坂の途中
県外から移住してきた面白い夫婦がいるから会ってみたら?
娘といってもいいくらい歳下の女友達から言われた。
彼女は人の人とを繋ぐハブ空港みたいな人…
彼女が「面白い」と思う人なら会ってみようかと興味が湧き車を飛ばして港町にやってきた。
海からすぐ少しだけある猫の額ほどの平地とそこから立ち上がる小高い丘…
海抜0メートルにある車道から、人一人がやっと通れるような階段がいくつも通っている。
階段には所々に踊り場があり、その踊り場から横に伸びた路地に家が…
その街に暮らす人々の大部分はそういうところに住んでいる。
その夫婦は丘の中腹にある築60年以上の空き家をリノベーションして住んでいるという。
旦那の方はノマドっつうの…なんかパソコンひとつあればどこでも出来る仕事、奥さんの方はアクセサリーを作りながら街を背景にしたアート活動もしている人で夫婦である時ふと立ち寄ったこの港町に魅せられここに根を下ろすと決めたのだそうだ。
県外移住者、古民家リノベーション、旦那はノマドで奥さんはアーティスト…
うーん、僕の苦手な意識高い香りがプンプンする。
このプロフィールだけ聞いていたら絶対訪れない人達なんだけどな。
(あの「人と人とのハブ空港」の彼女が「面白いから会ってみたら」と言うのだから僕が面白がれる何かを持っているんだろう)
と思い、訪ねる気になった。
この辺の道は狭いので路駐は迷惑だ。
ちょっと距離はあるが、海水浴場の駐車場に車を停め歩いていくことにした。
車をおりると車道を渡り狭い路地を少し歩く。
この街には多少土地勘がある。
聞いてきた住所だとわりと近くまで来ているはず。
見当をつけると路地から丘に伸びている階段を登り始める。
階段を登ってある程度の高さになった時後ろを振り返る。
狭い階段の両側に立ち並ぶ家々…その切間から海が広がっている…
ちょっと異空間のようなこの風景が好きでこの坂を登る時は必ず何度か振り返りスマホで写真を撮ってしまう。
パチリ
スマホを仕舞うとまた坂を登り始める。
うーん、かなり近くまで来ていると思うんだけどな。
しょうがない。
悔しいけど文明の利器のお世話になるか…
スマホを取り出しGoogle先生のお世話になる。
ああ、道一本手前だった。
階段の途中にある踊り場を左に曲がり次の階段にいきふと見上げると階段の途中に今まで見たことのない異物があるではないか。
ドラえもんの「どこでもドア」みたいなのが階段に備え付けられている。
どこでもドアと違うのはそれは板ではなく全面ガラスで作られている事。
近づいて見てみるとその物体の横にはプレートがついていて『窓3部作 路窓 2019』と書いてある。
あ…
これは…
きっとアクセサリー作りの傍らアート作品作ってる奥さんの作品だ。
読み仮名うってないけど『路窓』は「ろまど」と読ませるに違いない。
んでもってコレ結構自信あるから賭けてもいいけど3部作の中にはきっと『野窓(ノマド)』って作品があるに違いない。
あーあ、なんだかなぁ…
この『路窓』をくぐったすぐ先にあるだろう夫婦の古民家もきっとオサレなんだろな…
ちょっと気が重くなってきた。
このままUターンしたくなってきた。
おしまい。
すんません、なんのオチもなく。
これは今朝見た夢を脚色したものです。