見出し画像

留学はもちろん、海外に住んだことのない私が英語を習得できた私の英語習得法08

第8章 学習に用いる辞書や参考図書について

 ※第0章~第7章を読まれていない方は、先にそちらを読まれるように勧めます。
 ここまで書いてきて、一つ重要なことを書いていなかったことに気づきました。それは使ってきた辞書や参考図書についてです。今までいろんな辞書を使ってきましたが、特に影響を与えた辞書及び参考図書について書いておきたいと思います。

・辞書の過去と現在
 辞書等に関わる状況は私の学生時代と比べて大きく変化してきました。学生時代には厚い辞書を持ち歩いていましたし、辞書を引くのも大変でした。しかし、今では大きく変化してきています。辞書については、これから英語を学び始める方にとっては、現在は非常に恵まれた状況にあると思います。
 実際に英会話を私が学び始めたころは、電子辞書が少しずつ出始めたころでした。しかし、その頃の電子辞書は収録内容が貧弱で、ほとんど使い物になりませんでした。その為、電子辞書は使わない方が良いという時代でした。
 今では一台の電子辞書に紙の辞書に相当するものが丸ごと数冊以上入っており、画面サイズの制約を除けば、十分に実用になります。但し、こういった機器としての電子辞書の移り変わりは非常に激しく、最近はピークの時期は過ぎたようです。数年以上前までは、電子辞書を出しているメーカーも多く、大量の辞書を内蔵した、語学専門家向けの英語辞書などもありました。最近調べてみたところ、現在の電子辞書は高校生や大学生向きの機種が中心となっており、製造しているメーカーも減ってきているようです。
 その大きな理由の一つは、インターネットが発達し、辞書並みの情報を手軽に検索できるようになったからだと思います。辞書を持っていなくも、ネットにつながる環境がありさえすれば、簡単に英単語の詳しい情報を見つけることがすぐにできます。本当に時代は変わったという感じがしています。
 そういった現状ですが、私はあえて、自分専用の辞書を持つべきだと言いたいと思います。辞書は電子辞書でも紙媒体の辞書でも構いませんが、自分の好みに合った辞書を複数見つけ、使いこなすのが好ましいと思っています。使いこなしの良し悪し次第で、同じ辞書を使っていても、発見できる情報が大きく変わってきます。例えば、文法に関連した説明や例文です。大きな辞書には詳しい説明があるものが多いので、使いこなすことができれば、貴重な情報源になります。
 なお、これ以降で辞書と言った場合は、電子辞書全体を指すのではなく、その中に含まれている、個別の辞書のことを指すことにします。それらは一冊の紙の辞書と同等に考えて良いと思われるからです。

・辞書の種類について
 まずは具体的な辞書の名前を上げる前に、辞書には色々な種類の辞書があることを指摘しておきたいと思います。一般向けの辞書だけでなく、専門分野向けの辞書もあります。例えば私は医師ですが、医学向けの専門の辞書も存在します。従って、辞書のことを少しでも調べたことがある方であれば、大変多くの種類の辞書があることをご存じだと思います。私は辞書の専門家というわけではないので、存在する辞書の種類についての詳しい説明は控えます。但し、英語習得に限って言っても、最低限3種類の辞書を使いこなす必要があると、私は常日頃から思っています。そこで、現在私が使っている辞書について大きく3種類に分けて説明します。なお、以下では英和辞書と表現したり、英和辞典と表現したりしています。厳密には違いがあるのかもしれませんが、本章では辞典と辞書を区別せずに使うことにします。

(1)英語と日本語の間での情報の確認に使う辞書
 ここで取り上げるのは、最も普通の辞書である英和辞典と和英辞典です。私が実際に一番よく使うのは研究社の英和辞典や和英辞典及びリーダーズ+プラスですが、少しでも使う可能性のある辞書の数はかなりの数に上ります。一つずつ細かく説明するのは大変ですので、ここでは大雑把な種類だけを示しておきます。
 英和辞典が一番基本になる辞典ですので、できるだけしっかりした辞書を使うことを勧めます。そして、ほとんどの大規模な英和辞書に対して、同じ出版社から同じレベルの和英辞典も出版されていますので、ペアで持っておくことを勧めます。
 こういった英和辞典を選ぶときに大事なのは、次の点だと思います。まずは、用例が数多く記述されているかどうかということです。英語から日本語に翻訳することを考えたとき、用例の中に類似の文章があれば、それを参考にして訳を考えることが出来ます。そして、もう一つ重要なのは、参照しようとしている単語について、文法の詳しい説明があるかどうか、という点です。大規模な辞書は、基本的な用語については、多くの場合文法の説明も詳しくされています。それを読むだけでも勉強になります。

(2)英語の世界だけで単語や文法を確認したいときに使う辞書
 いわゆる英英辞典です。現在の若い人たちは英英辞典に対してどのような印象を持っておられるのでしょうか。私たちの世代の人間は英英辞典に対してかなり否定的な経験を持っている人が多いのではないかと思います。その人たちが経験したであろうという否定的な体験とは次のようなものです。
 一つの単語を英英辞典で引いて、その単語の説明を読み始めるとします。そうすると多くの場合に、その説明の中に知らない単語がまた出てきてしまい、その単語も調べなくてはいけなくなります。下手をするとこれを繰り返してしまうことになり、いつまでたっても目的の単語の意味を理解することが出来ません。数十年以上前に英英辞典を使ったことのある方は、多かれ少なかれこういう体験をお持ちではないでしょうか。
 実はこういったことを避けることが出来る辞書があることを、昔は知りませんでした。それがロングマンの英英辞典です。私が持っている版は“LONGMAN Dictionary of Contemporary English (6th edition)”です。これはネイティブではない人が使うことを前提として作られている辞書で、基本的な三千語の英単語だけを使って内容を説明しています。基本単語を覚えさえすれば、内容を理解することが出来るようになっているので、とても便利です。
 この辞書はかなり長い間お世話になっていましたが、最近は使う頻度が減ってきました。時間があるときは、一つの単語に対して複数の辞書を使って調べるようにしていますが、その場合に一回はConcise Oxford English Dictionaryのようなオックスフォード系の辞書も引くようにしています。現在ではロングマン英英辞典も色々な英英辞典の中の一つという位置づけになってしまいました。

(3)特殊な目的を持った辞書
 英和辞典や英英辞典は一般に良く知られていると思いますが、それ以外にも数多くの種類の辞典や辞書があります。まず、thesaurus(シソーラス)やlexiconといったものがあります。また、あまり知られていないかもしれないのですが、私にとって最も重要な辞書の一つにcollocation(語の配置、連語関係)を扱ったものがあります。これは、語のつながりに関する情報が記載された辞書です。
 私は中でも、このcollocationについての辞書の一つである研究者の新編英和活用大辞典をかなり長期間使っています。英語習得の取り組みを始める前から、医学研究者として英語で論文を書く際にこの辞書を使うようになりました。英語で文章を書こうとすると、ある単語がどんな別の単語と繋がりやすいか、という情報が必要になるからです。例えば、“形容詞+名詞”を考えたとき、どんな組み合わせでも良いというものではありません。ある名詞には、それと結びつきやすい形容詞があります。そして、普段よく使われる組み合わせを使った方が自然な英文になります。
 例えば、皆さんがよく知っている言葉にfast foodがあります。日本語でも普通にファーストフードと言いますが、もしこの言葉を知らなかったとしたら、皆さんは、ここで”速い“という意味でfastという形容詞を間違いなく選んでいたでしょうか。”速い“という言葉を和英辞典で引いてみると、quick, fast, swift, speedy, rapid等いろいろあります。実は、これらの形容詞のうちどれを選んでもよいというわけではないのです。仮に私たちがfast foodと言わずにquick food(注)と言っても、多分、ネイティブは言いたいことを理解はしてくれると思いますが、奇妙に感じるでしょう。
 このようにどういう言葉の組み合わせがネイティブにとって自然に響くかを、collocationという情報が教えてくれます。その意味で、自然な英語を話したいと思っている人にとっては、とても重要な辞書だと思っています。しかし、これまで私は、これらの辞書をいつも使っていると言った人に出会ったことがありません。単に私が気づかなかっただけかもしれませんが、この辞書はもっと”活用“されてしかるべきだと思っています。
(注)ちなみにquick foodをGoogle検索で調べてみると、fast foodとは違う意味合いで使われる場合があるようです。

・辞書以外で辞書の機能をもっているもの
 現在では特定の辞書を持っていなくても、ネットで検索すれば、知らない単語の意味をすぐに見つけることができます。しかもそれだけではなく、上述した色々な機能を持つ辞書に相当する情報も簡単に見つけることができます。その意味では、わざわざ辞書を買わなくても良い時代になったのかもしれません。
 ここで辞書代わりにネットの検索機能を使う方法を簡単に説明しておきます。以下は私なりの使い方なので、私よりも上手に活用している方が沢山いると思います。ここでは、今までに活用したことがない方へのヒントとして書きます。全てGoogleを使って検索する場合を想定して書いていますが、他の検索システムでも同様に調べることが出来ます。

 単純に意味を調べる場合:例えばexpectationの意味を調べたいとすれば
   expectation 意味
 と入力すれば、日本語の訳が中心に出てきます。これに対して
   expectation meaning
 と入力すれば、英語の説明が中心に出てきます。日本語訳も出てきます。

 イディオムや成句のような場合でも、そのまま入力して最後に“意味”か“meaning”を追加すれば、同じように意味を調べることが出来ます。さらに、似たような単語の意味の異同を調べたくなることがあると思いますが、そのときにも同様に行うことができます。普通に辞書を使って調べようとすると結構時間がかかりますが、下に示すように、検索機能を使えば簡単ですので、是非、いろいろな組み合わせで調べてみて下さい。

 類似の複数の単語の意味の異同を調べる方法を、evidenceとproofという二つの似た単語を例として示します。具体的には
    evidence proof difference
 と入力するだけです。そうすればevidenceとproofの意味の違いの説明が出力されます。
 実例を説明しようとして、実際にGoogle検索をしてみました(2024年10月31日21:58)。すると、AIによる概要として次のような説明が出てきました。
“The main difference between evidence and proof is that evidence is information that may lead to the belief that something is true, while proof is a fact that demonstrates something is true”(一部を抜粋)
 これまで私はMeriam-Webster Dictionaryのウェブサイトを参照することが多かったので、検索条件を次のようにしてみました。
     evidence proof difference in meriam-webster
 すると出力が次のように変わりました。
“According to Merriam-Webster, the main difference between evidence and proof is that proof is a fact that establishes something to be true, while evidence is information that may lead someone to believe something is true:”(一部を抜粋)
 私がこのブログを書き始めた頃と比べても、短期間の間にGoogle検索の出力内容が変わり、AIを使った結果が最初に出てくるようになっていました。すごいスピードで世の中が変化しているのを、改めて実感しました。今後もAIがもっと身近になり、出てくる情報量も多くなっていくことでしょう。どんな機能が新たに加わって来るか、期待を持って見守っていきたいと思います。

・辞書を使うタイミングについて
 ここでは辞書を使うタイミングについて考えてみたいと思います。私たちの学生時代には、“英語の文章を読んでいて知らない単語がでてきたとき、すぐに辞書を引くのではなくて、自分でその意味を予想してみましょう”とよく言われていたように思います。
 これはそれなりに意味のあるアドバイスではあると思いますが、予想するのは結構難しい場合が多く、必ずしも現実的なアドバイスではないように思いました。そこで、今よりも私のボキャブラリーが乏しかった時代に、自分なりに辞書を引く基準を作っていましたので、それを紹介します。
 例えば、一冊の小説や専門書を読んでいるときを想像してみて下さい。私の基準は次のようなものでした。

 知らない単語が出てきたときに、最低2回までは辞書を引かず、自分なりに意味を想像して読み進める。しかし、それから読み進んだ量があまり多くないのにもかかわらず、同じ単語がまた出てくる(つまり3回目)ようであれば、英英辞典を引く。英英辞典でもすっきり分からないときは、英和辞書を引く。

 上のようなやり方をするには、それなりの理由があります。小説家にしろ、専門書の著者にしろ、文章には個人的な癖やよく使う単語があります。続けて3回もある単語が出てきたとしたら、それは著者が頻繁に使う単語の可能性が高いと思われます。従って、内容を正確に理解するには、早めに正しい意味を知っておいた方がよいと思われます。
 今ではボキャブラリーも増えてきていますので、検索する回数は減っています。また、電子書籍のKindleを読めるタブレットの Fire HD を使うようになってからは、英英辞典を内蔵することができますので、用語の検索が簡単にできるようになりました。その為、いつ辞書を引くかということにあまりこだわる必要はなくなっています。

・辞書以外の図書について
 辞書以外で私にとって重要な図書は、文法に関するものです。前述のように辞書に記載された文法情報を参考にすることも多々ありますが、それでもはっきりしないときは、正式な文法書を使うようにしています。日本語で書かれた文法書を使ったこともありますが、今では最も頼りにしているのが、下記の書籍です。かなり厚い本です。
  The OXFORD ENGLISH GRAMMAR (by Sidney Greenbaum, Oxford University Press, 1996)
 本来はこの本全体を一度は読んでおくべきかもしれませんが、そこまではしていません。気になる文法事項が出てきたときに、目次や索引を頼りに情報を探して、辞書的に使用しています。
 こういった本を使う場合は、研究に関連した翻訳などより正確に文章を理解する必要があるときです。通常の英語習得の過程では、こういった本をつかうことは殆どありません。

 ここまでは英語を話したり読んだりする状況を想定して、辞書に関する私の経験を紹介しましたが、重要な点で少し省略したことがあります。それは辞典類の出版での版の違いです。基本的な単語の意味を調べる場合であれば、版の違いの影響はそれほど大きくないと思いますが、違いに関心がある方がおられるかもしれません。私の場合は、Google検索のやり方であれば、常に最新の情報が出てきますので、どうしても最新の情報を知りたければ、検索機能を使うようにしています。
 ここでは英語を話す場合を意識して、辞書類の私なりの使い方を説明しました。しかし、英文を書く、中でも“英語論文を書く”というテーマを考えたときには、必要になる情報はもっと増えてきます。そこまで取り扱おうとすると、このブログを書く目的を超える、非常に高度なテーマを扱うことになりかねません。その為、辞書の話は今の所はここまでにしておきます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?