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酒場のカウンターは物語に溢れてるんだ! vol.1
昨日の夜は…
深夜1時過ぎ1人の女の子が店に来た。
「あ、また来てくれた!なに?また福井で仕事?」
「ええ」
「なんでいつもこの時間なの?…ひょっとしてまた一度寝てから来たの?」
「ええ!そうなんです」
「寝るの好きやもんな」
「ははははっ」
彼女は先先週もちょうどこれくらいの時間に来てくれている。
福井には仕事で来ていると言う大阪の子だ。
「また福井で仕事やったん?」
「ええ、そうなんですよ」
「また来てくれて嬉しいなぁ」
「前、楽しかったし」
「ありがとう。それで明日帰るの?」
「ええ」
「何時頃の電車?」
「うーん、まだわかりません。起きてから考えます」
「ん?でも明日は金曜日…お仕事は休みなの?」
「ええ、まあ」
「うーんとじゃあ出張あけは休みってことなのかな?」
「うーん、別にそういうわけではないんですけど」
「あ、じゃあ普通に土日が休みってわけじゃないんだ」
「ええ、まあ自分で休みは決めるっていうか…」
「え?会社勤めじゃないの?自営?」
「ええ、まあそうですかね」
なにやらさっきから奥歯に物の挟まったような口ぶりであまり要領を得ない。
それは次の僕の何気ない一言から始まった。
「てっきり会社勤めかと思ってた。その若さで自営ってなにやってんの?」
「うーん、あまり人に言えない仕事なんで」
「人に言えないってチャカ売ってるとか?白い粉売ってるとか?」
「いえ、沢尻エリカじゃないですし」
笑いながら彼女が返す。
あまり人に言えない仕事ってなんだろう?
僕の好奇心…人に対する興味がむくむくと頭をもたげる。
彼女は26歳だと言っていた。
髪は今時珍しく全く染めていないだろう黒髪…少し重く見えるから少しくらい明るくした方がいいかもと思えるほど…
顔立ちは…眼を見張るほどとまではいかないがまあ可愛いほうだろう。
化粧っ気はあまりなく服装も地味めで失礼だが高級ブランドのものでは無さそうだ。
極々普通…いや、今時の26歳の女の子としては地味な印象のこの女の子が人に言えない仕事っでなんだろう?
「えーっ、人に言えない仕事って君の印象と結びつかないなぁ」
「ソープです」
(へ?今ソープって言った?…ソープつったらアレだよね…ソープランド…)
「え、あ、そうなんだ!うわーっすげー今までお客さんで風俗でバイトしたことあるって子はいたけど現役ソープ嬢ってのは初めてだな」
「あ、そうなんですか?…ね?あまり人様に言える仕事じゃないでしょ?」
「うーん、まあ確かに大声で言える仕事じゃあないか…でも人を喜ばせる仕事だよね」
「あ、そういう風に思ってもらえるなら嬉しいです」
「風俗も僕の仕事も世の中にどうしても無くてはならない仕事ってわけじゃないもんね。わかりやすく社会のお役にたってるってわけでもないし…」
「ええ…でもお客さんが楽しかったよ、ありがとうって言ってくれたりすると嬉しいんですよね」
「あーわかるーっ!僕なんかも嫌なことがあって涙ぐんで入ってきた女の子が店を出る時には笑顔になっててアジト来て良かったなんて言われるとめっちゃ嬉しいもんね…ああ、いい仕事したなって!」
「そうなんですよね、お客さん喜んでくれる顔見ると嬉しい」
「あーなんか僕らの仕事と似たところあるね」
「えーっ、でもバーやってるっていうのは人に言えるじゃないですか」
「まぁね…まあ人様に胸張って言える立派な仕事でもないけど「飲み屋やってます」っては言えるかな」
「なかなかソープで働いてますとは言えないですもん」
「うーん、まあそうか…でもさ、じゃあなんで僕に言ってくれたの?」
「うーん、なんかこの人なら言っても引かないかもって思ったからかな」
「おーそりゃ嬉しいね…ちょっと意外な気はしたけど引きはしないな」
「良かった」
「それはね…多分僕がこの仕事についたからだと思うんだ。この仕事についていろんな人と会っていろんな人生を聞いたお陰で職業で人を差別する気持ちなくなっていったとこあると思うんだよね。30年前…僕がこの仕事につく前なら引いたかもしれないけどね。人に迷惑かけたり人を傷つけたりしなけりゃ何が悪いの?皆一所懸命働いてるんじゃんと思えるようになったのはこの仕事について良かったと思えるところかな」
「あー良かった。嬉しい!この仕事してるって言ったら離れていった友達沢山いるし…まあ、しょうがないなとは思うけど」
「あのさ、興味本位で聞いちゃうけどなんでこの仕事やろうと思ったの?もし話すの嫌じゃなかったら教えてくんない」
「あ、全然いいですよ。私元々介護の仕事してたんですね。でも最初資格も持ってなかったしお給料も安くてちょっと生活苦しいなってなって風俗でバイトしたんですよそれがきっかけかな」
「ヘルスみたいなとこ?そこからなんでソープに?」
「うーん、掛け持ちでやってたら身体しんどくなっちゃって」
「んで?介護やめて風俗に…」
「ええ、まあお金もいいですからね」
「はははっ、正直だなぁ」
「貯金通帳見るの好きなんですよ。でもいずれ介護の仕事に戻りますよ」
「ええーっ、戻れるぅ?お金全然違うじゃん」
「確かに最初は思うでしょうね。ええーっ、あんなに働いてこれっぽっちかって」
「介護って大変な割に給料やすいって言うからね」
「そうなんですよ!でもいつか戻ります。私介護の仕事すごく好きですもん。目標の金額が貯まったら介護に戻ります」
「へぇーっ、凄いね…質問ばっかで悪いんだけどさ…そのぉ、なんつうか…男の人とナニをするって事に抵抗はなかった?」
「勿論全然無くはないけど私介護の仕事してたじゃないですか?それこそ日々お爺ちゃんの下の世話も…だから汚いって感覚が麻痺してるっていうか」
「あ、なるほど…ある意味同じ下の世話か」
2人して大笑い。
「あとさぁ…こういう仕事してると男の人に幻滅したりとかはない?なんだかんだ言ってても男なんて一皮剥けば皆同じじゃんとか」
「うーん、残念ながら少しあるかも」
「やっぱり」
「奥さん出産でいないからなんて聞くとヒドイって思っちゃったりとかね」
「まったく男ってしょうがないね。まあ、でも全部が全部そんな男ばっかでもないけどね」
「ええ、そうかもしれないですけど」
「でもさぁ、当然のことながら(うわぁ、この人の相手はホントキツイな)って人もいるでしょ?」
「ええ、それはね…でもお客さんだしお金いただくからには喜んでもらわなきゃって」
「うわーっ、偉いなぁプロだね」
「うん、プロフェッショナルでいたい。寂しい思いしてる人もいるんですよね。そんな人が今日はありがとうって言ってくれると嬉しいし、また頑張ろって思う」
「天使じゃん!うわっ好きになりそう!でもなぁ僕お客さんで行くわけにもいかんしなぁ」
「ダメですよ!ステキな奥さんいるのに」
「だね」
「でも天使だなんて!お世辞でも嬉しい!」
「いや、ホントに素敵だと思うな。優しさがあるもん。さっきさぁ、ソープに勤めてるって話したら離れていった友達沢山いたって言ったじゃん。隠しておこうとは思わなかったの?」
「大事な人には言っておきたかったし…私ちゃんと仕事として一所懸命やってるってわかって欲しかった。うち親も知ってますよ」
「ええーーーっ、親御さんはなんて?」
「ホストとかにハマるとか、ブランド品買い漁るとかやったら反対するけど目的あってお金ためるためっていうなら反対はしないって」
「ええーーーっ、それは凄いなぁ…うち娘がいるんやけど娘がソープで働くって言ったらやめてくれって言っちゃうな…あ、ゴメンね…君のこと天使とか言うてても自分の娘がソープ嬢んなるって言ったら反対するなんて矛盾してるよね…」
「いえ、いいんです。当然やと思います。私だっていいことしてるとは思ってないですから…でもその気持ちは忘れちゃいけないとも思ってます。それ忘れちゃったらホントにこっちの世界にはまり込んで抜け出せなくなると思ってますから…自分で話しておいてうちの親すごいなぁと思いましたもん。うちの親も介護の仕事してるんですね。もしかしたらそれも関係あるかも」
「ああ、確かに!不自由してる人を助けるって意味じゃ同じかも」
「ね…あ、マスターゴメンなさい。もうこんな時間!楽しくてつい長居しちゃいました」
時計を見ると2時半。
話に夢中になって時間忘れてた。
「お勘定してください」
「えーっと1700円になります」
財布から千円札を2枚出し
「おつりは結構です…前も思ったけど安くないですか」
「あ、これはどうも…ありがとう」
あ、そうだった…前に来た時アレっと思ったのはコレだった。
お釣りとっておいてください…
20代の女の子が言うセリフではないから違和感感じたんだった。
「ホント福井でこんないい店に会えると思わなかったです!マスター面白いし聞き上手やし」
「え、僕面白い?」
「ええ、すごく!話しやすいし。だから今日も来たんですもん。仕事の話もして良かった」
「僕の方こそ!今日一…いや、こんな貴重な話聞かせてもろて今年一の出会いかも」
「またまたぁー上手いこと言うて!でもまた福井来なあきませんね」
「うん、また是非!でもナニ?次はここに行こうってどう決めるの?」
「やっぱりそれはいいお客さんがいるとこかな。私たち指名つかなきゃ見入りないしいいお客さんいるとこ選ぶんで」
「福井はどうだった?」
「前回も今回も良かったですよ…皆優しいし気持ちよく仕事できるし」
「優しい?地域差ってあるの?」
「めっちゃありますよぉ。大阪なんかお客さんのマナー悪いし嫌な気持ちになること多いですもん。福井の人は皆優しい」
「そっかなんか嬉しいねぇ」
「だからまた来ます。福井へもこの店にも」
「嬉しいなぁ、また是非!」
「遅くまでゴメンなさい」
「いやいや、いいんだよ。また来てね…あ、今からまた飲みに行くの?」
「ええ、まぁ」
「あんまり遅くならんようにね」
「はーい」
「それじゃあまたね」
手を差し出す。
「はい、また」
と握手して別れる。
ホント貴重な話聞かせてもらった。
いい子だった。
介護の仕事が本当に好き…
人に対する優しさがある。
前に来てくれた時も(なんかポワーンとした子やなと思ったが)全く嫌な印象はなかったが仕事の話聞いたらますます好きになった。
またいつか来てくれる日が楽しみだ。
「あーこの話書きたい!」
たまにSNSで印象に残ったお客さんの話書くことがあると僕が話すと「書いてください」と
写真もSNSに載せること前提で本人の了承を得ました。
#日記 #エッセイ#小説