パンクロック 5
ザックは彼女との時間をいつでも優先してたから、僕はなんとなく、そのうち辞めちゃいそうだなぁ、とは感じていた。
今までのドラマーも同じ。彼女がバンド練習に理解がないと長続きしない。
何故か僕の関わるドラマーは 「彼女 > バンド」のパターンが多かった。
速い曲になるとリズムキープが不安定になりがちだったザックのドラムをエリックは気に入らなかったのは知っていた。だから一度辞めると言った彼をエリックは止めなかったのだろう。
ザックは確かに安定感はなかったものの、あれくらいならちょっと練習すれば良くなっただろうに。
ドラムは個人のスタイルがわかりやすく出る楽器だ。ザックの不器用ながらも勢いのあるプレイが好きだっただけに、残念でならなかった。
でも、このあとエリックの行動は早かった。
次の日にはロジャーという、僕より8歳年上のドラマーをとりあえず助っ人として呼んできた。
ロジャーはいくつかのローカルバンドを掛け持ちしていて、個人レッスンで高校生にドラムを教えている、地元ではちょっと知られたドラマーだ。
ロジャーのスタジオで練習することに決まり、行ってみると、僕がホームレスしていたあの倉庫だった。
ロジャーの借りていた部屋は僕が寝泊まりしていた部屋の4、5倍の大きさで、PAシステム、メサブギーとマーシャルのハーフスタックが2台、バラしたドラムセットが床に転がっていた。
かなり本格的なスタジオだ。クーラーまで付いてる。
音合わせしてみると、うーん、なんだかなあ。。。
確かに上手いし正確なんだけど、なんでも4ビートで叩くクセがあるのか、細かくハイハットを刻む、あのパンクロック特有の勢いがまったくない。
それなのにエリックもダレルも満足そうにしてる。なんでわからないのだろう?
コイツら鈍いのか?
ロジャーは曲を聴いて「ここは8ビートで!」「ここは4ビートで!」と感じないのだろうか?
疑問に思いつつも、彼は僕らの持ち曲をさっさと覚えた。
まあいいや。
ロジャーの落ち着いたスタイルは僕好みではなかったが、彼は大人で性格はすごくやさしい。速い曲は上手いし、安定感抜群だからライブでトチることはないだろう。
時間にもキチッとしてるし、彼のスタジオで練習を続けられる。機材も置きっぱなしに出来るし、そんなに悪いことばかりじゃない。
なにより解散せずにすんでよかった。
第二期メンバー:
エリック Bass・Vocal
僕 Guitar
ダレル Lead Vocal
ロジャー Drums
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