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辻音楽師と秘密の部屋、ナポリ国立考古学博物館 (古代ローマの遺跡とプーリア州を巡る旅⑲)

2024年11月6日水曜日(五日目)
生を思え

前回から引き続きナポリの国立考古学博物館を見ていく。
中二階に展示されているのは主にポンペイ、エルコラーノから発掘されたモザイク画の名品たちである。

インテリアとしての静物画を思わせるもの。
ポンペイは海が近いだけあり、魚種も多岐にわたっている。

どこかユーモラスなものも多い。

”猛犬注意”のヴァリエーションの一つ。
こうした日常を感じさせるものも出土したモザイク画の大きな魅力の一つだ。

「辻音楽師」と名付けられた作品。
街角に立ち音楽を奏でる小さな楽団の姿。家族かもしれない。
人物たちのポーズは類型的なものではなく、臨場感に溢れている。
写真をとるように一瞬を切り取ったという雰囲気がある。

陰影が豊かに表現され三次元的だが、モザイク画という手法が持つ奇妙な平面性が画面全体に魔法をかけている。
人物たちの独特の間合いに緊張感があり、見れば見るほど引き込まれる画だ。
バルテュスの絵画に直接的に通じるものを感じる。

"秘密の小部屋"

※性的と思われる表現があるのでご注意ください。

ナポリの国立考古学博物館にはGabinetto Segreto(秘密の小部屋)がある。
ポンペイ周辺で発掘されたエロティックなアートの数々を鑑賞できる展示室である。14歳以下の入場は親の同伴が必要とのこと。

古代ローマ時代では性に対する考え方が現在と異なっていたらしく、露骨な性的モチーフのあしらわれた日用品、工芸品が大量に展示されている。

そのわいせつ性は議論を呼び、その時代の価値観によってこの小部屋は開いては閉じ、開いては閉じ・・・を繰り返していたようであるが、幸い現代の我々はその小部屋が開かれることを望んでいるようだ。

巨大な性器を持つプリアポスのフレスコ画。
豊穣と果樹園の神、家畜の保護者であり、そして男性の生殖の象徴である。
両足から生えた小さな翼など無駄にディテールがあるところがとてもよい。

Lupanar(売春宿)の壁を彩っていたと思われるわいせつな絵画。
古代ローマ時代、売春は合法であった。

どこか風雅さを感じるお皿。
季節の前菜などを盛りつけたい。

翼の生えたライオンの頭が男根になっている鈴。
用途がわからない。

思い思いの方向に首をもたげる無数の男根の群れ。
ポンペイの男性たちは皆包茎だったのだろうか。

キリスト教の受容以前、古代ローマでは同性愛についても非常に寛容であったとのことだ。
歴代の皇帝でさえ若い同性の恋人を持っていたという話はいくつも残っている。

ただ、社会的地位の高い者だけが身分の低い者に対し性的関係を一方的に結ぶことができたという権力の問題は依然としてそこには存在しており、良い面だけを強調するわけにはいかない。

しかし少なくとも、古代ローマの人々は現代人よりは性を謳歌し、いろいろなタブーから解放されて生きていたことは想像に難くない。

古代に思いを馳せつつ、同時に、日本にある秘宝館を訪れたような滑稽さと哀愁をブレンドした初めての感情を胸に抱きながら、秘密の小部屋を後にした。

つづく

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