農業用ため池の保全・管理 人海戦術では守れなくなる恐れも
稲刈りが終盤を迎えると、水路から水がなくなった。
稲作中心の配水。仕方がないので、自宅の井戸からタンクに水を汲み、軽トラに乗せて畑に運ぶ。野菜にとっても「命の水」。昨年のように秋に雨が降らない日が続くと、潅水だけでも大仕事になってしまう。
少雨補う農業用ため池
四国山地と中国山地に囲まれ、温暖で雨が少なく、晴れが多い「瀬戸内式気候」。近年は、線状降水帯の発生や巨大台風の襲来で、短時間で多量の降水量を記録したり、猛暑日が連続したり、雨がぱったりと降らなくなったりと、気候が明らかに変化してきた。
それでも、国内の他地域に比べれば、年間を通じた降水量は少ない。「水」の少なさを補っているのが、そこここに点在している農業用のため池だ。
子どものころの記憶。大雨だった。防災行政無線からけたたましい警報音が鳴り響いた。ため池の土手が決壊する危険が迫っていた。雨が上がり、何とか決壊は免れたが、雨合羽を着た大人たちが、池の周辺で警戒していたのを覚えている。
農業用水確保、災害防止 法制定
「農業用ため池の管理及び保全に関する法律」が、2019年7月1日に施行された。近年、豪雨等で農業用ため池が被災し甚大な被害が発生していることを受け、農業用水の確保、決壊による災害防止を目的に制定された。ため池の情報を把握し、適正な管理・保全をしていくことが盛り込まれている。
農業用ため池は愛媛県だけでも3,147か所に上り、うち、防災重点ため池は1,751か所。先人たちが、水確保のために作り上げた産業遺産ともいえる。
農業を始めて5年目。「水」に関しては不勉強だった。土地改良区への賦課金や水利費は支払っているが、土地改良区や水利組合が何をしているのか、分からなかった。
先日、秋祭り前の地区清掃で草刈りをしていたら、土地改良区の役員をしている専業農家の男性がニコニコしながら声を掛けてきた。「草刈り、うまくなったね」。この持ち上げ方は、何か裏がありそうだと思いながら、「まだまだですよ」と返すと、「ため池の草刈り、手伝いに来てよ!」と。
所有者は「市」 管理は土地改良区
多くの農業用ため池の所有者は「市」。実際の管理は地元の土地改良区が担っている。
市が作成した「ため池管理マニュアル」の草刈りの部分
ほかにも、流木や漂流ゴミの除去、貯水位の操作、平常時や出水期、地震発生後の点検など、管理項目がいくつもある。
農家の高齢化・減少の影響はため池管理にも
「土地改良区」と言っても、地元農家の集まり。冬になると、人海戦術で土手の草刈り、野焼きをしている。しかし、農家は高齢化し、耕作者自体が減少。池の土手は急峻で、足を滑らせれば、下まで転げ落ちそう。特に高齢者には厳しい作業だ。
昨年、農機具メーカーが、最新のラジコン草刈機を持ってきて、デモンストレーションをしていた。斜度45度までなら、リモートで草刈りができる。これがあれば、かなり作業軽減が図られるのではないか。
ラジコン草刈機 高額&性能不足
そう期待していたのだが…。
土地改良区への導入は進まない。1台200~400万円。ラジコン草刈機は高額すぎる。さらに、ため池の堤防は、斜度45度超えが多く、性能的に対応できない。
荒廃が危惧されるのは、農地だけではない。急斜面での危険な作業を伴う農業ため池の管理・保全も、人海戦術だけでは、いずれ限界が来るだろう。それでも、農業の根幹である「水」を守らなければならない。災害を防ぐ観点もある。大雨時の貯水や環境を維持する機能もある。公共性を考えれば、最先端技術導入への補助金や、急斜面に対応できる技術開発・性能向上に期待せざるを得ない。
そんなことを思いながら、「あの急な土手を草刈りできるだろうか」と不安を覚えてしまう。
(あぐりげんき)
よろしければサポートをお願いします。いただいたサポートは、おいしい野菜・かんきつ栽培と、その情報発信に役立たせていただきます。