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第62回 レッドブル(1988 米)

 さて、5月1日はメーデーです。労働者の日です。というわけで、忘れた頃の赤いBL的映画鑑賞で参りましょう。

 社会主義は平等を旨とする思想です。となれば本noteがスタローンと松方弘樹に著しく偏っているのを是正するという今年のテーマにぴったりの一本、スタローンの永遠の好敵手にして親友、シュワちゃんことアーノルド・シュワルツェネッガーの『レッドブル』でお送りします。

 撮るのは銃撃戦と野郎共のわちゃわちゃに強いウォルター・ヒル、シュワちゃん演じるソ連の警官イワン・ダンコ大尉が仲間の仇を追ってシカゴに乗り込み、ジェームズ・ベルーシ演じるリジック刑事と大暴れという組み合わせだけで興奮してきます。

 ハリウッド映画で初めて赤の広場でロケを行い、オーストリア訛りが抜けずにいたシュワちゃんがでそれを逆手に取って役者として一皮むけることに成功した記念碑的作品でもあり、また組合員デビューには最適の一本です。

 そして何より、思想と国境を越えたダンコとリジックの凸凹コンビから醸し出される爽やかなホモ臭さはまさBLであり、ウォルター・ヒル入魂の芸術であります。

 また、この映画はシュワちゃんの名付け親で永遠の恋人である淀川先生が欲情して解説を放棄し、世界のゲイを騒然とさせた入浴シーンから始まります。シュワちゃんの肉体美はホモとかノンケなどという些細な垣根を超越した人類の宝なのです。

レッドブルを観よう!

この度Netflixで配信が始まりました。しかも吹替で

真面目に解説


トロイカ映画
 『レッドオクトーバーを追え!』で言ったと思いますが、ハリウッド映画を見るとその時代時代の米ソ関係が見えると申します。

 つまり関係の悪い時代のソ連は外道な悪党として描かれ、良い時代はその逆というわけです。

 本作の時代は所謂ペレストロイカで米ソ関係が急激に改善していった時代であり、ソ連の体制をイジるジョークが多数盛り込まれていますが、その一方で資本主義の闇も同様にイジられており、米ソ両方の顔が立つように作られています。

 シュワちゃん演じるダンコ大尉は筋肉モリモリマッチョマンで犯罪者には情け容赦ありませんが、インコと規律を愛する案外優しい男であり、ジェームズ・ベルーシ演じるリジック刑事は型破りで資本主義に毒されていますが、やはり優秀で職務に忠実な男です。

 米ソ両方の国民性が出た二人の掛け合いはソ連への悪意がもろに出た『ロッキー4』とは正反対の爽やかなホモ臭さがあり、嫌な思いをせずに観れる映画です。

 特に赤の広場で撮られたオープニングはジェームズ・ホーナーのBGMも相まって実に格好良く、ソ連という国の持つ厳かな一面が鮮やかに切り取られています。

組合員のススメ
 スタローンとシュワちゃん、馬場と猪木、王と長嶋、健さんと文太兄ぃ、つまりこの二人は永遠のライバルであり永遠にセットなのです。

 なのにこのnoteがスタローンばかりに偏ってしまったのは私が好き嫌いをしたわけではなく、吹替版が殆ど配信されないからです。

 シュワちゃんの映画は大胆な翻訳と玄田哲章ボイスがなければいけません。これだけはいかに強硬な字幕派相手にも譲れないのです。

 『コマンドー』を筆頭にシュワちゃんの映画のセリフを引用して会話を楽しむ組合員(『イレイザー』に由来)文化が存在するくらいですので、これは日本の映画文化のある種の到達点とさえ言っていいでしょう。

 さて、この組合員というのはシュワちゃんの映画の主なるセリフを記憶し、ここぞというタイミングで時に改変も加えて当意即妙にセリフを引用できなければいけません。

 儒者が五経四書で、修道士が聖書で、淫夢厨がホモビデオでするのと同じ事をするのであり、極めて高等な知的遊戯です。

 さて、そこでシュワちゃんの映画に明るくない皆様に入門編として勧めたいのが他ならぬこの『レッドブル』なのです。

 下品過ぎず、グロ過ぎず、それでいてシュワちゃん本来の午後ロー的、日曜洋画劇場的魅力が過不足なく引き出されていて、BL要素も外しておらず良く纏まっています。『コマンドー』や『プレデター』はこの後で十分です。


恐怖のロシアンマフィア

 ダンコ大尉は仲間を殺して国外逃亡したグルジアマフィアのビクトル・ロスタ(エド・オロス)がシカゴで捕まったという報を受けて引き取りに行きます。

 建前上社会主義国家にはマフィアなど居ないはずなのですが、もうこの頃になるとソ連は完全に死に体なので体勢の矛盾があちこちで噴出し、大マフィア時代の様相を呈していたのです。

 特にグルジア人はソ連で有形無形の差別を受けていたので今でもロシアンマフィアの中で一大派閥となっています。

 ここで注目したいのが、ダンコに殴り倒されるマフィアがプロレスラーのタイガー戸口である点です。ソ連は多民族国家であり、東洋人は別に珍しくないのでこのキャスティングもありなのです。

 また、ロスタ達の収入源は麻薬ですが、これも本来ソ連にはないはずのものでした。ロスタに殺されたユーリ(レグ・ヴィドフ)が「麻薬なんて遠い国の事だったのに」とこぼすのがソ連の末期状態を表しています。こういう形でソ連の抱える問題が描かれます。


恐怖の資本主義
 そしてダンコ大尉はシカゴへ飛ぶわけですが、初めての資本主義国家にダンコ大尉はカルチャーショックの連続です。

 特にダンコが安ホテルでアダルトチャンネルに面食らうシーンはこの映画一番の名場面の一つです。「資本主義者め…」と毒づきながらも画面から目を離せないダンコ。シュワちゃんが他のエクスペンダブルズと違って芝居の幅が広い所を見せ付けてくれます。

 そして、シカゴはギャングの本場なのでロスタの引き渡しは上手くいかず、地元のギャングの手引きでロスタは逃げてしまい、リジックはダンコで追いかけるわけです。

 このように資本主義もまたレーガンの言うほど良い物ではないことも描かれ、バランスを取る仕組みになっているのです。


ミランダ法

 ダンコもリジックも同じ警官ですが、国家の体制が違うので当然犯罪に対するスタンスが大きく違います。

 その象徴のように描かれるのがミランダ法です。これはアメリカの刑事ドラマでお馴染みの「お前には黙秘権がある」云々のあの逮捕の時の決まり文句です。

 これはミランダという人が不当な取り調べを受けた事を契機として逮捕者の権利を読み上げることが義務付けられてた物です。アメリカではこのように法律やルールに制定のきっかけになった人の名前を通称として付ける慣習があるのです。

 リジックは一応このミランダ法に則って犯罪者を扱いますが、ソ連は人権意識が希薄なのでダンコは石原軍団もドン引きの拷問上等のスタイルで、リジックはブレーキをかけるのに必死です。これがまたホモ臭くて良いのです。


なんだあのでっかいモノ
 さて、刑事物に欠かせないキーアイテムが拳銃です。リジックは普通のリボルバーですが、ダンコはポドヴィリンなる巨大な拳銃を携帯しています。

 本来ソ連の警察では日本のギャングがよく使っているマカロフという拳銃が用いられているのですが、これはかなり小型なのでシュワちゃんが持つと安っぽく見えてしまいます。そこでとても大型で日本の中学生が好きなデザートイーグルをベースに特別に作られたものです。

 しかし、ロスタ逃亡の責任を取ってダンコも謹慎させられてしまい、このポドヴィリンも取り上げられてしまいます。

 そこでリジックはダンコに私物のM29、所謂44マグナムを貸し出します。実はこの銃は警官が持つには威力もサイズも過剰なのですが、これならシュワちゃんが持っても小さく見えません。

 そしてご存知の通りダーティーハリーも使ってる世界最強の拳銃というのがリジックの説明でしたが、ダンコはダーティーハリーを知りませんでした。ソ連にアメリカ映画は入ってこないのです。

 ロスタが上着の袖にデリンジャー(隠し拳銃)を隠しているのも注目したい点です。これで随分とストーリーを動かします。ヒルは男の子が何が好きなのか知っているのです。


豪華版シカゴ市警

 本作のシカゴ市警の面々はヤケに豪華です。保身しか考えない腑抜け署長のドネリーはピーター・ボイル、リジックの相棒のギャラガー刑事はマフィア役ばかりのリチャード・ブライト、科学捜査が得意そうなインテリ担当のストッグス警部補はラリー・フィッシュバーン

 情報屋さえブライオン・ジェームズですから、この映画は相当気合が入っています。ボンクラ映画好きにはたまらない取り合わせです。

 ギャラガーはそれなりの気骨を見せていますが殉職してしまいます。署長と警部補はロスタを捕まえる為にダンコを利用しようとしてアメリカ版KGB呼ばわりを受けてしまうのです。

 KGBは秘密警察なので、普通の警察(民警)であるダンコ達とは仲が悪いのです。こういう細かい所を外さないのがヒルの見事なバランス感覚だと思います。


ヒルの趣味
 私が好きなのが刑務所に居ながらシカゴの牛耳っているのがクリーンヘッド団のボス、アブダル・エライジャ(ブレント・ジェニングス)です。忠誠を確かめる為に手下は全員スキンヘッドにさせ、革命的政治指導者を自称する盲目のギャング。詰め込み過ぎです。

 悪党なりの仁義を標榜し、ダンコに「我が国に麻薬を送ればある朝お前が目覚めるとベッドわきのコップの中に大事なタマタマが浮かぶことになる」と作中ナンバーワンの名セリフで脅しても「聖人君子だからタマタマは必要ねえ」と応じない一本筋が通った男です。

 多分ホモなのでしょう。権力者のくせにガチムチの黒人男ばかり侍らせて女っ気がありません。刑務所で唯一のマルキストらしいので、ホミンテルンと言うわけです。


今回のオメコ芸者

 ヒルは女をコンドーム扱いすることにかけては深作欣二以上です。エライジャの情報を基に二人はロスタの愛人のキャット(ジーナ・ガーション)というエロいダンス教師に会いに行きます。

 ところがキャットは二人をロスタに売り、そのまま二人を邪魔して使い捨てられて殺されてしまいます。ヒル作品での女の扱いはこの程度のものです。

 しかし、それだけに実質「漢だけの映画」であり、淀川先生に言わせれば外れがないのです。なんならこの後銃撃戦に巻き込まれる不運な娼婦の方がメインヒロインなレベルです。ダンコは彼女のおかげで命拾いさえしました。

銃撃戦こそ華
 ホモだホモだと言うのはいつものことですが、ヒルはゲイ映画の監督ではありません。漢の映画の監督です。漢の映画とは何か?殴り合いであり銃撃戦です。

 ワイルドな殴り合い、荒々しい銃撃戦、西部警察並みのカーアクション、ヒル作品には娯楽映画に必要な物が全て詰まっています。

 他の監督より銃の火花が派手なのが観る人を興奮させます。弾薬の消費量もアメリカンです。そしてガラスがやたらに割れるのと居合わせた女が巻き込まれるのもヒル流と言っていいでしょう。

 カーチェイスも必要以上に物を破壊して派手です。西部警察の理論は人類普遍の物なのです。

BL的に解説

いきなりハッテン場
 本作が凄い所はロシアのサウナのシーンから始まるところです。これが考証上正しいのかは微妙ですが、だとすればロシアのサウナはハッテン場です。

 申し訳ばかりに裸のお姉ちゃんが混ざってていますが、尺のほとんどをガチムチ野郎が前掛け一枚の尻丸出しで筋トレに励む姿に割いています。上野24会館かと思いました。

 そしてルールにのっとって尻丸出しでマフィアの居る区画に乗り込んでいくシュワちゃん。行った先に居るのがタイガー戸口ですから、もうガタイ専はギンギンです。

 そしてダンコは戸口に嫌がらせでサウナ石を握らされ、そのままぶん殴って雪原で場外乱闘です。

 タイガー戸口と言えば日本では地味ですがアメリカでは人気レスラーでしたので、ダンコ相手にショルダースルーを決められて中々の名レスラーぶりです。

 そして問題はその次の瞬間、ダンコが蹴りで追い打ちをかけた瞬間、戸口の前掛けがズレて戸口のタイガーがシュワちゃんの尻と一緒に見えてしまうのです。

 残念ながら肌色のパンツで隠しているようですが、とんだサービスショットです。そして、タイガー戸口は在日コリアンですが、在日コリアンは股間の物が小さいというネットでささやかれる悪意ある俗説は嘘だとハッキリわかります。セックスに国境はないのです。

ダンコ×リジック
 ダンコの怪しいのは後から説明しますが、リジックは隠れホモ、あるいはホモのホモ嫌いと推測できます。

 まず第一にいい歳して独身です。そして巨乳好きというのが曲者です。隠れホモの表向きの女性の好みとして熟女と並んで多いのが巨乳なのです。

 これはどちらも分かりやすいからです。変に凝ったらボロを出すリスクがあります。そして、もし女性に言い寄られても(オッパイと年齢の)大きさが足りないという口実で断る事が出来ます。

 そのくせナンパばかりしているのも怪しさを倍加します。とういうのも、こういうスタンスを取っておけば女の方から言い寄ってくることは少なくなります。あるいは、自分がホモであるのを認めたくなくてがっついているとも推測できます。

 また、リジックはボクシングが好きです。先日亡くなった伝説のボクサー、マービン・ハグラーに賭けて大損をこいたと犯人に八つ当たりするシーンがあります。

 余談ですが、映画の公開時期とハグラーが負けたという事実から、この試合の対戦相手はシュガー・レイ・レナードであることが推測されます。

 彼はオリンピックの代表だった少年時代、トレーナーに無理矢理しゃぶらされたというショッキングな告白をしています。ボクサーとおやっさんという王道も現実には決して美しいものではないのです。

 話を本筋に戻しますが、つまりリジックは筋肉だけで一遍の無駄もない肉体の男を愛する筋専であるということです。

 ともすれば、ダンコにリジックは一目惚れしたのでしょう。極度のマフィア面のギャラガーがダンコとかみ合わない挨拶を交わしているのを「ロマンスの邪魔して悪いが」とさえぎるのはジェラシーです。

 ボクシングファンでマル暴のリジックは知っているのです。ギャラガーが若い頃、ロッキー・バルボアのパトロンと一緒にNYでバイのボスの下、偽警官の殺し屋をしていたことを。ついでに言えばもっと昔はジェイク・ラモッタと密造酒取引に手を染めていました。放っておくと横取りされる危険があるのです。

 それはともかく、翌日署でチェスを指していたリジックにダンコが助言をしたのはダンコの方も満更ではなかった証拠です。

 チェスはソ連の事実上の国技なので、ダンコは筋肉モリモリマッチョマンでインテリであるところをリジックに示しておきたかったのでしょう。素直になれないリジックが萌えです。

 そしてロスタにホモ野郎呼ばわりされて逆上するダンコを見て「お友(ホモ)逹みたいだね、ボディランゲージで愛情示してる」とコメントするのはホモならではです。

 間もなくロスタは空港まで送り届けられ、二人は別れる運びになります。チェスの助言が正しかったことのお礼を言って、リジックは今日はブルーオイスターで憂さ晴らしするつもりだったのでしょうが、地元のギャングの襲撃でギャラガーは殺され、ロスタは奪われてしまうのです。

 ダンコは領事館長に怒られて帰国を命じられますが、制服からスーツに着替えてロスタが残していった謎のコインロッカーのカギを手掛かりに独自に捜査する決意をします。

 ダンコはリジックに素直になれないで協力を拒みますが、リジックもギャラガーの仇が討ちたいのです。共通の仇を持った素直になれない二人が素直になっていくのは当然の帰結というものでしょう。

 共通の目的を得て二人の仲は急激に接近し、ミランダ法を説明して「容疑者のケツも触れねえ」とリジックが言えば、ダンコはそんなもの知らんとばかり情報屋のストリークの指を折って「ソ連式の方が能率的だな」と名セリフで返す。もう完全に夫婦です。

 二人のホモ臭さがピークに達したのがエライジャから情報を貰った直後、ダンコのアラーム付き時計がインコに餌をやる時間を告げた時です。

 ソ連にインコが居ることに驚くリジックですが、ダンコは「インコは女の趣味だというのか?」とムキになります。

 インコを飼うのに性別は関係ありませんし、己を曲げないダンコです。なのに感情的になってしまうのは、女々しく見える事を極度に恐れているのであり、ゲイが犯罪のソ連人民の哀しさです。

 リジックは「いい趣味だ」とフォローを入れ、ダンコは初めてリジックに「ありがとう」と感謝の言葉を述べます。

 ダンコはリジックを差別をしない男だと認め、リジックはダンコを案外優しい奴だと認め、この時二人は完全に内縁の夫婦になったのです。お互いを認め合ったというわけです。

 ロスタを取り逃がした後のやり取りは完璧に夫婦喧嘩です。俺の事なんていいからギャラガーを殺したロスタを殺せというのがリジックの主張ですが、ダンコにしてみればギャラガーなどコンドームなのです。

 そして「相棒は信頼すべきだ」と言います。もう二人は相棒なのです。リジックの正妻面にダンコは愛はマルクスでは読み解けない事を悟りつつあります。

 二人はロスタ奪回の際の銃撃戦で生き残ったマフィアを尋問しに行きますが、毒を盛られて殺された後でした。それもロスタの差し向けた女装看護婦に。女装というところにロスタの性癖とヒルの狙いを垣間見る私なのです。

 リジックがいい女だと完全に騙されていたのもリジック隠れホモ説の証拠になります。

 ダンコはキャットを泳がすべく独断で逃がしますが、リジックは証拠が無くなったので「肥溜にハマって糞まみれ」と嫌味を言います。

 そして署長に二人して説教を食らい銃を没収されて二人は決別寸前になりますが、ダンコの「署長はKGBそっくり」という本音に触れ、リジックは「おたくには借りがある」とクビを覚悟で私物のマグナムを手渡し、非合法捜査に突入するのです。

 そしてカフェで書類の山に頭を抱えながらリジックはダンコに結婚しているかどうか尋ねます。「相棒だから知りたい」というのは口実であるのは言うまでもありません。

 そしてダンコは天涯孤独、未婚でガールフレンドさえ居た事が無いという重要情報を聞き出すことに成功します。ユーリというボーイフレンドについて探らなかったのはリジックの手落ちでありましょうが、女は知らないのが明白になりました。

 ロシア人は紅茶が好きと言うのを『ドクトル・ジバゴ』を観た経験からリジックが知っていて、気を利かせて注文するのも正妻アピールです。二人の仲は段々と爛れていくのです。

 二人はロスタの襲撃でついに署へ軟禁されそうになりますが、「ロシア人のクソッタレ」と闘志を燃やすリジックは独自の捜査を辞めません。「あんたじゃねえよダンコ」とフォローを入れるのが二人の仲の進展を物語ります。

 そしてリジックの妹の元亭主の鍵屋に慰謝料の滞納の苦情を言いに行くふりをして鍵がどこの物なのか調べます。他人には出来ない連係プレーです。

 そして金と麻薬を手に入れたロスタを追ってバスターミナルでのラストバトルに至ります。

 二人でロスタに銃を向けて手柄の取り合いをする二人。どっちも仇を討ちたいのは一緒。これは3Pです。そしてダンコがリジックに銃を向けるほどの夫婦喧嘩の間にロスタはバスを奪って逃げてしまいます。

 そこでダンコもバスを奪い取り、二人してロスタを追跡です。そしてロスタのバスと真正面からチキンゲームを挑み、リジックが介入して正面衝突は避けられました。リジックは最後に夫の無茶を止めたのです。この時点でエイドリアンを超えました。

 夫婦喧嘩する二人に立ちはだかるのが血まみれになったロスタです。そしてリジックはもう諦めて勝負をダンコに譲るのです。

 そして見事ロスタを仕留めたリジックに「いい腕だ」と褒められてお礼を言いつつ、ダンコは「ソ連製の銃の方がいい」と亭主関白な所を見せます。リジックは「可愛げのない野郎だ」と言いつつもメスの表情です。

 役目を終えたダンコは空港のロビーで仲良く野球観戦をして、ダンコが自分を撃つ気だったのかリジックは尋ねます。しかし、答えはありません。真に通じ合った男と男に言葉は必要ないのです。

 そしてダンコはソ連式の友情の証として時計の交換を申し出ます。口では文句を言いながらも嬉しそうにリジックのアラーム付き時計を受け取るリジック。持ち物の交換はやっぱりセックスです。

 そしてダンコは「俺達は警官だ。政治家とは違う。友情を持ったっていい」と名セリフを残し、再会を約束して去っていきます。

 ソ連は間もなく崩壊します。そうなればもうダンコとリジックを隔てる物は何もないのです。

 ロシア警察の偉い手になったダンコが再びシカゴを訪れ、リジックの行きつけのブルーオイスターにしけこみ、二人はシベリアの氷河さえ融けるほど熱く燃えるのです。二人の愛こそがアメリカとロシアをつなぐオリーブの首飾りなのです。


ダンコ×ロスタ
 二人は宿命のライバルです。多分映画の前に何度となく顔を合わせているはずです。

 差別され、刑務所で人生の多くを過ごすギャングには同性愛が多い。これはソ連でも変わらないはずです。グルジア人であるばかりに差別され、筋金入りのマフィアに育ったロスタが処女であろうはずがありません。

 そして見るからに悪そうで凄味のあるエド・オスのねっとりした芝居が説得力を引き立てます。

 ダンコと向き合うシーンはいちいちホモ臭く、目でセックス状態です。特にシカゴの拘置所では「糞食らえホモ野郎」と毒づき、ダンコにぶん殴られてしまいます。

 ロスタはホモ特有の勘で分かっているのです。ダンコも「同志」なのだと。そして許されざる関係だと知りつつダンコが好きなのです。

 ソ連では同性愛は重罪なので、ダンコは自分がホモである事を立場上認める事が出来ません。だから逆上してしまったのです。

 そしてリジックに「お前のお袋のケツにキスしろ」とロシア語で言ってやっぱり怒らせます。リジックはしょっちゅうこの手の事を言われているようですが、それでも怒ってしまうあたり、ちょっとマザコンの気があるのでしょう。

 ゲイはマザコンが多い。ソ連は映画よりバレエの方が木戸銭の安い凄い国ですから、チャイコフスキーがそうだったことをダンコやロスタは知っているはずです。勿論ディアギレフとニジンスキーの仲も。

 二人はエライジャの介入で体面を果たしますが、ロスタはダンコを「同志」と呼びます。実にホモ臭いやりとりです。

 そして例の鍵を渡して暗に仲間になれと誘います。ダンコを抱き込めば世界の悪の勢力地図が変わるでしょうからロスタとしては仲間に引き入れれば最高ですが、ロスタの中でダンコ>>>>>キャットなのも確かです。

 女は十人いたのに全員死んだか刑務所らしいので、ロスタにとっては女は道具であり男の代わりでしかないのです。

 しかし、ダンコはこんな取引に応じるわけがないのです。そして二人は別れます。ダンコなら素手でロスタを殺せたはずでが、リジックが人質になっているので出来ません。それを察してロスタはどんどんヤンホモ化していくのです。

 コンドーム扱いが嫌なキャットはロスタをダンコに売ろうとしますが、ロスタはそんな事はお見通しで、鍵を奪おうとダンコのホテルを襲撃します。シャワー中なのが淀川先生向けのサービスです。

 クリーンヘッド団のガチムチ共に隣の部屋を教え、サシで勝負しようとするのがロスタのヤンホモぶりを物語っています。この行動は明らかに合理性を欠いています。

 クリーンヘッド団達にあやうく殺されかけ、人違いで客を殺された娼婦がアシストして命拾いします。そしてついにロスタとのサシの勝負になりますが、ロスタは劣勢に立たされて川に飛び込んで勝負は持ち越しとなるのです。

 しかし、鍵はロスタに盗られてしまいました。キャットもついでに口を封じられてしまいます。

 ロスタはダンコへの愛で頭がおかしくなったらしく暴走し始め、麻薬の代金の入ったコインロッカーを開けてクリーンヘッドをユーリも仕留めた隠し拳銃で始末し、金と麻薬の両取りを図ります。

 そしてクライマックスのバスでのカーチェイスの末、二人して叫び声を挙げながらバスでチキンレースをする様はもうセックスです。

 リジックの介入でゲームはロスタが勝ったものの、ロスタのバスは機関車にぶつけられて勝負は負けます。

 そして二人して血まみれになりながらの銃撃戦はダンコに軍配が上がり、万々歳となります。

 このnoteで度々使うバイオレンスポルノという言葉は、『コマンドー』シンディを演じたレイ・ドーン・チョンベネットがメイトリクスを本当は愛していたと解釈し、それ故に戦う様を称して使った言葉です。

 ダンコとロスタの仲もそうなのです。もっとうまく立ち回ればロスタは逃げおおせたはずなのに、ダンコとの勝負にこだわり、そして破滅していったのです。これは倒錯した愛であり、まさしくバイオレンスポルノなのです。


ダンコ×ユーリ
 この映画がどうやって始まったかと言うと、ユーリを殺されたダンコの敵討ちです。敵討ちに命を張るのは言うまでもなく実質セックスです。

 堅物ダンコとお調子者のユーリ、二人はコンビでロスタのアジトへ殴り込みに行くパートナーであり、ユーリはダンコの鋼鉄マンというあだ名について「あっちの方も鋼鉄並みか?」と冗談を飛ばすほどの仲です。

 社会主義において同性愛は御法度ですが、水野先生がそれで納得しても私は許しません。あんなハッテン場があるモスクワにブルーオイスターがないはずがないのです。

 つまり、二人はウォッカ飲んでサウナに入り、勢いで一発くらいヤっていてもおかしくないのです。しかし、ユーリはロスタの隠し拳銃に倒れるのです。

 ダンコは危険を承知でアメリカに飛びます。全ては国家とユーリの為です。ロスタを討つのがユーリが浮かばれる唯一の道なれば、ダンコは断固としてロスタを許すわけにはいかないのです。

 ダンコはロスタに「俺の親友を殺した」と言い切った事からも二人の仲は相当に深かったことが想像できます。ダンコにとってユーリ>国家であったことも分かります。

 全てが終わり、ダンコはウォッカ片手にユーリの墓前に詣で、鋼鉄並みの股間のポドヴィリンをサウナで乱射した夜に想いを馳せるのです。これでバレエが一本出来るレベルです。


シュワちゃん×淀川先生
 さて、シュワちゃんと言えば淀川先生であり、淀川先生と言えばシュワちゃんです。そもそも、シュワちゃんと言う呼び名は淀川先生が始めたものです。

 淀川先生は筋金入りのゲイであり、大男を愛するガタイ専でありましたので、スタローンより縦にも横にも大きいシュワちゃんは先生にとって理想の男であったのです。

 淀川先生のセクシャリティが日曜洋画劇場のラインナップに影響し、ひいては日本の映画文化に大きな影響を及ぼしているわけですが、とりわけ本作は先生のお気に入りでもありました。

 そして淀川先生の映画解説の特徴は、つまらない映画は本筋と関係のない所を延々と褒めることにあります。直言しない、つまらない映画でも褒める点を探す、それが先生の流儀なのです。

 本作の解説は毎回冒頭のシュワちゃんのおいど(淀川先生は神戸の人)の話題に集中するのが常でした。これは何も本作をつまらないと思っていたわけではありません。欲情して我を失っていたのです。

 淀川先生はガタイ専であると同時にお風呂フェチであり、幼い頃に被差別部落の銭湯に入って他のお客と一つになった気がしたと講演で語って部落解放同盟から糾弾された有名なエピソードがあります。

 部落差別の問題についてコメントは控えますが、淀川先生の心に差別は無かった事だけは断言できます。ただ逞しい男とお風呂に入りたかっただけなのです。そこに人種や身分など関係ないのです。

 一方シュワちゃんはオーストリア人で元世界的ボディビルダーであり、言わずと知れたカリフォルニア州知事です。このバックボーンは非常に怪しいものがあります。

 まず第一に、ボディビルダーにはゲイが非常に多いとされます。ボディビルの根幹はナルシズムであり、ナルシズムの行きつく先はホモセクシャルです。

 そして、近代ボディビルの歴史を紐解けばその起源はサーカスのショーであり、その実男妾でした。金と引き換えにご婦人や紳士に筋肉を触らせ、あるいは一夜を共にする商売だったのです。

 また、ボディビルダーの常備薬であるステロイドの問題があります。何度か話した気もしますが、あれは使い過ぎると性的に不能になります。そうなるともう男に走るより仕方ありません。

 そして、巨大すぎ、名前が長すぎ、訛りのきついシュワちゃんの俳優転身は順風満帆ではありませんでした。何より裏で揉めただろう問題は、シュワちゃんの父親が元ナチスの党員であった事でしょう。

 ハリウッドはユダヤ人が牛耳っています。これで出世の糸口をつかむのは並大抵の事ではありません。ではどうするか?シュワちゃんの財産は一つです。

 ユダヤ人がドイツ人を犯す。あるいはその逆。これは欧米においてはポルノの定番であります。

 ゲイの天才ユダヤ人がナチの倅のボディビルダーを犯す。これはもう淀川先生が嫉妬でショック死しかねません。しかし、シュワちゃんのMe too案件は絶対にあったと私は思うのです。

 艱難辛苦の末に俳優としての性交を掴み、長じてカリフォルニア州知事になったシュワちゃんが成し遂げた最大の大仕事は同性結婚の解禁でした。マサチューセッツ州に次いで全米二例目となる快挙です。

 今や同性結婚はアメリカの全ての州で認められ、男女の夫婦と同様の権利を享受できるようになっています。シュワちゃんはLGBTの歴史を変えたのです。

 そして、私のtwitterで最もバズったツイートが他ならぬ、来日したシュワちゃんが淀川先生を腕に抱きながらいつかお風呂に入りましょうと約束する画像でした。

 しかし、シュワちゃんはこのマニフェストを守ってくれず、淀川先生はこれを心残りに世を去ったといいます。きっと先生はあの世でお風呂を沸かしながら待っているはずです。ブライアン・デネヒーあたりに背中を流させながら。

お勧めの映画


 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します

赤いBL的映画鑑賞
『レッド・オクトーバーを追え!』
『ロッキー4/炎の友情』
『スターリンの葬送狂騒曲』
『グッバイ、レーニン!』
『T-34 レジェンド・オブ・ウォー 最強DC版』

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阿愛@BL的映画レビュー
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