【結婚記念日のストーカー】は逆翻訳で混沌を増す(文:ピラミ△)
突然ですが皆さん、「逆翻訳」って知ってますか?
ベースとなる文章を違う言語に訳したあと、その文章をそのまま再度ベースとなる言語に翻訳し直すことです。
ネットなどでそのバカみたいな面白さを発見され、散々ネタにされている逆翻訳。ちょっと懐かしい有名なネタとしては、
「おっしゃる通り→Osshyaru STREET→おっしゃるストリート」
「うらしま太郎→reverse side striped Taro→背面ストライプのタロイモ」
などなど、大幅にとち狂った翻訳を提供してくれてました。
しかし、昨今の翻訳エンジンはどんどん優秀になり、翻訳精度が上がっています。それ自体はホント素晴らしいことだけど、翻訳が正確になっていく(=我々を笑わしてくれない)ことに少しの寂しさを覚えているのはわたしだけではないはず。
でも、物語ならどうだろう。
単語単語の精度は上がったとして、物語ならまだヤツら(翻訳エンジン)だってそこまで上手くできないにきまってらぁ。翻訳を舐めるな。
突然わたしの中の熟練の翻訳家がAI業界に喧嘩を売り始めちゃったワケですが、日本語で書かれた「物語のような長い文章」なら昔の、輝いていたころの逆翻訳くんに戻ってくれるかもしれない。
もしかしたら、悲劇的な話をコメディに変えてくれることさえあるかもしれない。
事実、「逆翻訳 おもしろ」などで検索すると、特に日本昔ばなしの逆翻訳とかがバンバン出てきます。
ほらやっぱり。単語単位での正確性は上がっていても物語となるとまだまだヒヨッコじゃない。わたしたちの腹筋はまだしばらく鍛えられる――そこでわたしの脳に稲妻が。
わたしがオリジナルストーリーを考えてそれを逆翻訳してやろう、と。
思い立ったが吉日です。やりました。
ちなみに「思い立ったが吉日」は逆翻訳ではこうなります。
「思い立ったが吉日→I thought it was a good day→いい日だと思いました」
うん。まぁ合ってるけどさぁ…。
さて、気を取り直して。わたしが紡ぐオリジナルストーリー、読んでみてください。
【ミキの結婚記念日〜思いがけないサプライズ~】
私の名前はミキ。
今日は愛する旦那との結婚記念日だから、仕事を早めに終わらせて買い物に来ているところなの。次の休みは旦那がディナーに連れて行ってくれるみたいだから、今日は私が旦那の好きなメニューを作ろうと思うんだけど何にしようかしら。
やっぱりアサリのしぐれ煮と、アジの南蛮漬けかしらね。そういえばエコバッグ持ってきてたかな……って何これ。
カバンの中から身に覚えのない手紙が出てきて──
『愛するミキちゃんへ
記念日の今日、初めて手紙を書きます。いつも素敵な笑顔のミキちゃん。貴方の明るい姿に、僕は何度助けられたことでしょうか。どれだけ仕事が忙しくても、君を一目見るだけで疲れが吹き飛んでいくようです。今日は日頃のお礼を兼ねて、僕がミキちゃんの好きな牛肉とゴボウのしぐれ煮と、ナスの南蛮漬けを作って待っていますね。お義母さんにレシピを聞いてきたのできっと大丈夫ですよ(笑) 最近不審者が多いようなので、寄り道せずに帰ってきてくださいね。
P.S.家のゴミは片付けておきましたよ
君だけの僕より』
はい、この物語の主人公ミキです。結婚記念日だってさ。良い日になるといいですね〜。あと、知らない間に手紙とかロマンチック。というかこの夫婦、しぐれ煮と南蛮漬けめっちゃ好きだな。美味しいよね。これをさっそく翻訳してみると、こう。
My name is miki.
Today is my wedding anniversary with my beloved husband, so I'm just about to come shopping early to finish my work. I think I'll make a menu that my husband likes today, because my husband will take me to dinner for the next vacation. I wonder if it's asari 's stew and the southern barbarian. Speaking of which, I wonder if I brought an eco bag ... what is this. I found a letter that I didn't remember in my bag.
"To Mikichan, My Love
I write to you for the first time today.
You always have a nice smile, mikichan. How many times have I been able to help you? No matter how busy you are, I feel tired from seeing you at first sight. Today, I am waiting for my favorite beef and gobows for the southern barbaric of Naz. I heard a recipe for your mother (laughs) you have been hearing a lot of suspicious people recently so please come home without stopping the way"
P.S. I've cleaned up the trash in my house.
I'm better than you.
そういえば何語から何語に翻訳するか言っていませんでしたが、ここはスタンダードに日本語→英語→日本語でいきたいと思います。
アラビア語→アゼルバイジャン語→アラビア語とかにしてもほとんどの読者さん読めないもんね。もちろんわたしも読めません。
ではこれを日本語に戻してみましょう。
俺の名はミキ。今日は最愛の夫との結婚記念日だから買い物に早めに仕事を終えようと仕事を終えようと夫が今日好きなメニューを作ろうと思う。なぜなら私の夫が次の休暇に私を夕食に連れてってくれるから。 それが麻里のシチューと南の野蛮人なのかしらそういえばエコかばん持ってきたかな。何これ。私はかばんの中で覚えていない手紙を見つけた。
トゥ・ミキちゃん、マイ・ラヴ
今日初めてあなたに手紙を書きます。
美希ちゃんはいつも素敵な笑顔で何回手伝った? どんなに忙しくても、一目見ても疲れる。今日、私はナスの南部の野蛮人の牛を待っている。 お母さんのレシピを聞いたよ(笑) 最近怪しい人が多いから、道を止めないで帰ってきてください。
P.S.家のゴミをきれいにしました。
私はあなたより優れている。
「何これ」って。わたしの台詞だよ。
とりあえずミキの一人称が俺に変わり、なんだかカッコよくなりました。そして突然麻里と南の野蛮人が現れ、登場人物が増加。しかし、麻里はシチューとなっているのできっとこの世にはもういないのでしょう。南の野蛮人の今後に期待です。
問題は手紙の文面のほう。
トゥ・ミキちゃんマイラヴがほぼそのまんまで笑ってしまいました。それはいいとして、一目見ても疲れるならもう見ない方がいいと思うんだけど。南の野蛮人はナスの南部の野蛮人にメガ進化を遂げているし、牛まで増えてしまいました。もしかしてそこからしぐれ煮を作るつもり?最後にマウントをとってくるあたり、少しモラハラの香りを感じます。
では物語を続けましょう。まずはオリジナル↓
「もしもしお義母さん。ご無沙汰しております」
「あら、貴方から掛けてくるなんて珍しいわねぇ。少し声色が悪いようだけど…どうかしたの?」
「いえ、少し聞きたいことがありまして…」
――今日はミキとの結婚記念日。お互い仕事だから、週末にミキの好きなところへディナーでも行こうか。と誘ったところ、ミキは嬉しそうに「じゃあ今日はあなたの好きなメニューで乾杯しましょう♪」と張り切っていた。
俺はそんなミキを変わらずに愛している。実は仕事と言ったのは半分嘘で、俺はサプライズをする為に半休を取っていた。部屋の飾り付けをし、プレゼントの隠し場所をどうしようかと悩んでいると玄関の方からガチャリ、と音がする。
ミキ? それにしては時間が早すぎる。まさか俺と同じようなことを考えていたのか? だとしたら俺達は最高の夫婦じゃないか。俺は妻を驚かせようと忍び足で玄関に向かった。
旦那ったら。手紙に書いてあったようにお義母さんにレシピを聞こうと電話していたのね。モラハラ野郎かと思いきや良い旦那じゃん。
それじゃあコレを英語にして…そんで逆翻訳したのがコチラ(もう英語パートはすっ飛ばします)。
「こんにちはお母様久しぶりだな」
「君から連絡は珍しいね。いい声だと思わないけど...どうしたの?」
「いや聞きたいことがある」
今日は結婚記念日です。今週末美樹の好きな夕食に行こう。だから招待したら"好きなメニューで飲もう"って。あのミキのこと好きだよ。 実は仕事中に嘘を言って驚くのを半分休んだ。部屋を飾ろうと思ったら隠れた場所と玄関から音が聞こえてくる。
美樹? それなら時間が早すぎる。私と同じこと考えてるの? もしそうなら僕らは最高のカップルだ。妻を驚かせるためにドアに忍び込んだ。
だんだん文章のカオスっぷりがエスカレートしてきましたが、電話がつながった途端に声をディスられるのは可哀そう。驚くのを半分休んだり、ドアに忍び込んだりと旦那の行動が常軌を逸し始めております。さらに言うと、全体的に文体がこう何ていうかハードボイルド風? まぁ何にせよ結婚記念日に二人がお互いにサプライズをしかけようとして鉢合わせてしまう…そんな微笑ましい物語のようですね。
では、続きのオリジナルストーリーをどうぞ。
「何…これ…」
手紙の内容を見たミキは混乱した。旦那から手紙をもらうのはこれが初めてではないし、旦那は私のことを「ミキちゃん」と呼んだりはしない。そもそも旦那の字とは全く違うのだ。違和感だらけの手紙に戦慄が走ると同時に、思い出したくもない嫌な記憶が蘇る。
「ミキちゃんは、どうして、僕を見てくれない(^_^;)💦」
「ミキちゃんは恥ずかしがり屋😳さんぢゃないよね😡❓」
「ミキちゃん‼️ おーい😅 無視するなら、一緒に死んでくれるカナ👊🏻🔪💥」
ミキは3年ほど前、道を聞かれただけのオジサンに恋をされ、ストーカー被害にあっていた。その時に助けてくれたのが今の旦那だ。それをきっかけに2人が付き合うようになってからは、ストーカー行為も、その姿さえもパタリとなくなっていた。
「手書きじゃ絵文字がないから気付かなかった…っ」
ミキは走った。
鞄に入っていた手紙の文面から察するに、あのストーカーおじさんが私たちの家にいるのかもしれないし、それだけならまだしも「家のごみは片づけた」の一文が示す惨事――想像すらしたくない悲劇がまだ起こっていないことを祈りながら。走る、走る、走る――
……うぉお超展開。我ながら怖い。怖い話を考えちゃった。物語の全体像が見えましたね。ミキは結婚記念日のための食材を買い出しに行く途中で鞄に入った手紙を見つける→それは過去のストーカー加害者からの手紙だった。一方、すでに家から”お義母さん”に電話して(しかも声の違和感を指摘されていた)たのは…ストーカーおじさん……つまり旦那はもう……。何このヤバすぎるサスペンスフルな物語は。わたしったら疲れてるのかしら。
さぁ、四の五の言うのはココまでにして、逆翻訳しましょう。
"これは何ですか…"
テーブルに含まれているタミキを削除できます。夫からのテーブルがあり、夫を「ミキちゃん」と呼んでいます。そもそも、夫の性格はますます高まっています。恐怖は人間の調和に満ちたキャラクターに走り、頭に浮かぶ不快な記憶は緩いです。
「なぜミキは私を宣言しないのですか(^ _ ^;)💦」
「ミキちゃんは恥ずかしがり屋です😳さん、そうですね😡❓」
「ミキちゃん!️Hey😅お察しのとおり、かなは地面で死んでいます👊🏻🔪💥」
約3年前、道を尋ねられたばかりの老人に恋をし、ストーカーされた。その時私を助けてくれたのは私の現在の夫でした。二人が交際を始めて以来、ストーカー行為や外見さえも姿を消しました。
「手書きの絵文字がなかったので気づかなかった…」
ミキが走った。
鞄の中の手紙の文章から判断すると、ストーカーおじさんが私たちの家にいるのかもしれません。それは「家のゴミを片付けた」という文が示す悲劇です。想像すらしたくありません。悲劇がまだ起こっていないことを祈りながら。走れ走れ走れ -
……いっぱい知らない人でてきた。
タミキ。
これは人じゃないかも。テーブルに含まれてるし。
かな。
地面で死んでる。麻里はシチューになってるし、かなは地面で死んでる。いやな話だな。
道を尋ねられたばかりの老人。
いやまぁ道を尋ねられたばかりかは知らないけど。ミキが老人に恋をしたみたいですね。その恋路を助けてくれたのが今の旦那…相談するうちに好きになっちゃうっていう典型的なヤツかな?
序盤~中盤までのカオスっぷりと比較して終盤はかなり原文の雰囲気を残してくれてますね。緊迫感が伝わってくる。
さて、そんなワケで整理しましょう。わたしが書いたのは、ジャンルとしてはサスペンスで、言うなれば「意味がわかると怖い話」系に属する物語です。登場人物は「ミキ」「旦那」「お義母さん」「ストーカー」の4人だったはずですが。
ところが、逆翻訳の結果、
「麻里」
「南の野蛮人」
「野蛮人の牛」
「タミキ」
「かな」
「道を尋ねられたばかりの老人」
の6人が加わり、より凶悪な物語になってしまいました。
……わたしは何がしたかったんだろう。今となってはわかりません。でも、逆翻訳の魅力に生で触れた感動があります。今後も旺盛な執筆意欲でさらなる物語を創作して参りたいと思います(誰も頼んでない)。
次回作はまだ構想の段階ですが、ホラーやオカルト、サスペンスなどの得意分野(?)から一度離れ、好きだけれど書いたことのないレシピ行程や心理学のお話、はたまたベクトルを斜めに向けて官能小説などに手を出すのも面白いのかなと思っています。挑戦することでまた新たな混沌が生まれることに期待しつつ、今回はここで終幕といたしましょう。
それではさようなら。
文:ピラミ△
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