
ある食べ物が安全かどうか、検討される過程 放射線育種コメ品種、コオロギ
特定の商品を販売するにあたっては、その取扱商品の良さを説明するのが一般的です。一方で、広く市場を席巻している商品に対し、ニッチ(狭いすき間)市場を狙うにあたって、その取扱商品のプレミア感をうたうというのもマーケティングの教科書を引用せずともよく知られています。
ここで「安心」というプレミアをうたう商品には、「安全」の根拠となるデータをことさら無視したり、針小棒大に煽ったり 自然現象と異なるルールを適用しているものがあります。
「安全」の根拠を科学的でない方法で否定しますから、それらは時に危険で、金銭だけでなく健康まで損なう可能性もあります。
ここではコオロギ(学名Acheta domesticus、和名ヨーロッパイエコオロギ 欧州家蟋蟀)や放射線育種イネ品種を題材に、どのように食べ物が「安全である」と検討決定されるのか考えてみて、「安心できない」というご意見の方々に参考にしてもらえれば と思います。
コオロギ食品:中国薬学全書にコオロギは微毒、妊婦は禁止?
わざわざ存在しない書名の本(中国本草全書の誤りか?)を出さずとも、欧州食品安全機関が安全と認めています。
西洋コオロギ、食用コオロギなどの名前で、昆虫由来のタンパク質を食材とする動きが2010年代から見られていて(FAO'13)、一部に「安全ではない」という声があります。
”昆虫食のすすめ”は、欧米型の生活をモデルにした科学技術開発や資源管理、生活扶助を改め、地域の文化風土に根付いたものに寄り添って行こうとする国連の方針転換の一部でもあります。
ではコオロギAcheta domesticusは、EUにおいてどのようなものとされたかみてみましょう。
食品の安全性情報は、欧州食品安全機関から提供されている
EFSA(欧州食品安全機関)は、欧州において専門家らによるリスク評価を行いその安全性などに関する科学的な情報・助言の提供を行う、行政府から独立した機関です。
そのEFSAが「イエコオロギのリスクプロファイル」という文書('19修正)を出しています。
文書では、肉や加工食品での衛生・生産管理ルールHACCPやGAPをクリアするコオロギの飼育工場を念頭に、生産時のリスクを検討評価して、2018年から(EU) 2283/2015規制のもとで安全な新規タンパク質食品OKの承認をすること としています。
また、以下のような検討を 文献調査や分析で埋め、実在する危険とその結果がどうなるか・危険の存在確率を考慮しています。
EUでは、食品の安全性に関して予防原則を適用していますから、
危険を減少・無効化する対策が打てる →リスクは低い
対策の有効性データ不充分 →リスク中程度
対策を打っても深刻な結果がありそう →リスクは大きい
と表現し、リスクが低くても「安全」とは表現しません。
現実の上ではリスクを減少・無効化する対策が打てるのですから、一般的食品並みに安全と言えます。
コオロギ食品のリスクは低く、安全です。
欧州食品安全機関は、リスクの見落としをしていないのか?
「妊婦はもちろん、胎児に悪影響があるとされています。カドミウム等が生物濃縮されて危険性があります。(原文ママ)」
という声もあります。
しかし欧州食品安全機関では、以下の4点の危害があり得ると、より慎重に検討しています。
高い総好気性細菌数、サルモネラや大腸菌などの食中毒
熱処理後の胞子(芽胞)形成細菌の生存、による食中毒
昆虫および昆虫由来製品のアレルギー
重金属(カドミウムなど)の生物蓄積
その上でリスクに対応可能あるいは深刻な事態に至る可能性は低いとしているわけですから、おかしな情報を鵜呑みにせず、Google翻訳などを利用してご自分で調べれば良かったことでしょう。
高い総好気性細菌数、サルモネラや大腸菌などの食中毒は、一部で採用されているひき肉のTACおよびエンテロバクター科細菌のしきい値に準拠して対処可能
熱処理後の胞子(芽胞)形成細菌の生存、による食中毒は、一部で採用されているひき肉の対処法を適用可能
昆虫および昆虫由来製品のアレルギーは、他の節足動物と共通のアレルゲンを含むのでその旨表示すること、また一部のカビと共生することがあるので検定し表示すること
重金属(カドミウムなど)の生物蓄積はいずれもヒトの食用に許容レベルであり、規制(EU)1881/2006に準拠して対処可能
このようにコオロギ食品は、危害の大きさや確率、その対処法と勘所が示されており、安全であると考えられます。
同様に放射線育種イネ品種も安全と言えます。
信じてよい情報、調べてみるべき情報
いいですか、多数の学者が放射線育種米、コオロギ食に反対の意見をのべています。
のべてなどいません。
「学者」と称する人物の意見は、特定の物販団体や政党においての専門家として著述・講演活動している場合です。その情報を鵜呑みには出来ません。
学術誌の査読論文やアカデミーアナウンス、国連関連機関文書などにおいて反対意見はなく、それらの著者には利益相反がない、すなわち特定の物販団体・事業者や政党から研究費提供・講演会謝礼・著書出版などの利益提供を受けていません。
このように○○博士という肩書きをもっていても、起業するなどして自らの利益のために専門知識を利用することはあり得ます。
ネット上での検索も、その情報の翻訳もかなり手軽に出来るようになっていますから、その趣旨に好意的・敵意的なキーワードで検索して検討することをお奨めします。
学ぶことは楽しい!ですから。
その道のベテラン でもリタイヤしてはいないか確認してみる
日本米の有機栽培認証についてですが、よく考えてください。EUでの有機認証が出来れば、ほらヨーロッパも安全性を認められているじゃないか、と放射線育種の栽培に拍車をかけられますよね。農林水産省は何故自らが旗振り役で動かないのでしょうか?変でしょう?
現岸田政府は、すでに動いています。
まず放射線育種とは、ガンマ線や重イオンビーム、熱中性子線、X線などの放射線を生物の繁殖器官に照射し、新しい品種を作り出すこと、あるいはその技術であって、品種を指すものではありません。
岸田政権は10月13日「食料安定供給・農林水産業基盤強化本部」で農林水産品・食品の輸出促進や国産飼料の生産拡大など盛り込みを決め、安倍政権から続く「食料安全保障強化政策大綱」のなかで①食品の輸出促進④食料安保の強化方針を年末までに改訂取りまとめするとしています。
放射線育種法による育成品種は、その安全性から一般農産物扱いですから①と④の大綱ですでに動いています。引用したツイートの主は、数多くの農業者と連絡を取っているそうですが、国の方針もご存じないというのは不思議なことです。意図的なデマか、情報操作があるのかも知れません。
このように、現場の熟練者であっても、自らを囲む状況の変化や戦略的しくみには訂正や更新が欠かせません。ベテランと言う言葉は、その道に通じて長く研鑽してきた方々を指しますが、退役だけでなくリタイヤしてしまっていないか、確認して見るとよいかと考えます。
よい僧侶は死ぬまで学ぶ(ハンガリーのことわざ)ですから。
おわり