近畿大学通信教育部図書館司書コース『情報サービス論』合格レポート
ここでは情報サービス論のレポートを公開します。
講評がよかったのでモチベーションが上がったのを覚えています。
設題:図書館利用教育の実施のために必要な環境整備にはどのようなものがあるか、それぞれについて簡潔に述べるとともに、図書館利用教育をさらに浸透させるためにはどのような工夫が必要か、最近の動向も踏まえ、貴方自身の考え方を含めて論じて下さい。
下記講評です。
1.図書館利用教育の実施のために必要な環境整備
図書館利用教育の実施のために最も必要なことは組織的な実施である。特定の人物により個人的に展開されると、異動や退職によってサービスの質が偏ったり、継続できないということが起こるため、継続的にサービスが提供できるよう人が入れ替わっても変化しないサービス体制が必要だ。また、活発な活動には教材の作成やPRのための費用がかかるため、予算確保の面でも組織的、制度的な展開が必要といえる。
学校図書館や大学図書館など教育機関の利用教育は、教員との連携が重要である。協力し合って情報交換を図り、複数の視点で考えられた利用教育は、その利用教育を受ける生徒にとっても効果が期待できる。また、人員が入れ替わっても対応できることと、実施内容に偏りが生じないよう標準化を図るためにマニュアルの作成も重要だ。そして、そのマニュアルに基づいて館員全員がロールプレイング(実地体験学習)などの研修を行うことが有効である。しかし、利用教育を実施しても基本的な文献やデータベースが揃っていなければ教育効果は上げられないため、事前にレファレンスブックなどの基本ツールの整備が必要だ。公共図書館などで資料が不足している場合は、相互協力が可能であることや、近隣の図書館の所蔵内容を確認したうえで、利用可能な図書館を利用者に示唆する必要がある。
最近の利用者はテレビやDVDなど音声メディアに親しんでいる方が多いため、映像として整理された内容であれば分かりやすくイメージもしやすく、映像メディアを利用した利用教育も有効だ。費用面で自館での作成が厳しい館も多いと予想されるが、その場合は日本図書館協会が作成したものを利用するなど経済面での工夫が必要だ。
2.図書館利用教育をさらに浸透させるために必要な工夫
日本では小・中・高等学校で図書館の利用教育や文献調査法を学ぶ機会が少ないため、図書館利用者の多くが効率的な資料の探し方を知らないのが現状で、利用教育を受けていない大学生がレポートや卒論作成で追い込まれることも多い。大学では近年ラーニングコモンズの導入や、カリキュラムの中に文献調査法が組み込まれる事例も増えているが、オリエンテーションや図書館案内ツアーを実施し、文献探索手法や情報リテラシーに関する教育を義務教育の過程で取り入れることが重要といえる。また、生涯学習時代と言われる現代においてリカレント教育を受ける社会人や定年後の人生にも図書館利用教育は重要であり、大学図書館内などで展開される図書館利用教育を社会人や地域住民に解放することが有効だ。
昨今の新型コロナウイルスの影響で、大学生は各種手続きを直接窓口で相談できる機会が減り、自身で調べて解決せざるを得ない状況が見受けられる※1。対面で思うように相談できない昨今の学生にこそ、SNSの活用が身近な彼らの特性に見合うように、大学図書館でもHPだけでなくSNSを活用し、レポートや卒論は文献調査法を学ぶことでより効率的に、質の高いものになることを知らせることができるはずだ。また、文献調査法や図書館利用支援を受けて論文作成にあたった人の感想やアンケートを取り、それを学生にも公開することで利用を希望する人も増えると考える。その際、成功事例だけではなく、不満に感じた感想やアンケートは図書館と図書館員の今後の改善策に活かせるはずだ。
『情報リテラシー教育の実践』で、図書館の基本的な機能は、資料提供→情報提供→人的支援の提供であり、この人的支援は情報リテラシーへの支援であり利用教育といえ、公共図書館の中心的サービスとなる、とあるように※2、公共図書館が展開する利用教育は地域住民、特に利用教育を受ける機会がなかった人に重要な役割を果たすといえる。利用教育を行う際は、公共図書館と学校図書館、それぞれの司書や教員が連携して行う必要があり、かつ生徒だけでなく生涯学習という観点からも、保護者向けにも開催されることが望ましいと考える。また、児童向けの開架の近くに「お子さんとインターネットの関係は正しいですか」など、少し目を引くポスターやポップを設置するなど、図書館で情報リテラシーが学べることを知らせ、イベントや講習会へ誘致するなど、館内のレイアウトや視覚的な工夫でも図書館利用教育は浸透させられると考える。コロナ禍の影響で図書館がサードプレイスとしても活用されている現状は、幅広い世代に向けて図書館利用教育を広くアプローチする好機とも捉えられる。また、公共図書館においても、先述したとおりアンケートを通じて利用教育の効果を検証し、今後の展開に生かすことが重要だ。そして、『学校図書館ひらめきアイデアノート』の中で著者の竹内純子氏が実例として挙げている千葉県袖ケ浦市の学校図書館支援センターのように、図書館のサービスの向上や司書のスキルの底上げには図書館や司書、司書教諭を支援するシステムの拡充が必要不可欠だ※3。図書館利用教育の浸透には、現状図書館を取り巻く制度整備も急務だ。
※1「新入生 情報収集の勘所」『日本経済新聞』、2020年4月8日、朝刊、p.35
※2日本図書館協会図書館利用教育委員会『JLA 図書館実践シリーズ14 情報リテラシー教育の実践 すべての図書館で利用教育を』、社団法人 日本図書館協会 2010年、p.28
※3竹内純子『学校図書館ひらめきアイデアノート』株式会社 少年写真新聞社 2019年、p.80
■参考文献
・日本図書館協会図書館利用教育委員会『JLA 図書館実践シリーズ14 情報リテラシー教育の実践 すべての図書館で利用教育を』、社団法人 日本図書館協会 2010年
・竹内純子『学校図書館ひらめきアイデアノート』株式会社 少年写真新聞社 2019年
・毛利和弘『文献調査法―調査・レポート・論文作成必携―第9版』、日本図書館協会、2021年
・日本図書館協会図書館利用教育委員会編『図書館利用教育ガイドライン合冊版』日本図書館協会 2001年
・逸村裕/田窪直規/原田隆史編『図書館情報学を学ぶ人のために』世界思想社 2017年
以上