それでも私はおにぎりを握る
にわか雑文書きの胡坐家です。
今日のテーマはAI生成物について。
AI生成物の是非については、既に多くの人がその意見を発表していて、中にはAIにAIについての文章を書かせる人(そんな無茶ぶりでもAIを批判する文章を書くAIは、健気だけどどこかもの悲しさもあり)もいたりするので、もうみなさんお腹いっぱいだと思います。だからそういうお話はしません。
先日、絵描きの作品とAI生成物についての、こんなたとえを見かけました。。
絵描きの作品は「誰かわからない人が握ったおにぎり」
AI生成の作品は「工場で作られたおいしくて安心なおにぎり」
これをみて「なるほどな!的を射た表現だ!」と納得してしまった人。ちょっとよく見てくださいよ。
これ、そもそもの比喩がおかしいんです。
AIのほうにだけ「おいしい」「安心」というプラスイメージの言葉を使うことで、絵描きの絵にマイナスイメージを持たせようとしています。
あなたは、この表現で「おにぎりを握っている人」をどんな人でイメージしますか?
おそらく「おせじにも清潔感があるとは言えない中年」なんかを想像するんじゃないでしょうか。けっして至高のおにぎり職人の手による特級おにぎりなんてものは想像できないことでしょう。
「比喩を使ってちゃんとものを伝えたければ、価値対等に表現しなければいけない」ということは覚えておいて損のない知識です。
こういう「それっぽい」比喩に込められた悪意に気づかずに、安易になるほどって思っちゃダメですよ。
じゃあお前がいい比喩を考えろよって話になるんですが、先ほどのたとえを「パン」にするのはどうでしょうか。
絵描きの作品は「町の個人商店の手作りパン」
AI生成の作品は「パン工場で作られたパン」
これなら、双方の良さも悪さもご想像にお任せできますし、自分が贔屓にしたい方を良いイメージでとらえることもできますよね。
でも、でもですよ、違うんだよ。これもたとえがおかしいんだ。
AIは食い物じゃねえんだ。
生きるのに必要な食い物と、食べなくても死なない創作物をたとえでつなげようっていうのが無理あるんだ。
なので、もっといいたとえはないかと考えてみました。
AIをシニアカーにたとえるのはどうでしょう。これなら「ツール」という点でAIとの共通点が見いだせそうな気がします。
「歩くことがしんどいけど、外出したい人のために、散歩や買い物のフォローをするシニアカー」と
「文章や絵や曲は作れないけど、創作活動をしたい人のために、作品を生み出すお手伝いをするAI」ならちょっと近いんじゃないでしょうか。
一方、絵描きは「足で立って歩く人」です。
休まないと疲れてしまうし、持てる荷物が少なくて効率が悪い、でも自分の足で歩いたぞという達成感を得られるあたり、似ているかもしれません。
シニアカーのおかげで一人で買い物や病院に行けるようになれば、付き添いの人がいらなくなり、人員を緊急性の高い仕事にまわせる。
AIのおかげで天気予報や試合結果など、書くことが決まっている記事が自動生成できるようになり、能力の高い記者をもっと重要な記事の執筆にまわせる。
これなら…うーん…やはりよくないですね!
これはダメです。この比喩もいわゆる「優しさが足りない」ってやつです。「年寄りだって好きでシニアカー使ってるわけじゃないのじゃよ!」みたいにキレられてしまったら、もうdisりとしか読んでもらえなくなるのでナシです、ナシ。
AIをシニアカーにたとえることはできません!難しいなこりゃ!
これだけ探してもいいたとえが見つからないなら、もういっそ、原点回帰でおにぎりってことでいいですかね!よし、おにぎりでいこう!
おにぎり論にも救いがないわけではないんです。唱えた人は救いなんて求めてないと思うけど。
一点だけ「誰かわからない人」を「他人」と直してはどうでしょうか。
だって、誰かわからない人が握ったおにぎりなんて食べる機会ある…?絵もおにぎりも「作り手が分かっているもの」に触れることの方が多いですよね。
それをふまえてみるとこうなります。どうでしょう。
「〇〇さんの描いた絵が好きだ」
「お母さんの握ったおにぎりはおいしい」
出来上がったものへの愛着に、作った人への敬意がプラスされて、その価値を引き上げる。これぞ、人が自らの手で作ったものの価値ですよね。
大切に思う人から、心を込めておいしいおにぎりを握ってもらった経験のある人なら、このたとえが腑に落ちるのでは。
これは「工場で作られたおいしくて安全なおにぎり」と価値対等ですし、どっちを選んでも「人それぞれだもんね」と言えます。
よかった、優れてたねおにぎり論。
この「おにぎり論(改)」をひっさげて、私はこれからも誰かのために心を込めておにぎりを握り続けたいと思いますし、誰かが心を込めて作ってくれたおにぎりをたくさん食べたいと思います。
読んでくださってありがとうございました。