ですが、山下は対して咎めもせずにとにかく逃げろと適切なアドバイスをしちゃうのです。
昭和のプロレスラーの伝記には海外武者修行に行って殺気だった客に暴力を振るわれたという類のエピソードが絶対出てきます。
ブック破りなどやるのはレスラーとしては下の下です。なので山下は自分だけ逃げて二人はリンチさせてもよかったのに、そうせず無事で返して改めてホテルでお説教するのがブラザーたる所以です。
そう、山下の錆びついた良心が兄としての使命に燃えているのです。それが仮初であったとしても、まこと美しき兄弟愛という物であります。
八百長は嫌だと駄々をこねる大山は結局次の試合でもやらかしてしまい、山下はヤクザにリンチされ、たまりかねた山下は飛行機代を手切れ金に寄越して勘当を宣言します。
山下は劉に財産を取り上げられて藤田共々沖縄で土方生活に身を投じますが、再会した大山に恨みを持っている様子が全くありません。
それどころか「力仕事以外何もできないね」と異常に生々しい事を言って笑い、詫びる大山に「マネーに目のくらんだミーが悪かったね」ととんでもないお人好し発言です。
そして山下はアメリカ遠征をぶち上げ、兄弟は再結成されます。そして再びリングに戻った三人ですが、またも大山がやらかし、逃げる途中で山下は撃たれてしまいます。
看病しながら詫びる大山に山下をまたも許し、遠征計画を練りますが、そこへヤクザたちが襲撃に来ます。
これに山下は布団の中に隠した拳銃で応戦。弟二人の奮戦でヤクザは撃退されますが、山下は「ユーたち世界ナンバーワンよ」と言い残して息絶えます。
室田日出男にとって沖縄は鬼門としか言いようのない犬死にですが、涙目で悲しむ大山と藤田の兄弟愛の前にはその事実さえコンドームです。
そして、愛しき弟たちは半分山下の敵討ちで殴り込んでいくのですから、山下も本望でしょう。かくして三人は真の意味で心の兄弟となったのです。
モデルになったグレート東郷は「血はリングに咲く花」という出来過ぎた名文句を残していますが、三人の仲はまさに「血は肛門に咲く花」です。
大山×カズオ
山下兄弟解散で宿なしとなった大山は、まだ再建されていないはずの守礼門の前で浮浪児の一団に荷物を置き引きされてしまいます。
浮浪児集団のコンビネーションたるやタイガーマスク対ダイナマイトキッド戦並みの鮮やかさで、大山はここに決定的敗北を喫して文無しになってしまうのです。
その矢先、職務不熱心でヤクザにシメられてカミソリで自殺しようとしている売春婦の麗子を大山は持ち前のお人好しで助けます。
普段のカラテ映画ならこの場でヤっちゃうところですが、極真空手のプロパガンダであるこの映画ではそれが出来ません。それ故普段の千葉ちゃんより一層ホモ臭いのです。
閑話休題、浮浪児たちの隠れ家を見つけ出した大山は浮浪児たちに殴られますが、そこは大山倍達なので全く動じず、貫録で浮浪児達を追い出して隠れ家に居座ってしまいます。
銃を仕入れて仕返しに来る浮浪児達が実に東映ですが、そこへ都合よくヤクザが因縁を付けに来て、大山が撃退したことで信頼関係が生まれます。
用心棒にスカウトされた大山は、泥棒の用心棒は嫌だとしつつ、自分の身体で稼ぐことを提案して浮浪児達を仲間に引き入れます。
早い話が、大山が瓦割りやらで見世物になる事で稼ぎます。しかし、それだけで終わるようではこの項目は必要ないのです。
身体で稼ぐ。BLにおいてこの言葉が差す職業は売春以外ありません。そう、大山はあの夜、浮浪児達に襲い掛かったのです。
そもそも浮浪児が処女で居るのは困難でしょう。ホモGIに身体を売る位の事はあのたくましき少年たちはやっているでしょう。
しかし、リーダー格のカズオが売春する麗子を目の当たりにして風向きが変わります。二人は姉弟だったのです。
米兵に犯される麗子を思い出して落ち込むカズオを、俺にも両親が居なかったと大山が励まします。尤も、これは今では捏造である事が判明しています。
そして強くなって姉ちゃんを助けてやれと、大山より限りなく千葉ちゃん寄りの助言を授け、気合を入れる為に「おじさんを殴ってみろ」と言い出します。
カズオがたじろいでいると逆に大山はカズオを殴り倒し、無理矢理カズオの闘志を呼び起こして殴らせます。
泣き崩れるカズオに「力なき正義は無能、正義なき力は暴力」と深い事を言っちゃいます。BL的には当然この後おっぱじまるわけです。こんな風にして真田広之や悦ちゃんを仕込んだという噂は昔から知られています。
とはいえヤリ捨てはあまりに無責任なので、大山は麗子に会いに行って二人を取り持とうとします。
ところが麗子は結核で、恐ろしく高価なペニシリンを使わねば治らないと宣告されます。これまた非常に嫌なリアリティのある話です。
そして、大山は麗子の薬代を捻出するために劉に頭を下げて絶対服従を誓い、リングに舞い戻ります。会場が普通の体育館から秘密闘技場になっているのも梶原作品のお約束です。
しかし、大山はバカなのでまたしてもやらかしてしまい、この為に麗子も劉の手下に拷問された挙句殺されてしまいます。こういう変態向けのサービスこそ真の梶原ワールドなのです。
大山は麗子の故郷である新原の海岸の岩山に麗子を埋葬して殴り込みに行きます。そして、麗子の墓所らしき場所で映画は終わります。
カズオは守るべき姉は失いましたが、その代わり守るべき道を手に入れました。カズオが空手を志すのは当然の帰結です。
教えを乞うたのがサトウ・チョウゼン先生で、カズオから大山倍達の活躍を聞いたサトウがミヤギとの決闘に思い至ったとか考えると非常に楽しいのです。
お勧めの映画
独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します
千葉真一追悼企画
『激突!殺人拳』
『沖縄やくざ戦争』
『トラック野郎 度胸一番星』
『ベスト・キッド2』(1986 米)(★★★)(ダンス空手の映画)
『ロッキー4/炎の友情』(1985 米)(★★★)(弟弟子の映画)
『エクスペンダブルズ』(2010 米)(★★★★)(千葉ちゃんの出たかった映画)
ご支援のお願い
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良い映画だと思った。解説が良かった。憐れみを感じた。その他の理由はともかく、モチベーションアップと資料代他諸経費回収の為にご支援ください。
千葉ちゃんでさえも飯を食わねば動けないのです