思い込みって怖い フィンガーライム育苗、ギリセーフ
「森のキャビア」。プチプチした食感と爽やかな酸味。魚にも肉にも合う。焼肉で巻いて食べると最高だ。サラダのトッピングにも最適。親指ほどの大きさのフィンガーライム。オーストラリア沿岸の乾燥した熱帯雨林地域原産の柑橘だそうだ。この春、カラタチの台木に接ぎ木した「0歳木」を知人から譲ってもらった。
待てど暮らせど芽が出ない
それから2カ月。待てど、暮らせど芽が出ない。同時期に植えたレモンは4月末には新芽が吹いたのに。接ぎ木がうまくいかなかったのか、根腐りしたのだろうか。思い余って、「師匠」に電話した。
「6月下旬まで待ってみてー。フィンガーライムの芽吹きは遅いよ」
さすがだ。6月下旬には小さな芽が、接いだ枝から出始めた。
寒さに弱いというので、ハウス内で大切に、大切に育てていた。まさに「箱入り娘」。やがて、新芽が伸長。ハウス内の高温で、4鉢のうち一つは枯れてしまったが、3鉢は、ゆっくりながらも育っている。
「そういえば、苗木は一本に仕立てるんだったよなあ。先端を芽摘みして、夏芽を出さないといけないか」
一抹の不安を感じ、「師匠」の所へ
昨年、市農業指導センターで習った柑橘苗の育て方を思い起こした。紅まどんなやレモン、せとか、ミカンなど。ただ、フィンガーライムは習っていない。大きな枝は、もう30センチくらいに伸びている。
どうしたものか。先端を切るか…。ハサミを握り、刃先を枝の先端まで持って行って、固まった。しばらく考えた。「やっぱり、もう一度師匠に聞いてみよう」
すぐに電話に出てくれた師匠は、「鉢を持って行くので見てほしい」と言うと、快く受け入れてくれた。一番、成長が早い、30センチに伸びた鉢を、軽トラに乗せた。
嗚呼、勘違い ギリギリセーフ
久しぶりに会った師匠と、少し立ち話をして、鉢を差し出した。大きく育ったので褒めてくれるかなー、なんて心の内で期待しながら。
開口一番、「あっ、この大きいのはカラタチやね。切らないかん。ほらっ、葉っぱの形が違うやろ」。そう言うと、大きな枝を4本、もぎ取っていく。残ったのは、10センチそこそこのかわいい芽が4本。
「カラタチの芽を摘まないと、フィンガーライムの芽が育たんよ」
まじかー。最初にもぎ取った長く伸びた一本を残して、ほかの枝を芽欠ぎしようとしていたのは何だったんだ。思い込みって怖い。よく見ると、確かに葉の形が違う。あの時、すんでのところで、ハサミを置き、師匠に電話した自分を褒めるべきか、思い込みで台木の芽を大事に育てていた自分を反省すべきか。まあ、両方だな。
ともあれ、台木と接ぎ木の葉の違いを理解できた。家に帰って残りの鉢を見てみた。成長が遅れていたと思っていた2鉢。葉を見ると、こちらは、フィンガーライムの枝だった。よかったよかった。
昨年、食したフィンガーライムから取り出した種も植えた。こちらも何とか芽を出した。そして、台木にするカラタチも育成中。
「あと2年育てれば、実がつくよ」
師匠の言葉に期待が膨らむ。
やっぱり、慣れたころに失敗する。分かった気になっているのが一番怖い。分からない時やあやふやな時は、立ち止まる。間違っているんじゃないかと振り返る。そして素直に聞くことだな、と実感した。
(あぐりげんき)