慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群に対する刺鍼アプローチ : 内閉鎖筋刺鍼
今回は患者さんからの声がきっかけとなり、慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)に対する鍼治療方法を改めて考えることになった件について、書いてみたいと思います。
それはここ数年、CP/CPPSに対する骨盤底理学療法の話題を慢性前立腺炎患者さんからお聞きすることが多くなったためであり、多くの患者さんが気になっているようです。
欧州泌尿器科学会の慢性前立腺炎 / 慢性骨盤痛症候群ガイドラインでも、殿筋群や骨盤底筋群に対する筋筋膜トリガーポイントリリースは掲載されていますし、その有効性に関するエビデンスは増加しています。
骨盤底理学療法には様々な骨盤底組織に対するアプローチが行われますが、その中の重要なターゲットの1つに「内閉鎖筋」がよく挙げられます。
その理由は、内閉鎖筋がCP/CPPSの症状(会陰部痛、肛門痛、陰茎痛、睾丸痛、大腿内側痛)の形成に大きく関与していると考えられているためです。
骨盤底理学療法による筋のリリースによって症状が大きく改善するケースがあるようです。
その根拠となるのは、陰部神経(会陰部、肛門、陰茎、尿道、陰嚢の知覚を司る)の走行における内閉鎖筋との解剖学的な関係性です。
陰部神経にはその走行経路において圧迫が生じやすい部位が 2 つ存在します。
以下、スライドに絞扼を受けやすい部位をまとめてみました。
このように、陰部神経は、陰部神経管(アルコック管)のところで「内閉鎖筋」
による絞扼を受けやすい、という解剖学的な特徴があることをお分かり頂けたかと思います。
原因はよく分かっていませんが、臨床的にはこの内閉鎖筋の緊張がトリガーとなっていることが多いようです。
CP/CPPSの発症に関する機序としては、陰部神経の絞扼による疼痛は勿論のこ
と、内閉鎖筋を通過するアルコック管では、内陰部動脈、内陰部静脈も通過しますから、骨盤内の循環動態にも変化を生じることが発症に関与している可能性も考えられるでしょう。
CP/CPPS症例で高率に前立腺周囲静脈の鬱滞が起こることが報告されていることも納得のいくところです。
内閉鎖筋に対する刺鍼アプローチは可能
内閉鎖筋は大転子付近で触れることは可能ですが、そこは筋腱移行部であり、
陰部神経が通過する深部(閉鎖膜付近)の筋腹部分へ、徒手的にアプローチし筋緊張をリリースすることは極めて困難です。
そこで内閉鎖筋に鍼でも的確にアプローチ出来ないかなと色々考えてみましたが、90mm程度の鍼を用いれば、容易にアプローチ可能であることが分かりました。
緊張筋に対する鍼通電刺激の追加によって、陰部神経の絞扼を緩和する効果があると考えられます。
実際に当院では、中髎穴刺激や陰部神経鍼通電刺激でも効果不十分な症例に、
この方法を用いていますが、大きな手応えを感じているところです。
欧州泌尿器科学会(EAU)の慢性骨盤痛症候群ガイドラインでは、非細菌性慢性前立腺炎(いわゆるカテゴリーⅢ)においては、鍼治療はすでに推奨度Strong(エビデンスレベル1A)でありますが、前立腺由来でない骨盤痛(つまり筋筋膜性疼痛や
神経絞扼による骨盤痛)に対しても、内閉鎖筋鍼通電は強い適応となる可能性があると考えています。
以下に刺鍼法について簡単に示します。
内閉鎖筋は股関節深層外旋六筋の一つであるため、鍼が正確に刺入され鍼通電を行えば、以下のリンク動画のように、股関節の外旋運動が再現されます。
なかなか改善されない慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)の症例に試してみては如何でしょうか。
烏丸いとう鍼灸院 院長:伊藤千展
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