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第75回 007 ゴールドフィンガー(1964 英)

 最も007らしい007はどの作品でしょうか?私は一本選べと言われたらこれを選びます。コネリーボンド一挙レビューの第2弾は『007 ゴールドフィンガー』でお送りします。

 シリーズきっての名悪役、金相場を牛耳るゴールドフィンガーとボンドが大量の金塊を巡って対決という予想も期待も裏切らないストーリーですが、何より素晴らしいのは皆大好きオッドジョブが登場することです。

 そして、長きにわたってボンドガールの最年長(37歳)でその後も成功を収めたオナー・ブラックマン演じるプッシー・ガロアはレズのパイロットという美味しい役どころで、私も特に好きなボンドガールの一人です。

 シャーリー・バッシーの男前なボーカルによる主題歌も実に決まっており ボンドカーに変態怪人という007に必要な物がついに完全に揃い、作戦も非現実的で大掛かりになり、ここへきてフォーマットが完成したと言っていいでしょう。

 監督はテレンス・ヤングからこれまたシリーズ常連のガイ・ハミルトンに交代、二人の監督によって007は完成を見たのです。

 しかし、本note的に注目すべきはゴールドフィンガーのドクターノオさえ上回るガチホモぶりです。この観点からはボンドは脇役に過ぎません。

007 ゴールドフィンガーを観よう!

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真面目に解説

MI6ロック座
 前作『ロシアより愛をこめて』のOPはロシアと題しつつ、しかしごく健全にベリーダンスでしたが、今回はぐっとアブノーマルに舵を切ってタイトルに偽りなしの金粉ショーです。

 本編映像を照射される裸に金粉を塗りたくったお姉ちゃんの姿は完全にストリップ、というよりこの映画の影響でストリップで大変に流行したそうですが、今や浅草ロック座でもお目にかかれません。手間がかかりすぎるのです。

 ベリーダンスよりはいくらかストーリーにも生かされ、ゴールドフィンガーの秘書だったジル(シャーリー・イートン)はボンドとチョメチョメして仕事をおろそかにした咎で体中に金粉を塗られて皮膚呼吸が出来ずに窒息死するという、シリーズでも有名な壮絶な死を遂げて早々と退場します。

 もっとも、金粉で窒息というのは都市伝説で、人間には肺があるので皮膚呼吸が出来なくても死ぬという事はないようです。

 そして、彼女にボンドは「ビートルズは耳栓を付けて聞く事」と盛大にビートルズをディスっていくのが笑いどころです。まだ彼らはイギリスには数少ない国産の国宝ではなく、いけ好かない流行り物だったのです。


ゴールドフィンガーの心意気

 この映画は長い間イスラエルでは上映禁止でした。というのも、ゴールドフィンガーを演じるゲルト・フレーベはドイツの国民的俳優ですが、かつてナチス党員だったのです。

 ナチスが勢力を伸ばす前に抜けたようですが、それでもナチの出ている映画など許さないというのはイスラエルとしてはまあ当然です。

 しかし、イスラエルがああなったのはイギリスのせいであり、原作ではユダヤ人である事が暗示されるゴールドフィンガーを元ナチス党員が演じるというのもよく考えれば無茶苦茶な話です。

 しかも、ボンドがゴールドフィンガーに接近するために利用したのが、ナチスが終戦間際にオーストリアのトプリッツ湖に沈めて隠したと言われる金塊です。元をただせばユダヤ人から取り上げた物なので、掘り下げると非常に根深い映画です。

 流石の演技力でシリーズナンバーワンに推す人も多い名悪役ですが、例にもよって英語が出来ないので声は吹替です。

 ところが、フレーベは元ナチスという立場を利用して大戦中にユダヤ人を匿っていたという浪花節な事実が後に明らかになり、目出度くこの映画もイスラエルで上映されるようになりました。悪役俳優は悪党には務まらないのです。


チョップ縛りで行こうぜ
 ゴールドフィンガーは金の密輸と相場の操作で大儲けする金フェチの悪党ですが、実はスペクターとは関係ないフリーランスです。

 権利関係が混みあってこんな事になったのですが、コネリーボンドでスペクターの息のかかっていないラスボスは彼だけです。

 そんなゴールドフィンガーの身辺の世話から護衛まで一手に引き受ける右腕が、お待ちかねの我らがオッドジョブ(ハロルド坂田)です。

 笑顔がチャーミングですがセリフは無し、ゴルフボールを握りつぶす怪力と刃物を仕込んだ憧れの山高帽を持つまごう事なき変態です。グラントのような凄みはあっても評判倒れの殺し屋を有難がっていたスペクターの向こうを張るにはこういう男が必要なのです。

 演じるハロルド坂田は日系二世で、重量挙げの選手としてロンドン五輪で銀メダルを獲得し、プロレスラーに転じて悪役レスラーとして大活躍、力道山の師匠でもあるという傑物です。チョップでボンドを気絶させ、太い木の棒を叩き折って大暴れです。

 帽子投げはお節介焼きの石油王にも継承された定番ギミックとなり、ノースタントでボンドを圧倒して見せたオッドジョブの超人性がこのシリーズを決定付けました。

 更に言えばその後も似たような役で引く手あまたの俳優人生だったので、色んな意味で歴史に残る男です。

 ちなみに、オッドジョブは言及されませんが韓国人という事になっています。これはこのシリーズが日本で人気を得て無視できないマーケットになっていたための配慮です。当時の韓国は北朝鮮より貧しかったのです。


嗚呼憧れのアストンマーチン
 『ロシアより愛をこめて』で随分と株を上げたらしく、Q(デスモンド・リュウェリン)率いるQ課は仕上がった実験場も出来て随分大規模になっています。

 Qはここへきて車に秘密兵器を詰め込むというアイディアに思い至り、ボンドに史上初のボンドカーであるアストンマーチンDB5を授けます。

 まさかミニでは格好がつかず、ジャガーではチャラ過ぎ、ベントレーではオジン臭過ぎ、ロールスロイスはゴールドフィンガーと被るのでこれはナイスチョイスだったと言うべきでしょう。

 まだ試行錯誤の段階なので秘密兵器は割合シンプルで、並走する車のタイヤを破壊する『ベン・ハー』で『マッドマックス』なカッター、煙幕、オイル、機関銃、楯、発信機にカーナビ、偽造ナンバー、後部座席に射出装置と、やっぱり器用なファンならまだ何とかしそうなレベルです。

 ちなみに、ボンドカーは飛ぶと思っている人が結構居ますが、実は正式なボンドカーはまだ飛んだことがなく、今度遂に飛ぶのではないかと期待されています。


黄金基地
 ゴールドフィンガーはスペクターに与しないフリーランスなので、密輸した金の加工の為にスイスに自前の基地を持っています。

 各種の工作機械を揃え、何故か道着みたいな服装の韓国人の私兵を雇い、ドクター・ノオのそれに負けない仕上がりっぷりです。

 特に強力な工業用レーザーはストーリー進行上もBL的にもフル活用され、レーザー光線は月まで届く(条件が厳しい)というのもこの映画によって広く知られるところとなりました。

 ジルの姉のティリー(タニア・マレット)がどうやってかぎつけたのかボンドとは別ルートで敵討ちを狙うのが作り手の意図した見せ場なのでしょうが、所詮姉妹揃って使い捨てボンドガールです。


ケンタッキーの黄金
 この映画で金粉ショー同様に有名なった事と言えば、アメリカが持っている金の殆どを一か所の基地に保管していたという事実です。

 紙幣というのは古くは金との交換券であり、今でもなお国家は信用の担保と手っ取り早い国際取引の通貨として大量の金を保有しているのです。

 場所はケンタッキー州のフォートノックス。当地に保管されているトンもの金塊をジャック・ロードからセク・リンダーに代わって老けたCIAのフェリックスと協力してゴールドフィンガーから守るのがボンドの仕事です。

 ケンタッキーと言えば競馬のメッカですので、用意の為にゴールドフィンガーは好きでもない競馬の馬主になっているという手の込みようですが、これが一筋縄で進まないのも本作が高く評価される一因でしょう。

 そして、ケンタッキーと言えばバーボンですので、酒にうるさいボンドはちゃんと飲んでいきます。英国紳士とバーボンの相性は、後輩の仕立屋が頑張る『キングスマン』を御覧になった方ならご承知でしょう。


007で学ぶ化学
 本作で有名になり、なおかつ事実とされるのが、飛行機と気圧の問題です。高高度を飛行中の飛行機に穴が開くと気圧差で機内の物が穴から吸いだされてしまうという物です。

 ボンドはこの知識を利用し、機内で銃口を向けて来る相手を牽制します。実際の所弾痕程度では大きな問題にはならないようですが、窓が割れて本当に人が吸い出されたという類の事件があります。

 ガロアとブロンド娘だけの生徒(意味深)による空中サーカスもストーリーに大きく絡んでくるため、空に縁の深い映画です。

BL的に解説

ゴールドフィンガーガチホモ説
 ゴールドフィンガーは間違いなくホモです。原作では女ともやってましたが、映画と原作は違います。

 というのも、ジルを秘書として雇っていながら彼女に手を付けていない事が示唆されます。多少ホモでも美人秘書には揺らぐでしょう。そうしないのは筋金入りのガチホモの証です。

 しかし、ゴールドフィンガーは表の実業界でもその名を知られた男であり、ホモと知られるとその名声に傷がつき、ひいては裏の仕事にも支障が及びます。

 そして、ホモと思われない為のアクセサリーとしてジルを雇っていたのです。黄金を愛するゴールドフィンガーなので、職務を放棄したこの邪魔なアクセサリーを金で塗りたくって始末したわけです。

 もう一つの根拠は、レズのガロアを雇っている点です。ホモの社長にレズの部下なら間違いも起きず、また互いにセクシャリティで苦労しているので分かり合えるだろうというわけです。

 わざわざガロアのレズ大奥であると部下たちを雇うのも、どうせ最後は殺す気なのにいい男など雇ったら情が移って作戦に支障が出るというゴールドフィンガーの悪の哲学です。

 では、何故ゴールドフィンガーはホモなのか?ここでユダヤ人というバックボーンが活きてきます。

 原作によるとゴールドフィンガーは1917年生まれでラトビア出身、20歳でイギリスに移住してきたとされます。ボンドは見た目がユダヤ人っぽくないと疑っていましたが、ユダヤ人は見た目で分かるものではありません。

 ゴールドが付く姓はユダヤ人特有の物であり、何よりこのゴールドフィンガーという名前はイアン・フレミングの隣人のユダヤ人にして高名な建築家のエルノ・ゴールドフィンガー氏の名前を借りた物です。

 フレミングはこの名前を大変に気に入り、気難しいゴールドフィンガー氏と裁判沙汰になっても譲らなかったくらいなので、本作のゴールドフィンガーもユダヤ人でしょう。

 ゴールドフィンガーが子供時代を過ごした当時のラトビアは非常に貧しく、またユダヤ人は差別されていました。極貧のゴールドフィンガー少年が僅かなパンの為に尻を差し出し、屈辱と痛みを乗り越えて快楽と金への執着が植え付けられた。大いに考えられる話です。


ボンド×ゴールドフィンガー
 ゴールドフィンガーは明らかにボンドが好きです。つまり、この映画は壮絶なバイオレンスポルノなのです。

 メキシコで革命家の麻薬工場を爆破し、マイアミで休暇を取っていたボンドにフェリックスを通してゴールドフィンガー監視の指令が下ります。

 大金持ちの癖に金持ち爺さんから1万ドルやそこらの金をイカサマ賭博で巻き上げていたゴールドフィンガーですが、ボンドはジルがホテルの部屋から爺さんのトランプを覗いて無線で知らせているのを見抜きます。

 そして強引にボンドはゴールドフィンガーの部屋に押し入り、ジルを誘惑しつつ無線でゴールドフィンガーにわざと負けないと警察にチクると脅しをかけ、ついでにジルを頂いてしまいます。

 しかし、オッドジョブがボンドに後ろから空手チョップを食らわせ、その間にジルは黄金塗れで窒息死してしまいます。

 ここでボンドも黄金塗れにしておけば何もかも済んだのです。しかし、そうしなかったのはボンドが極上の雄だったからです。多分気絶している間に頂いたのでしょう。超ハード襲い受けです。

 ボンドの行為は監視という任務を逸脱していたうえにジルが死んだのでボンドは怒られてしまい、改めてナチスの金塊を餌にゴールドフィンガーに接近します。

 ゴルフ場で一緒にラウンドするついでに金を売り込むボンド。ゴールドフィンガーはこれに乗り、ついでにサンプルの金塊を賭けた賭けゴルフを提案します。

 ゴールドフィンガーはボンドと回るキャディにさえ見え見えのズルで意地汚く勝とうとしますが、最終ホールでボンドにボールをすり替えられ、土壇場で反則負けになって5000ポンドボンドにせしめられてしまいます。

 車ごとジュネーブへ飛ぶボンドとゴールドフィンガー。もう発信機がついているとはまさかゴールドフィンガーも気付きません。途中でティリーに欲情したり、そのティリーがゴールドフィンガーを狙撃したりしましたが、まあこれはいいでしょう。

 ボンドはQ特製の発信機でゴールドフィンガーの工場に辿り着き、ゴールドフィンガーの乗っていたロールスロイスの車体が金で出来ている事と、グランドスラム作戦なる計画が進んでいることを知ります。

 しかし、ティリーの介入で潜入がバレ、ボンドカーによる逃走も空しくティリーはオッドジョブの帽子で始末され、ボンドはとっ捕まって研究室の台に大の字に磔にされます。

 股間めがけてじわじわとレーザーが迫ります。凄まじく金のかかったハードコアホモSMです。そしてゴールドフィンガーは金を手に入れる為なら何だってすると言い切ります。

 恐らく、ゴールドフィンガーの最初の犯罪は、金細工を尻に居れてホモの金持ちの屋敷から持ち出したとかそんなものでしょう。それを思えば殺しなど平気なのです。そんな間にも台座を焼き切るレーザーはボンドの股間にじわじわと近づいていきます。

 オッドジョブばかりか手下を全て朝鮮人で固め、ドクターリンなる中国人科学者を雇っているゴールドフィンガーの事です。「金玉」という言葉を知っているでしょう。そう、ボンドの焼け焦げたゴールドボールがゴールドフィンガーのお目当てなのです。

 自分を殺しても代わりが来ると粘るボンドですが、ゴールドフィンガーは相手にしません。しかし、グランドスラム作戦の全容を知っているとハッタリをかましたことでどうにか卵焼きは免れ、麻酔銃で眠らされます。

 起きたらそこはプッシー・ガロアの操縦するゴールドフィンガーの自家用機です。ゴールドフィンガーはグランドスラム作戦の情報をMI6が掴んでいるか確かめる為にボンドを生かしたはずですが、ここへきてこの設定は事実上なかったことになります。

 では何故ボンドを生かしたか?勿論寝ている間に再び頂いたのでしょうが、それ以上にゴールドフィンガーの変態性に鍵があると見ます。

 ゴールドフィンガーは犯罪は芸術という哲学を何度も口にします。そう、殺人もまた例外ではないのです。

 グランドスラム作戦の全てを見届けさせてから盛大にボンドを始末することで、殺人という芸術を完成させようというわけです。ユダヤ人は芸術に強いのです。

 ゴールドフィンガーはケンタッキーの牧場へにこやかにボンドを迎え入れます。しかし、ボンドは地下牢に入れられてしまいます。

 ところが警備はゴールドフィンガーのケツの穴のようにユルユルで、ボンドはまんまと抜け出して上の階で協力者の全米のギャングにゴールドフィンガーがグランドスラム作戦の説明をするのを盗み聞きします。

 犯罪芸術をギャングに語り、地方の資料館にありがちなジオラマでフォートノックス上空に催眠ガス(実はサリン!)を飛行機でまき、警備の軍を始末してレーザーで金庫を破壊するという計画をぶち上げるゴールドフィンガー。模型の下が空洞になっていてボンドに話は筒抜けです。

 勿論ギャング達はサリンで始末され、一人抜けることを表明したギャングはオッドジョブに始末されてプレス機で車ごとサイコロにされてしまいます。

 ガロアに発見されたボンドは地上に案内されますが、計画の全容を知られたというのにゴールドフィンガーは平気な顔です。

 競馬ファンのふりをして見張りに来たフェリックスをゴールドフィンガーが怪しみ、ボンドは警備が露骨に強化された地下牢から引き出され、ガロアにボンドとカップルのふりをして楽しそうにしろとホモ特有のデリカシーの無い命令を下します。

 しかし、ボンドと楽しみたいのはゴールドフィンガー当人に他ありません。ミントジュレップなんて勧めてご機嫌です。

 ボンドはガスが猛毒である事と、フォートノックスにしまってある大量の金塊を運び出すのは不可能だと作戦の穴を指摘します。

 ところが、ゴールドフィンガーは金を持ち出すのではなく、核爆弾で金を汚染して流通不可能にして金価格を釣り上げるのが狙いでした。

 邪魔すると核爆弾をテロに使うとゴールドフィンガーは脅しをかけ、ボンドにべらべらと作戦をしゃべってしまいます。ボンドに魅せられた男の死亡フラグです。

 ガスで警備を始末したゴールドフィンガーは金庫に侵入し、ボンドを爆弾と手錠でつないで立ち去ります。

 そう、ボンドを1万トンもの金塗れにすることでゴールドフィンガーの犯罪哲学と変態プレイは完結するのです。

 しかし、ノンケ落ちしたガロアが裏切り、軍隊が駆けつけてきます。ゴールドフィンガーは事前に用意しておいた大佐の制服に着替えて逃げおおせますが、作戦は失敗に終わります。爆弾のカウントが「007」で止まったのは今思えばやりすぎです。

 しかし、大統領がお礼を言いたいというので専用機に乗ったボンドにその専用機を乗っ取ったゴールドフィンガーが迫ります。金メッキのコルト・オフィシャルポリスが実に悪趣味です。そこはルガーかSAAでしょう。

 この期に及んで昇進祝いなんてジョークを飛ばすボンド。ゴールドフィンガーは二度と邪魔をさせんとリバ宣言をして銃をボンドに向けますが、取っ組み合いの挙句ガラスが割れてしまい、ゴールドフィンガーは飛んで行ってしまいます。

 ボンドは操縦席のガロアと脱出し、例にもよっていちゃつきながら救助を待ちます。しかし、どうせガロアは使い捨てです。レズにコンドームは必要ないですが。

 

オッドジョブ×ゴールドフィンガー
 さて、ガチホモのゴールドフィンガーの正妻は誰か?勿論オッドジョブです。二人の絆は純金のように輝く混じりけのない純愛です。

 オッドジョブは獣の臭いをたたえ、朝鮮半島における飢えの中で猫を食べるようになったと原作には書かれます。その悲惨な境遇から救いあげてあんな立派に育てたのが他ならぬゴールドフィンガーです。

 そして、口が堅いどころか障害があって喋れません。しかし、原作にはゴールドフィンガーにだけは彼の言いたいことが分かるという尊すぎる設定も明記されています。

 朝鮮戦争の混乱に乗じて儲けようと当地へ飛んだゴールドフィンガー、そこで僅かな米を求めてホモの両班の慰み者にされる口のきけない少年に幼き日の自分を見たのです。

 少年はゴールドフィンガーが札束ではなく馬蹄銀で両班の頬をぶん殴って少年は買い取り、良質なたんぱく質を豊富に摂取してもりもり強くなってゴールドフィンガーという愛するチューナーの為に尽くしている。そんな絵が浮かびます。

 不向きと言いつつオッドジョブにキャディをさせるのもゴールドフィンガーの愛です。もっと腕の良いキャディを別に雇ってオッドジョブも付いて来させてもいいのに、そうしないのはオッドジョブがあの笑顔を崩さないようにという優しさです。

 ともすれば、たかが5000ポンドの為にズルをするのも負けてオッドジョブが責任を感じないようにという愛の顕れです。トプレック湖より深い愛です。

 ゴールドフィンガーは当然ボンドとのマイアミの一件を知っていて、オッドジョブに帽子投げでゴルフ場の石像の首を切り落とさせて脅しをかけます。これもオッドジョブに格好良い所を披露させようという愛です。

 グランドスラム作戦も大詰めという所で裏切りがあり、ボンドとオッドジョブ達は金庫室に閉じ込められてしまいます。

 しかし、爆弾を止めようとしたゴールドフィンガーのアメリカ家老をオッドジョブは殺し、ボンドに襲い掛かります。

 これをゴールドフィンガーがオッドジョブを見捨てたと思っている人が居ますが、それは大きな間違いです。二人に黄金の絆があればこそのやり取りです。

 どうせ爆弾処理班がやって来て金庫を開けます。そうすればオッドジョブはカービー将軍とメイトリクス大佐とトラウトマン大佐とランボー軍曹が一度に来ても撃退して自分の元へ帰ってくると確信しているのです。

 オッドジョブもまたそれを信じているからこそ駄目押しでボンドをにこやかに殺しにかかります。なんなら愛は放射能を遮断するとさえ信じていそうです。

 ところがオッドジョブはボンドに敗れました。それを悟ったからこそゴールドフィンガーは金にもならないボンドへの復讐を狙ったのでしょう。そして死にました。

 しかし、二人は地獄で永遠に愛し合うのです。黄金のように美しき悲恋物語です。
 

オッドジョブ×ボンド
 ゴールドフィンガーとオッドジョブがデキているという前提だと、オッドジョブにとってボンドは許せない存在です。チューナーを横取りしようとする泥棒猫です。猫を食うオッドジョブだけに。

 ボンド寝ている間に食われた説をとるなら、それを見ていただろうオッドジョブの心中たるや察するに余りあります。NTRです。勢い余ったことにして殺しておけばと後悔した事でしょう。

 ゴルフ場での別れ際、ゴルフボールを握りつぶしていったのも単なる示威行為ではありません。チューナーを横取りした上に恥をかかせた男へのホモのジェラシーです。

 お前のゴールドボールもこうして握りつぶしてやるというわけです。オッドジョブは日本統治下に生まれているので、睾丸を金玉と呼ぶのを知っているのです。フレミングもこのくらいは知っていたでしょう。

 ケンタッキーにボンドを迎えた時の乱暴なエスコートも非常に意味深です。チューナーを寝取られても文句を言えない哀しさ。いよいよ韓流時代劇っぽくなってきました。

 金庫に閉じ込められて一対一となった二人は殺し合います。ここで一つ謎なのが、何故オッドジョブはボンドにとどめを刺しに行ったのかです。

 放っておいて自分だけ逃げてもボンドは助からなかったでしょうし、そもそもボンドを事前に殺すのはゴールドフィンガーの犯罪哲学に反します。

 これはオッドジョブのホモのジェラシーの現れです。泥棒ネコを自ら始末しなければ収まりがつかなかったのです。勿論、そうと知ってもゴールドフィンガーは許したでしょう。可愛い奴めでお終いです。

 オッドジョブは金塊を投げつけられようが棒でぶん殴られようが終始ニコニコでボンドを圧倒します。泥棒ネコを殺す喜びに満ち溢れています。

 しかし、山高帽で電線を切ってしまい、鉄格子に挟まった山高帽を取りに行ったところをボンドが電線を投げつけたために感電して壮絶な死を遂げます。

 ハロルド坂田はこのシーンの撮影で火傷したそうですが、NGなしで見事一発OKだったそうです。一番凄えのはプロレスというわけです。

 しかし、ゴールドフィンガーも死にました。ゴールドフィンガーはオッドジョブに火の車を引かせ、どこまでも二人でホモ地獄を走っていくのです。

ボンド×フェリックス
 二人の久々の再会も中々にホモ臭い雰囲気を内包していました。

 マイアミでマッサージ嬢といちゃついていたボンドの後ろから「相変わらずだな色男君」と来ます。

 これに対してボンドも嬉しそうにフェリックスを迎え、女に「古い友人なんだ」と紹介してさっさと追い払ってしまうのが女<フェリックスという序列の証明です。

 フェリックスは「女は大概にしろよ」とスパイ同士の絆を強調すれば、ボンドは「人の事言えた義理じゃないだろ」と返します。

 しかし、フェリックスの女関係と言えばかなり後になって奥さんが出てくるくらいで、ボンドに言われる筋合いのあるような派手さはありません。

 つまり、フェリックスがボンドの女である事の裏付けです。フェリックスのメスっぷりと嫉妬にボンドは反応したのです。

 ゴールドフィンガーはCIAには悪行を知られていませんが、Mから指令を託されたフェリックスはちゃんとゴールドフィンガーの下調べをしています。彼こそボンドのアメリカ妻なのです。

 しかし、ボンドが気絶している間にジルが金塗れで殺されてしまい、ボンドはMに怒られつつフェリックスが事態をもみ消したと語られます。これはボンドがフェリックスに貸しを作ったわけであり、BL的には身体で返済と相成ります。

 「ジェームズ、君はビートルズを嫌ってるが、あいつらのマネージャーは俺達とお仲間なんだぞ」などと言ってジルの死体をほったらかしてネクタイを解くフェリックスの姿が浮かびます。ちなみに、私はブライアンとジョンはヤったと信じています。

 スイスでとっ捕まって消息を絶ち、発信機でどうにかアメリカに居るとMI6に知らせたボンドのおもりを仰せつかるのがフェリックスです。

 抜けて始末されるギャングの車に発信機をボンドが取り付け、フェリックスはこれを追いかけます。「奴の事だから酒か女だ」とボンドが殺される危険はみじんも考えていません。ボンドは絶対にミッションを完遂すると信じ切っているのです。

 ところが、車がサイコロにされて発信機が壊れ、牧場に戻って競馬ファンのふりをして見張ります。最近我が国では変わった形の競馬ブームで牧場への押しかけや墓荒らしが問題化していますが、当時から牧場を見物に来る競馬好きは居たようです。

 ガロアとの偽装カップルにフェリックスはまんまと騙され「いつものジェームズだ」と何だか嬉しそうです。そう、フェリックスは知っているのです。女を使い捨てにするのがいつものジェームズだと。

 ノンケ落ちしたガロアの通報を受けて無事グランドスラム作戦を阻止したフェリックスは、大統領から招待を受けたボンドをゴールドフィンガーのそれと内装がうり二つの専用機に乗せて任務完了と思われました。

 しかし、ゴールドフィンガーが飛行機を乗っ取り、脱出したボンドを探しに行くのがフェリックスです。こうして二人の仲はどんどん深まっていくのです。役者は毎回変わりますが、フェリックスは使い捨てではないのです。


ボンド×Q
 のっけからボンドは頭にカモのはく製に偽装したシュノーケルの付いたアホっぽい潜水服で麻薬工場に侵入します。これもまたQの作であり、Qあればこそのボンドという二人の関係性をあのカモは端的に表現しています。むしろコウノトリです。

 そして、ボンドとQの夫婦漫才は本作をもって基本が完成します。あのシンプルな鞄に飽き、早くもボンドは説明を聞かなくなっているのです。

 だからこそQはボンドカーという男と生まれて嫌いと言うはずのない叡智の結晶を生み出したのです。ボンドの気を引くためにQの作る道具は今後過激化の一途をたどります。

 発信機の説明を受けて尾行中に女と遊べると喜ぶボンドに「女遊びの為じゃない」と釘をさすのもQのジェラシーです。そうは言いつつ、ボンドがQに気をやればQは車にこっそり仕込んだ大人のおもちゃを山と取り出すはずです。

 ボンドカーは雑魚には効きましたが多勢に無勢で、結局ボンドはとっ捕まり、拷問の末にケンタッキーへ空輸されます。

 その機中、エロい格好をした韓国人スチュワーデスのマイ・リー(マイ・リン)にボンドはを持ってこいと言います。勿論、これは『ロシアより愛をこめて』で使われた鞄です。

 調べているうちに壊れてしまったという返事からもそれは確かです。このか鞄が無事なら、ボンドはハイジャックを敢行したでしょう。結局ボンドが最後に頼るのはQなのです。


ボンド×M
 今回のMはちょっと影が薄いとお思いかもしれませんが、BL的には非常に美味しい所を見せています。

 オッドジョブに気絶させられて命からがら逃げて来たボンドを叱るMの姿をご覧ください。任務を逸脱して命を危険にさらし、挙句フェリックスにジルの死についてもみ消してもらったのですから当然ですが、BL的にはまた違う意味合いを帯びてきます。

 MにとってMI6は大奥であり、部下は全員息子にして夫であるというのは『ドクター・ノオ』から力説してきた通りです。つまり、ボンドが無茶をして危険を犯したことを怒っているのです。

 第二に、フェリックスの存在があります。シリーズ前半においてフェリックスの役者はほぼ毎回変わりますが、それでもボンドとフェリックスの相性は抜群です。

 それだけにMは怖いのです。ボンドとフェリックスアメリカに染まって007から4つ足して0011になってしまったら?ソロとイリヤになってしまったら?もうMは挽回不可能です。ナポレオンソロはやおい原始時代の覇権だったのですから。

 とすれば、フェリックスに絆と借りを作る事はMとしては何としても避けなければいけないのです。Mにとってはフェリックスだけに泥棒ネコなのです。

 復讐のつもりなら交代要員を出すというのはボンドを危険にさらしたくない親心であり、やはり独占欲です。

 その後マネーペニー(ロイス・マクスウェル)に金の知識をボンドが訊ねると、マネーペニーは「私の知ってるのは左の薬指にはめるのだけ」と相変わらず凄まじい重さで、ボンドの帽子を投げてディナーに誘います。

 ボンドはこれを適当にかわしますが、マネーペニーの「幸運を射止めた女性は誰?」という問いに答えたのは「私だ」というMの通信でした。語るに落ちると言いますが、完全なカミングアウトです。

 ボンドガールは所詮ボンドの股間のワルサーと胸毛に子宮を支配されているにすぎませんが、マネーペニーは違います。彼女のボンド愛はそんな汚らわしい肉欲の産物ではありません。

 本当に結婚すればボンドが夜な夜なハッテン場で誰専かまして掘られまくってインポになって不能になっても彼女は許すでしょう。

 それが分かっているからこそMはマネーペニーを恐れています。左遷しないのは敵は近くに置けというやつです。あの秘書室に縛り付けておく限りは最悪の事態は回避できるのですから。


百合的に解説(閲覧注意)

ガロアはレズ?
 ボンドの女の扱いの悪さは目に余るので再びこの方法でバランスを取ります。しかし、ガロアがレズなのは原作にも明記されています。

 そして、12歳の時に叔父に犯されてレズになったという壮絶な過去と、彼女の率いる曲芸飛行チームは全員レズという美味しい事実があります。

 つまり、このチームはガロアの楯の会なのです。入隊審査は夜間飛行によって可否が決まり、身体で操縦を覚えるのです。フレミングはバイかもしれませんが、ノンケの男が何を求めているのかよく分かっていたという事です。『トップガン』のビーチバレーみたいなものです。

 さて、ボンドと彼女の出会いは、ボンドが麻酔で眠らされて目が覚めた時に始まります。一応介抱しに来たあたり、案外良き姉御なのでしょう。

 ジルの時同様ボンドはガロアにゴールドフィンガーとの関係を尋ねますが、ホモとレズで何か起きようはずがないのでガロアは怒っちゃいます。

 そして、マイ・リーは恐らく彼女の女です。ガロアの彼女の扱いがボンドのそれと同じです。パイロットとスチュワーデスがデキるなんてありふれた話ですから。ちなみに、当時男のCAをスチュワードと呼んでいましたが、昔からゲイが多い事で知られています。

 ケンタッキーでは見事な飛行を見せる彼女の部下たちに賛辞を贈るボンドに、「私の生徒」とガロアは念を押します。これでボンドは全てを察したのでしょう。ただし、クレッブ大佐と違って彼女に食う価値を見ています。

 待ち受けていたオッドジョブに車に乗れと促されて「レディの前では帽子を脱げ」と言って女扱いして機嫌を取ります。この時点でショーン・コネリーに神が与えたもうた帽子は既に風前の灯火です。

 ついでに「こいつはか弱い女を殺したんだよ」と紳士面かましますが、ガロアは「男も殺すわよ」と意に介しません。機中でゴールドフィンガーとオッドジョブがドッグファイトしているのを見てきたのでしょう。

 ガロアを出迎える全員ブロンドの生徒たちをご覧ください。完全にメスの表情です。今夜最終ブリーフィングだそうですが、どんなことが起きるのか想像するだけでたまりません。楯の会はあの日の前夜、一直線に繋がってちんちん電車ごっこに興じたという噂がありますが、彼女達はどうするのでしょうか?

 グランドスラム作戦を立ち聞きしていたボンドをガロアは柔道でのし、今度は護衛を増やした地下牢に戻します。しかし、フェリックスが見張りに来たのでガロアはボンドと即席カップルにされます。

 ガロアは嫌でしょうが、バハマに島を買って自然の中で暮らすという夢があるので逆らえません。

 偽装カップルになった二人ですが、不用意にも納屋に誘い込まれたのが運の尽きでした。口説きにかかったボンドを柔道で投げ飛ばしますが、乱取りになり、藁の中で押し倒されます。

 完璧なレズのノンケ落ちです。レズビアンの人は怒るでしょうが、ノンケの男はこれが好きなのです。

 そして、ガロアは寝返ってガスを偽物にすり替えてフェリックスに通報し、グランドスラム作戦は失敗に終わります。そして、大統領専用機でゴールドフィンガーを始末して二人で脱出し、女の喜びに目覚めて映画は終わります。

 勿論ボンドはガロアも使い捨てるので、彼女の生徒たちとの痴情のもつれが気がかりです。機体に細工されて始末されなきゃいいのですが。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します

ショーン・コネリー追悼企画
『レッド・オクトーバーを追え!』
『007 ドクターノオ』
『アンタッチャブル』
『薔薇の名前』
『007 ロシアより愛をこめて』(1963 英)

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