架空小説書き出し

私が考えた架空の小説の書き出しです。良ければ最後までご覧ください。


教会の鐘が鳴る音で私は起きた。高貴な鐘の音が私という存在の不釣り合いさを際立たせている。いつからだろう。こんなに不愉快に聞こえるようになったのは。
「ある信徒」より

私は愛されたかった。それでも生きていていいと認めてもらいたかった。ただそれだけの幸福でさえ手から滑り落ちてしまった。暖かな春の日に私は今日も手首に紅い薔薇を咲かせる。
「薔薇と少女とリストカット」より

「おお、死よ。あなたは私に微笑んでくれた唯一の存在だ。漆黒に彩られた瞳は私の深淵を覗き、血に染まった手は私を温かく包み込んでくれる。黒き百合のようにその儚くも美しい御姿を見させておくれ」
「黒百合の微笑」より

ウィスキーを一口。芳醇なバニラの風味が口いっぱいに広がる。すかさず煙草を吸う。濃厚な煙草の風味がウィスキーの香りと合わさり、得も言われぬ幸福感に包まれる。優雅な冬の夜のひと時を孤独感とともに味わっていた。「仄かな夜の香り」より

彼が死んでからどれくらいの月日がたったのだろう。大好きだった彼が首を吊ってから数年、彼は私の真っ黒な心の隙間にすっぽりと入り込み、私は社会の歯車の一部となって今日も回り続けていた。
「機械じかけの心臓」より

孤独ほど空しくつらいものはないのだ。私はこのことに小学生の頃に気が付いていた。友達が多かった私は孤独だった。そんな私はいつも窓際で一人読書をしていた彼が好きだった。彼の読む本がまぶしく見えて、本を読む彼が何にも縛られない真っ白な存在に見えて、そんな彼が私のあこがれであったし、自由の象徴であった。
「十二月、またあの校舎で」より

世界は混沌としていた。政治は腐敗し、若者による絶望死が相次ぎ、出生率は格段に減った。
科学は進歩の兆しが見えず、各国の経済成長も頭打ちとなった。そんな世界で私は生きている。街の人からは生気が失われ、荒廃した夜の歌舞伎町を私は歩く。
「幽玄のディストピア」より

「一緒に堕ちよう」彼女は微笑みながら私に手を差し出した。傷だらけの両手は微かにふるえている。私は笑顔でその手を取った。ここから私たちの絶望的で幸福な人生が新たな幕を開けるのだ。
「共に、堕ちる」より

最期までご覧いただきありがとうございました。苦しいこの世界、ともに生きましょう。

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